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723 本隊へ集結

 ランテス砦方面の第八騎士団、ディーター侯爵領領都方面の第七騎士団それぞれに、収集した情報と本隊で決定した作戦を伝えた後。

 本隊へ戻る途中、ふと思い付いてエンに一仕事頼む。


「――って感じに、本隊とランテス砦方面、ディーター侯爵領領都方面は俺がやっとくから、エンにはレガス王国軍の方を頼む」

『承知しました、主様』

「お前達も頼むぞ」

『『『『『はい、ますたー』』』』』


 エンは百を超える特殊な契約精霊達を引き連れて、まずはレガス王国軍の本隊へと向かって飛んでいった。

 その後はレガス王国側の三つの砦、集結しつつある貴族の領軍を回って貰う予定だ。


 何を頼んだかと言えば、全属性の特殊な契約精霊八体を一チームとした、監視網の構築だ。


 各拠点、部隊、山脈の山頂などの中継点、などなど、一チームずつを配置。

 定時または何か動きがあったときに、中継点のチームを経由しながら、俺――正しくはエン――の元へ情報を伝達。

 迅速にレガス王国軍の動向を把握しようってわけだ。


 その伝達方法は、光属性の特殊な契約精霊による赤外線通信を採用。

 肉眼では見えないし、波長も長いから遠くまで届きやすい利点がある。

 しかも、俺が提案して軍部の情報部が考案した、マイゼル王国の軍部のみで使われてるモールス信号に相当する信号で通信を行うから、万が一視認されてもレガス王国軍には解読不可能な代物だ。


 これで、ほぼリアルタイムで情報が集まってくることになる。

 これなら俺の強みを最大限生かせるし、これを上回る情報収集および伝達方法は、未だこの世界に存在しないに違いない。


 全属性でチームを組んだのは、それこそ万が一のためと、生命感知、精神感知、熱感知、盗聴など、様々な角度から正確に情報を収集するため。

 飽くまで情報収集が目的なんで、攻撃を仕掛けられた時に応戦する以外、こっちから攻撃するのは厳禁としてる。


 しかも、特殊な契約精霊達は命令に従って自己判断を下せるし自律行動が出来るけど、AIを組み込んだロボットみたいなもんで、出番がなくて拗ねるとか、先走って命令以外の行動をするとか、そういう個性や感情がないから、こういう時に非常に便利だ。


「こんなことなら、最初に偵察したときに構築しとけばよかったな」


 もっとも、その時はメインの偵察は普通に偵察部隊に任せるつもりだったから、ここまでするつもりはなかったんだけど。

 敵が思いの外嫌らしい作戦を仕掛けてきて、状況が思わしくないから仕方ない。


『覚えました。次の機会があれば自分から提案します』

「ああ、そうしてくれると助かる」


 キリが侍女や副官みたいにフォローしてくれるから、本当に助かるよ。


 ディーター侯爵領領都方面から本陣までは、都度、俺が配置。

 本陣からランテス砦方面はデーモに任せて、俺は先に本陣の天幕の前へと降り立つ。


 天幕に入ると、援軍のための輜重(しちょう)部隊の手配やら、補給スケジュールの見直しやら、連絡を取り合うための部隊編成やら、将軍達はとても忙しそうだった。


「もう終わったのか。さすがエメル殿、早馬など及びも付かない驚異的な伝達能力だ」

「空を飛べるアドバンテージを最大限生かしてますからね」

「では、状況が動くまで、エメル殿は待機して英気を養っておいてくれ」

「そうさせて貰います」


 一通り報告したから、一旦俺の仕事は終了。

 後は、出番が来るまで、のんびり待たせて貰うとしようかな。


 長居しても邪魔になるだけだから、報告が終わったら早々に退散して天幕を出る。


 援軍を出すのは、クラウレッツ公爵派とグルンバルドン公爵派に決まった。

 どちらの派閥も派遣する部隊の編成に忙しいみたいで、陣地の一画が慌ただしく動いてる。


 向かうのは、クラウレッツ公爵派が自分達の領地が近い西のディーター侯爵領領都方面へ、グルンバルドン公爵派がそのまま南下されたら自分達の領地へと至ってしまう東のランテス砦方面へ。

