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611 秘密のトンネルを掘ろう!

 新主要街道からウクザムスへの新しい街道は、実は新主要街道のようにただひたすら一直線に作ったわけじゃない。

 簡単に言えば、『ヘ』の字の最後に『-』を足したように曲がる箇所が二箇所ある。


 何故かと言えば、ウクザムスの東門から真っ直ぐに道を作ると、新主要街道には到達しないで、いずれ領境の川を越えてお隣のマグワイザー辺境伯領へ入ってしまい、北の関所の遥か北を通過することになっちゃうから。

 ウクザムスの東門は飽くまで町の東側にあるから東門なんであって、別に真東を向いてるわけじゃないんだよね。


 じゃあってことで、新主要街道まで一直線で繋がるようにしようとすると、今度は東門を出てすぐやや右斜め方向へ向かうことになる。

 これはちょっと見栄えが悪い。


 それに、すでに街道沿いにエレメンタリー・ミニチュアガーデンで使ってる畑が延々と広がってるから、中途半端にそこを斜めに突っ切っていって、またそれに従って畑を区画整理してやるのが面倒だったって言うのもある。


 なので、畑が途切れてしばらく進むまでは東門からおよそ東北東へ真っ直ぐ向かって、そこから東南東方向へ曲がって新主要街道を目指したわけだ。


 そうして新主要街道を目指すルートだけど、前回は一直線に南北を結びたかったから仕方なかったとは言え、丘を削ったり、窪地や沼を埋立てたり、川の流れを変えたりしまくったから、今回はそういう作業は極力減らしたかった。

 力押しで真っ直ぐ進むのも面白かったけど、今度は別に東西を一直線で結びたいわけじゃなかったから、巨大ジオラマを参考に、距離が長くなり過ぎない程度に、それらを可能な限り避けるルートにしたわけだ。


 最後は、新主要街道と直角に交わるように調整するため、ほぼ東へ向けて曲がって、新主要街道と接続した。


 新主要街道との接続地点は、旧街道への曲がり道からさらに少し南に位置してるけど、途中の川や丘、かつての魔物や危険な獣の縄張りを避けてぐねぐねと大きく蛇行してた旧街道と比べて、遥かにウクザムスへの時間が短縮された。


 具体的には、北の関所を越えてからウクザムスに到着するのに馬車で六時間くらい掛かってたのが、四時間くらいになった。


 たった二時間、されど二時間だ。

 二時間も移動すれば、途中で馬を休ませないと駄目だし、乗ってる方も尻が痛くなって休みたくなるだろう。

 その休憩時間も別途短縮されるわけだからな。


 いずれ他の街道も整備して、そっちでも時間が短縮されれば、累積してかなりの移動時間の短縮になる。

 流通や人の移動が盛んになれば、それだけで経済が活性化するわけだから、今後もタイミングを見ながら領内各地の街道整備は進めていきたいもんだ。


 と言うわけで、続けて、ウクザムスの南門から出発して、西の湖を南回りで迂回して、西に半日程離れたセセジオの町へと向かう街道整備に着手する。


 本当は、湖を迂回せず西に一直線に行きたいけど、漁業、水運、南の森で伐採した木材を浮かべて船で輸送と、湖は何かと重要なんで、さすがに埋立てたり、景観としても船の往来に邪魔な橋を架けたり出来ないから、迂回ルートだ。


 実はセセジオは、商業都市として発展を始めたレグアスや、銅山が側にあるルグス、石切場があるザンドスに比べると、これといった特産や特徴がない。

 ごく普通の小さな町だ。


 じゃあ、なんでそんなセセジオまでの街道整備を優先するのかって言うと、理由は二つある。


 一つは、ビール工場の場所が決まったからだ。


 ウクザムスの西の湖から、西へ向かって川を上流へ遡っていくと、セセジオに到達する。

 そしてセセジオの西側から川は向きを変えて南へ向かい、山脈へと至る。


 ドワーフの酒造り職人達が領内をあちこち見て回った結果、水を使うならそこがいいって言うんで、この川沿いの山脈の麓にビール工場を建設することになったわけだ。


 それで、せっかくだからセセジオは小麦より大麦を特産にするよう推奨してみた。

 その大麦を、ビール工場で使うわけだな。


 そうなると町の住人のための小麦その他の食料生産が足りなくなるから、その輸送路の意味も含めて、川の水運だけじゃなく、陸路も整備した方がいいに決まってる。


 加えて言うと、ビールが軌道に乗ったらウィスキーにも着手して欲しいから、いずれビールやお酒の町になれるよう、代官、町の住人、酒造り職人達で話し合って、色々提案して欲しいって話もしといた。

 そうなれば、お酒を買い付ける商人だけじゃなく、お酒目当てでセセジオを訪れる領民や旅行者も増えるだろうから、いずれ街道整備は必須になる。


 そしてもう一つは、セセジオのさらに西側に、もう一本トンネルを掘るためだ。


「と言うわけで、セセジオまでの街道整備をするって名目で、そっちは一旦後回しにして、今日からトンネル工事に入る。エフメラ、リジャリエラ、手伝い頼んだぞ」

「うん」

「ハイ」


 エフメラは慣れたもんで元気よく、リジャリエラは戸惑い気味に返事をしてくれた。


「まさか、トンネルまで作ることになるとは思わなかったか?」

「ハイ。それも、誰にも秘密でと言われまシタから」


 そう、このトンネル工事のことは秘密にしてる。

 俺達三人以外に知ってるのは、エレーナとモザミア、ナサイグだけだ。

 念のため、ユレースにもウルファーにも、その他文官武官にも秘密にしてある。


「これから掘るトンネルは、その存在はいざって時まで秘密にしとくつもりだ」

「そのいざって何?」

「去年の夏、リジャリエラ達が引き渡される前に、ジェラッド達、元グルンバルドン公爵領軍の騎士や兵士達、スラムの連中が移民としてやってきただろう? その時、他領からの侵略かって、騒ぎになったよな」

