第15話 不思議な力
古の伝説編、続きます。今しばらくお付き合いください。
ジュウザの妻ナターシャのお話です。
私の名は、ナターシャ。
レオンの谷に住む女の子。ここは村の外れの山間の地で、人口50人位の小さな集落だ。大人達は、近くに生えている薬草を採取して、そのまま町に売りに行ったり、薬として精製して売ったりして、生計を立てている。薬は売れるには売れたが、あまりお金にはならないようでお世辞にも裕福とは言えない暮らしだった。それでも集落のみんなは仲良しで助け合いながら、日々生活している。
私には、不思議な力があった。小さい頃から、少し前の未来が分かったり、手を使わずに物を動かせたり、水の中で何分も息をしないで平気だったり、私はそれが普通だと思っていたが、ちょっと違っていた。私だけがその力を持っていた。
ある日、お母さんにそのことを話すと、凄い怖い顔をして、その力は他人の前では絶対に使ってはいけないと言われた。何でかは分からなかったが、あまりにお母さんの顔が真剣だったから、他人の前では力を使わないようにした。だけど私は自分の力がどんなものなのか知りたくて、一人になって、いろいろ試している内に、だいたい自分のできること、できないこと、得意不得意が把握できるようになった。
ある日、家で飼っているメダカが有り得ない形をしているのに気づいた。不思議に思っていたところ、翌日には元の形に戻っていた。私は私の持つ力がメダカに影響を与えているかもしれないと考え、いろいろ試してみると、すごいことが分かった。私のイメージをメダカに投影させると、ほぼそのイメージ通りにメダカは変化した。理屈は分からない。けどすごい力であることは分かった。
そして、私はいいことを考えついた。
薬草の群生している場所に行き、病気を治す効果をイメージし、薬草に向かって一生懸命祈った。これで多くの人の病気が治って、みんなが笑顔になるなら、私もうれしい。そして薬も売れればみんなが裕福にもなれる。
薬の効果はたちまち現れたようだった。今までの3倍の値段で、3倍売れるようになった。集落のみんなも忙しくなった。そうして、私達はだんだん裕福な暮らしができるようになった。
しばらくは平穏な暮らしが続いた。私も私を好きになってくれた町の男の人と結婚して家庭をもった。彼はこの集落が気に入って、薬の販売の仕事をしてくれることになった。同じように集落の評判を聞いて、定住を希望する人がだんだん増えてきた。勿論、私の不思議な力のことは誰にも明かしていない。
ある日、宮廷の呪術師と名乗る男が、この集落にやってきた。彼は薬草に興味を持ち、いろいろと聞いてきたので知っていることは、できるだけ丁寧に教えてあげた。
夫との間に娘が生まれた。名前をライチと名付けた。目の中に入れても痛くない。大事な大事な私の子。ライチはちょっとやんちゃだったが、すくすくと元気に育った。
ある日、ライチが私には不思議な力があると言い出した。そして目の前でお皿を動かして見せた。私はビックリした。私の能力と同じ能力がわが子に授かっていたのだ。それから私は急に不安になった。ライチには、私の母がしたのと同じように、人前では能力を使わないように固く約束させた。
私はわが子の良い理解者でありたいと願ったので、自分の能力のことをわが子に明かした。娘はビックリするより自分と同じ能力を持つ者がいて安心したらしく、能力についていろいろ聞いてきた。夫には悪いと思ったが、能力については母と子の二人だけの秘密にした。
薬草を育てている菜園に行くと、以前見かけた呪術師が栽培担当者に何か文句を言っていた。話を聞くと、この苗を持ち帰り、自宅で栽培して販売したが、全く効果が出ず、大恥をかいた、どうしてくれるんだと、そんな内容だった。そもそも黙って苗を持ち帰ること自体あり得ないのに、それを自宅で育てて販売する、そして効果がなかったからとこちらに文句の矛先を向けてくるなんて、本当にどういう神経してるんだろうと思ったが、相手は上級貴族だったので、丁寧に謝り、土と水の違いが成分の違いになったのだろうと説明した。呪術師はそれならばと、薬草で損した分を立て替えろと言い出した。しかも明らかに法外な金額である。開いた口が塞がらないとはこのことだ。その場でNoを突きつけても良かったが、さすがに自分一人では決められないと思い、一旦場を外そうと菜園の外に出ると、丁度町から戻ってきた夫のジュウザと出くわした。
「どうした? 何かあったか?」
夫は私を見て異変を察すると、菜園の中に入っていった。
呪術師は、夫を捕まえて、先程私にしたのと同じ話を夫に聞かせている。私は、話を聞いている内にだんだん腹が立ってきた。どう考えても、おかしい。私達がこの人の為にお金を立て替える必要など、1%もないのだ。
「申し訳ございませんが、お金は払えません。この菜園は私達が丹精込めて作り上げた菜園です。この菜園の薬草を維持するためには、水、土、肥料それらを選り分けて管理する必要があります。水なら何でもいい、土なら何でもいいとはいかないのです。そして、それらを維持するためには、莫大なお金がかかります。少し高めの価格で販売してますが、それは通常なら2日で治る病気が、1日で治るように栽培の時点で工夫しているからです。決して儲けだけを追求しているわけではありません。という訳でここにはお金はありますが、全て用途が決まったお金なのです。あなたに渡せる分はありません。お引き取りください」
ジュウザは毅然と言い切った。
呪術師は見る見る顔が赤くなる。
「お前っ。お前ごとき平民が、上級貴族である私に意見するかっ。100年早いわ。いいから金を出せって言ってんだよ」
「申し訳ございません。出せません」
「ふざけんな」
呪術師は、頭を下げるジュウザの頭に向かってムチを振り下ろした。
「ブチン」という鈍い音がした。
「もういい。分かった。この俺を怒らせたら、どうなるか思い知らせてやる」
呪術師は、そう捨て台詞を吐くと、腹いせに足元にあった木箱を思い切り蹴って去っていった。
ナターシャはジュウザの前へ歩み寄る。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫と言いたいところだけど、ちょっとヒリヒリする。痛え」
頭のてっぺんを見ると、赤いミミズ腫れできている。気休めだが、フーフーと腫れた個所に息を吹きかける。
「さすがね。見事だったわ」
「ふざけやがって、上級貴族だかなんだか知らねえが、好きになんてさせねえさ」
ナターシャは、近くにいた女の子が持ってきた塗り薬を受け取ると、ジュウザの頭にペタペタ塗った。
「痛。痛。もっと優しく塗ってくれよ」
「男でしょ。いちいち喚かない」
塗り薬を塗り終わると、目の前の夫に抱き着いた。
「おいおい。どうしたんだよ」
「ありがとう、ジュウザ。私、今すごく幸せ」
呪術師は、この時の屈辱を忘れなかった。3年後に村長に圧力をかけて、集落の人間を魔女に仕立て上げる暴挙を行った。その結果薬草の谷の集落は、壊滅する。
週一の投稿でも大変なのに、毎日の投稿してる人って本当すごいと思う。
頭が下がる。