 それぞれ、二千と三千を派遣することになってる。


 正直、この数の援軍が向かったところで、どちらも正面からぶつかって勝てるようになるわけじゃない。

 でも、援軍の進軍速度、本隊の兵数、様々に勘案すると、この数が限度だ。


 ……と、レガス王国軍には思わせたいわけだ。


 俺の作戦が上手くいけば、この数の援軍でも十分勝てるようになるはず。

 最低でも、敵の動きを封じるには十分な数だ。


 多分、援軍の派遣を察知したら、ここぞとばかりに本隊が攻めてくるだろう。

 つまり、そこが勝負所だ。


 その一戦で大打撃を与えて勢いを挫かせ、侵攻を大幅に遅らせてやる。

 そして長期戦に持ち込んで、ジワジワと出血を強いてやるんだ。


 同時に、フィーナ姫と(アイゼ)様が外交で、国際社会でレガス王国への批判を高めていく。


 妖魔陣営のガンドラルド王国との戦争と大きく違うのは、人族陣営の国同士だと国際社会や世論が大きく関わってくることにある。

 交渉や話し合いの余地もあるから、戦場だけじゃなく、そこでも上手く立ち回らないといけない。


 当然それには戦場での勝敗が大きく関わってくるから、強気で押していくためにも、絶対勝利しないといけないわけだ。


「決戦の時は近いな」


 自分で口にして、テンションが上がってしまったな。


 すぐに自分の天幕に戻って休む気分じゃなくなったから、忙しそうな兵達の邪魔をしないよう気を付けながら、陣地の中を歩いて見て回る。


 実は良くないことに、士気の微妙な低下と言うか、気の緩みが出始めてたんだ。

 何しろ、マイゼル王国の命運を決める戦いだと勇ましく最前線に集結したものの、蓋を開けてみれば侵略してきたはずの目前の敵が全然動こうとしないから、肩透かしって言うか、気合いが空回りしてしまった兵達が多くいたわけだ。


 もしそこまで計算に入れてたとしたら、敵はどんだけ嫌らしいんだって話だよ。


 だけど、援軍に出る兵達の緊迫感と慌ただしい動きのおかげで、いよいよ決戦が始まるんだと空気が引き締まって、それ以外の兵達も再び士気が高まって精力的に準備を進めていた。


「領主様」


 そんな様子を眺めながら歩いてると、不意に聞き覚えのある声で呼び止められた。

 振り返れば……。


「メイワード伯爵領軍高機動即応部隊、到着致しました!」


 部隊長の騎士が、ビシッと敬礼して立っていた。


「よし、到着してくれたか!」

「到着が遅くなり申し訳ありません」

「いや、よく間に合ってくれた。急がせたから道中大変だっただろう。ご苦労だった」

「お気遣いありがとうございます。ですがこの程度、なんてことはありません」


 周囲に王国軍や他領の兵達の目があるからキビキビと答えてくれるけど、顔色はあんまり良くない。


 精霊魔道具を常時起動したままだと馬の負担が少なくて疲れにくいから、休憩の回数が減って、通常の移動より馬車に揺られる時間が長くなってしまう。

 いくらベルトをして座席に身体を固定してても、体重も装備もゼロで揺れるたびにふわふわして車外に放り出されそうになるわけだから、ある程度は踏ん張り続けないといけないわけだ。

 そんな慣れない行軍に、肉体的だけじゃなく、精神的にも相当疲れただろう。


「今すぐゆっくり休ませてやりたいところだけど、悪いが時間がない。明日にでも状況が動くと思う。後で司令部からも通達があるけど、先に状況を伝えときたい」

「了解しました」


 部隊長に案内されて、整列して待機してたメイワード伯爵領軍高機動即応部隊の兵達の所へ行く。


「皆、慣れない行軍ご苦労だった」


 馬車に揺られてくるだけだったとはいえ、戦争が嫌で野営中に逃亡するなどの脱落者を一人も出さず、全員無事に到着してくれた。

 故国たるマイゼル王国を守らんと、そして第二の故郷と定めたメイワード伯爵領を守り少しでも俺に恩義を返そうと、疲れてるだろうに全員の士気は高い。

 実に頼もしい部下達だ。


「早速だが、現状について説明する」


 一通りの状況と、予想されるレガス王国軍の動きについて説明する。


 作戦についてはまだ秘密だ。

 兵達を信じないわけじゃないけど、事前に教えたら、ポロッと口にされて、それをたまたま潜り込んでた密偵に聞かれて敵に筒抜けになった、なんてことにでもなったら目も当てられない。


