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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第3章 天使と悪魔の顔をあわせ持つ人魚姫とそんな人魚姫に振り回されながらも優しさを失わない王子の揺れるブエナビスタ城 編
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第158話 カミーユへの違和感

 豪華絢爛、華奢とも言える舞踏会は人々の熱気に包まれていた。盛り上がりの中心として一際目を引いたのはカミーユ王子と先日婚約が発表されたリューナ嬢だった。


 カミーユとリューナが息もぴったりのダンスを披露すると、周囲からは歓声とため息がもたらされた。そして、今回もラストはリューナの美声で締めくくられる。このリューナの歌を目当てに舞踏会に参加する者もいる程、リューナの歌の素晴らしさが大きな噂になっている。


 会場の中央では、カミーユ王子とリューナが仲睦まじく笑みを浮かべながら踊っている。その様子を周囲は微笑みをもって見守っていたが、納得できないと言わんばかりの反発を抱く人物がいた。


 ブエナビスタ王国第一王女ミランダ、そしてその隣にいるザナドゥである。


 ミランダ王女は黄色を基調とした刺繍が多く施された美しいドレスに身を包み、表面上は笑みを絶やさずも胡散臭いものを見るような目で二人を見ていた。


「どお? 私の思い違いかしら?」

 ミランダは隣に立つザナドゥに小声で話しかける。

 話しかけられたザナドゥは二人の様子を注意深く観察している。

「らしくないと言えばらしくない」

「やっぱりそう思う?」

 ザナドゥは難しい顔をして頷く。

「ああ。性格が温厚で他人に対して壁を作ることをしないから人間関係の構築は卒なくこなすことはできるけど、前面的にそれを押し出すようなことはなく、自分の殻に閉じこもりながら少しずつ様子を見て前に出てくるというのがカミーユなんだが、今のカミーユは本来の優柔不断の影はなく、迷いなくグイグイ突っ走ってる」 

「らしくないのよね」

 ダンスに精を出すカミーユを見つめながら呟く。

(お兄ちゃんらしくない!)


 ザナドゥは周囲に聞こえない程の小声で呟いた。

「俺から言わせると別人のようだ」


 ミランダは小さく頷く。

「お父様、お母様はお兄ちゃんの変化に全く気付いていない」「さらにおかしいのがスノー伯爵家に最近養女として迎え入れられたリューナ嬢の存在。彼女自身はきれいだし、教養があって、ダンスも上手で、歌も上手で非の打ち所のない才色兼備の女性と評判だから みんなが注目するのは分かるけど、何ていうか彼女に対する賞賛が度を越えている。国王も王妃も大臣達も。私はどうしても引っかかるものがあって、その輪に入ることができない。見れば見るほど違和感しかないのよ」

 率直な感想は、同じ想いを持つザナドゥだからこそ言えた。王子とリューナ嬢を取り巻く熱気には異常ささえ感じる。


 ミランダがザナドゥに尋ねる。

「何かあったのかなぁ?」


「リーファさんがいなくなって、リューナさんが現れた。それに尽きるだろ」ザナドゥは突き放したように答えるが、それは冷たい感じではなく、確信が持てる考えが思い浮かばないところで、精一杯答えてくれた、そう感じ取れる返答だった。

「そうね。それに尽きるわね」

 この短い期間での変化と言えばそれしか思い浮かばない。リーファさんがいなくなり、リューナさんが現れたことで兄の性格や考え方が変わってしまったのか、今のところ分からない。           

 ミランダはカミーユと踊るリューナをじっと見つめる。

(うーん)

(美形ではある。女性から見ても美しいと感じる姿形をしている。お兄ちゃんが惹かれるのもわかる気がする。そしてよーく見ると顔立ちはどことなくリーファさんに似ている)

(お兄ちゃんはああいう顔が好みなのかな?)


 楽しそうに踊る二人。


 ミランダとザナドゥの隣にハイドライドとイースがさりげなく現れた。


 二人とも困ったような顔をしている。

「お二人の言う通りですね。舞踏会の様子については場数を踏んでいる訳ではないので詳しく語れませんけど、カミーユは人格が変わってしまったようだ。こちらから話かけても上の空で、ただリューナ嬢に関係することとなると感情をむき出しにして何だかんだ理由をつけて執着する」

 イースが今のカミーユについての感想を率直に話す。

「女に惚れるとああも人が変わるのかな。だとしたら、もうカミーユにはついていけない」ハイドライドが残念そうな寂しそうな顔で心情を吐露した。


 ザナドゥが後を引き取る。

「リューナに執着するのはカミーユだけではない。国王陛下や王妃様も周りで見ていてやり過ぎと感じるほどスノー伯爵やリューナ嬢にのめり込んでいる」

 ザナドゥは溜息を吐く。

「常軌を逸する程だ。それを見て異常と思わない周りも周りだけどな」


 視線を真っすぐ向けたままどすのきいた低い声を放った。

「お城はみな、二人の結婚に賛成だ。我ら4人を除いてな」


 イースが顔をしかめる。

「ここ最近城内が浮足立っている」


 ミランダは腕を組んで視線を鋭いものにする。

 つい言葉が辛辣になってしまう。

「王子に相応しい相手が現れた、となれば当然、これからお祝いムードまっしぐらね」

(私は納得してないんだけどね)

