再来
見慣れない道、見慣れない川、見慣れないコンビニ。
そして今、目の前にある校舎。
周りを通り過ぎる学生たちは、友達と楽しそうに談笑している者、不安げに歩を進めている者、とさまざまいる。
一つだけ言えることは、その大半がこれから始まる3年間に期待していることだろうか。
期待なんてするだけ無駄なのに。
☆
「新入生諸君、入学おめでとう。君たちはこの時を持って本校の生徒になる。諸君にはこの3年間で--------
--------終わりに、新入生諸君の充実した高校生活を願って式辞とする。是非励みたまえ。」
嫌なくらい長い校長の式辞が終わる。
輝く高校生活も、青春も、希望も、想像することができない。
想像すると、首を絞められるような感覚になる。あの時の記憶が蘇る。
早くこの息のしづらい環境から出たい、と思ったその時。
「新入生代表挨拶。新入生代表、都張朝菜。」
「はい。」
あの鈴は、また目の前に姿を現したのだった。
☆
「都張さんってすごく頭いいんだ!」
「髪サラサラだね!ケアとか何やってるの?」
「部活何入る予定〜?」
「すみません。先約があるので。」
まさか、同じ学校の同じクラスにあの喧嘩少女がいるなんて思わなかった。
少女は入学式が終わるや否や、クラスメイトたちに囲まれている。
それもそうだろう、少女は眉目秀麗、頭脳明晰、さらには腕っぷしもいいようだから。
そんなことを考えていると、前の席の男がこちらを振り返った。
「お前、あの子知ってるか。」
と一言。
「---いや、何も。」
「あ、そか。ならいいんだ。俺、内海隼也。ハヤブサにカタカナのセみたいなやつで隼也な。よろしくな。尾野、、、湊人だっけか。」
いきなりの質問に戸惑いながらも、なんとか声を絞り出す。
悪いやつではなさそうだ。今もニコニコしながら、右手を差し出している。
「あ、ああ。よろしくな。」
なぜ名前を知ってるんだ、と疑問に思いながら、そういえばさっき自己紹介したんだったと思い出し納得した。
人の名前をいちいち把握するなんて律儀な奴もいるもんだ。
「ところで湊人。あの子は一体何者なんだ?」
「-------さあ。知らないが。」
「あの子、さっきからこっちを見てる気がするんだよな。多分、湊人の方を。」
「おそらく気のせいだ。」
「何かやったんじゃないか、お前。」
確かに、さっきから少しばかり視線を感じるような気がする。
それは内海の容姿が優れているから、女子たちが好奇の目で見ているとばかり思っていた。
でも、どうして。と疑問が頭の中を渦巻く。
「っておい。湊人。湊人、お客さんだぞ。」
肩あたりに軽く何かが当たる。気がつくと、内海が肩を叩くいてるようだった。
その声と衝撃で、思考が現実に戻される。
「あの、少しよろしいですか。」
無機質な鈴の音。聞き覚えのある音に鼓膜が震える。
目の前には客人、いやあの時の少女が悠然と立っている。
「-------------。」
「-----------------何か。」
数秒考えて喉からこぼれたのがそれだった。
「私についてきてください。すぐに終わらせますから。」
少女は淡々と言う。
「だから用件を。」
「あまり人には聞かれたくないので。」
「....わかった。内海、じゃ。」
「お、おう。また明日な。」
一連のやりとりを終え、教室を出る。
ただでさえ重い足がさらに足取りを重くしている。
目の前を歩く少女は、そんなこと意に介さずに目的の場所に向かっているようだ。
つい数日前、確かに近所のコンビニで彼女と対面している。
つまり、今から始まることはあらかた予想できる。
その事件、、、事故について黙秘してほしいという内容だろう。
予測できる未来に嘆息しながら、少女に声をかける。
「...どこに行くんだ。」
「人目のつかない場所です。」
「...この前のあのことだろ。別に言ってないし、言いふらす趣味もない。」
「口だけかもしれないので。」
少女はそれだけ言って、再び歩を進める。
これは何を言っても無駄だと悟り、少女の後に続くことにした。
しばらくして、少女は立ち止まる。
目的地は屋上手前の踊り場だったようだ。
周囲に人はなく、シンとしている。不気味な雰囲気だ。
「それで話って。」
面倒ごとを早く終わらせようと口を開いたその時だった。
鼻先を何かが横切る。
それが少女の拳だと理解するのに時間はいらなかった。
「避けたんですね。」
少女は何故か関心を含んだ声音でそう言った。
「なんで。」
混乱していた。女子に不意打ちされることは経験がない。
「あなたを信用していないからです。」
彼女は昏い瞳でそうこぼし、続きを紡ごうとはしない。
高校生活初日、女子高生との死闘が始まる。
毎日更新頑張ります。