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712 開戦、そして王城へ



 全速力でロクを飛ばして王都へ戻り、王城の城門前に降り立つ。


「メイワード伯爵!」


 空から接近する俺に気付いた警備兵が数人、城門脇の警備の詰め所から飛び出すと、すぐさま険しい顔で駆け寄ってきた。


 いつもなら、飛行時の爆音を響かせないよう、王都に近づいたところで通常飛行に戻すけど、今回は王城近くまで爆音を響かせながら飛んできたからな。

 緊急事態が起きた。

 それをすぐさま理解したんだろう。


「レガス王国軍が動いた! 開戦だ!」

「っ!!」


 だから足を止めず顔パスで城門をくぐりながら、まず端的に事態を告げた。


 警備兵達は予感はしてたって顔で、でも表情を強ばらせながら、さらに詳しい話を聞こうとそのまま俺に付いてくる。


「ユーグ男爵領で領軍の演習中に国境から早馬が届いたから、即座に俺だけ報告に戻って来た。半日か一日もせず、王城にも早馬が来るはずだ。俺も詳しくは報告を受けてないが、どうやら敵は三つの砦から三つの部隊に分かれて進軍してきてるらしい。誰か軍部へ報告を。俺はフィーナ姫とアイゼ様に報告に行く」

「はっ!」


 指示を出すと、隊長らしい警備兵が二人を伝令として走らせる。

 一人は軍部へ、一人はフィーナ姫とアイゼ()様への先触れだな。

 隊長と他の部下は一礼して俺と別れると、他の関係各署へ連絡に走るみたいだ。


 戦争になることは何カ月も前から分かってたことだから、警備兵達の動きに今更迷いも動揺もない。

 王城や王都を戦場になんて絶対にさせないけど、これなら少しは安心して留守を任せられそうだ。


 先触れのおかげか、建物に入った後は誰に呼び止められることもなく廊下を進み、フィーナ姫の執務室へと到着する。


 ノックして許可を貰い中へ入ると、すでにフィーナ姫とアイゼ様が揃ってて、硬い表情で俺を待っていた。

 挨拶もそこそこに、アイゼ様が固い声で確認してくる。


「遂にレガス王国が動いたそうだな」

「はい。俺の方には詳しい報告は上がってきてないので、詳細は王城へ向けて走ってる早馬待ちですけどね。三つの砦から進発したみたいです」

「そうか……いよいよ開戦だな」

「予想はしていましたが、やはり前倒しで動いたのですね」


 フィーナ姫も覚悟はしてても、やっぱり緊張は隠せないらしい。


 戦争なんて、何度経験しても慣れないよな。

 しかも、トロル、反乱と、たった二年の間に二度も王都と王城が戦場になったんだから余計にだ。


 だからすぐに近づいて手を取る。


「大丈夫、勝ちますよ。連中の計画通りになんてさせません。王都には近寄らせもしませんから」

「はい。心配していません。エメル様を信じていますから」


 力強く言って胸を張ると、俺の手をわずかに強く握り返して、少しだけ硬さが取れた微笑みを浮かべてくれる。


 ああ……改めてやる気がふつふつと湧いてきた。

 フィーナ姫とアイゼ()様の笑顔を守れるのなら、敵なんて、情け容赦なく殲滅してしまえばいい。


「このタイミングで動いたのであれば、ビルレグトン伯爵はまだ王都には戻っておらぬはず。やはりビルレグトン伯爵が宣戦布告の使者として発つ前に、すでに関係貴族や部署への根回しを済ませ、王家の裁可は下されていたのだろう」

「アイゼの言う通りでしょうね。宣戦布告に降伏勧告もなく、すでに各地の貴族の領軍が動いて集結し、進軍してきているのですから。間違いなく、レガス王国軍は準備万端、戦意も高いことでしょう」


 二人の言う通りだ。

 何年も前から周辺国に悟られないよう注意しながら準備を進めてたみたいだからな。

 あっちとしては、やっと本番だと、やる気に満ち溢れてるに違いない。


「でも、俺達が勝ちますけどね」

「ふふっ、そうですね」

「ああ、その通りだ」


 冗談めかしておどけると、二人が笑ってくれる。

 いい感じに緊張がほぐれてくれたみたいで何よりだ。


「国境からの早馬の到着待ちになりますが、ナード王国へ至急の早馬を走らせましょう。ウェーリー陛下はすでに我が国との国境付近へ援軍を動かして下さっているようですが、我が軍との合流を急いで戴かなくては」

