6 精霊との契約
精霊との契約方法は行商人のおじさんが教えてくれた。
後は、俺と契約したいって精霊がいてくれるかどうか、だ。
普段から、その辺をふわふわと漂ってる野良の精霊に誰彼構わずお願いしてたから、そのうちの一人? 一体? くらい、そう思ってくれてると嬉しいんだけど。
取りあえず一度家まで戻ってみる。
なんだかんだで、家の側に居る精霊に一番よく頼んでるからな。
常に同じ精霊が家の側で漂ってるわけじゃないだろうけど、気分的にね。
家の周りをぐるっと見回してみれば、八属性の精霊全部が、いくつもふわふわと漂っていた。
「なあ、この中にさ、俺と契約してもいいって精霊、いる?」
結論から言うと、いた。
「うわっ!? ちょ、ちょっと待った!」
俺が安易に口走ったせいで、家の周りと、さらにちょっと離れたその辺りから、百を超える精霊が殺到してきた。
それで、俺の周りをグルグル回って、契約して、契約してっておねだりしてくる。
「気持ちは嬉しいんだけど、こんなにたくさんの精霊全部と契約出来るのか?」
思わず素で精霊に聞いちゃったんだけど、なんとなく返事が伝わってきた。
可能か不可能かで言えば可能だけど、同じ属性の精霊は一体だけじゃないと嫌だ、同じ属性でたくさんの精霊と契約するなら力を貸してやらない。
ってことみたいだ。
「じゃあ一つの属性につき一体で、八属性だから八体の精霊との契約だな。って言ってもどの精霊と契約すればいいのやら……」
いきなり火の精霊が喧嘩しだした。
同じ火の精霊同士、ガンガンぶつかり合って、敗者を蹴散らしていく。
風の精霊は一箇所に集まると、噴き出した風で吹き飛ばし合いで勝者を決め始めて、他の属性の精霊達も似たり寄ったりの方法で最後の一体が決まるまで、勝負を始めてしまった。
「えっと……」
肝心の俺、完全に蚊帳の外。
「ま、まあ、最後に残った精霊が一番強そうな精霊だし、いいのかな?」
あれよあれよと蹴散らされていく敗者達。
そうして十分も過ぎた頃、俺の前には一属性につき一体の精霊、つまり八体の精霊が残っていた。
「お前達が勝者で、俺と契約するってことでいいんだよな?」
頷いたように精霊達が揺れる。
「いきなり喧嘩をおっぱじめるからビックリしたけど、とにかく決まって良かったよ、うん」
深く考えるのはやめよう。
精霊には精霊の感性や流儀があるんだろう、多分。
「じゃあ、契約といこうか」
深呼吸して、並んだ八体の精霊を眺める。
「戦い勝ち残りし強き精霊達よ、我、エメルと契約せよ。我が力となり、我が願いを叶える助けとなれ。契約!!」
ババッとポーズを決めて、契約の文言を唱える。
ちなみに、そんなことする必要ないんだけどね。
契約してくれる精霊に、契約するって意思を込めて精霊力を渡せばいいんであって。
ま、せっかくこんな世界に転生したんだし、雰囲気作りね、雰囲気作り。
気分良くポーズを決めたところで、八属性の精霊力を、それぞれの精霊に向けて放出し注ぎ込んでいく。
せっかくだからサービスで、たっぷり圧縮した精霊力を、普段魔法をお願いするときに渡す量の十倍くらい一気に渡してみた。
「お……おお……おおっ!?」
これまでとは全く違う強い精霊力の存在感!
精霊達と精霊力によるパスというか絆というか、何かが繋がった感覚!
しかも、ピンポン球くらいだった精霊達が、一気にバレーボールくらいのサイズにまで膨れ上がってるし!
「たっぷり精霊力を渡したから、そのせいかな?」
行商人のおじさんの小鳥はテニスボールくらいだったけど。
契約精霊って、どのくらいまで大きくなるんだろう?
「そういえば名前を付けられるんだっけ。どんな名前がいいかな……イメージした姿を取ってくれるって言うし、格好良くて、属性のイメージに合って、分かりやすくて……」
色々と悩んで考えて、八体全てのイメージと名前を決める。
「よし、順番に名前を付けていくからな。まず土の精霊、お前の名前はモスだ」
イメージは牛の魔獣ベヒモス。
ベヒモスのモスだ。
「……おおっ!?」
土の精霊の形が崩れて、バレーボールサイズの牛の姿に変わっていく。
ディテールは大雑把で、小学生が粘土で作ったみたいに、のっぺりした感じだけど。
この先、モスに魔法を使って貰って成長させていったら、もっと大きく凛々しくリアルな牛の魔獣って姿に変わっていくのかな?
そうなるといいな。
続けて、残りの精霊にも名前を付けていく。
「水の精霊、お前の名前はサーペだ」
イメージは水蛇の魔獣サーペント。
サーペントのサーペだ。
「火の精霊、お前の名前はレドだ」
イメージは赤い竜レッドドラゴン。
レッドドラゴンのレドだ。
「風の精霊、お前の名前はロクだ」
イメージは巨鳥ロック。
ロックのロクだ。
「光の精霊、お前の名前はエンだ」
イメージは大天使アークエンジェル。
アークエンジェルのエンだ。
「闇の精霊、お前の名前はデーモだ」
イメージは大悪魔アークデーモン。
アークデーモンのデーモだ。
「生命の精霊、お前の名前はユニだ」
イメージは聖獣ユニコーン。
ユニコーンのユニだ。
「精神の精霊、お前の名前はキリだ」
イメージは戦乙女ヴァルキリー。
ヴァルキリーのキリだ。
「ふぅ……これで全部の精霊に名前を付けたな」
ネーミングセンスがないと言うなかれ。
例えば『ブリリアントホーリークロス』なんて大仰な名前を付けたとして。
『この前うちのブリリアントホーリークロスに頼んで精霊魔法を使ったんだけどさ』
なんて誰かに話したところで、『それってどの属性の精霊だったっけ?』って絶対に何度も聞き返されて、いつまで経っても覚えて貰えないに決まってる。
だから、名前は分かりやすくシンプルでいい。
いざという時に呼びやすいし。
改めて、名付けた契約精霊達を眺めた。
「こうして見ると、壮観かも」
それぞれが、俺のイメージ通りの姿に変化してる。
のっぺり感なのは仕方ないとしても、これまで頼ってた野良の精霊とは、その内包するエネルギーを桁違いに感じる。
「ファイアボール、もう六十四倍じゃ済まないかもなぁ……」
ともあれ。
「みんな、これからよろしくな」
人型を取った、エン、デーモ、キリは『はい!』とハッキリ人間の言葉で、動物型のモス、サーペ、レド、ロク、ユニは『グルル!』とか『シャー!』とかそれっぽい鳴き声で答えてくれた。
これからどこまで成長してくれるのか、ちょっと楽しみになってきた。
精霊だから姿形が変わっても、ふわふわと浮いてるのは変わらないし、実体化して触れられるようになるって話だから、大きくなったら乗って空とか飛べるようになるかも?
「よし、明日から新しいことに挑戦してみよう!」