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721 ディーター侯爵領領都方面へ


 ランテス砦方面の防衛陣地を飛び立つと、一旦本陣へと戻る。

 本陣ではまさに援軍を派遣するための準備の真っ最中だった。


 それらは完全に担当者達にお任せで、将軍にランテス砦方面で聞いた話と、作戦に了承を得られた報告をしてしまう。


 それが終わったら、すぐさまディーター侯爵領領都方面へ。

 忙しないけど、それが俺が買って出た役割だから仕方ない。


『ヒヒン』

『我が君』


 と、すぐにユニとキリが姿を消したまま、話しかけてきた。


「どこだ?」

『あちらです』

『ブルル』


 キリが指さした方角、本陣の西側を通る主要街道へ向かう途中の、少し高くなった丘の頂上の茂みの中、ユニが言ったように身を潜めてるらしい五人の人影があった。

 本陣からの距離的に、倍率が低い望遠鏡でギリギリ本陣が見えるか見えないかくらいだろう。


 エンに頼んで、望遠でその連中を拡大して見る。


「レガス王国軍の偵察兵か……こっちの本陣の動きを監視してるんだろうな」


 闇属性の魔法を使って茂みの影に紛れるように隠れてるけど、種族はシャドウストーカーじゃなくて人間みたいだ。


 そのせいか、隠蔽具合はシャドウストーカーよりレベルが低い。

 完全に闇や影に融け込むって程じゃなくて、影で出来た迷彩服を着たような、姿を発見されにくくなるくらいってところか。


 なんか中途半端だな。


 って思ったけど、よくよく考えれば偵察任務ともなれば長時間にわたるわけで。

 完全に闇や影に融け込む程に魔法を使えば、仮にあの偵察兵が一流の精霊魔術師だった場合でも、十分から十五分もすれば精霊力が尽きて、気絶して任務も何もあったもんじゃなくなってしまう。


 そう考えると、あのくらいの影で出来た迷彩服程度にして消費する精霊力を抑えて、部隊のメンバーで交代しつつ、精霊力を回復しながら使っていけば、長時間の任務にも耐えられそうだ。


 つまり長々居座って、本隊の動向を探って情報を集めるか、本隊に何かしらの動きがあるのを待ってる、って考えた方がしっくりくる。


「エン、本陣に戻って将軍に報告してくれ。監視の偵察兵を派遣して、泳がしとくようにと。悪いけど俺達はこのまま向かうから、その後、追いかけてきてくれ」

『承知しました、主様』


 姿を消したまま返事をして、エンの気配が本陣へと引き返していった。


 よし、これでいい。

 対処は本陣にお任せだ。


 俺は俺の役割を果たすため、そのままディーター侯爵領領都方面へと飛び続ける。


 本陣から見て、ほぼ真西から若干南寄りに飛んでノーグランテス辺境伯領を横断。

 その後、ディーター侯爵領へ入ってしばらく西へ進むと、ディーター侯爵領の中央よりやや東側に領都ディーゼルが見えてきた。


「領都ディーゼルか……見るのは二度目だな」


 領都ディーゼルには、まだトトス村で暮らしてた頃、一度だけ訪れたことがある。

 って言っても、その訪問は真っ当な理由じゃない。


 深夜、ディーター侯爵の屋敷、それもディーター侯爵の寝室に忍び込み、俺からと分かるように色々と置き土産をした上、壁にデカデカと警告文を残した時だ。

 当然、当時開発中だった全力隠蔽を駆使して、目撃者も侵入の痕跡も残さずに。


 おかげで、それからピタリと、俺が育てた高品質の作物を全て取り上げようとか、奴隷のように働かせて大量生産させようとか、強権を振りかざして土壌改良の秘密を取り上げて独占しようとか、ディーター侯爵からのトトス村への過度な干渉が止んでくれた。


