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583 家族の結論

 フィーナ姫の許しを貰えるよう確認する言葉に、お父さんが難しい顔で小さく唸って、お母さんも迷うように答えを出しあぐねてる。


 この反応が見られただけでも、大きな前進だ。

 これまでは『それはそれ』って、すぐに『兄妹での結婚は許されないから駄目』って結論を出してたんだから。


 考え、結論を出す時間を取るためか、それ以上はフィーナ姫も姫様も口を挟まず、エフメラを始めとしてエレーナ達も黙って答えを待つ。


「迷うくらいなら、もういいんじゃねぇか、許しちまえば」


 そんなお父さんの唸り声しか聞こえない静まり返った部屋に、不意に兄ちゃんの声が大きく響いた。


「バメル、お前いきなり何を」

「そうよ、そんないい加減な気持ちで決める事は出来ないわ」


 お父さんが驚いて、お母さんがそう言ったのは、兄ちゃんの言い草にどこか面倒臭そうで投げやりな響きがあったからだ。

 俺も、さすがにその態度はどうなんだって思ったんだけど……。


 兄ちゃんがお父さんとお母さんに向けたのは、そんな口ぶりとは真逆の真剣な眼差しだった。


「バメ兄ちゃん、エフ達のこと認めてくれるの!?」


 エフメラが驚いて目を丸くするのも無理ないって言うか。

 だって最後まで結論を出さずにウダウダ言って、結局は反対するって思ってた兄ちゃんが、まさか真っ先に俺達の味方になってくれるなんて予想外もいいところだよ。


「別に認めたわけじゃねぇよ。兄貴として、弟と妹が結婚とか、微妙すぎんだろうが」

「いやまあ、そうだろうけどさ……じゃあ何故?」

「理由はまあ、色々あるけどよ」

「バメ兄ちゃん、その色々って?」


 エフメラの突っ込みに、兄ちゃんは言わせんなよって顔になって、フィーナ姫と姫様を見たり、お父さんとお母さんを見たりして、頭をガリガリ掻く。


「まあ、なんつーか……こんだけ王子様と王女様に言われたり、他のお貴族様のお嬢様達がお前達を認めてるみたいだってのもあるけどよ」


 そこで一度言葉を切ると、ばつが悪そうに思い切り顔ごと視線を逸らした。


「弟が孤独感じてたっつーか、それに全然気付いてやれてなかったし、そのフォローを妹任せにしっぱなしの不甲斐ねぇ兄貴だったしよ。しかもお貴族様達が本当に悪いこと企んでたら、オレ達じゃ村中巻き込んだところで、到底エフメラのこと守ってやれねぇしな。エメルしか守れねぇ、そんで絶対守るってんなら、もう任せるしかねぇだろうが」

「バメル……あなた、そんな普通のお兄ちゃんみたいなこと考えられたのね」

「旦那に向かってひでぇな、おい」


 いやでも、ハンナちゃんの言う通り、こんな兄らしいこと言えたなんて、俺もエフメラも、なんならお父さんとお母さんとプリメラだって驚いてるよ。


「問題なのは、兄妹じゃ結婚しちゃ駄目ってことだっただろ? ところが王子様と王女様のお話じゃ、そこをオーケーにしちまうってんだから、駄目って突っ張る理由がなくなっちまったわけじゃねぇか」

「つまり考えるべきは、エメルとエフメラちゃんが、どうすればこの先幸せになれるかってことね?」

「そういうこった」


 ハンナちゃんに答えて大きく頷いた後、兄ちゃんは改めてお父さんとお母さんに目を向ける。


「オレは今回の事で、もし将来娘が生まれてエフメラと同じような状況になって、リエルが妹と結婚して守りたいって言い出したら、ちっとは真面目に考えようって気にはなったぜ。で、親父とお袋はどうよ? 息子と娘の幸せって奴」


 俺……いま滅茶苦茶驚いて、滅茶苦茶感動してるよ!

 まさか、あの兄ちゃんがこんなこと言うなんて!


 妻帯者で子持ちは伊達じゃないってことか。

 正直、兄ちゃんを舐めてたかも。


「……駄目じゃなくなったら、いいのかなぁ?」


 プリメラは十分理解してるって顔じゃないけど、兄ちゃんの言う通り、一番の反対理由がなくなったことくらいは分かったみたいだ。

 この場の全員の視線がお父さんとお母さんに集まる。


「お父さん……お母さん……」


 エフメラが祈るように二人を見つめる。

 俺も、二人の言葉をじっと待った。


 しばしの沈黙の後、お父さんが俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「……それで、エメルはエフメラを守り切れるのか?」

