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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第二十三章 宣戦布告、そして開戦へ

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687 パティーナの胸の内 3

 もちろん、出来れば正室になりたい気持ちはある。

 わたしだけを見て欲しいと。


 でも、子爵位に陞爵(しょうしゃく)したとはいえ、実家のリエッド子爵家は元はしがない男爵家。

 政治的にも経済的にも大した力は持っていない。

 だから、今日のあの伯爵みたいな男に目を付けられ、強引に側室として嫁がされる可能性があることを、十分に理解している。


 ただそれは、理解と言いながら、諦観でしかないだろう。


 それを思えば、ご主人様の側室ならむしろ望むところ。

 比べるべくもなく、ずっと幸せになれるだろう。

 それこそ下手な貴族の正室になるより、恵まれているとさえ言える。


 そもそも、その子爵への陞爵そのものが、ご主人様のおかげで功を立てられた結果なのだから、婚姻で繋がりを持てることは大きなプラスになりこそすれ、マイナスになることは何もない。


 他方、そんな救国の英雄と呼ばれるご主人様なのだから、大勢の側室を抱えるのは、必要不可欠だと思う。

 その血と才能をより多くの子供に継がせることは、ご主人様やメイワード伯爵家のみならず、マイゼル王国にとっても大きな繁栄をもたらすのだから、最優先事項と言い換えてもいい。


 そう考えれば、普通の貴族より多くの側室を抱えることだって、周囲から望まれているに違いない。

 少なくとも、噂で聞こえてくる領地にいるらしい複数の側室候補の存在を、メリザさんを筆頭に、ご主人様にお仕えしているわたし達の間で否定的な意見が出ていないのは、その証拠と言える。


 つまり、他の有力貴族や上級貴族と比べて、ご主人様の側室になれる可能性はずっと高く、むしろそこに加われることは誇らしく、貴族令嬢の本懐と言ってもいいと思う。


「嫌どころか、むしろ望むところなら、迷う必要なんてないと思うけど?」

「ま、まだ何も答えていないでしょう?」


 なんだか、リリアナに考えを見透かされたみたいで、ちょっと気恥ずかしい。


「それに、パティーナがこの館に来た時はまだ十二だったけど、今はもう十四で立派に成人している。そろそろ相手を決めないといけない頃だろう? リエッド子爵にだけ任せている場合ではないと思うけど?」

「それは……」


 そう、お父様はわたしを溺愛しすぎて、わたしを結婚させることにあまり熱心じゃなかった。

 それに、領地経営の方が楽しくて、政治的な野心や出世欲はほとんどない。

 おかげで、十二歳になるまで婚約者もいなかった。


 そして今も、クラウレッツ公爵の密命があったとはいえ、やっぱりその手の話がわたしにまで届くことはない。

 ご主人様に近づきたい、利用したい貴族にとって、ご主人様の侍女のわたしを妻に迎えることはメリットが大きいから、この二年でその手の縁談が皆無だったとは思えないのに。


 リリアナに指摘されるまでもなく、このままうかうかしていたら、適齢期を過ぎて行き遅れになってしまう可能性が大きい。

 さすがにそれはちょっと嫌だ。


「それにお館様の側室狙いなら、多分、今がラストチャンスだと思う」

「ラストチャンス?」

「パティーナにしては、珍しくそこまで頭が回っていないのかな? それもこれも、これまで自覚がなかったことと、自覚した途端いっぱいいっぱいになってしまったせいで」

「もう……それはいいから、どういうこと?」


 顔が熱くなるのを覚えながら、リリアナに詳しい説明を求める。


「お館様は領地経営でかなりの結果を出している。レッケレッツ子爵家(うち)でもそうだけど、お館様の領地から作物を買い付けている貴族家は、おかげで随分と儲けているらしい」


 それはリエッド子爵家もだ。

 お父様らしく規模が小さいけれど、少なくない利益を上げている。


 ガンドラルド王国との戦争、さらにアーグラムン元公爵の反乱と戦争が続いて、男爵家には負担が大きすぎるくらい戦費がかさんでいたそうだから、財政的にかなり助かっているらしい。

 子爵位に陞爵して領地が倍近く大きくなったとはいえ、単純に税収が倍になったわけでもなく、かさんだ戦費全てを(まかな)えるだけの褒賞金を貰えたわけでもない。


 さらにレガス王国との戦争も控えている今、ご主人様の領地から買い付け売り捌く交易の流れは、どこの領地でもまだ当分の間続くだろう。

 これは、ご主人様が多くの貴族家に利を配り、恩を売っていると言える。


「初年度でそこまでやれた上、クリスタルガラスの生産に、トロルとの交易を成功させたからには、辺境伯への陞爵が大きく早まるのは確実だ。特に儲けさせて貰っている貴族達は、表立って反対とは言えないはず」

