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第24話 着ぐるみ士、ねぎらわれる

 俺の従魔になったアンブローズを連れて、俺達は揃ってオルニの町までやってきた。理由はもちろん、今回の依頼の達成報告の為。

 報告自体はピスコの村の出張所でも可能だが、報酬の受け取りだの報告後の処理だのは、支部の建物でやる必要がある。結局は、ここに来ないとならないのだ。


「はい、確かに(うけたまわ)りました。これで本依頼は完了となります。皆さん、お疲れ様でした」


 依頼受付カウンターで、ルドヴィカが達成報告書と報酬明細にサインをする。これで正式に依頼は達成だ。ヤコビニ王国内の冒険者ギルドだけではなく、周辺国のギルドにも、依頼達成が通達される。

 依頼に参加した冒険者、総勢十八名も、ようやく肩の力を抜いた。


「よーし終わった終わった」

「これで今夜は美味い酒が飲めるぜ」

「あれ、ロージーとバンビーナは?」

「ジャコモさんモフってくるってさ、あとルイザも行った」


 冒険者の行動は様々だ。早速酒場に向かうもの、武器や防具の手入れをするべく市場に向かうもの、従魔をねぎらうべくギルド外の厩舎(きゅうしゃ)に向かうもの。

 まぁ、ジャコモと結んだ仮契約は既に解消したので、彼はもう俺の従魔でも何でもないのだが、彼は別にモフられて嫌な顔をしないだろう。アンブロースは絶対、俺以外にはモフらせてはくれないだろうし。

 各種手続きと事務処理を済ませたルドヴィカが、酒場のテーブルを挟んでにっこり微笑みながら俺とリーアに頭を下げた。


「皆、お疲れさまだ。『双子の狼(ルーポジェメリ)』も、急な協力要請に応じてくれて、感謝する」

「ううん、いいの。ルドヴィカさんこそありがとう」


 礼を尽くす彼女に、リーアが笑みを向けつつ言った。それに合わせて、俺も頭を下げる。

 そんな俺の肩を抱くようにして、モレノがエールのジョッキ片手に俺へと声をかけてきた。


「ほんと、ジュリオさんとリーアちゃんが来てくれて、今回は幸運だったよな」

「全くだ。おかげで随分楽をさせてもらったもんだ」


 彼の言葉に同調しながら、ジョズエも俺の肩を叩く。

 突然水を向けられて、俺の口から思わず声が出た。


「そ、そんなことは」

「ジュリオ君」

「ジュリオ、しーっ」


 しかし、何を言うよりも早くルドヴィカとリーアがそれを制してくる。

 そうだった、俺は今は話しちゃいけない(・・・・・・・・)んだった。


「んっ」

「話したいことがあったら、こっそりね。あたしが話すから」


 フェンリルの着ぐるみの口元を両手で押さえる俺に、リーアが笑いながら言う。

 そう、俺はまだ獣人(ファーヒューマン)の姿から戻れていないし、人間語を話せるようになっていないのだ。

 魔狼転身の効果は切れて、ステータス的には普段のそれに戻っているのだが、俺はまだ種族として魔狼(ウルフ)。なのでモンスターの姿を露わにしないよう、常に着ぐるみを着用した状態なのだ。

 話したいけど話せなくてもどかしい俺に、ジョズエが改めてにかっと笑う。


「しかし、こう楽をさせてもらえると、うちのパーティーに二人を引き入れたくなるよな」

「ほんとほんと。どうだい二人とも、『荒ぶる獅子(ルヴィードレオネ)』の一員になる気は」


 それに同調するようにモレノも声をかけてきた。突然のスカウトにリーアが目を見開く。

 有能な冒険者を自分のパーティーに引き入れる動きは、別に珍しいものでもない。俺も「白き天剣(ビアンカスパーダ)」在籍時に、何度か声をかけられた。

 勇者パーティーからの誘い、普通なら舞い上がって飛びつく話だろう。しかし俺も、リーアも、ルドヴィカさえも首を横に振った。


「えーっと、魅力的なお誘いだと思うけれど、それだとまた、ジュリオが勇者より目立っちゃうことになるでしょ? それはよくないと思うの」

「同感だ。勇者のパーティーである以上、手綱は私が握らねばならない」


 尻尾を揺らしながらリーアが言えば、ルドヴィカもコクリとうなずいて話す。

 そう、今の俺が「荒ぶる獅子(ルヴィードレオネ)」に加わったら、確実に勇者ルドヴィカよりも力を持ってしまうのだ。

 ナタリアは「自分より目立って人気を取られるから」と不当に俺を解雇(かいこ)したが、勇者パーティーで勇者を凌ぐほどの権力を行使できる者がいるのは、現実問題よろしくない。

 ルドヴィカは俺が目立つことには何も言わないだろうが、勇者のメンツというものは守らねばならないのだ。


「それに、ジュリオ君とリーア君という強大すぎる戦力を、私個人の好きにしてしまうのは気が引ける。加えて、二人の積みうる実績を奪ってしまうことになるしな」

「ああ、なるほど」


 さらに重ねて話されたルドヴィカの言葉に、ジョズエもモレノも納得したようにうなずいた。

 俺の肩を叩き、リーアの頭を撫でながら、苦笑混じりに彼らは話す。


「俺たちみたいな普通の冒険者は、勇者パーティーに所属することで実力を持っていることの証に出来るし、実力相応の経験を積んでいることを示せるけれど、ジュリオは別に勇者に同行しなくてもすごい経験が出来るもんな」