 当然、当の兵達もそれは理解してるから、って言うか兵としての心得としてちゃんと教育してるから、作戦に対する質問をしてくる兵はいなかった。

 だから詳細の通達は作戦行動開始の直前だ。


「――以上が状況と敵の動きの概要になる。恐らく明日にでもなんらかの動きがあるだろう。それまでゆっくり休んで英気を養っておいてくれ」

「「「「「はっ!」」」」」


 一足先に俺がその場を去ることで、ようやく解散になって、みんなそれぞれ休みに入る。

 と言っても、割り当てられた区画で自分達のテントを張ったり、精霊魔道具が盗まれないよう交代で馬車の見張りをしたりと、まだまだ仕事はあるけどな。


「部隊長」

「はっ」


 部下達への指示が終わった部隊長の騎士を呼ぶ。


「予想通り、俺が遊撃であちこち飛び回ることになりそうだ。お前達は司令部直属、将軍直下の遊撃部隊の位置づけになるから、予定通り、俺が不在の場合や、実際に交戦が始まったら、指示は司令部か将軍に仰いでくれ」

「はっ」


「悪いな。領主なのに俺が直接指揮しなくて」

「いえ、前にもお話した通り、領主様のお『力』を十二分に生かすには単独行動が一番ですから」


 何しろ『力』の差がありすぎて、誰も付いてこられないからな。

 不満なく理解を示してくれて助かるよ。


 もう一言、二言、部隊長と言葉を交わしてると、視界の端にこちらへ向かって歩いてくる見覚えのある顔が見えた。


「じゃあ部隊長、後はよろしく頼む」

「はっ、お任せを」


 部隊長もそれに気付いたようで、敬礼すると気を利かせて急いで去って行った。


 そして、ご到着だ。


「よく間に合わせてくれたライアン」

「遅参とならずに安心しましたよ、メイワード伯爵」


 メイワード伯爵派領軍の指揮官、グレイブル伯爵のライアンは、安堵の笑みを浮かべて俺と握手した。

 本来ならこちらも俺が指揮しないといけないのに、全部ライアンに任せてしまったからな。


「脱落者はなし。全員無事に到着しました。各領軍は当主達に任せて、先に休ませています」

「ああ、それでいい。一段落付いたら、全員を俺の天幕に集めてくれ、現在の状況と作戦の概要を説明する」

「お手を煩わせて申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 それから、しばらく後、グレイブル伯爵のライアン、ディエール子爵、ダークムン男爵、ユーグ男爵、ユーゴ男爵、ユーガム男爵、トレアド男爵と、貴族家当主の全員が集まった。


 部下の騎士や兵達と違って、それぞれ領軍を指揮する指揮官になるから、可能な限りの情報を教えておく。

 作戦を開始したら、俺がどう動くことになるかの予想も含めて。


「さすがメイワード伯爵……恐ろしい作戦を考えつくもんですな」

「嫌がらせとは、(おっしゃ)る通りではあるのでしょうが……された方はたまったものではないのが恐ろしい」


 領軍を指揮しての戦争経験があるディエール子爵とダークムン男爵は、呆れとも敵に対する同情とも付かない苦笑いだ。

 ユーグ男爵、ユーゴ男爵、ユーガム男爵、トレアド男爵は、自分がされたらと想像したのか、青い顔で身震いしてる。


「普通なら絶対に不可能なこと。それを可能とするからこそ出てくる発想とは理解しているが……」


 ライアンは想像の埒外って疲れた顔だな。


「公の場でフィーナ姫が恥を掻かされたんだぞ? そんな奴ら相手に、俺が容赦するとでも?」


 みんな、そうだったって顔になる。


 好意には好意を、敵意には敵意を返す。

 普段から俺が言ってる言葉だからな。


「さあ、決戦は間近だ。みんな、しっかり頼むぞ」


 全員が異口同音に応えてくれる。


 みんな気合い十分。

 いつでもかかって来いだ!



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