第150話 全ては教祖様のために(シュラの過去編⑦)
鏡を凝視してみる。
すっかり酔いが回っちまったようだ。
鏡の中の俺が俺に話しかけてる?
(そんなバカな)
しかし、どうやら勘違いでも幻覚でもないようだ。
その証拠に鏡の中の俺は再び俺にアプローチしてきた。
『酒を飲んでいるのか。なら却って好都合かもな』
俺はというとこの不思議な現象をぽかんと口を開けて眺めている。
『よく聞け。今からとても重要なことを話す』
ネガバラックの目がとろんとしてきた。
(なんだ? 急に眠気が増してきた)
意識が薄れる。
「はい」意識がない状態でネガバラックが返事をする。
『お前は俺の言う通りに動くのだ。俺の命令は何よりも尊く絶対だ。決して疑うことのないように』
「はい」
『よろしい』
『お前は大恩ある教祖様のために働かなければならない。教祖様は偉大だ。人々の明るい未来の実現を日夜思い続けておられる。そしてお前も知っている通り、明るい未来の実現のためには、6人の子供の魂が必要だ』
『早急に6人の魂を教団の祭壇に捧げなければならない。それがないと理想は実現しない』
『2人までは成就した。後4人分。もうなりふり構うな。誰でもいい。目についた子供を捕らえて、魂を引き抜くのだ』
「はい」
『全ては教祖様のために』
「全ては教祖様のために」
ネガバラックが鏡からの言葉をなぞってそう唱えると、鏡は元の鏡に戻った。同時にネガバラックも意識を失って倒れ、そのまま深い眠りについた。
それから2日経って、子供が2人連続して殺されたと話題になった。惨たらしい姿に遺族は憤り、周囲も警戒を強め、子供の1人での外出を禁止して町全体で子供を守る対策を採った。同時に警察及び住人による犯人捜しが始まった。
ネガバラックは教祖のアドバイスもあって一旦町を離れ、身を隠すために漁村へと向かった。
ネガバラックは、えも知れぬ恐怖を感じていた。
自分が自分の知らない所で暗躍している。はっきりした記憶にはないが、子供2人を自分が殺した。そして、教団の祭壇に子供の魂を奉納した。これははっきりしている。
祭壇にある水晶玉は4つまで炎が宿っていた。
ネガバラックは頭を抱えて苦悩する。
(俺は一体、どうなっちまったんだ)
(子供を殺した実感はまるでない。なのに俺の直感は「お前が殺したのだ」と訴える。頭の中の自分に向かって「俺は殺していない」といくら叫んでも「お前が殺したのだ」と返ってくる)
考えれば考える程混乱してくる。
(ロイドを殺したのも本当は俺だったのか?)
教祖の関与を確信していたが、今の自分の状態を考えると自分も容疑者の一人と考えられる。むしろ自分の方が怪しいくらいだ。
(俺じゃないと確信をもてないことがこんなにも苦しいものだとは...)
ネガバラックは叫びだしたい衝動を寸前のところで辛うじて抑えた。
気分を落ち着かせながら考える。
(どういう訳かわからないが、教団の思惑通りに罪を重ねている。このままでは後2人確実に命を奪うことになる。これ以上罪を重ねる前に警察に自首しよう。そして洗いざらい真実を伝える。この状態から逃れるにはもうそれしかない)
(その前にハルさんに一目会って、別れを告げよう)




