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718 予想されるレガス王国軍の動き 2

 将軍の現状確認が終わると、グルンバルドン公爵が非常に渋い顔になる。


「ノーグランテス辺境伯領軍二千と合わせると九千……これでは砦攻めどころか、野戦に打って出られても太刀打ち出来んだろう」

「援軍は三千、いや、最低でも四千は必要か……」


 応じて、クラウレッツ公爵も難しい顔で唸った。


 敵と同数だと、恐らく兵達の練度の差で負ける。

 新兵も多いこっちは、ある程度数を上回らないと互角以上に戦えない。

 勝つつもりならなおさらだ。


 ジターブル侯爵、エイキエル侯爵も同様に厳しそうな顔をしてる。


「しかし、本隊は全ての領軍が間に合ったとしてもようやく四万八千だ。四千も派遣すれば、四万四千になる。これでは敵本隊の四万四千と同数になり、数的優位を放棄することになる」

「まだ早馬は届いていないようですが、そこからさらに、西への援軍の派遣も考えなくては。西側からも同程度の敵が進軍してきているとすれば、こちらはさらに多い七千は派遣しなくてはならないのでは?」


 エイキエル侯爵の指摘通り、西側でも勝つためにはそのくらいの援軍は必要だろう。


 ディーター侯爵領の領都は、この本陣からランテス砦までより、倍以上遠い。

 現在、早馬がこの本陣目指して走ってきてる可能性は高いと思う。


 西側の敵部隊の数は現時点では予想でしかないから、もっと少ないかも知れないし、もっと多いかも知れない。

 とはいえ、現状、楽観視出来る要素はないからな。


 将軍が辛そうに唸る。


「王国軍だけでは手が足りないのが実情です。領軍から兵を出して戴きたい」

「仮にどこかの領軍から援軍を出したとして、それでは本隊が三万七千にまで減るだろう」

「そこで敵が領軍三万数千から四万と合流すれば、兵力差は二倍以上だ」

「ここは砦ではない。この程度の簡易な防御陣地では、それだけの兵力差があれば、守り切ることは不可能だ」


 グルンバルドン公爵、ジターブル侯爵、クラウレッツ公爵と、援軍を出すことに反対はしないが、では本陣をどうするのかと、すぐには賛成をしかねるって顔をする。


 それには俺も同感だ。

 もしそれだけの援軍を派遣してしまえば、防衛に徹して時間稼ぎをしても、この本陣を守り切れないだろう。


 かといって、だ。


「かといって、東西両方を見捨てて援軍を送らなければ、どちらも包囲してる王国軍は撃破されて、そのまま王都へ向かわれ、陥落させられる。本隊はその間、敵本隊に足止めされて、救援にも向かえない」

「その通りだ」


 数に勝る敵は、手堅くそれを生かしてるわけだ。


 将軍の肯定に、天幕の中はいくつもの低い唸り声だけが響く。


 難しい顔で黙って地図と駒を見つめてる将軍へと目を向ける。


「将軍、ランテス砦方面とディーター侯爵領領都方面に、元から援軍を派遣してないんですか?」

「しているぞ。と言っても、王室派の貴族家の領軍が、それぞれ二千ずつだが」


 確かに、さっきの王国軍の状況を聞けば、領軍に動いて貰うしかないか。


 ともあれ、それでランテス砦方面のマイゼル王国軍は八千で、レガス王国軍とノーグランテス辺境伯領軍が合わせて九千。

 そして、ディーター侯爵領領都方面のマイゼル王国軍は五千で、レガス王国軍とディーター侯爵領軍が合わせて推定で九千。

 どちらも数に劣って、援軍なしでの勝利は厳しいだろう。


「やっぱり本隊を減らしても、援軍を派遣して、東西両方の戦場で勝利するしかないんじゃ……」


 俺の呟きに、エイキエル侯爵が難色を示す。


「それでは敵が本陣に殺到してくるでしょう。それでは中央を突破されて、王都へ迫られてしまいます」


 安易に『じゃあ手薄になった中央はメイワード伯爵が殲滅するってことで』って言わなかったところはポイント高いな。


「しかし、メイワード伯爵の言には一考の余地があると思います。ここは本隊を三つに分けて、東西へ大部隊で援軍を出して早期決着を図り、中央は残りの部隊をさらに少数に分けて、進軍してくる敵の行軍中にゲリラ戦を仕掛けて、足止めで時間稼ぎと同時に、数を減らしてみては?」


