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堕落男と喧嘩少女  作者: 開拓者A
6/8

助け舟


「昨日は何があったんだよ。」



教室に着くや、いかにもお調子者といった風貌の男が声をかけてくる。


これが知らないやつだったら無視して終わりなのだが、そいつは昨日声をかけてきた前の席の住人だった。


中性的な顔立ちに、人の良さそうな笑顔、短い茶髪を横に流している人物、内海隼也だ。



内海が聞かんとしていることは、おそらく都張とのことだろう。


そのことを察しつつも、あえて話を流そうとする。



「何ってなんのことだよ。」


「とぼけるなよ湊人。俺たち親友だろ。隠し事はなしにしようぜ。」



内海は体を前のめりにしてそう言ってくる。


昨日会って5分も話していないはずなのに、親友認定になっているようだ。


その馬鹿馬鹿しい距離感に嘆息しつつ、先ほどと同じように言葉を続ける。



「だから、なんのことかわからないんだが。」


「もういい、単刀直入に聞くぞ。昨日都張さんと何があったんだよ。」



内海は直球に、真剣な面持ちでそう聞いてきた。


噂なんてすぐに広まるから、言いたくないのが本音だ。



「......言わないといけないのか。」


「言いたくないなら、別に言わないでもいいけどな。」



どうやらこちらに選択権を与えてくれるようだ。


見た目とは裏腹に、相手の気持ちを推し量る心は持ち合わせているようだ。


その言葉に絆され、言うはずのなかった返答が口から出る。



「...すこし世間話をしていただけだ。」


「へえ、世間話、ねえ。」


「これ以上言うつもりはない。そしてお前が考えているようなことも一切ないからな。」



変に邪推されても困る。念を押す意味で最後にそう付け加えた。



「へいへい、じゃあ湊人が話したくなったら俺が受け止めてやる。」


「ところで、湊人。このクラスで一番可愛い子誰だと思う。」



内海は冗談で話を終わらせ、先の話が無かったかのように新しい話題を出す。


この男のことは、まだよく知らない。しかし、少しは信頼してもいいかもしれない、そう思えた。



「俺は、島本かな。あのポニーテールがたまらないよな。ほら、あの教卓のとこにいる子。」



話は続いているようで、内海は教室の前の方を指さして何か言っている。


その言葉に促され、視線を向けてみるとポニーテールを揺らしている1人の少女が目に映る。



その島本という少女は、楽しそうに笑いながら友達と談笑しているようだった。


明るくて活発で、リーダーショップのありそうな、一目見ただけでもそう感じることができる。



「で、お前はどうなんだよ。」


「え、俺。」


「やっぱり都張か。確かにあれは次元が違うよな。高嶺の花というか、なんというか。」



内海が唐突に都張の名前を出したので、動揺して教室の中心に目を向けてしまう。


当の本人、都張はその中にいるのだろう。


昨日と同じく、都張の周りには小さな集団ができており、その円の中心を確認することはできそうにない。



「あれ、何日続くのかね。人気者も辛そうだよな。」



やれやれと言った仕草をして、内海は席を立つ。



「そんじゃ湊人、俺ちょっと行くとこあるから。」


「お、おう。」



内海はそれだけ残し、教室を後にした。


まだホームルームまでしばらく時間があるから、他のクラスにでも行くのだろうか。


そんなことを考えつつ、他人に興味を向けている自分に驚く。



あの出来事から、人と関わることを極端に避けてきたため、友達と呼べる人間はもう1人もいない。


見た目が暗く、本を読んでいることが多かったからか、話しかけられることもほとんどなかった。



「おっはよー、湊人!」



勢いよく教室に入ってきた何者かから名前を呼ばれ、思考が中断される。


その勢いのまま、そいつは眼前まで迫ってくる。



「浮かない顔してどうした!どうした!」


「え、ちょ。」


「さては、私のこと忘れてるなー。西咲だよ!西咲日向!」



近い。何が起きているのかよくわからないが、女の顔が間近にある。


西咲日向。どこかで会った気がする。


頭の中の記憶を洗い出し、なんとか思い出そうとする。



その疑問は、すぐにそいつが解消してくれた。



「昨日!旧校舎のところで会ったじゃん!まさか、敵に記憶を!?」


「ちょっと、静かにしろ。」



そいつ、西咲はオーバーに驚きを示す。


その反動で前の机が揺れ、ガタリと大きな音をならす。



これはまずい、そう思った時にはもう遅かった。


クラスメイトの大半がその音に反応し、こちらを振り返る。



「なになに、あれって尾野君と西咲さん?」


「2人ってどんな関係なのかな、距離めちゃくちゃ近いけど。」


「俺聞いてこようかな、異色の組み合わせだし〜。」



めんどくさいことになった。


この場をどう切り抜けようか、そう考えを始めた時。鈴のような声が教室に響き渡る。



「みなさん、そろそろホームルームが始まるみたいですよ。」



この窮地に助け舟を出したのは、都張朝菜だった。



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