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741 遂に切って落とされた戦いの幕

 さらに、画面を切り替えて、誕生日パーティーの様子を映し出す。

 それから場面を変えて、フィーナ姫に近づいてくる、見下す目をした馬鹿王子だ。


『小国らしい、こぢんまりとした、みすぼらしいパーティーだな』

『全くですな。所詮は「力」なき小国。我が国とは比べるべくもないでしょう』


 その馬鹿王子の後ろには馬鹿大使が続き、まさに、最初から喧嘩を売るのが目的と言わんばかりの態度が両軍に周知される。

 さらに、馬鹿王子がフィーナ姫の前まで歩いてくると、挨拶もなしに開口一番。


『これまでのマイゼル王国風とは随分と(おもむき)が変わったドレスだな。道化の真似か?』


 あからさまな侮蔑だ。


 この様子を知るのは、パーティーに参加した貴族だけ。

 だからこのあまりの態度に、初めて事態を知ったマイゼル王国軍のほとんどの騎士と兵士達から、怒りのどよめきが上がる。


 対して、レガス王国軍からはさらに大きく動揺するどよめきが上がった。


『名乗りも挨拶もなしに、先ほどから非礼が過ぎるのではありませんか?』

『オレは正直者だからな。心にもない社交辞令やおべっかなどは言わん』

『だからと言って、何を言っても許される道理はないのでは?』

『このオレを誰だと思っている? オレに許されなければ、誰に許されるはずもない』

『どう考えようとそれは自由ですが、最低限の礼節というものがあるでしょう』

『そのような弱者が強者の顔色を窺う真似を、このオレがする必要があるとでも? 思い上がるなよ。王太女だろうと所詮は小国。大国たる我がレガス王国では、その程度の権勢など公爵にも劣る。このオレと対等などと、ゆめゆめ思わんことだ』


 一連の流れを途切れずに見せたわけだが、どちらが礼儀知らずに相手を侮辱しているのか、語るまでもないだろう。


「『祝いの席であろうことか侮辱し、多数の他国要人の前で恥を掻かせ、愚弄した』だったか? どっちが、なんだって? しかも、『我らは、思い上がり礼節を忘れた貴国を征伐』? どっちが思い上がって礼節を忘れた国だ? どっちが征伐されるべき国だ?」


 レガス王国軍の兵達の動揺が激しくなってるな。

 馬鹿王子や王家へだけじゃない、軍部へまで不信感が広まってきてるから、それも遠慮なく増幅させていく。


「しかも、貴様らの馬鹿王子のやらかしはこの程度じゃないぞ」


 さらに場面を変える。


『皆様ご承知の通り、我がメイワード伯爵領では先日ガラス産業を興し――』


 映し出したのは、俺がフィーナ姫にプレゼントを贈る場面だ。


 これには、精霊魔道具でクリスタルガラス製シャンデリアの美しさ、そしてリモコン一つで点灯消灯する様子に、両軍からどよめきが上がる。

 そして、遂に肝心の場面だ。


『くっ、あははははははっ! 素晴らしい! 実に素晴らしいな!』


 そう、馬鹿王子の登場だ。


『この精霊魔道具なるシャンデリア、気に入ったぞ!』


 周囲を見下す馬鹿王子と、眉をひそめてる周囲、つまりマイゼル王国貴族と他国の要人達の様子も映し出す。


『レガス王国の王太子殿下のお目に留まるとは光栄です。式次第もありますのであまり時間は取れませんが、近くでじっくりとご覧になりますか?』

『このオレが見るだけだと? 貴様、このオレを舐めているのか?』

『……(おっしゃ)る意味が分かりかねますが』

『鈍い奴め! 殿下はそのシャンデリアをご所望だ! さっさと献上せんか!』

『これほどの品は、大国レガス王国の王太子たるこのオレにこそ相応しい。だからこのオレが貰ってやろうと言うのだ。貴様はその名誉に預かれることに感謝し、喜んで差し出すべきだろう? むしろ、何故真っ先にこのオレに献上しに来なかった。不敬に過ぎる』

『レディアス殿下、もうその辺にしておきたまえ。君の振る舞いは褒められたものではない。これほどの重鎮達の前で、レガス王国の立場がどれだけ悪くなるか、よく考えた方がいい』


