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堕落男と喧嘩少女  作者: 開拓者A
4/8

薄布


目的のものはすぐに見つかった。


まだ、それは校舎から出ておらず、階段を下っているところだった。


それもそうか、別れたのはついぞさっきなのだから。


息を呑み、その対象物にむかって右手を伸ばす。


その手が対象物、少女の肩に触れようとしたその時だった。



「触らないでください!」



警戒を孕んだ声。


伸ばした手は、少女の咄嗟の回避によって空を切る。



「って、あなたですか。また殴れにきたんですか。」


「いや、そうじゃなくてだな。」



少女は俺を見るや、次は呆れたような声でそうこぼす。


その言葉に嘘はないようで、鞄を地面に置き臨戦態勢に入ろうとしているようだ。



「だから、そうじゃなくて。これ。」



なんとか喉から声を絞り出し、鞄の中から例のものを取り出そうとする。


例のもの、ついさっき拾った薄桃色のハンカチだ。



「このハンカチお前のものじゃないのか。」



少女は一瞬止まって、考える素振りを見せる。



「...いえ、違います。」



少女はそうはっきりと告げた。



「用はそれだけですか。早くしないと怪我をしますよ。」


「ああ、それだけだ。」



少女はその返事を聞くと同時に背をむけ、階段を降り始めた。


そこで、そう言えば聞きそびれていたことがあったな。と思い、少女に言葉を投げかける。



「お、おい。お前名前なんていうんだ。」



力のない声だったと思う。



「...都張朝菜。」



少女は振り返りもせず、独り言のようにつぶやく。


何故か聞く前から知っていたような、そんな気がした。




「ただいま。」



返事はない。自分以外に住人のいない玄関に靴を脱ぎ捨てる。


長い廊下を抜けると、一人暮らしにしては大きすぎるリビングがある。


親が不自由しないように、広いマンションを借りてくれた。



当たり前だが、一人暮らしは人生で初めてだ。


越してきてから2週間程度経つが、脱ぎ捨てられた服や飲みかけのペットボトル、まだ開けていない段ボールが乱雑に配置されている。


このまま行けば、数ヶ月後にはゴミ屋敷と化するだろう。



足元に散らかっているそれらを器用に避けつつ、自室の扉を開ける。


鞄をベッドに投げ、そのまま自分の体も同じ場所に投げ出す。


するとその衝撃で、鞄の中身がこぼれ、薄桃色のハンカチが半分顔を出す。



「そういえば、これ。」



本来なら、持ち主があの少女でないとわかったら、職員室に預けて帰る予定だったのだ。


しかし、あの少女の名前が頭から離れず、そのまま家に着いてしまっていた。



鞄から、持ち主不明のそれを取り出し、もう一度観察する。


このハンカチは、あの少女、都張朝菜の持ち物でないとすると、必然としてもう一人の、西咲日向のものということになる。



そう思いながら、ハンカチの下の方に何か刺繍されていることに気がつく。


目を凝らしてみてみると、そこには小さな文字で“Asana”と刻銘されていた。



「Asanaって、あいつのことだよな。」



頭の中に疑問符が浮かぶ。


あの少女は別れ際にそう名乗った。鮮明に覚えている。



「でも、どうして。」



しかし、当の少女ははっきりと自分の持ち物ではないと否定したのだ。


そのことが、さらに謎を深める。



とりあえず家に持ち帰ってしまった以上、何もしないわけにはいかないだろう。


体を起こし、その謎の中心点を割物を持つように丁寧に持ち直す。



「とりあえず、洗濯はしといた方が良いよな。」



誰に言うわけでもなくそうこぼし、その足で脱衣所に向かう。


洗濯機の中に衣類やら下着やらが鎮座していたため、それらを放り出し、その布を優しく入れる。


部屋を出てから、洗濯のボタンを押すまでに小一時間は要しただろう。



部屋に戻ると、気が抜けたのか今度は気がつくとベッドに倒れ込んでいた。



「都張、朝菜、か。」



あの少女の名を忘れないように口に出し、しばらくして意識は闇の底に沈んでいった。




4日目突入!

これからは19時〜20時を目処に投稿しようと思います。

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