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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第二十三章 宣戦布告、そして開戦へ

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684 ようやくの自覚

「や……」

「や?」

「やれるもんならやってみるがいい! 貴様のような農民上がりの大ボラ吹きの言うことを、誰が信じると!? 王太子殿下の忠実な臣にして、皇帝陛下の忠実な(しもべ)たるこの私の言葉と、無礼で愚かで下賤な成り上がり者の貴様の言葉と、どちらが正しいかなど(はか)るまでもない!」


 こいつ、居直りやがった。


「おいおい、笑わせてくれるなよ。『どちらが正しいか』だって? どっちが大ボラ吹きなんだか」


 俺を悪者に仕立てて、ないことないこと吹聴して回るって宣言したようなもんじゃないか。

 自分が言ってる言葉の意味、ちゃんと理解してないんじゃないか?


「元農民の成り上がり者のにわか貴族から女の子一人奪い損ねたからって、いいお貴族様が、被害者(ヅラ)してわめき散らそうってのか? よくもまあそんな情けない真似を平気で出来るな。つまり、あの馬鹿王子の周りには、お前程度の恥知らずしかいないってことか。程度が知れるってもんだよな。ああ、ひいてはゾルティエ帝国と皇帝陛下の名も(おとし)めることになるな。恥を知れよ、王太子殿下の忠実な臣にして、皇帝陛下の忠実な僕たるビルレグトン伯爵殿」

「貴様ぁっ!!」


 血管がブチ切れそうな程に浮かび上がって、真っ赤になってるな。

 これ以上、この馬鹿に付き合うのは時間の無駄だし馬鹿らしい。


「リリアナ」

「はっ、お館様」

「こいつを即刻叩き出せ」

「え……いいんですか?」

「ああ、構わないから外に放り出して、このみっともないブヨブヨのケツを蹴り飛ばして追い返してやれ。責任は俺が取る」

「……はっ!」


 一瞬躊躇ったものの、やっぱりパティーナがこんな目に遭わされて腹に据えかねてたんだろう。

 据わった目で、穢らわしい物でも掴むようにビルレグトン伯爵の腕を掴むと、強引に応接室の外へと引っ張っていく。


「放せ! たかが女騎士風情が! この私を誰だと思っている! 貴様! このような真似をしてただで済むと思っているのか!?」

「決着を付けたかったら戦場へ出てこい。この俺が直々に捻り潰してやる。それとも俺が怖くて尻尾を巻いて逃げるか?」

「言いおったなこの偽物英雄が! 貴様こそ逃げるなよ! この私自ら、くびり殺してやる!」

「ああ、楽しみにしててやるから絶対に逃げるなよ。俺を敵に回したこと、死ぬほど後悔させてやる」


 ビルレグトン伯爵がリリアナに連行されながら騒ぐ声が、廊下の向こうに遠ざかって行き、少しして館の外から、ドガッと重たい音と『ぐぎゃ!?』って情けない悲鳴が聞こえてきた。


 まさか本当に蹴り飛ばすとは思わなかったな。

 でも、いい気味だ。

 リリアナも少しはスッキリしただろう。


「よろしかったのでしょうか?」


 険しい顔でずっと扉近くで控えてたメリザが、若干の戸惑いと不安を押し隠すようにして、俺に確認してきた。

 外から耳障りな罵声が聞こえてくるけどガン無視して、メリザに目を向ける。


「ああ。パティーナを渡すわけにはいかないだろう? それにその必要もない。どっちにしろ戦争になるのは決まってるんだ。結果は同じだ」

「そう、ですか……」


 フィーナ姫の誕生日パーティーの一件から事態を説明してるし、宣戦布告された話もすでにしといたけど、まだどこか現実味がなくて信じきれない部分があったんだろう。

 でも、こういうトラブルが起きたことで、より戦争になるってことを実感したに違いない。


 だけど、さすがはメリザだ。

 戸惑いや不安を飲み込んで、腹が据わった目で顔を上げる。


「メリザ、悪いけど、大至急抗議するよう、事の次第を外務省へ報告頼む。それから、さすがに王城内でそこまではしないと思うけど、あの馬鹿が護衛の兵を引き連れて報復に来た場合に備えて、リリアナ達に警戒をするよう伝達と、警備兵の詰め所に連絡を頼む」


 外務省には、本当なら俺が行った方がいいと思うんだけど。

 しがみついたまま、俺の胸に顔を埋めるようにしてまだ震えが止まらないパティーナへ、チラリと目を向ける。


「畏まりました」


 察してくれたメリザが、一礼してすぐに動いてくれた。

 そうして、応接室には俺とパティーナだけになる。


「大丈夫だったか、パティーナ?」


 優しく穏やかに、そして(いたわ)るように声をかけて、背中を撫でてやる。


「も……申し訳ありません……わ、わた……わたしが、至らないばかりに……」

「パティーナが謝るようなことは何もないぞ? 全部、あの馬鹿貴族が悪い」


 即日謁見をしなかったり、綺麗所を宛てがってのご機嫌取りをしなかったりと、塩対応だったからな。

 苛ついて、ここぞとばかりに憂さ晴しをしに来たんだろう。

 救国の英雄って呼ばれる俺がビビって下手に出れば、マイゼル王国に恥を掻かせ、士気を落とせるからな。


 パティーナはその被害者でしかない。


「で、ですが……ご主人様の立場を悪くして……」

「そんなの平気だから気にするな、って言っても立場上、気にしちゃうんだろうけど、本当に平気だから気にしなくていいからな?」

「ですが……」

「むしろ、よくやったと褒められると思うけどな」

「それはさすがに……」


 まあ、褒められるってのはさすがにないかもだけど、だからってそこまで咎められることはないと思う。

 仮にあっても、多分形だけだ。


「そもそもフィーナ姫の誕生日パーティーで、フィーナ姫もアイゼ様も、あいつらの馬鹿王子に舐められ、コケにされ、マイゼル王国貴族全員が恥を掻かされたんだ。なのにやり返すどころか、あんな馬鹿の顔色を窺っていいようにされたんじゃ、むしろそっちの方が俺の立場がないって」

