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739 両軍本隊布陣

 ランテス砦方面、ディーター侯爵領領都方面と、二箇所で戦端が開かれたその翌日早朝。

 マイゼル王国軍が決戦場として選んだ平原で、遂に両軍の本隊が相見えた。


 まずマイゼル王国軍が迅速に布陣を開始。


 マイゼル王国軍は大きく分けて中央、左翼、右翼と三つの部隊と、後方に予備兵力を配置。


 中央に王国軍六千、王室派領軍四千、合わせて一万。

 左翼に中立派領軍三千、反王室領軍五千、合わせて八千。

 右翼にグルンバルドン公爵派領軍八千。

 後方の予備兵力に王室派領軍二千、中立派領軍三千、グルンバルドン公爵派領軍七千、合わせて一万二千。


 うちのメイワード伯爵派領軍七百は中央右翼側に、メイワード伯爵領軍百二十は遊撃部隊として予備兵力のさらに後方に配置されている。

 遊撃部隊としてその位置なのは、虎の子として、敵に姿を見られないようにって配慮からだ。


 中央、左翼、右翼とも、互いに近い距離で布陣して、盾を構えた重装歩兵を前面に配置しての密集形態で、がっつりと防御を固めた。


 レガス王国軍はそうして防御陣形を構築中のマイゼル王国軍に対して、野営地からかなり前進して、距離を詰めてから布陣を開始する。


 両軍の距離は、ほんの百メートル程。

 互いの顔が見えて、すぐにでも矛を交えられる距離だ。

 前面には軽装の歩兵や騎兵、獣人やハーフリングの部隊が配置されていて、その辺りの部隊はすぐに突撃してきそうな雰囲気がある。


 レガス王国軍もこちらの陣形を受けて、大きく中央、左翼、右翼と三つの部隊に分かれて、後方に予備兵力を配置する。


 中央にレガス王国軍一万二千。

 左翼にレガス王国軍一万。

 右翼にレガス王国軍一万。

 後方の予備兵力に、レガス王国軍八千。


 軍旗はレガス王国軍一色で、まだ貴族家の領軍は合流してない。


 中央、左翼、右翼共にこっちより兵数を多く配置してるのは、狙いが見え見えだ。

 よほど攻撃力に自信ありってことだろう。


 まあ確かに、質も数も上回ってるんだから、普通そうするよな。


 でも残念。

 マイゼル王国軍には俺がいるんだ。


 レガス王国軍の布陣がある程度出来上がってきたところで、マイゼル王国軍の後方の司令部がある天幕付近から、大きな銅鑼が鳴らされた。


 左翼、右翼の部隊が、それぞれ回れ左、回れ右をして、中央の部隊から距離を取っていく。

 さらに、中央も含めて、密集してたのが前後左右に距離を取って広がり、前面に配置された盾を構えた重装歩兵を下げ、軽装の歩兵を前面へ、さらに騎兵を両翼へと手早く移動させる。

 つまり、マイゼル王国軍も攻勢を仕掛ける陣形へといきなり形を変えたわけだ。


 最初、銅鑼が鳴らされたことでレガス王国軍に緊張と動揺が走って、布陣していく動きが乱れたけど、すでにある程度布陣が終わってからのこっちの動きだったから、今更それに対応して陣形を変えるのは混乱すると思ったのか、そのまま布陣を終わらせた。


