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589 メイワード伯爵派結成記念パーティー 開会

 追加の招待客のせいで最後までバタバタしたけど、遂にパーティー当日になった。


 なんだかんだで王家が主催する公式行事や各種パーティー、さらに他の貴族家や他国の大使が主催するパーティーにも結構な数を出席して、パーティーの雰囲気自体にはすっかり慣れたと思う。

 とはいえ、ただ招待客として参加するだけなのと主催するのでは、当然だけど考えるべきことからやるべきことまで、何から何まで勝手が違うわけで。


 主催はまだ二度目だから、正直、緊張するし慣れてもない。


 何しろ、パーティーの規模や内容、成否その他で、招待客から色々と推し量られてしまうからな。

 積極的に粗探ししようって連中もいるだろうし。

 いい所を見せないと、付き合いその他、今後に関わってくることになる。


 さらに男女の出会いやらトラブルやら、果ては権謀術数から情報収集から勢力図の変動まで、貴族にとってこういう社交の場は、本当にもう一つの戦場だと思うよ。


 今回は特に祝い事があって開いたわけじゃないから、貴族達が順番に挨拶しに来るのを延々応対するんじゃなくて、逆にこっちから招待客を持て成すために挨拶して回ることになる。

 主催として招待客全員を回る面倒はあるけど、招待客は俺が選んだわけだから、普段パーティーで一緒になることがない貴族も多数招いてるし、公にしたい情報の発信や、逆に情報の収集など、今回も色々やらせて貰うつもりだ。


 おかげで、決して気楽にってわけにはいかないけど。

 でも、せっかく主催するんだ、前回同様、実のあるパーティーにしたいもんだ。


「ご主人様、そろそろ開会のお時間です。招待客の皆様は、全員会場へ入られました」

「分かった。ありがとうパティーナ」


 控え室のソファーから立ち上がって、アイゼ様とフィーナ姫を振り返る。

 残念ながら、やっぱり今回もアイゼ様は王子の正装でドレス姿じゃないけどさ。


「じゃあ行きましょうか」

「うむ」

「ええ」


 三人一緒に会場へ入ると、待ち時間の暇潰しか貴族達が挨拶を交わしたり歓談したりしてて、会場内はすでに賑やかだった。

 雑然って程じゃないけど、色んな派閥からの参加者がいるし、そういう意味でも話題は事欠かないらしい。


「あのような事があった後なのに、今回もグルンバルドン公爵は参加されるか」

「なぜあの派閥の者が? メイワード伯爵とは対立していたと思うが」

「見ない顔がいるな。何者だ?」


 などなど、主に派閥ごとに分かれて集まってるせいで、王室派じゃない貴族達は悪目立ちしてる感じだ。

 招待状をせびって来た連中は特にな。


 まあ、中にはユーグ男爵、ユーゴ男爵、ユーガム男爵みたいに、普段社交界に顔を出してないから全然顔を知られてないせいって人達もいるけど。


「さすがエメルだな。かなりの人数が集まったものだ」

「これほどの人数、一伯爵家では集めようと思って集められるものではないでしょう」


 会場の上座へと向かいながら招待客達を眺めて、アイゼ様とフィーナ姫が感心したように言う。


「まあ、予定ではもっと少ないはずだったんですけどね」


 何しろ、実に五十六家、百九十七人もの参加だ。

 前回は四十五家、百四十八人の参加だったから、かなり増えてる。


 しかもこの数、現在あるマイゼル王国の九十九貴族家のうち、実に過半数が集まってることになるんだ。


 アイゼ様の誕生日パーティーの時は、他派閥は完全に招待してなかったから、必然的にこれより人数が少なかった。

 つまり、対外的には王子様の誕生日パーティーより盛大なパーティーを開いたことになっちゃうわけで、それは本来、外聞的にあまりよろしくないんだけど……。


「構わぬ。そして気にする必要もない。王家がここまで権勢を取り戻せたのは全てエメルの『力』あってこそなのは、すでに平民の子供でも知っている話だ。王家を上回る『力』を持っていると示すことは、いずれ王権を移譲する時に説得力を持つだろう」


