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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
13/199

第13話 魔女狩り

先週に引き続き、古の世界のお話です。

政府主導の「魔女狩り」に巻き込まれたジュウザら。仲間が次々と斃れながら希望を失わない彼らに衝撃が走ります。

悲しい出来事が続きますが、悲しみを乗り越えて人は強くなるという人間の持つ側面に注目してください。

 カミーユが生まれる時代から遡ること数百年前。世界は未曽有の天変地異と伝染病に襲われた。この時、世界人口の1割が死に至ったと言われている。人間達は命の危険にさらされ、もがき苦しみながらも神にすがり必死に生きる術を模索していた。


 人々の苦しみとは裏腹に当時の政治と言えば、大臣をはじめ、ほとんどの役人が己の利権拡大に執心で、民衆の困窮を顧みるものはいなかった。


 そんな中、呪術を専門にしている大臣が「魔女が世界に降り立ち、災いによって世界を滅ぼそうとしている」と言い出すと、瞬く間に魔女による世界滅亡説は民衆に広がり、さも本当のことのように人々の間で囁かれ始めた。


 大臣達は、自分達にとって都合の悪い事実を全て魔女の仕業になすりつけると、民衆の危機感を煽った。「魔女は、人間に姿を変え、我々の見えない所で世界の滅亡を密かに実行に移そうとしている。今こそ魔女と魔女に関わる者達をあぶりだし、根絶やしにしなければ我々に未来はない」民衆は大臣達の唱える根拠のない正義を信じ、素行の妖しい者を魔女と断定して、一斉に断罪した。


魔女狩り。


 最初の内は正義感から取り締まりを行い、裁判も行われていたが、次第に魔女の処刑が、大臣達による政治パフォーマンスとして定着しだすと、立場の弱い者や山間で静かに暮らしている者がターゲットにされ始めた。


 ジュウザらは山間の人里離れた谷で、薬草を売ったり精製して薬にしたりして生活を営んでいたが、村長らによって目を付けられた。魔女とそれに関わる者を検挙すれば大臣から褒美がもらえるという噂も人々の間で密かに囁かれていた。金と名誉に目がくらんだ村長は薬草を作る集落を「魔女のいる村」と断定し、他の集落の村民を煽って行動に出た。


 ジュウザらは心ある者の事前の情報に拠って、武装した村人が谷に入る前に間一髪で谷を脱出することができたが、突然のことだったので、当てもなく逃げるしかなかった。


 村長と武装した村人は、もぬけの殻の集落に大いに悔しがったが、逃げたのがつい先ほどと分かると、「魔女を逃がすと村に災いが起きる」と村民をたたみかけ、既に日が暮れていたがそのまま後を追いかけた。


 キョウイとフーマの2人に村人の抑えを託したジュウザらは、ライトとカイトらが走り去った後を追いかけるようにして一心不乱に暗闇を走った。幸い追手は来ない。キョウイとフーマがうまく食い止めていることに感謝し、無事を祈りながらも、おそらく二度と会えないだろう無二の友との別れに涙した。


 前方に人が倒れている。数人の村人、そしてその中にカイトの姿があった。大量の血を流し、既に絶命している。ここで戦闘があり、そしてどこかに動いていったらしい。


(...カイト)


 ライトとカイトは非常に仲の良い兄弟だった。目立ちたがり屋の兄ライトと大人しいがしっかりした弟カイト。恐らく兄と女性達を逃がすために、キョウイ達がやったように自分が残って迫る相手を一手に引き受けたのだろう。自分達の到着がもっと早ければと思わないでもないが、それはどうしようもないことだった。

 心の中でカイトに黙祷を捧げる。


 暗闇の少し先に松明の光が見えた。

(あの先か)

 3人は再び、松明の光を目指して走り出す。


 ライトとカイトは女性子供と一緒に暗闇の一本道を走っていたが、突如村人が現れ、前方の道を塞いだ。相手は10人。2人はみんなに林の茂みに隠れるよう指示して、村人に立ち向かった。2人は10人相手だが怯まず互角に戦った。

 2人は背中合わせに、身構えると、小声で話をした。

 兄のライトが弟のカイトに尋ねる。


「どうする? このままここで戦い続けても仕方がない」

「ああ、みんなを安全な場所に誘導しないと」

「いや、それは無理だ。逆に奴らに場所を教えることになる」

「・・・・・」

「俺が囮になって関係ない方向に走り去る。そうすれば何人かは俺についてくるだろう。残ったやつは、お前が命にかえても全て仕留めろ」

「分かった」


 二人は目でお互いを確認し合う。


「せーので俺は駆け出す。...カイト、死ぬなよ」

「兄さんこそ」

「せーの」

 ライトは、全速力で暗闇に向かって走り出した。

「待てっ」

 村人5人がライトの後を追っていった。


 カイトは残った5人相手に奮闘したが、最後の一人を切り捨てると、その場に倒れた。


 ライトは、村人達を引きつけながら、一人森を走る。

「成功だ。馬鹿どもめ」

 後ろを振り向き、ほくそ笑む。

 村人が声を上げる。

 後は追手をできるだけ離れた場所へ誘導すればいいだけだ。

 相手を引きつけるため派手に音をたてながらが、走っていると矢が飛んできた。矢は何かを狙ってではなく、音のする方に当てずっぽうに放っているようで、全然統一感がなかった。

(そんな当てずっぽうに放つ矢になど当たるものか)

