第166話 闇に響く音
「何してんだ?」
城門の左側の通路にある鏡の表面にススを塗っているとイースに声をかけられた。
鏡の表面はハイドライドが塗ったススによって黒く汚れている。
「鏡は表面の汚れを嫌うらしい。汚れの中でススの付着が最も効果があるらしくて、もし鏡に何らかの呪いがある場合は、スス汚れが自然に消えているそうだ。このススが明日朝消えていたら、この鏡はただの鏡ではないということだ」
「なるほどな」
「城の東側の部屋は全部確認したが、リーファはいなかった」
イースは頷く。
続いてイースがザナドゥ奪還について概略を話す。
「ザナドゥ奪還は処刑日当日に行う。留置場から執行場所への移動の途中に一か所視界の悪い場所がある。そこで待ち伏せる」
「ザナドゥ奪還を行えば当然我らも追われる身となる。そうなればリーファ捜索どころじゃなくなる。頼むぞハイドライド。ザナドゥ奪還前にリーファ捜索の目途をつけてくれ」
ハイドライドとしては元より覚悟の上のこと、目に力を込めて大きく頷くが、手がかりさえ掴んでいない今の状況に不安が大きくのしかかってくる。
手に持った鏡をじっと見つめる。
(本当にこの鏡がリーファの行方を知るカギになるのだろうか?)
「じゃあ。俺はミランダ王女にザナドゥ奪還の計画の話をしてくる」
イースはそう言って城門から立ち去る。
残ったハイドライドは鏡を元の位置に戻すと、城門を後にした。
(ザナドゥ奪還の期日は明日12時だ。明日午前中にリーファを見つけ出し、すぐさま奪還の準備に入らなければならない)
「今夜は寝られそうもないな」
一筋の光さえない真っ暗な世界に女性の声が響く。
「ああ。喉乾いた。お腹すいたー」
「このまま私餓死してしまうのかしら」
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんな寂しい部屋で死ぬなんて絶対に嫌」
「魔法が使えないってこんな不便だと思わなかった」
「どうしよう。壁に向かっての体当たりも効果ないみたいだし」
天井に向かって声をかける。
「おーい。誰かー。誰かいませんか?」
「とびっきりの美少女が閉じ込められているんですけどー」
「助けてー!」
声は暗い部屋の中で反響する。
「・・・・・・」
リーファは靴を脱ぐと靴を両手に持って床にパタパタと打ち付けた。
(もうこうして誰かに気づいてもらうしかない)
暗闇の部屋に靴をパタパタ叩く音が響く。
「まだ。私はあきらめない」