「その通りね」


 これまであまり深くは考えてこなかったけれど、リリアナの言う通り、その可能性が高い。


「加えて、レガス王国へ寝返ろうとした裏切り者を捕らえ、レガス王国との戦争での活躍は決まっているから、一気に侯爵への陞爵だってあり得る」

「あり得そうね……」


 国も度重なる戦費で財政が苦しいでしょうし、きっと褒賞金もご主人様の活躍に見合うだけ出すのは難しいはず。

 取り潰される貴族家がまた多く出る以上、王家も直轄地がまた大きく増えてしまうでしょうし。

 だとすれば、もう陞爵させて領地を与える以外報いる方法がないんじゃないかしら。


「そこまで功績を挙げ、爵位を上げれば、さすがのクラウレッツ公爵だって、殿下とのご結婚を妨げられないと思う。だとすれば、公爵か大公か、王家を離れるに際して爵位を与えられた殿下とご結婚することで、その爵位が委譲されてお館様が公爵か大公だ」

「――っ!」


 殿下が爵位を持ったまま、ご主人様が入り婿になれば、メイワード伯爵家はその時点で消滅してしまい、広大な領地と領民が宙に浮いてしまう。

 そんな事態にするわけにはいかないから、きっとリリアナが言った通りになる。


 伯爵家ならまだしも、公爵家、大公家ともなれば、子爵家では格が違いすぎて……。


「ご主人様の側室にして貰うには、それまでに婚約を……そうでなくても、両家でなんらかの話し合いを済ませておく必要がある、と……」


 リリアナが頷く。


「それに気付いて、駆け込みでお館様の側室に娘を滑り込ませようと、多くの貴族家が動いたっておかしくない。いくらお館様だって、際限なく側室を迎え入れられるはずがないだろう?」


 一瞬、巨大な後宮を持つご主人様の姿を想像してしまった。

 さすがのご主人様でも、そんな規模で側室を迎え入れるのは無理だろう。


「うかうかしていたら側室の席は全部埋まってしまって、もっと早くに決断していればって、泣く羽目になるかも知れない」

「っ……!」


 言われてみればその通りだ。

 でも……。


「ほら、また頭で考えようとしている。本当は、どうしたい?」


 またしても、胸に指先を突きつけられた。


「わたしがどうしたいか……」


 目を閉じて、胸の内で今も溢れ続けているご主人様への気持ちを見つめる。


 思い出すのは、先ほどのご主人様の顔。

 守ってくれた腕の力強さ。

 頭を優しく撫でてくれた手の平の感触。


『よく頑張って耐えたな、偉いぞ』


 その時に言われた主人様の言葉が甦る。

 そして、不意に、もう一つのご主人様の言葉が甦った。


『大丈夫かパティーナ、怪我はないか!?』

『は、はい、ご主人様』

『そうか、怖かっただろう。一人でよく頑張ったな。偉いぞ』


 アーグラムン元公爵の反乱の時、お父様を王室派からアーグラムン公爵派へと寝返らせるための人質として捕らわれていたわたしを、真っ先に見付けて救い出してくれたご主人様。

 その時も、そんな風にわたしを(いたわ)り、優しく頭を撫でてくれた。


 ああ……そうか、わたしは、その時にはもう……。


 だから、その時は思わず駆け寄って(すが)り付いてしまいそうになっただけだったけど、今日は本当に縋り付いてしまったんだ。

 きっとその頃から、リリアナはわたし自身でも気付いていなかったわたしの本当の気持ちに気付いていて、ご主人様に付いて領地に行かなくて良かったのかと何度も言っていたのね。


「気持ちの整理が付いたなら、お館様にもう一度ちゃんと自分の気持ちを伝えた方がいい」


 まるで姉のような顔で、リリアナがわたしの頭を撫でてくれる。


「……そうね」


 わたしも覚悟を決めないといけないみたい。


「でも、今はまだ恥ずかしいから、また後で……」


 姉のように優しかったリリアナの顔が、一瞬で、鬼教官みたいな顔に変わった。


「そんなこと言っていたら、一生告白なんて出来ないだろう。善は急げ。気持ちが固まったのなら、今すぐ想いを伝えないでどうするんだ」

「えっ、ちょ……ええっ!?」


 いきなり腕を掴まれて、強引に立ち上がらせられたと思ったら、そのままドアの方へ引っ張られてしまう。


「ま、待ってリリアナ! さっきの今で恥ずかしいし、まだ勇気が、覚悟が――!」

「お館様の所に着くまでに勇気を振り絞って覚悟を決めるんだ」

「そんな!?」


 だからリリアナはデリカシーが足りないって言うのよ!



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