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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十九章 覚悟を決めてあの子もこの子もその子も『俺の嫁』にしてご挨拶

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574 ご挨拶 もう一件

 結婚のご挨拶をしなくちゃいけないのは、エレーナのところだけじゃない。


「お父さん、お母さん、娘さんを俺に下さい」


 俺はモザミアの両親、ユーグ男爵と男爵夫人に深々と頭を下げる。


 ダークムン男爵と男爵夫人に挨拶をした翌日、同じく、俺は王都のユーグ男爵家の屋敷を訪ねていた。

 本当なら、新年の挨拶が終わったらすぐ領地に戻ってしまうらしいんだけど、モザミア経由で大事な話をしたいってことを伝えて貰って、年が明けても王都に残って貰ってたんだ。


「えっ……あっ……いや……」


 手紙で訪れる旨と一緒に用件は伝えてたのに、オロオロと狼狽えて言葉が出てこないユーグ男爵。

 俺と全然目が合わない。


 別に初めて会うわけでもないのに、相変わらずのコミュ障ぶりだ。


 エレーナの時と同じように心臓がバクバクしてるけど、前回より少し余裕があるのは、二度目で少しは慣れたのと、ユーグ男爵がコミュ障で、俺以上に緊張してるのが丸分かりのおかげかもな。


「もうお父様ったら、こんな時くらいしっかりして!」

「そうですわよ、あなた」


 俺の隣に座るモザミアが苛ついたように叱咤して、ユーグ男爵の隣に座る男爵夫人が腕を掴んで軽く揺する。


「いや、き、聞いてはいたが……ヨーク子爵から……」

「だからそれを断って、俺との結婚を許可して貰えませんか?」

「し、しかし……」


 ユーグ男爵の目は泳ぎっぱなしだ。


「ヨーク子爵やディーター侯爵派の貴族達からの圧力や嫌がらせの心配をしてるなら不要ですよ。俺が、俺達メイワード伯爵派が守りますから」


 俺のメイワード伯爵領、そしてディエール子爵領とダークムン男爵領はユーグ男爵領から遠い。

 助けるって言っても、助けを求める早馬が届くまでにも時間が掛かるし、何かと不安があるだろう。


 だけど今は、新グレイブル伯爵も派閥に入ってくれた。

 王室派のグレイブル伯爵の領地は王都より北側にあって、北方に領地を持つディーター侯爵やその派閥の貴族家の領地に近いユーグ男爵領とは、さほど離れてない。

 何かあればすぐ手を打ってくれるだろう。


 って言うか、グレイブル伯爵家は諜報に長けた家だから、事前に察知して手を回してくれるはず。

 それほど心配はいらないはずだ。


「ねえお父様、ここは思い切るところだと思うのよ」


 両親の前だからか、いつもの淑女っぽくじゃなくお転婆な素顔を見せて、怖い顔でユーグ男爵に迫る。


「アタシの手紙に書いたでしょう。うちの領地も、フラのところ(ユーゴ男爵領)ユユのところ(ユーガム男爵領)も、伯爵様の農政改革のおかげで豊作だったでしょう? その影響は全国へ広まっていて、その作物を輸出して大儲けしてる領地もあるくらいよ?」

「それは理解しているが……」


 娘相手だと、やっぱり普通に話せるみたいだけど、今はその娘の迫力に押されちゃってるな。


「本当にもう、全然分かってないんだから。つまり、農政改革を受け入れてない領地は、王家と伯爵様に逆らってる領地で、これから貧しくなる一方なのよ。だからアタシ達みたいな弱小貴族は美味しい獲物なの。そんな貴族と結婚して王家と伯爵様を敵に回して、好き勝手むしり取られて、アタシ達に未来があるとでも?」

「う、む……」


「だからね、これを機にフラのところ(ユーゴ男爵領)ユユのところ(ユーガム男爵領)も一緒に、伯爵様の派閥に入ればいいじゃない。独立不羈(ふき)を気取ったところで、今は政治の大きな変革期で、その流れからは逃れられないの。目を逸らしたところでそれは変わらないんだから、ぬるいこと言ってちんたらしてたら溺れて沈むだけだからね」


 ビシッと指さして説教してる姿は、すごくモザミアらしくて生き生きしてる。

 普段の淑女らしい振る舞いは猫を被ってるってわけじゃなくて、あれもあれでモザミアなんだろうけど、こっちのモザミアも見てて楽しいよ。


「伯爵様はいずれ辺境伯に、そして殿下と結婚されればもっと上に行くのは確実な方よ。そんな伯爵様がこんな政治的になんのメリットもない弱小貴族達を派閥に入れていい、便宜を図って守ってくれるって言ってるの。しかもたかが男爵令嬢でしかないアタシを妾や愛人じゃなく側室に迎えてくれる、破格の待遇よ? これに乗らずしてどうしようって言うの」


