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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第二十章 お隣で戦争が始まってマイゼル王国への影響が気になるところ

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600 シェーラル王国の動向 一月某日開戦直前

◆◆◆



 一月某日。


 シェーラル王国では西に国境を接するガンドラルド王国への侵攻のため、辺境伯の領地にある国境の砦へと、王国軍と辺境伯領軍のみならず各地の貴族の領軍から、果てはフォレート王国との国境を守る辺境伯領軍からまでも部隊が抽出され、多くの戦力が集結しつつあった。


 冬の最中(さなか)での行軍のため、当然、兵の負担は大きくなる。

 正規兵のみならず、徴兵された民兵も数多くいたため、それは余計にだろう。


 しかし、七万を越えて八万にも届こうと言う兵力を動員しての、かつて奪われた領土の奪還。それは、シェーラル王国史上、最大の作戦だ。

 その情報は首脳部の熱気と意気込みと共に末端の兵達にまで広まっており、それら負担と不満を上回る、ある種の期待と興奮で、季節外れの軍事行動でありながら全軍の士気は高かった。


 シェーラル王国は、マイゼル王国より東へ、ガンドラルド王国の北部の領土を隔てた先にあり、元より冬の寒さはさほど厳しい地域ではない。

 山がちで森が多い国土であり、標高が高い地域であれば雪も多く寒いが、今冬は、平野部では例年と比べそれほど降雪が見られなかったことも大きいだろう。


 それは、まさに天の配剤である。

 シェーラル王国の首脳部は、そう考えたのだ。


 しかし、シェーラル王国史上最大の大規模侵攻を決定する要因としては、それはささやかな理由でしかない。


「諸侯よ、民よ、聞くが良い! 無敗を誇ったかの大国、ガンドラルド王国は、マイゼル王国との戦争でまさかの敗北を喫し、万を超えるトロル騎士を含め、およそ七万もの兵を失った! そう、常勝無敗の神話は脆くも崩れ去ったのだ! しかも、我がシェーラル王国と国境を接するトロルロードの北の公爵が治める北部と、トロル騎士を派兵したトロルロードの王の直轄地の中央において、特に大きく兵力が減じている!」


 そう、最大の要因は、その歴史的大事件にあった。


「しかも王都と王城まで直接被害を被り、復興の最中にある! さらに北部の一部とは言え、かつて奪い取った領土をマイゼル王国へ返還すると言う醜態をさらし! それら地域より引き上げた市井のトロルどもの受け入れや、奴隷の引き渡しなど、国政の負担と混乱も大きい! 加えて、領土を失ったことで食料生産量も落ち、トロルどもにはしばらく大規模な戦争を行う余裕はない! これを好機と呼ばずしてなんと呼ぶ!」


 人間年齢で言えばすでに五十の手前になる、この世界では老齢となるシェーラル王国国王、カーマシュテイン・グランセル・シェルラードルの、常にない程興奮し、拳を突き上げ振り回し、荒々しく領土奪還作戦を下知する演説が、王都にて行われた程だ。


 これに、多くの貴族と民衆が湧いたのは言うまでもない。


 しかし、その勇ましい演説とは裏腹に、裏での上層部の動きは慌ただしく、あまり余裕もなかった。


 本来であれば、敗戦から復興するには相当な時間と労力が掛かるもの。

 腰を据えてじっくり入念に策を練り、それから兵を集めても十分に間に合う。

 それこそ、侵攻の開始を数年以上遅らせる結果となるが、多くの周辺国と連携を取り、同時に侵攻してより多くの戦果を上げるべきところだろう。


 しかし、エルフにとってはたかが数年でも、シェーラル王国もフォレート王国も、今はそのたかが数年の時間を掛けている余裕がなかった。

 その好機が、時間と共に急速に失われていっているからである。


 それは、ガンドラルド王国自身が態勢を立て直していると言う、ありきたりの話ではない。

 エメルが交易を行い、多くの食料をガンドラルド王国へ提供することで、それら混乱と負担を一部とは言え軽減させているのが原因だった。


 他国と足並みを揃えるためには、尋常ではない労力と時間が掛かる。

 悠長なことを言っていて、さらにエメルに余計な真似をされては、好機そのものを失いかねなかった。


「そのような状況は決して看過できん! (いや)しいトロルども、妖魔の侵略と横暴を幇助(ほうじょ)するがごとき、許されざる行為と言えよう!」


 続く演説において、国王カーマシュテインは直接名指しをしなかったが、明らかにエメルを非難する。

 それには、いざマイゼル王国と事を構えることになった場合の大義名分が含まれていた。


 そう、それを口にした国王カーマシュテインも、その演説の草案を作成した宰相も、また政治的に知恵の回る貴族達も、それが単なる大義名分でしかないことを十二分に理解していた。