「可能な限り早めに連合軍としての体裁を整え、レガス王国と対峙しプレッシャーをかけたいところだ」


 フィーナ姫もアイゼ様も、為政者として、そこは期待するところだよな。


 軍事大国のレガス王国にしてみれば、小国でしかないマイゼル王国とナード王国が連合軍を結成したところで、軍事的な脅威にはならないだろう。

 でも、国際社会で考えれば、少なくとも二国がレガス王国の軍事侵攻に対して、異を唱えて敵対してることを示せる。

 ナード王国の同盟国である小国家群のヴェンダー王国が、ちゃんとナード王国を支援してくれれば、異を唱える国が増えることになるわけだ。


 この国際社会のレガス王国包囲網が、果たしてどこまで広がるか。

 たとえ小国だけであっても、数がまとまれば外交として無視できない問題になる。

 それはレガス王国にとって多少なりとプレッシャーになるに違いない。

 周辺国が本格的にレガス王国との対立路線で動けば、少なからず国益を損ねてしまうわけだからな。


 だからその前に早期決着を付けようと、上層部が現場に圧力をかれば、こちらとしては万々歳だ。

 レガス王国軍は、無理を押してでも動かざるを得なくなるだろう。

 それが綻びとなれば、こちらはその隙を突いて有利に戦えるようになる。


「外交会談に参加した他の国の動きはどうですか?」

「未だ動きはありませんね」

「ザグンデス王国やゼグオーダー王国は遠い。ようやく情報が伝わったか、まだ伝令が到着すらしておらぬかも知れぬ」

「ああ、言われてみれば確かに……」


 本国まで早馬を走らせるとは限らないもんな。


 まず、日数を掛けて王都やマイゼル王国内で様々に情報収集して、詳細や動向、事実確認をして情報を整理。

 それからようやく大使が馬車で移動。

 となれば、小国家群ですらまだ伝わってない国もありそうだ。


 電話一本で連絡、ネット会議で即日結論、とは、いかないわけだし。

 移動だけで何十日、関係者を集めて話し合ってさらに何十日、って時間が掛かる世の中だから、それも仕方ないけど。

 早く結論を知りたいこっちとしては、もどかしいばかりだ。


 そんなもどかしさが表情や態度に出てしまったのか、俺に落ち着くようにとフィーナ姫が柔らかく微笑む。


「小国家群は、どの国も間違いなく意見が割れるでしょう。そしてフォレート王国やシェーラル王国、オルレーン王国は、我関せずか静観する可能性が高いと思われます。なので、小国家群は可能な限り切り崩していくとしても、それらエルフの三国は宛てには出来ません。そこを踏まえて、できる限りのことをしていきましょう」

「その辺りの外交は、フィーナ姫と外務大臣のブラバートル侯爵にお任せ、ですね」

「ええ、エメル様達が戦場で遺憾なく戦えるように、後方支援は任せて下さい」


 そう言って貰えると心強い。


「俺もその後押しになるよう、緒戦を勝利で飾りますね」

「はい。どの国もマイゼル王国の勝利は揺るがないと思えるような、そんな勝利をお願いします」


 そうだな、ただ勝つだけじゃなく、勝ち方も大事だ。


「本来であれば、このような国家存亡の戦ともなれば、王太女である姉上か、元王太子として私が前線で陣頭指揮を執るべきだろうが……」

「アイゼ様も、フィーナ姫と一緒に後方支援でお願いしますね」

「うむ。エメルの功績を奪うわけにはいかぬからな」


 王家の求心力を高めて、中央集権化を推し進めるためには、王太女であるフィーナ姫、そうでなくても元王太子のアイゼ様が、お飾りだったとしても戦場に指揮官として立った方が、政治的にも兵の士気を高める意味としても都合がいい。


 でも、俺が王様になる予定だからな。

 現王家の名声と権力は高めたい。

 でも高まり過ぎると、今度は逆にその障害になってしまう。

 だからほどほどに。


 ここは全部、俺にお任せと言うことで。


「それで、エメルはこれからどう動く?」

「まず、うちの領軍を進発させて、ここの館や領地に連絡を入れた後、先行して国境付近で敵の動きを偵察します。それから王国軍の本隊と合流ですね」


 詳細に探るのは本職の偵察部隊に任せるとして。

 敵部隊のおおよその数と位置と動きを把握して参謀本部に報告するだけでも、かなり違ってくるだろう。

 これまで侵略戦争を繰り返してきた軍事大国としての兵の質、投入された兵数、事前準備の期間、などなど、まともに正面からやり合ったら普通に勝ち目がないからな。


 しかもノーグランテス辺境伯派とディーター侯爵派が敵に寝返ってる以上、戦場が国内だって言う地の利は当てに出来ない。

 だからこそ、それ以外の情報戦で優位に立って、勝ち筋を見出すしかないわけだ。


「救国の英雄たる伯爵家当主を一介の偵察兵や伝令兵のように使うのは、決して褒められたことではないが……」

「場合が場合ですからね。俺の体裁にこだわって負けましたじゃ話になりませんし。最初は裏方で動きますよ」


「国内の貴族向けに、エメル様のお『力』を示す良い機会と捉えましょう」

「特に下級貴族達はエメルとの関わりが薄い分、その『力』と脅威を肌で感じる良い機会、と言うことですね」

「ええ。情報収集、伝達能力で、エメル様に太刀打ち出来る者などいないのですから」

「じゃあ、せっかくだからその辺り、精々派手に見せつけてやるとしますよ」


 中途半端が一番良くないからな。

 やるならとことんだ。



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