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628 フィーナシャイアの誕生日パーティー フォレート王国

 同盟国であるナード王国のナーダー陛下と第二王妃殿下、ナーザク伯爵と大使の次にお祝いの挨拶に来たのは、マリーリーフ殿下とアルル姫、そして使節団の代表と大使のシェーラル伯爵だった。


「おめでとうございます、フィーナシャイア殿下」

「お、おめ……でとう、ご、ござい、ます」


 無難で型通りの挨拶の後、マリーリーフ殿下とアルル姫とは続けて談笑になる。


「そのドレス、また新作ですね。とてもよくお似合いです。毎回その斬新なデザインを生み出せるメイワード伯爵もさることながら、それを着こなし美しく映えさせるフィーナシャイア殿下のセンスもまた素晴らしいですね」

「ふふ、ありがとうございます。マリーリーフ殿下のドレスも新作ですね。フォレート王国風のドレスはスリムなシルエットでありながら、マイゼル王国風のボリュームがあるドレスと比べて見劣りするどころか、気品と可憐さに加えそこはかとなく上品な色気を漂わせています。それを着こなせるマリーリーフ殿下のセンスも大変素晴らしいです」


 フィーナ姫の言う通り、今日のマリーリーフ殿下はいつにも増して綺麗で凛として、気高い一輪の花みたいだ。

 やっぱり王女だけあって、他のエルフの女性がどれだけ綺麗でも、群を抜いて綺麗だと思う。

 思わず見とれてしまうよ。


 ただ一つ気になるのは、何かを求めるように時折チラリチラリと俺に視線を向けてくることだけど……。

 公の場で王女同士で談笑中だから、声をかけられるまで遠慮して口は挟まない。


「アルル殿下の本日のドレスは、マイゼル王国風ではなく、フォレート王国風ですか」

「フォレート王国の代表……だから、そ、そうしろと……マリーリーフ様が」


 対して、アルル姫のテンションはやや低めだ。

 やっぱりフォレート王国風のドレスより、マイゼル王国風のドレスの方が好みだから、テンションが上がらないのかもな。

 こういうところは、本当に女の子だと思うよ。


 そんな風に、フィーナ姫とマリーリーフ殿下と王女同士、そしてアイゼ様とアルル姫も男の娘同士、何度かお茶会を開いて交流を深めてきたから、お互いに気安い口調で話が弾む。


 実はナード王国からナーダー陛下と第二王妃殿下が忙しい中やってきたのは、マリーリーフ殿下とアルル姫が一年近く滞在してたことも理由の一つだ。


 両国間に緊張があるとはいえ、その緊張を解消するって名目で親善大使と留学生が滞在してる以上、お互いに、王太女の誕生日パーティーに出席しないわけにも、招待しないわけにもいかない。


 加えて、何を企んでるのか知らないけど、レガス王国からも王太子殿下がやってくることになった。

 レガス王国とも、フィーナ姫の婚約の話し合いを一方的に打ち切られた上に、レガス王国側の態度が悪くて、マイゼル王国側としてはわだかまりがある。


 事情はどうあれそんな国々から王族が参加するのに、同盟国から王族が参加しないわけにはいかなかったわけだ。


 しかもナード王国の王子と王女はまだ幼いし、フォレート王国とレガス王国と比べてマイゼル王国とより親しい間柄にあると喧伝したい。

 だからナーダー陛下自ら参加を表明したそうだ。


 そういう状況の発端となった親善大使のマリーリーフ殿下と留学生のアルル姫だけど、フォレート王国の思惑はともかく、二人とも政治から距離を取ってる分だけ個人的な友誼が結びやすかったから、四人の談笑は和やかだ。


 対して、フォレート王国の思惑を大きく反映してる使節団の代表と大使のシェーラル伯爵の態度は、決して友好的とは言いがたいけど。


 そんな風に王女同士、王子同士で談笑する中、ふと話が途切れたところで、アルル姫がチラリと俺に目を向けた。


「あ、あの、メイワード伯爵……このパーティーが終われば、ご領地へ、い、行くことになっていますが……よ、よろしい……でしょうか?」


 俯き気味に怖ず怖ずと、だけどチラチラと俺に期待の眼差しを向けてきた。

 アルル姫が言った通り、このフィーナ姫の誕生日パーティーが終わって数日後に出発し、俺の領地へやってくる約束になってる。


「はい、準備万端整えてますから、いつでもどうぞ」


 笑顔で歓迎を示すと、アルル姫が俯かせてた顔を上げて、ぱあっと笑顔になる。

 なんとなく小型犬って言うか、ワンコっぽくて、ちょっと可愛い。


「ありがとうございます、と、とても楽しみ……です」


 はにかんで、うっとり俺を見つめてきて、うん、やっぱり可愛い。

 アイゼ様もそうだけど、本当は男だって知らなかったら女の子にしか見えないよな。


「メイワード伯爵」


 と、せっかく楽しく会話してたのに、シェーラル伯爵が口を挟んでくる。


これでも(・・・・)第八王子殿下だ。無礼な真似や万が一のことがあれば許さんぞ」

「あんたに言われるまでもない」


 って言うか、『これでも』って言い草の方がよっぽど無礼だろう。


 シェーラル伯爵のせいで、空気がピリッと張り詰めて悪くなる。

 しかも、そんなのお構いなしって態度が腹立たしい。


 だけどそこで、さらに何か言おうとしたシェーラル伯爵の言葉を遮るように、マリーリーフ殿下が話に入ってきた。


「出来れば私も、メイワード伯爵の領地を一目見て、その領地経営の手腕を見てみたいのだけど、どうでしょう? 招待して戴けませんか?」


 張り詰めた空気が変わって助かったよ。

 だけどこれまでと違って、どこか遠慮するような、でも期待するような、ちょっとらしくない態度だ。


 リジャリエラに言われたことを、まだ気にしてるのかな?