(リューナさん。私にも優しいし悪い人じゃないんだけど何か違う感じがするのよね)


 ザナドゥはミランダに視線を送り考え込むようにして言った。

「違うな。お祝いなんて生優しいものじゃない。さっきハイドライドが執着と言ったが、みんな笑顔を見せているが、それぞれの思惑を元にした強い執着があるように感じる。無意識レベルでその執着を共有している。野心と言ってもいいかもしれない。みんなの持つ強い執着に違和感を持ち、同調すべきでないと反発しているのが、我ら4人だ」

 言い回しが少々難しいが、言いたいことはなんとなく分かった。


 そうは言っても、当人同士、国王、王妃が結婚に前向きとあっては、私達がいくら異を唱えてもどうにもならないだろう。


 ミランダは静かに溜息を吐いた。


 ダンスが終わり、万雷の拍手の中、舞台の中央にリューナが現れた。今から歌を披露するつもりらしい。舞踏会の終わりにリューナの歌が披露されるのは最近の恒例となっている。


 リューナの歌に皆の期待が集まる。

 リューナが歌い始めると会場のみんなが恍惚の表情を浮かべながら静かに聞き入る。


 ミランダは会場に響くリューナの歌を聞きながらも、どこか冷めた感覚をもっていた。

(歌はうまい。確かにうまいけど、そんなに見悶えて感動するほどのものとは思えない)


 リューナが歌い終わり、会場中から拍手が嵐のように巻き起こる。ミランダも周りに合わせて手を叩いている。


「ねえ」

 ミランダは3人にだけ聞こえるように小声で尋ねる。

「今の歌どお?」

 3人とも拍手こそしているが、どこか冷めた感じに見える。

 ハイドライドが感想を漏らす。

「歌はうまい。高音低音、伸ばす伸ばさないを人の心に訴えるようにうまく裁きながら歌っている。おまけにビブラートもとてもきれいだ」


 その通りだ。彼女の声はきれいだし歌は上手だと思う。

「うん。歌はうまい。うまいんだけどさ。それだけじゃなく力が漲るとか心が震えるとか涙が止まらないとか...そういうのって感じた?」

 周囲を見回すと、天を仰がんばかりに感動に打ち震え、涙を流している人もいる。


「そういうのは感じなかったな。元々が歌を聞いて感動する質じゃないから、かもしれないけど」

 ハイドライドの言葉を聞いてミランダは満足そうに頷いた。

 ザナドゥとイースも同感らしい。会話を聞きつつ目で同意を訴えている。


 歌についても周りがやたらと絶賛しているので口裏を合わせていたが、ミランダは正直それほど感動を覚えなかった。

 そのことを気にして悩んでいた。ずっと誰かに相談したかったのだが、同じ感覚の相手がいたことにようやく安心感を覚えた。


 会場では、歌い終えたリューナにカミーユが労いの言葉をかけており、取り巻き連中も声を大にしてリューナに賛辞を送っていた。


(会も終わりか)

 デザートでも食べようかと思っていたところで、ザナドゥがハイドライドとイースを会場の隅に誘っていくのが見えた。


 ザナドゥは2人の耳元に小声で何かささやいている。

 二人は驚いた顔でザナドゥを見返すと、興奮した面持ちで2、3回頷いてから舞踏会の終わりを待たずにそのまま会場の出口に向かっていく。                    

 去り際に目が合ったので、手を振ると二人は揃って丁寧に会釈し、そのまま出て行ってしまった。


 戻ってきたザナドゥに聞く。

「あの二人に何を言ったの?」

「リーファさんを探すように依頼しました」

「リーファさんて、行方知れずの?」

「はい」

「心当たりあるの?」

「何とも言えませんが、この状況を正しい方向に導けるのは彼女をおいて他にいない。そんな気がしています」

「そうかもしれないけど...。どこにいるか分からないんでしょ? 見つかるかしら?」

「二人は長らく一緒に行動を共にしてきた仲です。我々の知らない有力な情報を持っているかもしれません。あの二人に託しましょう。ただ、我々も何もしないで待つのではなく、無駄かもしれませんが我々にできることをしながら二人からの吉報を待ちましょう」

「そうね...」


 留置場で瀕死の状態だったリーファの姿を思い出す。

 あの後忽然と姿を消してしまった。

(リーファさん。どこへ行ってしまったの?)

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