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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第3章 天使と悪魔の顔をあわせ持つ人魚姫とそんな人魚姫に振り回されながらも優しさを失わない王子の揺れるブエナビスタ城 編
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第101話 謁見

 国王の変化にギル・マーレンが素早く反応した。

「どうかされましたか? 陛下」

 皆も戸惑いの表情を浮かべる。


「い、いや。何でもない。ちょっとびっくりしただけだ。カミーユ、気にするな。続けろ」

「はい」

 返事をするカミーユも明らかに戸惑っている。

(続けろと言ったって気になる。気にするなという方が無理だ。どうしよう、超気になる)


 カミーユからの紹介に応じてリーファが挨拶する。

「リーファです。アクアマリン王国出身です」

「アクアマリン?」国王が眉間に皺を寄せながらボソッと呟く。

「アクアマリン王国は、南にある小さな島国で」とリーファが言ったところで、「そなた、アクアマリンの者か!」と国王はリーファの説明に被せる様に、落ち着きながらも驚きの言葉を口にした。


 国王の言葉に、リーファが言葉を失う。

(えっ、アクアマリンを知っている?)

 リーファは目を白黒させたまま動かなくなってしまった。


 混乱して頭が真白になっているリーファの代わりにマキが国王に尋ねた。


「失礼します。リーファと同じアクアマリン王国のマキと言います。気になったのでお尋ねしますが、国王陛下はアクアマリンの存在をご存知なのですか?」

 マキが鋭い視線を国王に向ける。


 アクアマリン(人魚の国)の存在が人間に知られている⁉、もしそうなら看過できない一大事だ。至急女王に知らせなければならない。

 マキは平静を装いながら、国王の表情、声音に細心の注意を向ける。


 皆の注目が国王に集まる。


「アクアマリン。存在自体は知らないが知っている」


 カミーユも皆も表には出さないが国王の言うことの意味を掴み切れないでいた。

(意味が分からない)


 マキはさらに説明を求めるようにじっと国王を見つめている。


「儂がまだ若い頃、丁度カミーユくらいの年齢の頃だ。海辺である女性と出会った。その者はアクアマリンからやって来たと言っていた」                      

「その女性とはそれっきりだが、それからアクアマリンという国に興味を持って部下に聞いたり、探させたりしたが、アクアマリンの情報は全く掴めなかった」

「不思議だな。長い年月を経て再びアクアマリンの名を聞くことになるとは。びっくりしたというのはそういうことだ」

「南にある小さな島か」国王は噛みしめるようにして呟いた。


「はい」マキは返事をした。

 チラリとギル・マーレンの様子を窺う。

 何があったか分からないが昔の感傷に浸っている国王より、現実的な対応を計算している抜け目のない外交官の方をより警戒する必要がある。


 ただ国王の今の言葉から”アクアマリン”という言葉だけで人魚の国のことは知られてないと断定できた。

 なら、この件はこれ以上広げるべきでない。

 そうマキが考えていると、いつの間にか呆然自失状態から復活したリーファが挨拶の続きを始めた。


「私達とカミーユ王子の出会いについてお話します。デグレトのドッグレースで大金を手にした私達は素行の良くない男達に絡まれていました。そこを偶然通りかかったカミーユ王子及びハイドライドさん、イースさんによって危ない所を助けていただきました。あの時は本当に助かりました」

「ソロモンに行くことは私が別の機会で知り合ったダルクファクトさんにお願いしました。ダルクファクトさんから強く反対されましたが、私がどうやっても信念を曲げないと、つまりはソロモンへ行くつもりであると悟ると商売に使う船をあてがってくれました。カミーユ王子らには内緒で行くつもりでしたが、女性だけでのソロモン行きは危険だと居ても立ってもいられなかったのでしょう。私の目につかないように内緒でついてきてくれました。王子として正しい判断かと言われると決して正しいとは思えませんが、王子の優しさ、思いやりは人として。うまく言えませんが、皆に希望と感動を与えるものであるはずです」

「ソロモン潜入については、王子に罪はありません。罪なら私が受けますので、どうか王子を責めないで下さい。よろしくお願いします」


 続けてハイドライドとイースもカミーユを弁護する。

「陛下。カミーユ王子にもし罪を与えるというなら、危険を承知しながらカミーユ王子のソロモン行きを止めなかった私達にも責任はあります。私達も罪を受けます。カミーユ王子だけの落ち度としてお考え及びのないようお願い申し上げます」


 皆の瞳が国王に集中する。カミーユの罪を少しでも軽減させたい思いは皆の一致するところだ。 


 最後にカミーユが自身の考えを披露した。

「リーファ、ハイドライド、イース。いろいろあるにせよ。危険を承知でソロモンに行くことを決めたのは僕だ。王子として自覚が足りないというなら、それはその通りだと思う。これは僕個人の自覚の問題だ。君達には関係ない。気持ちは有難いが、罪と罰は王子である僕が受ける」