 今にして思えば、たかが貧乏農家の次男坊で成人すらしてないガキが、侯爵家当主相手に無茶したもんだよ。

 まあ、今ならもっと強気で過激にやり返すけど。


 ともあれ、昼間、こうしてちゃんと領都を眺めるのは初めてだ。


「まあ、王都に比べたら小さいし、なんの思い入れもないから、感動も感傷も何もないけどさ」


 領都ディーゼルは、ランテス砦が睨むフォレート王国から伸びてくる街道を、そのまま西へ向かった途中にある。

 そのまま街道を西へ向かえば、今回の西側の進軍ルートになる、王都とレガス王国を結ぶ街道と交差する。

 ちなみに、領都ディーゼルから街道を北へ向かっても南へ向かっても、その交差地点より北側と南側でその街道と合流する。


 つまり、西側のレガス王国軍は、途中で領都ディーゼルへ向かう街道と、領都ディーゼルを迂回する街道を選んで進軍出来るってわけだ。


「念のため、迂回ルートの街道の方も確認しておきたいな」

『我が主、ではそちらはワタシが見てきましょう』

「行ってくれるかデーモ?」

『お任せを、我が主』


 姿を消したまま、デーモの気配がさらに西へと向かって移動していく。


 あっちはデーモに任せるとして。

 俺は領都ディーゼル周辺の情報収集だ。


 領都ディーゼルは、さすがに領都だけあって立派な防壁に囲まれれてて、そう簡単には攻め落とせそうにない。

 完全に籠城してるみたいで、東西南北全ての門が閉ざされたままだ。

 防壁の上には見張りらしい兵士が、平時ではあり得ないくらい多く配置されてる。


 ただ、どこの門も防壁も、戦闘で攻撃を受けたような痕跡はない。


 こっちもランテス砦同様、包囲だけして、ディーター侯爵領内で抵抗してるディーター侯爵領軍の鎮圧を終わらせた別働隊が合流するのを待ってたんだろうな。


 仮に兵糧攻めをするにしても、町の規模が大きい上に、事前に反乱の準備で備蓄してただろうから、四方の街道を封鎖しても町が干上がるのに何カ月も……下手をしたら半年や一年は余裕で持ち堪えるかも知れない。

 レガス王国との戦争が控えてたし、その状況で兵糧攻めは現実的な手段じゃないから、攻略するなら攻め落とすしかないよな。


 そしてやっぱり、ランテス砦方面同様、領都を包囲する王国軍の姿はない。


「ディーター侯爵領領都方面へ進軍してきた部隊も騎兵が中心で、数を誤認させた後、似たような立ち回りで領軍と合流して、一気に迫ってきてるのかな……?」


 迂回ルートはデーモに任せたから、ロクに街道の北へと向かって貰う。


「いたいた、レガス王国軍だ。注意して見れば、やっぱり騎兵が多いな」


 こっちもかなりの進軍速度みたいで、隊列が間延びしてる。


 本来なら、行軍中の今、真横から攻撃を仕掛けて大打撃を与えたいところだけど。

 迂闊に色気を出したら包囲殲滅させられかねないのは、こっちも同じだ。


「早馬の報告通り、ざっと五千……旗はレガス王国軍と……こっちもアーマンハイダ辺境伯領軍か。比率はレガス王国軍の方が多いな」


 レガス王国軍の数はランテス砦方面と大差ないように見えるから、内訳はレガス王国軍三千、アーマンハイダ辺境伯領軍二千ってところか。


「領都に到着するまで、ざっと四時間くらい……かな」


 隊列が間延びしてるとはいえ、ランテス砦方面より数が少ないから、歩兵を引き離しすぎないように、加減しながら急いでるように見える。

 念のため、さらに北上したり周辺を見回ってみたりしたけど、他の部隊はいない。


「すぐに到着しそうなさらなる援軍もなさそうだし……そろそろこっち方面の王国軍と合流するか」


 領都ディーゼルの真上を飛び越えてそのまま南へ飛ぶと、その規模の部隊の進軍速度で数時間程離れた街道の途中に、マイゼル王国軍第七騎士団の陣地が見えてきた。


 ただその陣地、想定より立派で広くて大きい。


 細い丸太を組んだ柵じゃなくて、丸太を縦に突き立てて並べた防壁になってる。

 陣地の西側に森があって、伐採した形跡があるから、そこの木材を利用したんだろうな。

 さらに、陣地の北側には川が流れてて、堀を掘ってそこから水も引いてる。

 ランテス砦方面とは違って、かなり早い段階から陣地を築いてたみたいだ。


 しかもその陣地内には、第七騎士団と率いる一般兵の部隊は三千って聞いてたけど、その倍とはいかなくても随分とテントの数が多い気がする。


 と、よくよく見れば、王国軍の旗だけじゃなくて領軍の旗も(ひるがえ)ってるな。

 どうやら、当初に予定されてた援軍の領軍がすでに合流してるみたいだ。

 それなら説明も一度で済みそうで助かる。


 なんてことを考えながら、陣地中央の一際立派な天幕の前に舞い降りる。


 見張りの兵達との同様のやり取りは三度目になるんで以下略。

 天幕に案内されて入る。


 こちらは作戦会議の真っ最中だったみたいで、簡易の組み立て式の机に周辺地図が広げられて部隊配置の駒が置かれ、第七騎士団団長らしい中年の騎士と、参謀役の四人の中年と若手騎士、さらに数人の貴族が机を囲んでいた。



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