「そうだよな、ジュリオなら『雷獣王』のテイム以上のことを、気軽に出来るだろうし」


 そんなことを言いながら、物理的に俺をいじってくる二人だ。さらにはフランコも話の輪に加わって、俺を方方(ほうぼう)からこづいてくる。

 勇者パーティーは国家から認められた冒険者パーティー、一般の冒険者よりも多彩な活躍が出来るし、高い難易度の依頼に関われる。相手に出来る魔物の種類も、一般の冒険者より多い。

 俺自身、「白き天剣(ビアンカスパーダ)」に長く在籍を続けた理由は、多くの魔物に関われるからだった。

 着ぐるみ士(キグルミスト)は魔物から力を取り出して着ぐるみを作る。いろんな魔物に触れられる勇者パーティーに在籍することは益も多かったのだ。その分、ナタリアのわがままに振り回されたけれど。

 しかし、今は違う。勇者と同行するよりも強力な、はたまたとんでもない魔物と、縁を結ぶことも不可能ではないのだ。現に、『西の魔狼王』ルングマールと関わり、『雷獣王』アンブロースを従魔にしたし。


「いやいや、そんなことは……あるかもしれないけど……」

「これからもすごい経験を積んでいければ嬉しい、だって」


 魔獣語で小さく呟きながら両手を合わせる俺。その言葉を翻訳したリーアも笑う。

 それを聞いて、フランコとジョズエがからからと笑った。


「ははは、まあ、『白き天剣(ビアンカスパーダ)』にいた頃よりは、ずっといい顔をしてるよ、ジュリオ」

「イバンと一緒になってナタリアを率先してなだめてたからな。結構げっそりした顔してたぞ、あの時のお前」


 そう言葉をかけられて、ますます恐縮する俺だ。かつての仲間にそんなことを言われたら、何も言えない。

 とはいえ実際、ナタリアのわがまま三昧な振る舞いに胃痛がしていたのは確かだ。ヤコビニ王国で冒険する間も、何度彼女をなだめすかしたかしれない。本当に酷い顔をしていたんだろう。

 俺の背中をぱしぱし叩きながら、モレノが口を開く。


「他のメンツも大変だろうけれど、案外『勇者パーティーに所属していた経歴』を得るだけが目的だったりしてな!」

「言えてる。あとは『各国の王族や貴族とお知り合いになる経験目当て』とかな! 勇者パーティーに所属していれば謁見の機会も多いし」


 彼の軽口にジョズエも笑いながら返した。

 ハイレベルな仕事を要求される勇者パーティーに、そんな打算的な感情で参加するというのもあれだが、「白き天剣(ビアンカスパーダ)」に関して言えば有り得るのが普通に怖い。

 イバンも、レティシアも、ベニアミンも、どんな感情でナタリアと行動を共にしているかは分からないが、その心中は案外ドライなものかもしれない。

 三人の会話に苦笑をこぼすルドヴィカが、ふっとため息をついた。


「しかし、ナタリア君が頻繁に解雇(かいこ)雇用(こよう)を繰り返すことで、『勇者パーティーに在籍した経験のある冒険者』が量産されているのは皮肉だな。冒険者にとっては、出世の一番の近道だというのに」


 彼女の発言に、俺は思わず吹き出した。他の三人も笑いが込み上げているようで。冒険者の出世について知識のないリーアが首を傾げる中、俺達を笑い声が取り巻いた。


「はっはっは、確かにそうだ」

「『紫紺の百合(ビオラギグリオ)』のクレリアなんて、今じゃブラマーニ王国を代表する治癒士(ヒーラー)だもんな、『白き天剣(ビアンカスパーダ)』から解雇されてすぐ移籍して、才能が開花したし」


 そう、ナタリアのわがままはこの世界に「勇者パーティーに在籍したことのある冒険者」をたくさん生んでいる。

 フランコとジョズエもその経歴があるから、「荒ぶる獅子(ルヴィードレオネ)」で華々しく活躍できているし、「紫紺の百合(ビオラギグリオ)」リーダーのクレリア・ベロッティもその肩書きを持ったからこそ治癒士(ヒーラー)として高みに登れた。

 俺に関してはもう何を言うまでもない。今や「ブラマーニ王国一の着ぐるみ士(キグルミスト)」どころか「世界一の着ぐるみ士(キグルミスト)」だ。


「ジュリオも解雇直後にフェンリルになれたわけだし、ナタリアが解雇した冒険者は大成する、なんて傾向もあるのかね?」

「ははは……」

「あったら本当に面白いねー!」


 フランコがまたも軽口を叩くのに、乾いた笑いを返す俺。

 そんな定説が流布(るふ)したら、ますます「白き天剣(ビアンカスパーダ)」の勇者パーティーとしての立場が無くなりそうだ。

 かつての仲間に少し申し訳ない気持ちになりながらも、冒険者たちと交流を深める俺だった。

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