 との姫様の言葉で、じゃあ遠慮なく、ってことで参加者を増やしたわけだ。


 もちろん、過半数の貴族家が集まったからって、俺に王権を移譲して姫様とフィーナ姫と結婚するってなった時、その全ての貴族家が賛成してくれる……はずもなく。

 賛成してくれるのは、それこそまだほんの一握りだろうな。


 約束したとは言えリグエルだって不確定だし、モザミアの実家のユーグ男爵ですら賛成してくれるとは限らない。

 つまり、賛成してくれる貴族家を増やすためにも、このパーティーでより一層の『力』を示し、影響力を拡大する必要があるわけだ。


「何故、王太女殿下と第一王子殿下がメイワード伯爵と?」

「お二方ともまるで、メイワード伯爵のパートナーのようではないか」


 と言うわけで、他派閥の貴族達からそんなざわつく声も聞こえてくる中、会場の上座の位置へと三人で並んで立った。


 やがて会場が静かになったところで、一度咳払いしてから、会場の隅まで声が聞こえるようにロクに魔法を使って貰って、高らかに挨拶する。


「皆様、お忙しい中、本日は当家のパーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。まだ一年にもなりませんが、昨年は領地を(たまわ)り領地経営に邁進して参りました。今日まで無事領地を守ってこられたのも、皆様のご理解とご協力あってのことと思っています。お蔭様で領地の作物は多くの方々に受け入れられ、またクリスタルガラスとそれを使った鏡の開発にも成功しました。トロルとの交易も成果があり、ガンドラルド王国との正式な通商条約締結の準備も順調に進んでいると聞いています。今後、さらに大きく飛躍しマイゼル王国に貢献することをお約束すると共に、これからも皆様のご理解とご協力を戴ければ幸いです」


 そこで一度言葉を切ってから、今回のパーティーについて補足説明を入れる。


「それから、早くにお送りした方々の招待状には記載していなかったため、後日お送りした方々の招待状にも記載しませんでしたが、今回のパーティーに急遽加えられた趣旨について、皆様に一つご報告したい事があります。この度、私はいくつかの貴族家と共に、正式にメイワード伯爵派を結成しました」


 ざわりと、どよめきが上がる。

 耳が早い貴族達は知ってたみたいだけど、ほとんどの貴族達は初耳だったみたいだ。


「以前から懇意にしている貴族家が、メイワード伯爵派を名乗ってくれていました。しかし、いつまでも自称のままと言うわけにはいかないので、つい先日のことですが、正式に派閥の発足を決断した次第です」


 新しい派閥が誕生するってことは、貴族社会の政治的なバランスが大きく変わることを意味する。

 当然、領袖(りょうしゅう)になる俺の影響力が一段と強まるわけだからな。


 おかげで、例えばクラウレッツ公爵とかグルンバルドン公爵とか、大多数の貴族達が、あからさまに警戒感をあらわにしてる。

 でも、中には関心を持って話を聞いてくれてる人達もいて、決して歓迎してない貴族ばかりじゃないのが救いだ。


「果たしてどの貴族家が私の派閥に入ったのか、皆様気になることでしょう。なので、今から私の派閥の貴族家を順に紹介していきます。まず、王室派でもその名も高い、グレイブル伯爵家」


 ここで大きなどよめきが上がる。


 まあ、当然だよな。

 王室派の諜報に強い貴族家で、先日の騒動を耳にしてる他派閥の貴族も多いだろうし、何より上級貴族の伯爵家が同じ伯爵家の下に付いたわけだから、驚かない方がおかしいだろう。