「それは……確かに、そうかも知れません……ね」


 少しは落ち着けたのか、俺に(すが)り付く強ばってた手の力が緩んで、震えも多少はマシになる。


「それより、助けるのが遅くなって本当に悪かった。最初から俺がいたら、あんな真似をさせやしなかったのに」

「い、いえ、ご主人様のせいではありませんから」

「でも、よく頑張って耐えたな、偉いぞ」


 優しく頭を撫でると、胸に埋めてた顔を驚いたように上げた。

 目は赤くなって、頬に涙の跡が残ってるけど、震えも止まってくれたみたいだ。


「少し待たせることになるけど、戦場でちゃんと落とし前は付けさせるから、今はそれで許してくれ」

「そんな、わたしがご主人様のことを怒ったり責めたりなんてするわけがありません」

「そっか、ありがとう」

「い、いえ、わたしの方こそ、助けて戴きありがとうございました。お礼が遅くなり済みません」


 戸惑い慌てるパティーナの反応が少し面白くて、つい笑みが零れてしまう。

 もう大丈夫そうだな。


「……」


 と思ったら、何故か不意に黙り込んでしまう。

 それで、じっと俺を見上げてきた。


「パティーナ?」

「……」


「あの、パティーナ?」

「……」


 呼びかけても反応がない。


「どうしたパティーナ?」


 軽く身体を揺すると、はっと我に返って身を固くした。


「は、はい! わたし、ご主人様が好きです!」


 …………。


「えっ!?」

「――っ!? わ、わたし何を言って――!?」


 顔中耳まで真っ赤になって、パティーナがあわあわ狼狽える。

 それから自分が今どんな態勢でいるのか思い出したように、後ろ向きにひっくり返るんじゃないかって慌てぶりで俺の腕の中から抜け出した。


「し、失礼します!」


 そしてまた涙目になって深々と頭を下げると、普段のおしとやかな淑女っぷりが嘘みたいな脱兎の勢いで、応接室を飛び出して行ってしまった。


「…………」


 ……不意打ちでビックリし過ぎて、なんのリアクションも取れなかった。

 一人取り残されてしまった俺は、ここで一体どんな顔をすれば……?

 だって、まさかパティーナが……。


「お館様。ご命令通りあの者を叩き出し、蹴り飛ばしてきました。館の警備も整え、たとえまたあの者がやってきても――お館様?」


 報告に戻って来たらしいリリアナが、俺を見て小首を傾げる。

 なんかもう急激に恥ずかしくなってきて、耳まで熱くなってしまった顔を逸らし気味に腕で隠す。


「そうか、ご苦労様。そのまま警戒を続けてくれ」

「はっ。ところでお館様、ここに来る途中、真っ赤になった挙動不審のパティーナとすれ違ったのですが……もしかして、パティーナに?」

「い、いや違う! 告白なんてされてないぞ!?」


 …………。


 って、なんで自分からバラしてんだ俺は!?

 いやそれ以前に、パティーナも動揺してたし、思わずって感じだったから、もしかしたら俺の勘違いでそういう意味じゃなかった可能性も――


「えっ、本当に告白だったのですか!? パティーナ、ようやく自覚したのですね! これは後でパティーナに詳しく話を聞かないと!」

「――ちょ、待った! って言うか、ようやく自覚って!?」

「それは――いえ、さすがにそれは、自分が勝手に口にしていいことではないので。後ほどパティーナに直接聞いて下さい」


 それはそうかも知れないけど、この状況での中途半端な情報は、(かえ)って混乱するんだけど!?


「エメル様、警備兵の詰め所へ先に使いを出しました。これからわたしも外務省へ報告に行って参ります。パティーナは心労のためか、熱を出してしまったようなので、部屋へ戻し休ませました」

「そ、そうか、分かった」

「……エメル様?」

「い、いや、なんでもない」

「? では、行って参ります」

「ああ、頼んだ」


 ふぅ……。


「お館様は、この後、領地へ戻られるのですよね?」

「あ、ああ、そのつもりだったんだけど……」


 パティーナのこと、このまま放って領地へ戻っていいのか?


「いや、戻るのは明日に延期する」


 あの馬鹿貴族が報復に来る可能性もあるし、今ここを離れるのは不味いだろう。


「そうですか。でしたら、パティーナのことはまずは自分にお任せを。パティーナも恐らく自覚した勢いでの告白だったと思いますから、気持ちを整理する時間が必要でしょうし、自分が先に話を聞いてみます。お館様には、その後で、今夜か明日にでもあの子と話をしてあげて下さい」

「そ、そうか? じゃあその……頼めるか?」

「はっ、お任せを」


 ちょっと情けないけど、まずはリリアナに任せよう。

 俺も、頭と気持ちを整理する時間が欲しいしな。



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