第122話 最後の晩餐
夕方、黄昏時にカミーユの部屋にみんなが集まった。
既に目もくらむような豪華な食事が用意されている。
「うおー。今までで一番豪華な料理だな」ハイドライドが声を上げる。
「さあ。冷めないうちに食べよう」
カミーユが促すと、みんなが席についた。
「いただきまーす」
1つ1つの料理があまりに美味しく、味わいながらも次から次へと食が進む。
「美味しー。幸せ」料理を頬張りすぎてほっぺが膨らむ。
「リーファ。美味しいからってがっつき過ぎよ」
マキにたしなめられたが、「いいのいいの。だって美味しいんだもん」と笑顔で返すと、「我々に気遣いは無用。遠慮なく食べて」とカミーユからもお墨付きをもらった。
ソロモンでの出来事から舞踏会へと順を追って、それぞれが思い思いに思い出を語る。
楽しいこともあったが、どちらかというと苦しいことの方が多かった。日々必死に真剣に目の前の問題と向き合ってきた。今だから笑って話せる。思い出をみんなで共有し、こうして語り合える楽しさに時が経つのも忘れてしまう。
「そう言えばさ。あれは結局どうなった。解決ってことになるの⁉」カミーユがリーファに尋ねる。
「あれって?」
「ほら。ソロモンの船が魔の海域に発信機を落とすって」
「その真相を確かめるために、僕らは危険を承知でソロモンまで行ったんだよね。資料も端から端まで調べたけど、真相らしい真相は分からなかった。リーファは納得してるの?」
「それね。納得はしてない。今でもグロティアの口から真相を聞き出したいと思ってる。ただ、グロティアがソロモンの宰相でなくなった今、グロティアとしてもどうすることもできなくて、それどころじゃない筈だから...。真相は気になるけど、危機はなくなった。それでいいのかなって私の中ではそう結論づけている」
話を聞いてカミーユも大きく頷いた。
「そうだね。何を企んでいたかは気になるところではあるけど。リーファの言う通り、危機は消えたことは確かだし。今はそれでいいんじゃない。ソロモンとも今後友好関係を築くことになりそうだし」
「薬は?」続けてハイドライドが聞く。
「ああ、あれも解決したようなしてないような微妙な感じになってるね」ハイドライドの問いにはマキが答えた。
「ドラコ事件で薬製造の施設1つを失って技術者ドラコが死んだ。施設を失ったことは痛手だったと思うけど...。もしかしたらドラコの他に技術者の目途がついたことでドラコは消されたのかもしれない」
「もしそうだとしたら、厄介ね」みんなが難しい顔になる。
「ガイル・コナーが何故薬を欲しがってたかも分からないしね」
ハイドライドがカミーユに質問を投げかける。
「国王周辺で、あの薬が出回っているってことは?」
「ないかな」
「グロティアがソロモンでやっていたように、ガイル・コナーがガーナ国王に薬を提供しているかが心配だったんだけど...」
「国王は健康そのものだからな。もしかしたら薦めたくても薦められなかったのかもしれない」
ハイドライドは「ふーん」と返事をすると勢い込むようにして言った。
「OK。薬は国王と協力して、政府として製造を禁止してしまえばいい。ガイルコナーの顔色を窺う必要もない。そういう方向で進めてしまえばいい。カミーユ、頼んだぞ」
「分かった。任せろ」
カミーユはガッツポーズで応じる。そんなカミーユにみんなが和気藹々と突っ込みを入れていく。
「短い間だったけど、すっげぇ濃い時間だったな」
「一旦、ここでお別れだけど、どこかでまた集まろう」
「賛成!」
互いに握手を交わし5人で今後の再会を誓う。名残惜しさはあったけれど、みんなで過ごした大切な時間を胸に刻んでこの場は解散し、それぞれの部屋に戻ることになった。
「あら」
リーファが部屋の入口付近で、カミーユの短剣を拾い上げる。
「短剣が床に落ちてたわよ。大事なものなんでしょ。しっかりしまっておいたら」
カミーユはリーファが手に持つ短剣を不思議そうに見つめる。
「あれっ、おかしいな。棚の引き出しにしまっておいたはずなんだけど。何故こんなところに」
「はいっ、どうぞ」短剣をカミーユに差し出す。
「ありがとう、って。いいや、君にあげるよ」
カミーユは短剣をリーファの胸の前に差し出した。
「えっ、ダメダメ。受け取れないわ。こんな大事なもの」
「いや、大事なものだからこそ。君に受け取って欲しいんだ」
「ダーメ。私なんかが『ありがとう』って言って受け取れるレベルのものじゃないから。大事にしまっておきなさい。王子の証でしょ」
カミーユは短剣を手渡すつもりだったが、頑なに拒否するリーファの様子を見て諦念に至る。
「そうまで言うなら。しまっておくよ」
「うん。そうして。どうせならもっと軽く受け取れるものを頂戴」
「OK。明日までに何か用意しておく」
5人は「お休み」と言葉を交わし部屋へ戻っていった。
「お休み。じゃあ、また明日」