「ああ、何があっても絶対に守り切る」


 お母さんがお父さんと同じように、エフメラの目を真っ直ぐに見つめた。


「周りは理解してくれる人達ばかりじゃないわ。きっと理解してくれない人達ばかりよ。何を言われて、どんな態度を取られるか……それでもいいの?」

「そんなつまんない人達の言うことなんて気にしないよ」


「それに子供だって、兄妹だと……」

「魔法でなんとかする」

「ま、魔法で?」

「うん。エフもエメ兄ちゃんも生命の精霊と契約してるんだよ? 二人で力を合わせれば出来ないことなんてない。なんにも問題ないよ」


 エフメラが『ね?』って振り返るから、俺も大きく頷いた。

 エフメラがそこまで考えてたのは驚いたけど、多分なんとかなると思う。

 加えてリジャリエラも契約出来たんだから、助力を期待出来るしな。


 俺達の意志は固い。

 それを改めて見せる。


「二人は本当にそれで幸せになれるのか?」

「ああ、なるよ」

「うん、なるよ」


 お父さんとお母さんはお互いの顔を見て、やがて大きく溜息を吐いた。


「……分かった。親としては非常に複雑だが……」

「いいわ、二人の結婚を認めます」

「「本当!?」」


 思わず腰を浮かした俺とエフメラの声が重なって響いて、他のお嫁さん達から歓声が上がる。


「二人がそこまで言うなら、もう信じるしかないだろう? ただし、それで不幸になったなんて泣き言、絶対に許さないからな」

「頑として譲らない顔をしているんだもの……だったら親として、二人が幸せになれるよう、もう応援するしかないでしょう?」

「ありがとうお父さん、お母さん!」

「ありがとう! お父さん、お母さん大好き!」


 兄ちゃんはやれやれって顔で、ハンナちゃんも俺達の頑固さに負けたって顔で、仕方なさそうな苦笑を浮かべてるけど、反論はなかった。


「エメ兄ちゃん、エフ姉ちゃん、おめでとう!」

「おめでとう!」


 どれだけちゃんと理解してるかは分からないけど、プリメラとリエルも祝福してくれる。


「ありがとうみんな! 俺、絶対にエフメラを守って幸せにしてみせるから!」

「うん! エメ兄ちゃんと一緒なら絶対大丈夫! 幸せになるよ!」


 お父さんとお母さんにとってこの決断がどれほど重たくて、胸中にどんな感情が渦巻いてるのか想像も出来ないけど、許可してくれたその決断には感謝しかないよ。

 だから、この判断が間違ってなかったって、俺達の結婚を認めたことは正解だったって、いつかそう言って貰えるよう、全力を尽くさないとな。


「皆様、エメル様とエフメラ様の婚姻を認めて戴きありがとうございます。わたし達も力の及ぶ限りお二人を守っていきますから、ご安心下さい」

「姉上の言う通り、尽力することを約束しよう」


 フィーナ姫と姫様の言葉に、エレーナもモザミアもリジャリエラも力強く頷いてそれぞれ同じように約束してくれた。


「みなさま方にこんなお願いをするのは厚かましいと思いますが……」

「息子と娘を、どうかよろしくお願いします」


 お父さんとお母さんが頭を下げて、兄ちゃんとハンナちゃんがそれに続いて、プリメラとリエルが、その真似をして頭を下げる。


「はい、承りました」

「うむ、任せて欲しい」


 ようやく、少しだけお父さんとお母さんが安心したように微笑んでくれた。


「よかったですね、エメル様、エフメラ様」

「これで一安心だな」

「おめでとう」

「おめでとうございます」

「これでお二人の将来ハ安泰デス」

「ああ、みんなありがとう」

「ありがとう!」


 お嫁さん達からも祝福の言葉を貰えて、これでもう怖い物なしだな。


「エメルはみなさんから、とても愛されているのね」


 お母さんのしみじみとした言葉に、お嫁さん達みんな顔を赤らめる。


 そこからは、和やかな空気での歓談になった。


 お嫁さん側の身分が上だから、嫁姑の対立どころか話しかけられただけで家族みんな恐縮しちゃって、距離感はお互いに手探り状態でだったけど。

 それでも、話題はほとんど俺とお嫁さん達との関係や、俺とエフメラの子供時代のエピソードだったおかげで、どっちも女性陣の食いつきがいいもんだから、次第に打ち解けられたみたいだった。



 そんな顔合わせと説得が無事に終わって、少し遅くなったけど、エフメラと一緒に家族みんなをトトス村へと送り届ける。


「今日はみんなありがとう」

「ありがとう」


 並んで立つ俺とエフメラの肩を、お父さんが強く叩いた。


「認めると言った以上、これ以上はゴチャゴチャ言わないが、王子様や王女様達を巻き込んであれだけ大事にしたんだ、絶対に幸せになりなさい」

「そうよ。喧嘩くらいはいいけど、それ以上は決して許しませんからね」

「ああ、もちろん」

「大丈夫。ちょっかいかけて邪魔してくる奴らは、どんな奴でもガツンってやってやるから!」


 意気込むエフメラに、やり過ぎないようにってむしろ心配されてるけど、そんないつもの調子の方がみんなも安心出来たみたいだ。


「兄ちゃん、ありがとう。ハンナちゃんも、プリメラも、リエルも」

「よせよ。別に大したことはしてねぇ」

「ふふ、バメルったら、らしくなく照れちゃって」

「照れてねぇ!」


 でも、兄ちゃんの言葉で流れが変わったって思うから、本当に感謝しかないよ。


 それから俺とエフメラはそのまま家に泊まって、一晩、家族水入らずで色々なことを話した。

 やっぱりみんなすぐには意識を切り替えられないみたいで、兄妹での結婚にかなり複雑そうだったけどさ。

 それもきっと、俺達が幸せな姿を見せれば、時間が解決してくれるはずだ。


 ともあれ、翌日、王城へ戻ることに。


「また何かあったらいつでも帰ってきなさい」

「何があっても、あなた達はわたし達の息子と娘なんですからね」

「うん、ありがとう」

「また暇を見付けて帰ってくるね」


 何度も実家とは往復してるし、今生の別れってわけでもないんだけど、今回だけは、なんかしんみりしてしまった。


「じゃあ、行って来ます」

「行って来ます、またね!」


 手を振って、空へと飛び立つ。


「説得出来て良かったな」

「うん!」

「姫様とフィーナ姫、他のみんなにも、王城に戻ったらしっかり礼を言わないとな」

「うん!」


 血の繋がった実の兄妹での結婚を、お父さん、お母さん、そして家族みんなに認めて貰えた。

 その大きな喜びと、ちょっとの後ろめたさと背徳感と一緒に、俺とエフメラは一直線に王城へと向かった。



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