 そう思った矢先、背中に衝撃が走った。

「うっ」っとうめき声をあげると前のめりに倒れこみ、ライトはそのまま絶命した。


 ジュウザらは、戦闘のあった場所から、闇に光る松明の後を追いかけ移動していたが、動きを見て困惑した。明らかに何かを追っている動きではない。かと言って仲間が捕まった雰囲気でもない。ひょっとすると、先にある松明と先に逃れた仲間達の動きは無関係で、追手からうまく逃げることができたのかもしれない。そう考える。

 それはそれでよかったが、その場合、皆はどこにいるのか。できれば夜が明ける前に合流したい。


 みんながどんな経路をたどったのか考えていると、道の方が騒がしくなった。松明が見える。追手だ。キョウイ達がやられ、村長達がここまできたに違いない。


 遠くの松明を見ながら、悔しさを滲ませる。


(やるせない。何故、何の罪もない我々がこんな目に合わなければならない)


 ジュウザは、その思いを何度、喉の奥に詰め込んだか分からない。恐らく一緒にいるマルスにしてもアトラスにしても、背中の愛娘のライチにしても無念の気持ちは同じだろう。

 同時にくじけそうになる自分の弱気をたしなめる。


(しっかりしろ。我々が助かる方法がきっとあるはずだ。あきらめたら全てが終わりだ。俺はあきらめない)


 暗闇に向かって走り出したその瞬間、声が聞こえた。

(誰だ? ナターシャか?)

 彼の妻の声だったが耳ではなく、脳裏に響く。


『ジュウザ。私達はこの先の岬の先端にいます』

(岬の先端?)

 ジュウザは戸惑った。今自分達がどこにいて、どうすれば岬へ行く着くのか分からない。

『私達はこの先の海に向かいます。もうこの国に私達の居場所はないから。そうみんなで決めました。』

(何? 何を言っているんだ。早まるな)

『今まで、充分楽しかったわ。いい思い出ができた。ありがとう。ジュウザ』

 ジュウザは妻の言葉にうろたえた。

(ライチはどうするんだ? 俺とお前の子のライチは? ライチを置いていくのか?)

『ライチのことは心配しないで。大丈夫。私の子だし強い子だから』

(言ってる意味が分からない。大丈夫じゃないだろ)

『後のことはライチに託すけど、あなたも人間の世界に嫌気が差したらこっちへ来るといいわ。』

(冗談じゃない。そんなまねできるか。自分勝手に事を決めやがって。見損なったぞ、ナターシャ)

『じゃあ、そろそろ時間だから』

(おい、待て。言葉が過ぎた。謝る。謝るから思い直してくれ)

(ナターシャ。ナターシャ!)


 脳裏に響いた声は途切れた。目の前にはさっきまでと同様に一面の暗闇が広がっている。


(なんだったんだ、今のは。妻からの最後のメッセージなのか...)


 先を歩くマルスに声をかける。

「岬の方へ行ってみよう。どう行けばいいか分かるか?」

「岬か? 多分こっちだろう」

 そう言って左を指さす。

「しかし、岬だと奴らに迫られた場合、後がなくなるぞ」

 マルスが懸念を口にする。

「ああ。なんだろう。声が聞こえたんだ妻の。岬の先端にいるらしい」

「声? お前がそう言うなら。分かった。行ってみよう」

 ジュウザは、会話の内容については黙っていた。

(行ってみればわかることだ)


 林や茂みの中をかき分けて、30分くらいすると、視界が開け小高い丘に出た。先端が海に向かっている。


(ここなのか?)


「ジュウザ。恐らくここがお前の言う岬の先端だが、誰もいないぞ」

 マルスが不審そうに聞いてくる。

「ここだ。間違いない」

 ジュウザはそう言うと、地面を丁寧に観察した。


「!」


 そこには、ついさっきまで人がいたような大小の靴跡を多く見つけることができた。そのまま駆け足で岬の先端に走り、崖の上から真下の海を覗き込んだ。何も見えなかったが、ここから人が海に飛び込んだであろうことは推測できた。今まで父の背中にいたライチも地面に立ち、彼方の海を呆然と眺めている。

 マルスとアトラスもジュウザの後を歩いてやってきた。


「遅かった」


 ジュウザは膝から崩れ落ち、頭を抱えた。


「どういうことだ。ジュウザ。何があった?」


「みんなは追手から逃げて確かにここに逃れてきた。間違いない。だけど最悪なことがおきてしまった」


「まさか!」


 アトラスが顔を引きつらせた。


「全員、ここから身を投げたのか...」


 信じられないという表情で、マルスが言葉を継いだ。

「嘘だろ。そんな馬鹿な。俺達は何のために...」


 うずくまり泣き続ける父と放心状態の2人を、ライチはじっと見つめていた。長い嗚咽が止んだタイミングで手を引いて父に動くように促してみるが、父も2人の男もそこから動こうとしなかった。もうすぐ夜が明ける。

年末は忙しかったのと、疲れで中々物語を先に書き進めることが出来なかったけど(少しストックがあるので毎週の投稿はできます)少し集中力が戻ってきました。中々時間がとれませんが、コツコツと頑張ろうかなと思ってます。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  綺麗で読みやすい文章でした。読んでいて楽しかったです。悲しみを乗り越えて人は強くなるというテーマも素敵だと思います。今後の登場人物(ジュウザ)たちが立ち直る姿を楽しみにしています。 [一…
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