 さらに、俺の意見を元に修正案を出してくるなんて、もっとポイント高いな。

 こういう人材だから、俺もエイキエル侯爵とその派閥とは無理に対立しようとは思わないんだ。


 ただ、その意見にジターブル侯爵がもの申す。


「悪くはないが、それでは中央の足止めの時間稼ぎの効果は薄いのでは? 本隊は王都へ向かい、別働隊でゲリラ狩りをすればいいだけのこと。本隊四万四千全てで王都を包囲する必要はないのだからな。こちらの部隊は包囲され、各個撃破される危険がある」

「む、それは確かに……」


 そこからは、武官達も含めて全員で活発に、より具体的な作戦を立案しては問題点を指摘してと、いかに援軍を出せる状況を作るかと言う視点で、作戦を煮詰めていく。


 そっちの話し合いは、一旦他のみんなに任せるとして。

 同様に任せて発言を控えてる将軍に近づく。


「将軍は、この戦争は早期決着と長期戦、どっちがいいと考えてますか?」

「エメル殿、何か思い付いたのかな?」

「ええ、ちょっと。それで、確認をと思って」

「そうだな……どちらにもメリット、デメリットがある。しかし、俺は長期戦でいくべきと考えている」

「理由は?」

「一つは、エメル殿がしていたように、他国のスタンスをハッキリさせておきたい。戦後を見据えれば、可能な限り、多くの国を味方に引き入れておきたいし、敵もハッキリさせておきたい」


 一つは、ってことは、他にもあるってことだよな。


「一つは、ガンドラルド王国の侵略、元アーグラムン公爵の反乱があり、ここでさらにレガス王国の侵略があったにも関わらず、これを退けられる兵力と継戦能力がある、と国際社会に知らしめることが出来、マイゼル王国が一目置かれてより安全になるはず」


 言って、将軍が困ったように苦笑する。


「ただ、エメル殿の食料生産と、足りない武具はトロルから鹵獲した装備の鉄を頼りにするのが前提だが」

「ああ、そこは信頼して任せてくれて構わないですよ。民にも負担はかけないようにして、厭戦気分が蔓延するようなことにはならないようにしますから」

「ああ。実に頼もしい」


 安請け合いではなく、しっかりと請うと、将軍の表情も和らぐ。


「一つは、同盟国のナード王国の援軍にも参戦させ、戦果を上げさせ、ナード王国の面目を保つ必要がある」

「ああ、トロルの時は間に合わなかったから、両国の関係がちょっと微妙になっちゃいましたからね」

「その通り。これは、今後を見据えると、エメル殿には非常に大事なことでは?」

「確かに」


 後半は将軍が声を潜めて俺にだけ聞こえるように言う。

 確かにそれは王様になろうって俺にとって、王位に就いた後、非常に大事なことだった。


「重要なのはこのくらいで、後は――」


 これらに比べたら重要度は低いけど、他にも幾つか理由を教えてくれる。

 それらは、俺の目的と、方向性や利害が一致していた。


 そんな考えが顔に出てしまったのか、将軍が聞いてくる。


「それで、エメル殿の策とは?」


 その将軍の言葉が聞こえたのか、熱心に議論してた武官達やクラウレッツ公爵達が議論を止めて、俺の方へ顔を向けてきた。

 せっかくだから、全員の注目が集まったところで説明を始める。


「まあ、嫌がらせの類いではあるんですけど、相手の思惑を外すために――」


 そこから、ざっと思惑と概要を語る。


「なるほど……確かにそれはエメル殿にしか出来なさそうだ」

「十分に敵の思惑を外せるでしょう」

「こちらにも時間と余裕が生まれるかと」


 将軍と武官達は頷いて、賛同してくれるみたいだな。


「嫌らしいことを思い付く男だ」


 クラウレッツ公爵のそれは、賞賛よりも嫌味の成分の方が圧倒的に多いよな?


 グルンバルドン公爵はすごく険しい顔をして、ジターブル侯爵も滅茶苦茶渋い顔だ。

 エイキエル侯爵も、すごく複雑そうな、嫌そうな顔になってる。


 何しろ、この作戦……って言うか思い付きは、俺と敵対した場合、自分達の領軍も仕掛けられることになるわけだからな。

 それに気付いたからこその反応だろう。


 ただし、全員から反対はなし。

 効果はあると、認めてくれたわけだ。


「じゃあ詳細を詰めるとしようか」



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