「さて、あっちも準備が終わったことだし、行って来ますね」

「ああ、エメル殿、頼んだ」

「任せて下さい。ガツンとやってやりますよ」


 ニヤリと笑う将軍と司令部の武官達に、同じようにニヤリと笑みを返す。


 それから姿を現したユニへと跨がって、口上を述べるため、戦場の中央へと(ユニ)を進めた。



◆◆◆



「マイゼル王国軍は一体何を考えている……?」


 突然陣形を変えてきたマイゼル王国軍の動向に、後方の司令部の天幕の中で、ガイウスは戸惑い訝しんでいた。


 それがマイゼル王国軍の策であることは理解出来る。

 しかし意図が読めなかった。


 マイゼル王国軍が密集した防御陣形で守りを固める。

 これは現状を考えれば当然の布陣だ。


 偵察部隊の報告により、ランテス砦方面、ディーター侯爵領領都方面へ出した援軍の数も、結局本隊へ戻さなかったその動きも把握している。

 最悪の選択をしなかったことは残念だが、敵本隊に限れば、援軍が戻らないのだから攻略は容易になったと言っていい。


 だからこそ、防御を固めて、すでに戦端が開かれたランテス砦方面、ディーター侯爵領領都方面で自軍が勝利し、取って返してくるまで耐え忍ぶ。

 それを狙って……いや、それしか取れる手立てはないのだ。


 ところが、突然陣形を変えてきた。


 マイゼル王国軍が銅鑼を鳴らした時は、卑劣にも互いに口上を述べる前の、まだ布陣が終わっていないこちらの隙を突いて不意打ちしてくるのかと身構えたが。

 しかし、不意打ちこそなかったが、防御を捨てて攻勢に出るための陣形の変更は、その意図が全く読めないのだ。


「玉砕覚悟の捨て身の攻撃……ってわけでもなさそうですなぁ」


 デズモンドもまた訝しげに首を捻る。


「遠目で見る雰囲気からしても、自暴自棄や玉砕覚悟のような悲壮感や切羽詰まったものは感じられんな」

「正面切って殴り合って、勝てると思い上がっているんですかね」

「そこまで愚かとも思えんが……」


 かつて戦った敵部隊の中には、自暴自棄な突撃を仕掛けてきた者達もいた。

 当然、ガイウスがそうなるよう追い詰めて仕向けたわけだが。


 経験から来る戦場の空気のようなもので、それとは違うと勘が告げている。

 同時に、嫌な予感が湧き上がってきていた。


 そして、はっと気付く。


「シャドウストーカーどもを司令部の周辺に集めて警戒を厳重にさせろ」

「なるほど、そういうことですかい」

「予期せぬ攻撃にこちらが混乱したところで、団長を暗殺すると」

「起死回生の一手としては悪くない、が」

「当然、させませんよ」


 デズモンド以外の部下達も、警戒して気を引き締める。


「狙いは私だけではないだろう。お前達も十分に気を付けろ」

「もちろんでさぁ」


 司令部が警戒を厳にしたところで、天幕の外から伝令兵が入ってきて、布陣が完全に終わったことを報告する。


「そんじゃまあ、ちょいと行ってきます」

「マイゼル王国軍の弱兵どもに、己の愚かさを教えてやってこい」

「了解です、団長殿」


 デズモンドは軽口を叩いて天幕を出た。

 従卒が準備していた馬に乗り、戦場の中央へと馬を進めていく。


 デズモンドが口上を述べる役に選ばれたのは、前線司令官であるガイウスの右腕である第三騎士団副団長と言う体裁を保ちながら、身分が平民であるため、マイゼル王国軍を下に見て(あなど)っていると、そう示すためである。

 かなり遠縁ではあるが、一応貴族の血は流れているので、マイゼル王国軍から抗議されても、それを理由に抗弁す(おちょく)るためでもあった。


「ん……なんだ?」


 布陣している部隊の間を抜けていき、前面に配置されている部隊が近づいてくると、何やら前面の部隊から小さなどよめきが聞こえて動揺が伝わってきた。

 しかし、すぐにその理由が判明する。


 整列する兵達の視線を辿ると、先に中央へ到着していたマイゼル王国軍の口上を述べる使者がいたのだ。


「なっ……!?」


 その姿を見て、デズモンドも激しく動揺する。


 騎乗しているのは、まだ年若い青年で、貴族の正装をしており、武器も鎧も全く身に着けていなかった。

 しかし、それが原因ではない。

 驚愕したのは、その青年貴族が乗っている、馬具を全く付けていない騎馬の姿にこそあった。


 その肌も、たてがみも、蹄も、果ては瞳まで、全てが銀色に輝いていた。

 さらに、額には螺旋のようにねじれた一本の角まである。

 その体躯は、背に乗せた青年貴族と対比しても大きく、馬を進め近づいて行くにつれて、普通の馬よりも、そして体躯の良い大型のレガス王国軍の騎馬よりも、一回り以上の大きさを誇っていることが見て取れた。


「こいつはユニコーン……!? ユニコーンを騎馬にするなどそんな馬鹿な!? いや、待て……本当にユニコーンなのか……!?」


 そのユニコーンからは生きている馬の気配を全く感じなかった。


「いやそれどころか、まるでそこに存在しないかのように、気配を全く感じないぞ……!?」


 混乱し、狼狽え、不意に脳裏に一つの情報が浮かぶ。


 メイワード伯爵エメル・ゼイガーの契約精霊は八体。

 うち二体が、基本の六属性ではなく、未知の生命、精神属性の精霊である。

 そして生命属性の精霊は銀色で、馬よりも大きなユニコーンの姿をしている。


「……まさか!?」


 それらの情報に、はっとなって視線を上げ、騎乗している青年貴族へと目を向ける。


 馬を進め近づいたことで、その青年貴族の姿をよりハッキリと見ることが出来た。


 装飾はシンプルながら、伯爵の正装をしている。

 夜会や式典ではなく戦場へ出るのだから、過度な装飾が必要ないのは理解出来るが、武器も鎧も身に着けていない丸腰なのが、戦場故に場違いで異様にしか見えない。

 さらに、装飾はシンプルでありながら、左胸にだけは、ジャラジャラと重たそうなくらいに、いくつもの勲章が誇示されていた。


 まだ成人して間もない頃の、とても身体を鍛えているようには見えない風体をした、藍色がかった黒髪と紺色の瞳を持つ青年貴族。


「メイワード伯爵エメル・ゼイガー……!?」


 デズモンドが思わず漏らした呟きを耳聡く聞きつけたように、その青年貴族、エメルは不敵な笑みを浮かべて、挑発的な視線を向けてきた。



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