 フンスと鼻息荒く言い切って答えを迫るモザミアに、ユーグ男爵の目がまた泳ぐ。


「あなた、わたしは決して悪い話ではないと思うわ」


 思わぬところから援護射撃が入る。

 じっと黙ってモザミアの話を聞いてた男爵夫人だ。


「お前までそんなことを。これまで儂らはどの派閥にも属さずやってこられたではないか」

「ええ、これまでは。でも、ヨーク子爵から干渉を受けてしまった。その話をすぐに断れなかった時点で、もはやそれはもう無理なのだと、本当は分かっているのでしょう?」

「それは……」


「メイワード伯爵は元農民だけに畑仕事に理解があって、わたし達と同じ、民に交じって汗水流して畑を耕すことを(いと)わない方よ。しかもこんな(・・・)モザミアを好ましく思ってくれている。わたし達の行く末、娘の幸せを考えれば、メイワード伯爵の派閥で庇護して戴くことが、現状最良の選択だと思うわ」

「しかし……」


「爵位の差が気になるところではありますけど、正室は他に迎えられるとのことですから、伯爵家を、いずれは辺境伯家を取り仕切らないといけないわけではないのですもの。正室であれば荷が重かったでしょうけど、モザミアの負担は言うほど大きなものにはならないでしょう」

「だが……」


「それに、すでにユーゴ男爵家、ユーガム男爵家からも、お返事は戴いているのでしょう?」

「う、む……」


「あのお二人のことですから、あなた同様に散々迷われたでしょうけど、『それもやむなし』と言うお返事だったのでは? 子供達の世代の事を考えれば、わたしは良いお話だと思いますよ」


 迷うように、今日初めてユーグ男爵が俺の目を真っ直ぐ見た。

 すぐに目を伏せるように逸らしてしまったけど。


「儂は……これまでそれなりに上手くやってきたつもりだ……だから過度に干渉されたくない」

「過度な干渉なんてしませんよ。もちろん、せっかく同じ派閥に所属するんだから、農政改革その他、何かしらお互いのためになる連携が取れればとは思いますけど」


 って言っても、貴族の流儀として、ただの善意や無償の施しは借りを作ることになるから、後が怖いってことで好まれないし、(かえ)って警戒させてしまうんだよな。

 だから、むしろ安心して貰うために条件と対価を突きつけさせて貰おう。


「だけど、ただ一度だけ、俺がお願いしたときに、俺の意見に賛同して貰えますか? それで十分です。そうすれば、以降、ヨーク子爵やディーター侯爵派を始めとした、他の貴族家から余計なちょっかいを出されないよう、ちゃんと取り計らいます」

「その意見とは……?」

「今はまだ言えません。でも遠からず、ユーゴ男爵家とユーガム男爵家と一緒にお願いすることになると思います」

「……」


 ユーグ男爵は深く考え込むけど、今はこれ以上考えないことにしたらしい。

 情報がなさ過ぎるから、どう判断しようもないもんな。


「それにだ、その……」

「なんでしょう?」


 この際だから、全部言うだけ言ってくれた方がいい。


こんな(・・・)娘だ、すぐに愛想を尽かされ、実家に戻されないか……」

「ちょっとお父様まで!? お母様もだけど、さっきから『こんな(・・・)こんな(・・・)』ってどんなよ!?」


 そんなところだと思うぞ?


「大丈夫ですよ。俺もこの一年、領地経営を手伝って貰って大体は理解してますから。その上で、口説き落とされちゃったって言うか……とにかく、俺の気持ちは変わりませんから安心してください」

「……!?」


 なにその『こいつ神か!?』みたいな驚きっぷりは。

 男爵夫人も目を見開いて口元を手で覆い隠して、驚きを隠せてない。


「ちょっとお父様お母様!?」


 実の両親にこんな顔をさせるなんて、実家でのモザミアって、どんだけだったんだろうな?


 それからしばらくの間、ユーグ男爵は迷いに迷って……最後に俺に頭を下げた。


「分かった。娘のこと……よろしく頼む。派閥の件も了承した。守って貰いたい」


 おお、良かった!


「分かりました。娘さんのことは俺に任せて下さい。必ず幸せにしますから」


 モザミアの手を握ると、一瞬でモザミアの顔が真っ赤に染まって、ソワソワと落ち着かなくなる。

 相変わらず、自分から積極的に振る舞うのは平気……って程でもないけど、こっちから行くと照れまくって狼狽えまくるよな。


「派閥についてもありがとうございます。絶対に悪いようにはしませんから、安心してて下さい」

「ああ、こちらこそ、よろしく頼む」

「娘をよろしくお願いします」



 こうして、モザミアとの婚約も正式に認められた。


 ユーグ男爵から話が通ってたのか、その後すぐにユーゴ男爵とユーガム男爵が招かれて、四人で派閥に属する件についての挨拶と話し合いも済ませた。

 もちろん、一度だけ俺の意見に賛同して貰うお願いの件も。


 ユーゴ男爵もユーガム男爵も初対面じゃなかったし、ユーグ男爵みたいなコミュ障じゃなかったんで、話はスムーズに進んで安心したよ。


 そして今は王城の館へと戻る途中だ。


「はぁ~、なんだかすごく疲れましたけど、ほっとしました」

「モザミアも緊張してたんだな」

「当然ですよ、アタシをなんだと思ってるんですか」


 ちょっと頬を膨らますけど、すぐに笑顔になって、甘えるようにガバッと腕に抱き付いてきた。


「えへへ、夢みたいです」

「ああ、俺もだよ」


 『嫁』がみんな可愛くて、本当に夢みたいだ。



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