 もう気にしないでいいように、そしてこれまで通りに戻って貰えるように、『いいですよ』と、『ただし受け入れ準備のために少し時間を下さい』と、にこやかに言おうと口を開きかけたところで邪魔が入る。


「いけません殿下。一度本国へ戻るよう、陛下よりご下命を賜っております」


 邪魔をしたのは、使節団の代表だ。

 って言うか、邪魔されたことより、その内容に驚く。


「……分かっています。言ってみただけです」

「えっ!? マリーリーフ殿下、帰るんですか?」


 思わずフィーナ姫とアイゼ様を振り返れば、二人とも初耳だったらしい。


「まあ、そうだったのですか?」

「アルル殿下もですか?」

「ぁ……ボ、ボクは、このまま、メイワード伯爵のご領地に……留学を、していい、そうです」


 フォレート王国へ戻るのはマリーリーフ殿下だけなのか。


「第八王子殿下も王都を離れるので、よい機会なので一度本国へ戻って、殿下から直接親善大使としての成果を報告するように、との陛下のお言葉です」


 マリーリーフ殿下じゃなく、使節団の代表が急いでそう付け加える。


 なんとなく、マリーリーフ殿下に喋らせないように遮ったようにも見えた。

 俺の領地へ来たいって話が、よほど意外だったのか、予定外だったのか、ちょっと焦ってるようにも見えるな。


 アルル姫の目的は俺の領地へ来て、俺の秘伝の秘密を探ることだけど、マリーリーフ殿下は王都で俺の秘伝の秘密を暴くことだ。

 俺の領地に偏らせたくない、って理由なら分かるけど、フォレート王国に戻ってしまうくらいなら、俺の領地に来た方が目的に適うはず。

 そうさせない、させたくなさそうに見えるのは何故だ?


『我が君、フォレート王国へ戻らせるのは建前のようです』


 建前?


『フォレート王国とシェーラル王国とガンドラルド王国との戦争に関し、なんらかの動きが予定されていて、マリーリーフ殿下がそれに巻き込まれないように、また人質に取られないように、フォレート王国へと戻すつもりのようです』


 なんらかの動きって……まさかマイゼル王国にまで戦争を仕掛けてくるとか!? しかも、王都へ!?


『そこまでは分かりません。使節団の代表と大使も、機密として詳しい事情は聞かされていないようです。しかもマリーリーフ殿下、アルル姫の二人に至っては、何も知らされていません』


 それはつまり裏にフォレート王国の陰謀があるって言ってるも同然だ。

 政治的にちょっと残念なところがあるマリーリーフ殿下や、(うと)まれて政治的なことから遠ざけられてるアルル姫は蚊帳の外にして、こっちに情報が漏れないようにしてるのかもな。


 それにしても、だとしたらアルル姫が俺の領地に来るのを認めてるのは何故だ?

 留学の成果の報告ってことにして、一緒に帰ってもおかしくないよな。


 もし万が一、王都へ攻め入ってきたら、俺の領地にいようとアルル姫がこっちの人質になるだろう?

 アルル姫の事情からどれだけ疎んでても、王族が人質にされたら、対外的に放置ってわけにはいかないはずだ。


 そこのところ、もう少し詳しく話を聞きたいな。

 どうにか誘導して探り出せないだろうか。


「あまり長くなっては他の方々がご挨拶出来ないでしょう。それでは我々はこれで」


 あ……!


 話を誘導出来ないか考えてる間に、使節団の代表が挨拶を切り上げてしまう。


「そう、ですね。では失礼します、フィーナシャイア殿下、アイゼスオート殿下」

「そ、それ、では……」


 何か言いたそうな目で、一度俺を見た後、マリーリーフ殿下がそれを振り切るように、アルル姫がもっと話したそうにしながらも、挨拶を終えて離れてしまう。

 当然、使節団の代表も大使のシェーラル伯爵もだ。

 むしろ、マリーリーフ殿下とアルル姫にこれ以上何も喋らせないようにと、俺達から引き離すように。


「慌ただしく切り上げましたね……」

「まるで不都合を隠すような……」


 フィーナ姫もアイゼ様も、そう感じたらしい。


「俺もそう思います」


 だから、俺も同意する。


「もしかしたらフォレート王国が何か仕掛けてくるのかも知れません。確証はないですけど」

「つまり、王都に両殿下がいては困る、と?」

「本国へ戻られるのも、エメルの領地へ行くのも、口実に過ぎないと言うことか?」

「そこまでは俺にも分かりません。でも、何かしらの企みがあるんじゃないかと思います。それもマリーリーフ殿下にもアルル姫にも知らせずに」


 俺の補足に、アイゼ様とフィーナ姫が思案する。


「ふむ……先ほどの違和感はそれか。まるでマリーリーフ殿下にあれ以上、喋らせないようにしたように見えたからな」

「こちらでも調べた方が良いかも知れませんね」


 二人の言葉に頷く。

 もうちょっとつついて情報を引き出したかったけど、機密として知らされてない以上、キリに読んで貰っても、欲しいほど情報は出てこないかも知れなかったからな。


 王家の暗部が動いてくれるなら、プロに任せといた方がいいだろう。


 もっと色々と考察したいところだけど、残念ながらその時間がない。

 まだ参加者の挨拶は始まったばかり。


 しかも次は、招かれざる客。

 レガス王国の王太子だ。



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