町のネズミと田舎のネズミ(もうひとつの昔話 47)
田舎に住んでいるネズミが、町に住む仲の良いねずみにごちそうをふるまおうと田舎に招待しました。
二匹はさっそく畑に行きました。
そこには麦やトウモロコシ、そして大根などがありました。
町のネズミが大根をかじりながら言います。
「毎日、こんなものを食べてるのかい?」
「そうだよ」
「ボクの住んでいる町に来ないか? 町にはおいしい食べ物がたくさんあるんだ」
「ボクも町に行ってみたいと思っていたんだ」
田舎のネズミは喜んで、町のネズミについて行くことにしました。
二匹は町へと向かいました。
町に着くと町のネズミは、自分が住んでいる家に田舎のネズミを招き入れました。
キッチンのテーブルの上には、パンやチーズや肉といった食べ物が並んでいます。
「さあ、食べてくれ」
「では、ありがたくいただくよ」
田舎のネズミがチーズを手に取って口に入れようとしたときでした。
ドアが開いてネコの鳴く声がしました。
「逃げろ!」
町のネズミが叫びます。
二匹は大急ぎで、部屋の隅にあった狭い穴に逃げ込みました。
二匹は穴の中でじっと身を潜めていました。
しばらくすると、ネコはキッチンから立ち去っていきました。
田舎のネズミはまだ胸がドキドキしています。
「心臓が破裂するかと思ったよ」
「ここではね、今のようなことは毎度なのさ。きみの住む退屈な田舎とちがって、町の生活はとても刺激的なんだよ」
「捕まりやしないかい?」
「ぼんやりしてたらな。だからボクは、いつもまわりに目を配って気をつけてるんだ。でもその分、毎日がとても充実しているよ」
町のネズミはうれしそうに言いました。
二匹は穴から出ると、食べ物のあるテーブルのもとへと行きました。
そのときです。
再び音がしてドアが開きました。
今度は人間でした。
二匹はすぐさま穴の中にもどりました。
「ここには珍しい食べ物がたくさんあるようだが、それ以上に危険がいっぱいだ」
田舎のネズミは帰り支度を始めました。
「もう帰るのかい?」
「町は怖くて、とても住めそうにない。やはりボクには、田舎の生活が性分に合っているようだ」
「そいつは残念だな」
「ご招待、ありがとうございました」
田舎のネズミはお礼を言い、それからすぐに自分が住んでいた田舎に帰っていきました。
田舎に帰った田舎のネズミ。
今日も畑でのんびりと大根をかじっています。
――町のネズミさん。よくも毎日、あんな危ない生活が続けられるものだなあ。
町でのことを思い出すと、いつも心臓がドキドキしてくるのでした。
一年後。
田舎のネズミは変わらず、ぼんやりと退屈な日々を送っていました。町に行ったことも、町のネズミのことも、今では思い出すことはありません。
のんびりしすぎて、このとき頭がすっかりボケていたのです。




