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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
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第14話 石碑

絶望に打ちひしがれたジュウザらに、容赦なく現実が襲い掛かる。

そんなジュウザらに奇跡が起き、それは大衆を動かす原動力となった。

そして、石碑に込められた願いとは。

 朝の陽ざしで周囲が明るくなると、4人は村人達に発見された。

 村人は緊張の面持ちで警戒しながら近づいたが、4人は全く抵抗することなく、村人によって捕縛され、そのまま公安に引き渡された。公安では4人に対する聞き取り調査を行った。全員何を言っても何を聞いても、無反応な状態に却って不気味さを感じていたが、一度だけ「他の者はどうした」と聞かれた時に、「海だ」とジュウザが応えたことで、ジュウザ達に何が起こったのか理解できたようだ。

 実際、岬には多数の足跡が見られたことで、先に逃げた女性や子供は悲嘆から、海に身を投げたと確信された。


 ジュウザらは、魔女に関わりを持つ者として、火あぶりの刑に処せられることが決まった。刑場で十字架に括られた4人に対しては、多くの同情が寄せられたが、刑の執行が覆ることはなかった。

 いよいよ、十字架の足元にある薪に火をかけたところで、刑の執行を邪魔するように、雷が鳴り響き、空を覆った分厚い雲から豪雨が地上に降り注いだ。

 この雨によって刑は延期された。そして、迎えた再執行の日も同じように、それまでの晴天が嘘のように、にわかに曇天模様となり、大雨によって刑を中止にせざるを得ない事態に追い込まれた。


 この不思議な事実に、様々な憶測が飛び交った。中でも、魔女狩りによって命を落とした者が呪いで復讐を行おうとしているという噂はたちまち民衆の間に広まった。魔女狩りが大臣達のパフォーマンスで、その実、無実の人を捕まえて処刑していることに民衆も気付いており、そんな為政者の偽善と不信感が一気に反発へと発展していった。民衆は、直ちに魔女狩りを止めるべきと、国王と大臣に迫った。その勢いは今にも暴動に発展するかというほどで、国王と大臣は恐れおののき、魔女狩りの中止を決定した。


 雨によって命拾いしたジュウザ、マルス、アトラス、ライチの4人は、自分達がきっかけになって、魔女狩りが中止になったとは知らないまま、監獄で罪人として過ごしていた。この4人の処遇を巡っては賛否両論別れ、議論が重ねられていたが、ある日忽然と4人の姿が見えなくなった。そのことに気付いた看守は、直ちに脱獄犯として緊急手配したが、4人の消息は全くつかめず、完全にお手上げ状態となった。不思議なことに監獄の鍵はかかったままだったという。


 行方のつかめない4人に関する手掛かりは意外なところで見つかった。


 デグレト島の岬で海を一望できる場所から、少し内陸に入った目立たないところに、この間まではなかった石碑が立っていた。

 その石碑には、次の様な文字が刻まれていた。


 『海に身を捧げた愛する者に捧ぐ 

 海があなた達にとっての安住の地になりますように』



 カミーユは不思議そうな顔をしている。


「デグレトの過去に悲劇があった話は分かった。魔女狩りで犠牲になった人は気の毒だと思う。だけど、この話と人魚伝説がどうつながるんだい」

 先を促す王子に、ギルはまあまあと宥めながら、続きを話し始めた。


「その岬は、石碑によってピエード岬と名付けられました。そして、石碑こそが人魚伝説の元となっています」


「?」


「ここからは伝説と言われる所以なのですが。ジュウザの妻たちは、岬から身を投げましたが、死なずに人魚になって生き永らえた。そして、ジュウザや子供のライチは、人魚の迎えによって監獄を抜け出し、石碑を建て、人魚として新しい人生を歩み始めたという、そういうお話です」


「納得いきましたか?」


「うーん。分かったような分からないような。何となくだけどジュウザ達を追い詰めて死に至らしめた地元の人たちが、後ろめたさから逃れるために、そんな伝説を作り上げた。そんな気がしないでもない」


「そうですね。もしかしたら魔女狩りの犠牲になった人達を悼む気持ちと魔女狩りを終わらせるきっかけを作ったジュウザ達をリスペクトする気持ちが、彼らに生きていて欲しいという願望となって、伝説をつくったのかもしれませんね」

 そう言って、ギルは笑った。


 だが、カミーユは別の考えを頭に浮かべていた。

 にわかには信じらえないが、もし伝説が事実だったら。


 ジュウザやジュウザの妻たちは、偶然にも人魚に助けられて、どこかで生きながらえた。そんな可能性はないだろうか?


 そして、デグレトの人達は、人智を超えた不思議な体験をしたことがあり、人魚がいることを説明できないながらも、人魚の存在を確信しているのではないだろうか?


 自分の心の中にある美しい思い出は、他人には中々理解できないものだ。

 (この感覚は経験した者にしか、共有できないのかもしれないな)


「ありがとう。ギル。とても興味深い話だった。なんとなくだが、デグレトの人が人魚を信じている、その背景がつかめたような気がする」


「どういたしまして。それでは今夜はお疲れでしょうから、ゆっくり休んでください。私はもうちょっと調べ物をしてから寝ることにします」


「明日は、その岬の方にでも行ってみますか?」


「そうだな。折角だ。石碑を見ておきたい」

「かしこまりました。ではお休みなさい」

 ギルはそう言うと、部屋の電気を消して隣室に移動していった。

 カミーユは、ベッドに横になると、すぐに深い眠りについた。

一週間に一度の投稿にも関わらず、この小説を楽しみにしてくださる読者さんがいてくれて、本当にありがとうございます。


小説家になろうに投稿して、初めて感想と評価ポイントもいただきました。うれしくもあり、ほっと胸を撫で下ろした気分にもなれました。


こうして毎週投稿できるのも、ひとえに閲覧してくださる読者さんのお陰です。改めて感謝申し上げます。


まだ物語は続きます。

読者さんと一緒に楽しめるような作品を書き上げていきたいと思ってます。引き続き、応援のほどよろしくお願いします。


次週は「第15話 不思議な力」を投稿します。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  今回の話も面白かったです。ジュウザたちの刑が執行されなくて安心しました。ジュウザたちと人魚の関係など、今後の展開を楽しみにしています。 [一言]  コメントを返してくださり、ありがとうご…
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