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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第3章 天使と悪魔の顔をあわせ持つ人魚姫とそんな人魚姫に振り回されながらも優しさを失わない王子の揺れるブエナビスタ城 編
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第168話 2つのミッション編②ザナドゥ奪還

 リーファはフラフラになりながらも意識を集中させていた。

(シュラが魔法で私の行動を監視しているなら、その裏をかくまで)


 医務室に着くとベッドに運ばれる。

「ありがとうございます。正直助かりました」

 ミランダ王女とジータさんにお礼を言って横になる。


「申し訳ございませんが、私はこれで...」

 そう言ってジータが医務室から出ていく。


 早速、あの忌まわしい鏡を回収するのだろう。


 人を操ったり、異空間を作ったり、恐ろしい鏡だわ。シュラの魔法があってのものだと思うけど。


 ミランダ王女に悟られないようにしながら、魔法を展開する。


(城一帯に幻影の結界を張ったから、シュラが千里眼を使ってこちらの様子を見ようとしても自分に都合のいい幻影が映る。私があそこを脱出したことも幻影がなかったことにしてくれる。これでしばらくは落ち着いて動けるわ)

(とりあえず体力を回復させないと)


「あの。申し訳ないのですが、飲み物と食べ物をいただけますか?」

 リーファは傍らで見守る王女に懇願してみた。

「料理はここに持ってくるよう頼んであります。多分直に届くと思います」

「ありがとう」

(頼りになる。助かる)

 ホッと胸を撫でおろす。


「大変でしたね。真っ暗な部屋でずっと一人きりなんて」

 王女が話しかけてくる。


 この人には知性がある。

 王女の人に対する接し方から、リーファはそう感じた。

 話のタイミング、間の取り方に相手の負担を軽減させようとする配慮が感じられる。


「はい。真っ暗な部屋でずっと一人きりというのは、精神的に堪えるものがあります」

「どんなことを考えていたんですか?」

「最初は絶望でこのまま死んでしまうんじゃないかってそればかり思っていたけど...」

「そうですよね」

「だけど、私はあの二人をハイドライドとイース。二人ならきっと助けに来てくれると信じて待つことにしました。私の声は届かないけれど、私のSOSに彼らはきっと気づいてくれると。そして私の願い通り、私を助けるために彼らが現れてくれました」

 王女が不思議そうに尋ねる。

「来るか来ないか分からない二人をどうやって信じて待つことができたんですか?」

「二人に期待するっていうのもあるけど。自分が諦めなければ道は続くし諦めてしまえば道は閉ざされる。ならばどっちを選択か...ですね」

「諦めない方」

 王女の呟きにリーファは我が意を得たりと大きく頷いて、にっこり微笑む。

「私は諦めなかった。諦めたくなかった。絶望という闇に逆らってとにかく足掻いて、その場でやれることは全てやった。やり切って後は、もう信じるしかなかった。だから信じた。馬鹿みたいに一途に信じた」

「死ぬのが怖くなかったですか?」

「信じた後は怖くなかった。死んじゃったら死んじゃったで仕方ないねって」

 王女がクスクスと笑い出した。

 笑うと表情にあどけなさが見える。純粋さを思わせる好感の持てる笑顔だ。


 リーファはこの人を魅了する雰囲気を持つ王女に興味を抱いた。

「おかしいかな、そういう風に考えるのって」

「おかしいです。リーファさん。ちょっと変わってますね」

「えぇーーー⁉ 変わってる⁉ 私⁉」

 今度はお腹を抱えて笑い出した。

「自覚なかったんですか?」

 リーファは思い出す。

(そう言えば姉さん達から「リーファは変わってる」ってよく言われてた。)