 なんなら、自称してたディエール子爵家とダークムン男爵家と、三つの貴族家の小さな派閥だろうって思った人も多かったに違いない。

 そこにいきなりグレイブル伯爵家だからな。

 俺に対する警戒感をより強くした貴族は少なくないみたいだ。


「それから、皆様もよくご存じかと思います、これまでずっと私の派閥を名乗ってくれていた、ディエール子爵家とダークムン男爵家。ようやくその思いに報いることが出来ました」


 この二つの貴族家については、みんな当然だろうって反応で驚きも何もない。

 ちなみに紹介は、派閥に入った順も考慮してるけど、一応爵位が高い順だ。


「さらに、長く独自の派閥で中立を貫いていた、ユーグ男爵家、ユーゴ男爵家、ユーガム男爵家」


 ここでも小さなどよめきが起きる。


 先の三つの貴族家はまだしも、中立派とは名ばかりで、ずっと社交界から距離を取ってた三つの男爵家が、まとめて俺の派閥に入ったわけだからな。

 もっとも、それだけに政治的な影響力はほとんどないに等しいから、驚きはあっても、警戒感はそれほど与えなかったみたいだ。


 ただ一部、反王室派の貴族達は苦い顔をしてるけど。


「そして最後に、トレアド男爵家」


 その名前に、会場内が騒然となった。

 そのインパクトはグレイブル伯爵家以上だろうな。


 何しろ、没落し瓦解したとはいえ、仮にもトレアド伯爵派のトップを張ってた反王室派の貴族家なんだ。

 ここまでの王室派、王室派内の自称メイワード伯爵派、政治的影響力皆無の中立派とは、派閥に入る意味がまるで違う。

 反王室派のトレアド男爵家が俺の派閥に入ったってことは、事実上、政争に負けたことを意味するんだからな。


 今後、後に続く反王室派の貴族家が現れないとも限らない。

 そうなれば、貴族社会の勢力図が大きく塗り替えられることになる。

 単に没落した男爵家が一つ加わっただけ、では済まない話だ。


「よもやあのトレアド伯爵が……いや、男爵が膝を屈するとは……」

「まさか招待されているのか? 会場に姿はないが」


 なんて声が聞こえてきて、キョロキョロと会場内を見回してる貴族も多い。

 だけど探してるのは前トレアド男爵なんだろう、全然見つからないって顔で新トレアド男爵をスルーしちゃってる。


 最初『あいつは誰だ?』みたいな目で見られて小さくなってた新トレアド男爵は、会場の端の方で緊張のあまりガチガチになってるし。


 遠縁って話だから、こういう場に顔を出したことがほとんどなくて、顔を知られてない上に、全然慣れてないんだろうな。


「以上、私のメイワード伯爵家を含めた八貴族家で構成する派閥になります」


 伯爵家が二、子爵家が一、男爵家が五で、規模はなかなかのものだ。


 とはいえ、降爵された子爵家と男爵家が二つ、さらにユーグ男爵家、ユーゴ男爵家、ユーガム男爵家の政治影響力は皆無に等しいから、一見すると、規模ほどの『力』はないように見える。


 だけど、俺のメイワード伯爵家はいずれ辺境伯家になる。


 しかもディエール子爵家とダークムン男爵家は、元は最も勢力を誇ってたアーグラムン公爵派の、ディエール伯爵家とダークムン子爵家だ。

 当主が変わって仕切り直しになったし、かなり没落しちゃったから、かつての政治力に比べると見る影もないけど、それでもトレアド男爵家も元は伯爵家だしな。


 見ようによっては、規模以上の『力』を持ってるって言えるだろう。


「今回は派閥結成の記念を兼ねまして、趣向を凝らした余興と、領地で取れた作物を主に使用した、メイワード伯爵領の名物料理の数々を用意しましたので、皆様是非お楽しみ下さい」


 挨拶を終えて礼をすると、一部戸惑い混じりながらも大きな拍手が沸き起こった。

 インパクト、話題の提供、などなど、まずスタートは成功かな。



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