 自分達が声高に叫んでいる好機を生み出したのは、他ならぬそのエメルである。

 しかも、敗戦国との交易で多大な利益を上げるのは勝者の当然の権利だ。

 報告されているエメルの方針、つまり小国として大国に恩を売り、存在感を示すことで、将来の侵略の危険を軽減する政策だと言うその先見の明に、むしろ感心を覚えた者も多い。


 しかし、それはそれ、これはこれ。

 政治的に利用できるのであれば、白でも黒になる。


「よって我らは正義の鉄槌を下さなくてはならん! 二度と我らに逆らえんよう、今こそ我ら高貴なるエルフの、シェーラル王国の『力』を、愚劣な蛮族たるトロルどもに思い知らせてやるのだ!」


 そう締め括られた国王の演説に、フォレート王国の影響力が増して属国化を懸念する貴族達ですら、利害を秤にかけて、反対の声を上げることはなかった。


 こうして、七万を越える兵力が動員されることとなったのである。



「もはや勝ったも同然だな」


 ご機嫌な国王カーマシュテインに、首脳部の面々は頭を抱えたい気分だった。


「よいですか陛下。後方でどんと構えて、決して自ら前線に出ようなどとなさらないで下さい」

「ええい、くどい。分かっている」


 何しろ、国王カーマシュテイン自ら、国境の砦へとやってきたからである。

 それも、総大将として。


「これほどの兵を束ね、大戦(おおいくさ)で勝利を収められるのは、この儂しかおらんだろう」

「はあ……そうでございますな」

「なんだその気のない返事は」

「いえ、まさに(おっしゃ)る通りかと」


 当然、周囲は反対した。

 年寄りの冷や水だと。

 老齢の王が今更出しゃばるなと。


 なぜなら周囲は、国王カーマシュテインの性格を熟知していたからだ。


 国王カーマシュテインは、とにかく見栄やメンツに人一倍こだわる。

 わざわざ出しゃばってきたのも、歴代の国王達が奪われてきた領土を奪還した名君、賢君として、歴史に名を残し未来永劫語り継がれたい、と言う自己顕示欲と野望を抱いていることが明白だった。


「王家の権威を高め、反抗的な貴族達の頭を押さえることが目的であれば、王太子殿下や王太孫殿下が指揮を執るので十分だろうに」

「その功績を以て王位を譲れば、今後数十年から百年、王家の威光があまねく国土を照らし、シェーラル王国は安寧の時代を迎えることになっただろうな」

「陛下もそれはご承知の上だ。承知の上で、目立ちたくて出張ってきているのだ」


 と、誰もが愚痴を漏らしていることを、国王カーマシュテインだけが知らない。


 しかし、そのように自尊心と自己顕示欲が強い国王であるが、決して無能ではなかった。


 フォレート王国が緩衝地帯としての役割を求めているとはいえ、併呑(へいどん)した方がマシと見限られ侵略されたり、傀儡(かいらい)の王を立てられ完全に属国化されたりすることもなく、これまで独立国の矜持を守ってきた。

 近年関係悪化の一途を辿る、南に国境を接する銀髪と褐色の肌を持つエルフのオルレーン王国とも、本格的な武力衝突に発展する事態だけは避けている。

 さらに、東に国境を接するオークのグドゥブーフ王国の大規模な侵略を許さず、小競り合いの範囲で収めてきた。


 その手腕は、決して根拠のないプライドだけが肥大した愚王ではない。


「だからこそ、面倒なお方なのだがな……」

「いっそ無能であれば、早々に王太子殿下に代替わりして戴くものを」

「しかも今回はすでに勝ちが見えている戦だ。後はどれくらい領土を奪還したところで満足するか、だからな」


 故に、そのような絶好の好機が目の前にぶら下がっていて、他者に功績を譲れるほど謙虚ではいられなかったのだ。


「儂の名は、歴代国王の中で最も燦然と輝くことになるに違いない。実に楽しみなことよな」


 もはやそれしか見えず、周囲など眼中になかった。


 そうして、日を追うごとに集う将兵を砦の高見より眺め、そう独りごちるのである。

 満面の笑みを浮かべながら。



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