「ああ、あったね」

「お話だけハ聞いていマス」


「で、その時に、山脈のあっちとこっちを行き来するのが今のトンネル一本だけだと、そこを敵に押さえられたら、南北の物資の輸送や、山脈のあっちで軍事行動を取られたときに兵を派遣出来なくて困るって話が出たんだ」

「だからもう一本ここにトンネルを掘るんだね」

「そういうことだ」


 秘密にしとくのは、トンネルを押さえたことで敵が油断してくれれば、この新しいトンネルを使った作戦がやりやすくなるからだ。

 つまり、ウクザムスからセセジオまでの街道整備をしとくのは、二つ目の理由、このトンネルへのアクセスを考えて、少しでも迅速に利用できるようにするためって言うのが大きい。


 ただし、その街道とは繋がない。

 山脈のあっちとこっちを行き来できるだけに留めておく。


 だって街道と繋いで整備しちゃったら、トンネルの存在がバレちゃうからな。


 さらに東にももう一本こっそり欲しいけど、万が一、フォレート王国やシェーラル王国が攻めてきたら東から来るわけだから、間違っても発見されて利用されないように、今回は保留だ。


「だからリジャリエラ。いざって時には、特務部隊にこのトンネルを利用させて構わない。もちろんその時まで秘密だけどな」

「ハイ、分かりまシタ」


 と言うわけで、早速トンネル工事に取りかかる。


 こっちも手順は前回と同じだ。

 違うのはトンネルの規模だな。


 新主要街道を繋ぐトンネルは、荷馬車がすれ違えるように、トロルも通れるようにってことで、幅は三メートルを二車線と、両側に二メートル幅の歩道を取って、合わせて十メートルで、高さは六メートルだった。


 でも、そんな大きなトンネルは遠目からでもかなり目立つ。

 それに、普段は使わないし、トロルも通す必要はないから、もっと小さくていい。


 幅は三メートルを一車線と、両側に一メートル幅の歩道を取って、合わせて五メートルで、高さは馬車や馬に乗って通れればいいから、三.五メートルだ。

 まあ、この高さなら、屈めばトロルも通れるけど。


 ともあれ、そのサイズで岩に切れ目を入れて、五十メートル先で切断。


 グラビティフィールドで半分にまで圧縮して、重さをほぼゼロにして引っ張り出す。


「あっという間に大きな穴ガ……」


 リジャリエラ、唖然としてるな。


「トンネル作るのなんて、簡単だろう?」

「……さすがご領主様(精霊王様)デス。街道の時も驚きましたガ、もっと驚きまシタ。今日中に、向こう側まで開通しそうデスね……」

「ああ、そのつもりだ。さあ、どんどん行くぞ」


 と言うわけで、前回同様に、周囲の壁や床の岩を圧縮して頑丈にして、くり貫いて圧縮した岩をエアカッターで石畳にして床と壁と天井に配置して、床や壁や天井と一体化させてそう簡単に崩れたりしないようにして。


 今回は長さ八キロメートル程のトンネルを、およそ四日で完成させた。

 サイズが四分の一程と小さかったのと、最初から大きな水脈は避けてたのと、特殊な契約精霊の数がさらに増えてたのと、リジャリエラの手伝いがあったおかげで、前回よりいいペースで作業が進んだおかげだな。


「じゃあ、両方の入り口は、カムフラージュした薄い岩で塞いどくから、使う時はどかすか壊すかしてから使ってくれ」

「ハイ」


 開けっぱなしにして偶然発見されたり、他領から入り込んできた犯罪者や密偵、魔物や獣が住み着いたりしても困るからな。


「ああ、あと、通る前に強風を起こして空気を入れ換えるのも忘れないように。空気が澱んでると思うからさ。周囲は固めてるし、鉱山じゃないから有毒ガスが発生してるってことはないと思うけど、そういう意味でも念のために、な」

「ハイ。呼吸にハ、空気に含まれる適切な量の『サンソ』ガ必要だから、デスね」

「その通り。勉強会の成果が出てるな」

「ありがとうございマス」


 褒められて嬉しそうだ。

 最近、勉強会頑張ってるからな。

 俺も褒めるタイミングがあって良かったよ。

 是非、次のモチベーションに繋げて貰いたいもんだ。


「それに今回ハ、精霊魔法ヲ使った土木作業の勉強にもなりまシタ」

「さすがに力押しで一般的じゃない方法だけど、リジャリエラなら精霊力を増やして作業に慣れれば、同じ事が出来るようになると思う」

「ハイ、いつか一人でも出来るように頑張りマス」

「ああ、期待してる。頼んだ」


 ゆくゆくは、特務部隊にも同じような仕事を出来るようになって貰いたいからな。

 まずは、特別顧問のリジャリエラに頑張って貰おう。



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