 さらに、ナーダー陛下が登場してたしなめたところで止める。


「見たか! 貴様らが尊崇すると言う馬鹿王子の、この礼儀も良識もない振る舞いを! この私が、愛するフィーナシャイア殿下のためにと苦労して用意したこの世界で唯一無二の誕生日のプレゼントを、恥知らずにも横からしゃしゃり出て寄越せと、しかもあろうことかフィーナシャイア殿下とこの私の目の前で奪い取ろうとする! これが一国の王族としての振る舞いか!? 貴様らはこんな無礼な馬鹿王子を尊敬すると言うのか!?」


 レガス王国軍には、国を滅ぼされ従わされ、理不尽に奪われ、虐げられてきた者達も多く兵として駆り出されてる。

 しかも消耗品の肉壁のように、前列に配置されてるわけだ。


 この映像は、当時の、そしてこれまでの屈辱を甦らせるのに十分だったんだろう。

 そんな兵達の、レガス王国への怒りや憎しみが膨れ上がっている。


 当然、それを増幅するのに遠慮はない。


 さらに、中央のウォータースクリーンで、今度は宣戦布告の使者としてやってきたビルレグトン伯爵を映し出す。


『降伏するならば今の内ですぞ。精霊魔道具、クリスタルガラスの製法、作物を栽培する魔法を差し出せば、レガス王国の民として生きながらえることを許してやっても良いと慈悲をかけてやっているのです。ああ、王族たる王太女殿下の戦後の扱いですが、この私に格別な配慮(・・・・・)を戴ければ、悪いようにはしないよう、この私が王太子殿下に口利きをしても良いですがな』


 謁見の場で、ビルレグトン伯爵が下卑た顔で、フィーナ姫をねっとり嫌らしい目で舐め回すシーンだ。

 そして、この下卑た顔で止める。


 俺に向けて優しく微笑んでくれたフィーナ姫。

 見下し底意地悪そうな笑みの馬鹿王子。

 欲望丸出しの下卑た顔のビルレグトン伯爵。


「貴様らに、貴様らを指揮する司令部はなんと説明していた!? どうせマイゼル王国が無礼だの、自分達が正義だの、適当な嘘を吹き込んでいたのだろう!? こいつらの顔をよく見ろ! 貴様らは、礼儀知らずで恥知らずな王族と貴族の欲望を満たすために、踊らされ、騙され、ここ、遠く離れたマイゼル王国まで引っ張り出され、殺し合いをさせられるんだ! こんな馬鹿げた理由で死んで愛する家族や恋人に会えなくなっていいのか!? 家族や恋人に、ましてや自分の子供達に、こんなふざけた戦争に参加して活躍したんだと、胸を張って語れるのか!?」


 レガス王国軍の動揺はもはや最高潮だ。


『これじゃあ俺達の方が悪役じゃないか!』

『王子も貴族も軍も、俺達を騙したのか!?』

『こんな理由で殺し合いさせられるなんて冗談じゃない!』

『あんな奴らのために死ぬなんて嫌だ!』


 そんな感情が、遂に爆発するように広まっていく。


 だから、さらにキリに大きく増幅させて、士気がガタガタになるまで下げてやる。


 そしてこれらを見て影響を受けてるのは、何もレガス王国軍だけじゃない。

 マイゼル王国軍からは怒声が上がっていた。


 その怒りを、そして美しく優しい自分達の王女様を守りたいと言う気持ちを、キリに大きく増幅させ、気持ちを一つにまとめ上げていく。


 舞台は整ったとばかりに、合図として大きく手を振り上げ、鋭く振り下ろし、レガス王国軍をビシッと指さした。


「分かったか! 貴様らに正義などない!」

「「「「「正義などない!!!」」」」」


 俺の台詞に合わせ、打ち合せ通り、マイゼル王国軍の兵達が叫んでドンと足を踏み鳴らす。

 怒りが一体感を生み出した上でのそれは、まるで地響きのように響き、地面を揺らした。


 それはレガス王国軍にまで届き、動揺が一層大きくなる。


「恥知らずな貴様らを、俺達は許さない!」

「「「「「俺達は許さない!!!」」」」」


「生きて祖国の土を踏めると思うな!」

「「「「「生きて祖国の土を踏めると思うな!!!」」」」」


 気圧され、逃げ腰になったレガス王国軍の兵達の、死にたくない、逃げたいと言う気持ちを、これでもかってくらい増幅させていく。


 そして、ユニに跨がったまま、俺は空へと高く浮かび上がった。


「私は、騙され、こんな遠い他国まで連れて来られた者達まで憎みはしない。だから脇目も振らず自国にまで逃げ帰ると言うのなら、この場は見逃してやろう。しかしこの場に留まり、立ち塞がると言うのであれば、それは、騙されていたと知ってなお、我らに敵対すると言うこと。その時は容赦はしない!」


