コンビニ前で暴漢を襲うヒロインってまじ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「誰か応急処置ができる奴はいないのか!」
「試合は一時中断とする!大会本部に連絡を!」
「早く救急車を呼べ!おい、湊人!AEDを持ってこい!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
怒涛のような時間だった。
焦る大人たち。悲鳴をあげる仲間。呆然とする保護者。
地獄があるとしたら、こんなところだろうな。なんて場違いなことを考えるくらいには正気を失っていた。
少し昔の、たった5分にも満たない記憶が呼び起こされる。
思い出すだけで、身体中のものが飛び出しそうになる感覚。
思い出したところで、何も変わるはずないのに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ほんとに残念だったわね、でもあれはどうしようもなかったことなのよ。」
「試合中の事故だからしょうがないよ。」
「もっとあなたが注意していれば、こんな結果にはならなかったはずよ。」
「お前が恵汰を殺したんだろ、この人殺し。」
「お前、試合中に親友殺したんだってな。そんな奴がどうして生きてんだよ。この人殺し。」
「近づかないで、あなたが近くにいると息が詰まるのよ。この人ゴロシ。」
人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人ゴロシ、ヒトゴロシ、ヒトゴロシ、ヒトゴロ-----------------------------
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「合計で712円になりま...ってお兄さん大丈夫ですか?顔色すごく悪いですよ。」
「.....あぁ。はい。別に。いくらでしたっけ。」
コンビニ店員の声で再び現実に戻される。
よほどひどい顔をしていたんだろう。店員はレジを打ちながらチラチラとこちらの様子を伺っている。
頭の中に張り付いているソレから意識を剥がしつつ、なんとか支払いを終える。
忘れたいはずなのに、気がついたらソレの中にいる。
消したいはずなのに、日に日に自分の中で大きくなっている。
いや、実際それを一番望んでいるのは自分かもしれない。
あれは、それくらいのことだったのだから。
ピロリロピロリロピロリロ♪
「ありがとうございました〜」
嫌なくらい元気のいい挨拶と電子音。
店を出ると4月とは思えない熱気が身体中を這いめぐる。
それに少し顔を顰めつつも、別のものに意識が持っていかれる。
夜中の閑静な住宅街には、少しばかり違和感を感じるものだ。
その正体はすぐにわかった。
いかにも「不良やってます」といった奇抜な服装をした3人の男たちが少女一人を囲んでいるようだ。
その光景だけ見ると、その少女も徒党の一員の可能性がある。
しかし、その少女は制服を着ていて、遠目で見てもわかるくらい面倒臭そうな顔をしている。
そう、男どもと揉めているようだった。
「で、何か私に用ですか。」
「お前、俺らを睨んでたよな。」
「ガキの分際で生意気なんだよ。」
「少し口の聞き方考えようか嬢ちゃん。」
「はぁ、不快な気持ちにさせたなら謝ります、すみませんでした。」
少女は大の男3人に対して怯むことなく言葉を交わしている。
直感的に、これは嫌な方向に事が進みそうだと思った。
「謝り方ってもんがあるだろおい。」
「謝り方?なぜ赤の他人にそこまでする必要があるのですか。」
「嬢ちゃん、社会にはルールってもんがあるんだ。目上の人に対しての礼儀ってやつが。」
「ガキが大人なめてると、どうなるか知りてえみたいだな」
「よくわかりませんが、早く通してください。警察呼びますよ。」
男たちは少女との口論でヒートアップしていっている。
少女は故意に男たちを侮蔑しているわけではないようで、それがさらに男たちの苛立ちを買っているようだった。
そろそろ警察を呼ぼうかと、無気力に携帯を取り出したその時だった。
「呼べるもんなら呼んでみろや!」
男のうちの一人が怒声と共に少女の手を掴んだ。
と、同時にその男は地面に仰向けの状態で叩きつけられる。
男たちは何が起こったのか理解できていないようだった。
「痛いですね。私に触れないでください。」
「何しやがった!」
「正当防衛ですが。何か文句あるんですか。」
「嬢ちゃん、体に覚えさせてやるよ!」
目まぐるしく回る展開についていけずに、ただ傍観することしかできなかった。
ふと気がついた頃には3人の男が地面にありありと転がっていた。
右手を見て、携帯を取り出した意味を忘れるくらいに魅入ってしまっていた。
それくらい一瞬の出来事だった。
「あなたもこの方達の仲間ですか。」
鈴のような声が唐突に頭の中に響く。
「え。あ、いや。」
「そうですか。ならいいんです。失礼しました。」
「このことは他言しないでくれると助かります。では。」
少女はそれだけ残して暗い住宅外に姿を消していった。
先刻の出来事が嘘と思えるほど、艶やかな亜麻色の髪を風になびかせながら。
1ヶ月毎日更新頑張ります。