 ギル・マーレンが王の顔色をそっと窺う。


 それまで黙って話を聞いていた王がおもむろに口を開いた。

「カミーユ。お前の言う通り、ソロモンへ行ったことは軽率で浅はかな判断だ。充分反省しなければならない。話が逸れているが、今回お前の元に出向いたのは、お前の罪をただすことだけが目的ではない。お前がソロモンで見たこと、感じたことを逐一儂に聞かせよ」


「はい。分かりました。その前にマキの挨拶がまだなので、まずはマキの挨拶をさせてください」


 カミーユから紹介されたマキが挨拶と自己紹介をする。

 マキが話をする間、国王はもの静かにじっと話の内容に耳を傾けていたが、マキが話し終わると「ブエナビスタの印象はいかがかな? 気に入ってくれたか?」とマキに尋ねた。


「はい。美しい港、街の活気、人々の笑顔。どれもとても印象深く感じております」


 国王はマキの返答に大きく頷くと、カミーユへソロモンの報告を促した。


 カミーユは、国王とギル・マーレンにソロモンでの出来事を要点をまとめつつ報告した。


「なるほど。分かった」


「カミーユ。まずは勝手な振る舞いに対する処分として、5日間の自室謹慎を命ずる。この国にとって有用な情報をもたらしてくれた功績は認める。しかし勝手な振る舞いを許しては、皆に示しがつかない」王は厳しい表情でカミーユに自身の考えを述べると、カミーユは何とも形状しがたい表情を浮かべた。


 王は席を立つと、カミーユの肩に手をかけ、穏やかに声を掛けた。

「そんな難しい顔をするな。まずはゆっくりと長旅の疲れを癒せ」


「承知しました」

 王はハイドライドとイースの方に顔を向けて言った。

「友達もその間は城に居留してもいい。皆でゆっくりせよ」


「グロティアの件は分かった。ガイル・コナーとつながりがあったとしても個人的なつながりがあるというだけでは、どうしようもない。ソロモン国の動向を見ながらになるが、グロティアの存在が政治問題に発展しないように気は配っておこう。グロティアの乗ってきたアリストテレス級の軍船はギル・マーレンが既に捜索の手筈を整えている。近日中に海岸線に向け捜索隊が出発することになっている」

「B2F4という薬については、今の時点ではなんとも判断できない。分析の結果を見て専門家の意見を聞きながらどうするか決める。それまでは薬の件でのガイル・コナーとの接触を禁止する」


「懸念はそんなところか? カミーユ」


「はい。話をお聞きくださり、ありがとうございます」


「全く。こんな無茶は今回だけにしてくれ。何かあってからでは遅い。いいな。カミーユ」


「ご心配をお掛けしまして、申し訳ございませんでした」


「頼むぞ」


「それと、ご友人方々。不肖な息子だが、時には厳しく、時には背中を押して、私の目が届かない分、力になってやってくれ。優柔不断で頼りな気だが、思いやりがあって人や民に寄り添うことができる心を持っている。これからも息子カミーユをサポートしてやってくれ」

 ブエナビスタ国王は、言い終わると頭を下げた。


 ハイドライドが恐縮しながらも国王に返答する。

「畏まりました。国王陛下。カミーユ王子の優しい人柄はきっとこの国に活気と幸せをもたらす存在となりえましょう。これからも力の限りサポートいたします」


 それを聞くと、国王は安心した様に大きく頷いて部屋を出て行った。ギル・マーレンも国王の後をついて部屋を出て行く。


 かくして、国王との謁見は終わった。

 皆、息を大きく吐き出し、体と気持ちをリラックスさせた。


「いや、びびったぁ。国王が僕達に頭を下げるなんて。逆にあたふたしちゃったよ~」ハイドライドが未だ興奮冷めやらぬ様子で語りかける。


 そんな時、再び部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 一瞬にして和やかな雰囲気から緊迫の雰囲気に逆戻りする。


「はい」カミーユが応じる。


 ドアが開かれギル・マーレンが現れた。国王はいない。

「王子。国王から伝言です。1週間後の夜に開かれるガーデンフォレストの舞踏会に参加するようにとのことです」

「承知しました」

「ご友人も、だそうです」

「ご友人? もしかしてマキとリーファも、かい?」

「はい。皆の参加を楽しみにしている、とおしゃってました」


 カミーユが後ろを振り返ると、「えっ⁉」っという顔をしている2人の姿が目に写った。

「ギル。王の招待なら参加はするが、ダンスの経験はないので彼女達は見ているだけでいいかな?」

「申し訳ありません。私からは何とも。突然指名された時に全くできないよりはステップの基礎くらいはこなせた方がいいかもしれません」

「1週間でか...」

「王子のご友人なら、少なくとも舞踏会をそつなくこなす技量は最低限必要ではないでしょうか? 王の意向もそこにあると思います」

「分かった」カミーユが力なく返事をするとギル・マーレンはにっこり笑って部屋を出て行った。


(1週間か!)

 カミーユは天を仰ぐしかなかった。

次回、「壊滅する海」をお届けします。

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