「(姉さんからは)変態って言われたことがある」

 ミランダが目をパチクリさせた。変態は意外だったようだ。

「まあ⁉ でも大丈夫です。お兄ちゃんも変わってるし、実は私も人には言えない趣味があったりもします」

「人に言えない趣味って?」

「それは内緒です」

 二人は顔を見合わせて大声で笑い合った。


「コンコン」

 ドアをノックする音が聞こえる。

「どうやら食事が運ばれてきたみたい。お口に合うかどうかわからないけど、召し上がってください」

 王女が部屋の入口で食事の乗ったお盆を受け取ると直接リーファの前に持ってきた。

「わぁ。美味しそう。全部食べてもいいの?」

「はい。全部リーファさんの分です」


 リーファは早速料理に手を付ける。

「いただきまーす」

「それでさっき話に出たお兄ちゃんの件ですけど」

「カミーユがどうかした?」

 ミランダは若干気まずそうに話を切り出す。

「実は...」




 誰もいない部屋でイースとハイドライドが、真剣な表情でザナドゥ奪還の手筈を話している。

「留置場から執行室へ連行する人数は見張りを含めて3人。先導1人にザナドゥの両脇に1人ずつ。まずは先導1人を仕留める。その後両脇の内の1人が向かってくるだろうからそいつを続けて仕留める。ハイドライドは残った1人に背後から近づいて逃げ出す前に仕留めてくれ」

 イースの説明にハイドライドが頷く。

「そのままザナドゥを連れて城から脱出を図るが、ザナドゥが来ないことを不審に思って執行室の人間が様子を見に来るだろう。通路に倒れた見張りを見て事が発覚するが、行動を起こしてから発覚まで5分くらいと考える。この5分を最大限に利用して誰にも見つからないように船に至る。船までたどり着ければ成功だ」


「誰にも見つからないように敢えてこの迂回ルートを通ることにした、ということだな」ハイドライドが地図上のルートを指でなぞる。

「そうだ。遠回りだが姿を見られないことが重要だ」

「船は?」

「既に準備してある」

 イースの抜かりのなさに感心する。

「逃走後は?」

「しばらくジャッカルで匿ってもらう。後は潮目が変わるのを期待するしかない」

「リーファの説得次第...か」

「そうなる。が、確証は持てない。カミーユと気心の知れたザナドゥでさえ投獄されたことを考えると、リーファの立場も万全ではない」腕を組んで眉根を寄せる。

「むしろ最悪の事態にならないことを祈るのみだ」

「俺らはどうする?」

「俺達もしばらくは身を隠した方がいい」

「リーファは?」

「申し訳ないが、一人で頑張ってもらうしかない」

 イースは表情を変えることなく言った。

「そっか」


 イースは傍らにある覆面を手に取って頭から被った。

「そろそろだ。行くぞ」

「よし」

 ハイドライドも同じく覆面を被って用意した木の棒を携える。


 まずはザナドゥの救出。そこに全集中する。

 二人は静かに部屋を出る。


 歩きながら時計を見る。

「そろそろ留置場を出る時間だ」


 城内階段から執行室へ続く隘路の柱の蔭に隠れて、そっと様子を窺う。

 異常はない。


 ハイドライドは自身の鼓動が高鳴るのを感じる。


(奇襲は成功する。準備に抜かりはない)

 不安の波に溺れそうになる自分に言い聞かせる。

(分かっていても心臓がドキドキするな)

(まあいい。考えても仕方ない)

(いつでも来い)

 ハイドライドは拳をぎゅっと握って前方の通路へ意識を集中させた。


 階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

(来た)


(数は? そう多くない。情報通り3~4人ってところか)

 姿を見られないように体をさらに柱の奥側へ引っ込める。


 階段を上がってきた3人の護送官とザナドゥが狭い通路へ入っていく。


「なんだお前は?」

 先頭の護送官がイースを見て声を上げる、と同時にイースが木刀で相手の鳩尾を突く。不意を突かれた護送官はお腹を抱えてその場に倒れた。


 ザナドゥの右側にいた護送官が怒声を発する。

「貴様!」

 腰のこん棒を手にしてイースに打ち付けるが、それより早くイースは相手の懐に飛び込んで、鳩尾に一撃を喰らわす。

 護送官は小さな呻き声を上げて、その場に倒れた。


 残った一人が振り向きざま逃げようとしたところを足に木刀を差し出すと、護送官は木刀に足に絡ませて転倒した。

 ハイドライドは転倒した護送官に馬なりになって睡眠誘発剤を含ませた布を口に当てると、3人目の護送官はそのまま意識を失った。


「一丁上がり」


 護送官が気を失ったのを見て、イースから声が飛んできた。

「よし、急ごう」

 唖然としているザナドゥの手を引いて先へ急ごうとするが、ザナドゥはその場を動かない。

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