 さらに、残りの七体を演出付きで召喚し、その気配を全力で解放する。


 途端にレガス王国軍から恐怖の悲鳴が上がった。


 それを合図に、マイゼル王国軍から銅鑼が大きく鳴らされる。

 開戦を告げる合図だ。


 口上を述べに来たデズモンドとか言う騎士が、もはや愕然を通り過ぎて茫然自失となってたところ、銅鑼の音で我に返って、慌てて自軍へと馬を走らせ引き返していく。


 恐らく、司令部も動揺してるんだろう。

 レガス王国軍からは、開戦し、命令を告げる銅鑼が未だに鳴らない。


 こちらが開戦を告げた以上、相手が気持ちを建て直して態勢が整うのを待ってやる義理はない。

 唯一、礼儀として、口上を述べたデズモンドが自軍に辿り着くのだけを待って、再び銅鑼が鳴らされ、号令が下された。


「精鋭精霊魔術師部隊、全部隊構え! 撃て!」


 まだ百メートル近く離れた、弓でしか届かないはずのその距離を無視して、マイゼル王国軍の最前列より、レガス王国軍の最前列へ向けて攻撃魔法が放たれ、そして爆炎を撒き散らした。



 いつも読んで頂き、また評価、感想、いいねを頂きありがとうございます。

 時間が十分に取れず、感想の返信が出来ず申し訳ありませんが、ちゃんと全て読んでいますので、引き続きよろしくお願いいたします。


 今回で第二十四章終了です。

 次回から第二十五章を投稿していきます。


 いよいよ戦闘開始、と言うところでおしまいで申し訳ありません。

 当初予定では、三分の二くらいで本陣の戦闘まで決着を付けて、残り三分の一でヒロイン達や領地の様子をと思っていたのですが。

 序盤から中盤まで五回くらい書き直しているうちに、敵味方や各地の様子を描く分量がどんどん増えていき……と言う、いつものパターンです。

 しかも、終わってみれば、ヒロイン達が全然出てきていなくて自分でもビックリな状況に……。


 人間同士で戦争をしているっぽさを出そうとすると、どうしても、軍の動きの描写が増えてしまって。

 一応これでも、新キャラの登場は最低限にして、かなり巻きで展開させたんです。

 とことん短くするなら、エメルがドカンとやってレガス王国敗北と、一行で済んじゃいますけどね。

 しかも、敵司令官ガイウスは本来なら優秀な智将のはずが、エメルが常識の埒外の上、動いたら全部ひっくり返してしまうから、どこか道化っぽさがあってちょっと可哀想な感じに……。

 次は本隊同士の戦いと、入らなかったヒロイン達や領地の様子になる予定です。



 最後数話が、別作品『悪役令嬢は大航海時代をご所望です』と同時投稿となりました。

 そして現在、投稿中の『悪役令嬢は大航海時代をご所望です』の後半の執筆と、第一巻の書籍化作業を平行して行っています。


 これまで通りの交互の投稿ですと、『見境なし精霊王~』の次章の投稿は二カ月後くらいになるのですが、上記の書籍化作業もあり、すぐさま続きの執筆に着手出来ず、具体的にいつと明言するのが難しい状況です。

 三カ月後か、四カ月後か……。

 体調を崩して半年近く投稿が止まってしまっていたのに、また期間が大きく空いてしまうのは非常に心苦しいですが、書籍化作業は出版社よりお仕事として請っている優先順位が一番高い作業ですので、その辺りの事情について、ご理解とご了承のほど、よろしくお願いいたします。

 続きは必ず、なるべく早く執筆しますので。


 励みになりますので、よろしければブックマーク、評価、感想、いいねなど、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 追いつきました! いやあ〜ガツンとぶちかますエメルの開幕の一撃が心地良いです!! やったれー!!
[良い点] キタキタキタァーーー これを、この展開を、俺たちは待っていたんだぁーーー ・:*+.\(( °ω° ))/.:+ 本当、結構待っていたのですよ…(泣) [一言] 次の話以降のクレイジーな…
[良い点] あああっ!? いいところで、また来週⁈ でも待ちますけどね! 心拍数が上がる展開、燃えるわぁ。 続きも楽しみにしています♪
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