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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
10/199

第10話 女王ルナ

アンデルセン童話「人魚姫」をベースにした物語です。原作とはちょっと違う新しい人魚姫。世界は愛で満ちている、そんな愛のあふれる物語を描いています。

 リーファは、自分ではっきり感じることができるほど、心臓の鼓動が高鳴っていた。

 目の前に補習後行ったテストの結果が記された紙が二つ折りに閉じられ置かれている。

 その紙にゆっくりと手を伸ばす。


 この数日間は、自分でもよく頑張ったと思う。

 学校の補習が終わると真っすぐ家に帰って来て、ずっと部屋に籠って勉強し、分からないところはオルファやカラファをつかまえて聞いた。遊びの約束は全てキャンセルした。シェルの散歩も、迷ったがオルファにお願いした。オルファは快く引き受けてくれた。


 短い間だったが、この期間でやるべきことは全部やったと胸を張って言える。こんなに勉強に集中したのは生まれて初めてかもしれない。自分でもビックリしている。姉妹のみんなも驚いていた。


 手ごたえはあった。できた。


 でも、といつもの癖で考えてしまう。不安も同時にある。点数が届いてなかったら...。

 母であり女王でもあるルナの顔を思い浮かべる。母に心配をかけさせたくなかった。安心させてあげたかった。他の姉妹と同じく、リーファのことも誇れる自分の子供だと思って欲しかった。国のことで忙しいので、たまにしか会うことはなかったが、会えばいつも優しい言葉をかけてくれた。母に恥ずかしくない自分でいたい。母が大好きだから、がっかりした顔はみたくなかった。


 様々な思いが、胸の中に去来する。


 昔、母に言われた言葉を思い出す。

「リーファ。母のために頑張るのもいいですが、勉強とは本来自分のために行うもの、自分が自分自身であるために行うものです。努力によって積み重ねたものは、きっと将来のあなたの血肉となるでしょう」

 言われた時は、何を言っているのか分からなかった。却って頭が混乱した。母のために頑張る自分が否定されたと思った。自分は姉達に比べ、母に期待されてないのかもと悲しくなった。


 歳を重ね、追い詰められて奮起したことで、わずかだが母の言いたかったことが、理解できるようになってきた。


 全ては自分の責任。他人のために頑張るは、モチベーションアップにつながるが、だんだん他人の一挙手一投足、あるいは些細な一言に従順であろうとして、心が支配されるようになり、相手の気分によって右往左往することになる。結局、自分を見失い、あれこれ余計なことを考えては、心が疲弊してしまう。

 実際、母の事だけ考えていた子供だった自分は、「何で分かってくれないの」と思い通りにならないことに絶えず苛ついていた。


 そこから、自分が自分自身のために一生懸命頑張るように切り替えて考えると、自分で自分の将来をイメージできるようになった。失敗しても、その経験を自分のものとして活かせる。そうやって自分だけの他の誰でもない自我を作り上げていく。母の言いたかったことは、そういうことなんだ、と分かった。

 母は私を否定したのではなく、励ましていたんだ。

 母の想いが、今になって私の中で腑に落ちた。


 お母さんは偉大な人なんだな。


 そう思うと、怖さが心の中からスッと消えた。

 成績の書かれた答案を開ける。


 リーファは目を瞠る。前回の点数が嘘のような高得点だった。


(やった!)


 言葉が出ない。


 答案用紙を見つめたまま、感動に耽っていると、いつの間にか先生が目の前に来ていた。


「よく頑張ったわね。リーファ。おめでとう」


 はっとして、先生の方を見る。

「ありがとうございます」

 先生から手を差し出された。その手に自分の手を添える。そして力強く握手した。


「先生や姉達のお陰です」


 先生はうれしそうだ。

 そんな先生を見て、さらにうれしくなる。


 やがて、先生は背筋を伸ばして、改まって言った。

「リーファ。女王様があなたに用があるようです。すぐに宮殿へお行きなさい」

「女王様が?」

 聞き返すと、先生は目で合図する。

「はい。すぐ行きます」

「先生、本当にありがとうございました。」

 ゆっくりした動作で丁寧にお辞儀をすると、教室を後にし、女王のいる宮殿へと向かった。


 学校の門で、心配して待っていてくれたソフィアに、成績の事を話すと、自分のことのように喜んでくれた。


 宮殿に着いたリーファは、受付で氏名と目的を伝えると、来ることが伝わっていたらしく、すぐに通された。

 案内された部屋に行くと、マキが先着していた。

 マキの姿を見て、今回呼び出された目的が分かった。


「こんにちは。マキさん」

 リーファは元気よく声をかけた。

「ふふっ、リーファ。ようやくあなたの出番って訳ね」

 マキは、軽く笑みを漏らし、意味ありげに声を掛けた。


 マキは、女王ルナの妹の内の一人だ。

 性格は穏やかで、人懐っこい。

 人間界に精通していて、王族の人間界研修の案内役をも務めている。スーファをはじめ、姉妹は全て、マキとともに人間界へ研修に行っている。


 マキも女王ルナ同様、類まれなる美貌の持ち主だが、ルナとは違って控えめで庶民的な印象を受ける。


 いよいよ、私の番だ。胸が高鳴る。


 実は、リーファは、前々回オルファの研修の時に、私も行くと言って周囲を困らせ、前回カラファの時は、姿が見えなくなる魔法を使って密航しようとしたのがばれて連れ戻された過去がある。


 マキの発言には、そんな問題児であるリーファが、成長してようやくここまでたどり着いた安心と過去の苦い思い出が入り混じったニュアンスが含まれていたが、リーファは、その様子を気にする素振りを見せなかった。


 マキも、リーファの自信にあふれた表情を見るにつれ、少し意外に思ったが、同時に頼もしく思った。今は過去の話題を持ち出すべきではないと感じ、敢えて過去の話題には触れることはしなかった。


 マキとリーファは二人で他愛もない話をしていたが、もうすぐ女王が来られるとのことで、それぞれ用意されたテーブルに着いた。


 ややすると、ドアが開き、女王ルナと長女のスーファが部屋に入ってきた。女王ルナは、自身のテーブルに着くと、気品と慈悲に満ちた表情で、リーファとマキを見つめた。年は重ねているが、溢れんばかりの美貌に満ちている。

新年あけましておめでとうございます。

お陰様で無事に第10話を投稿することが出来ました。これもひとえに応援して下さる皆様のお陰です。心から感謝いたします。

まだ物語は続きます。2022年もいい作品をお届けできるよう頑張りますので、本年も応援のほどよろしくお願いいたします。

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