生還
「話し合えば解決するだろ。」
「それはないです。絶対に。」
頑なに、断固として、自分の主張を譲らないのは何か理由があるのだろう。
「私は今までもこうしてきましたから。」
こちらの返答を待たずして、少女は回し蹴りを放ってくる。
「--------っと。」
すんのところで回避する。今まで戦ってきた相手に比べれば大したことない。
「その動き...何かやってるんですか。これでも私有段者なんですけど。」
「いや、何も。女子の蹴りなんてみんな同じだ。」
咄嗟に嘘をついた。隠す必要なんて別にないのに。
「どうして、そこまで俺に固執するんだ。無視してればいいだろ。」
「どうしてですかね。気まぐれだと思ってください。」
「------------。そういえばあなたの名前、''おのみなと''でしたよね。」
ふと、少女は顎に手を置いて少し考える素振りをして、そんなことを言った。
「そうだが、それが何だ。」
質問の意図がわからなかった。それは攻撃の手を止めてまでするものだったのか、と。
「なるほど、どうりで。」
少女は合点がいったのか、少し頷き、今までにない表情を浮かべた。
妖艶さと不気味さを兼ね備えた、そんな表情だ。
「そういえば、お前。名前なんだ。」
「わたしですか?私は都張あさ----------「なにごと!なにごとーーーーー!!!」
耳に刺さるような甲高い声音が、静かな校舎内に響き渡る。
「君たち!喧嘩は良くないよ!喧嘩は!」
「------------。」
「------------。」
「あ!私、西咲日向!」
呆気に取られた。突如現れた赤毛の少女は、右手の人差し指をこちらにビシッとむけた。
返答がないことを不思議に思ったのか、そのまま腰に手を当て、聞いてもいない名前を名乗った。
「------------。」
「あの、西咲さん。私たちはただ話し合いをしていただけなのですが。」
少女が先に口を開く。しかも大嘘だ。
「え!そうなの!ごめんね!じゃ!」
何故か納得した。どういう思考回路をしているんだ。
そのままその少女、西咲は、その場から立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待て。」
また二人きりにされたらどうなるかわからない。
こちらに背中を向けて爛々と歩く西咲に言葉を投げた。
「とりあえず、話だけでも聞いてくれないか。困っているんだ。」
「もう十分に聞きました!」
「まだ、都張からしか聞いていないよな。頼む。」
「私はお腹が空いたので帰ります!」
説得を試みたものの、西咲はタタタタと元来た道を走っていってしまった。
「...まだやるのか。」
諦め気味に都張に尋ねる。
「いえ、このまま続けても埒があかないので私も帰ります。」
「と言っても、この件に関してはまた後日お話しする予定ですので。では。」
それだけ残し喧嘩少女は、赤毛少女と同じ道につく。
少女の姿が完全に見えなくなったところで、安堵したのか体がどっと重くなった。
嵐のような女だ。そんなことを思う日が来るなんて。
明日学校に行けば、また少女と対面することになるだろう。
「どうしてあそこまでする必要があるんだ。」
一連の出来事を思い出し、そう一人ごちる。
いくら考えてもわからないものはわからない。
「帰るか。」
乱雑に床に散らばった鞄を拾い上げ、静寂な空間を後にしようとする。
つい数分前には死闘が繰り広げられていたこの場所から。
そこで何かに気がつく。
廊下に明らかに自分のものではない薄桃色の布が落ちていることに。
「ハンカチか。」
それは確かに女性もののハンカチだった。
この場所に来る時に目にしなかったということは、必然的に持ち主はあの二人のどちらかになる。
その薄布を拾い、どうしたものかと頭を悩ませる。
職員室に届けるか。
そう思いもしたが、ちょうど片方の少女に聞きたいことがあったことを思い出した。
そのままハンカチを鞄のポケットのところにしまい、急足でその場を後にした。
空には今にも落ちてきそうな黒色が立ち込めていた。
もっと語彙力ほしい。