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56 ハーレムルートへの選択肢

 戸惑い躊躇うフィーナ姫の手を取って立たせて、(うやうや)しく手を取り直す。

 フィーナ姫は緊張の面持ちで、でも真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。


 こうして改めて目の前に立つと、フィーナ姫は俺よりわずかに背が高くて、真っ直ぐ目を見つめると、視線が少し上向きになる。

 フィーナ姫は十七歳で、俺はまだ十四歳だからな。

 今はまだフィーナ姫の方が俺より背が高いのは仕方ない。

 でも、きっとすぐに俺が追い越すと思う。


 まあ、このままフィーナ姫の方が高いままでも全然いいんだけどね。

 俺より背が高い女の子も、それはそれで全然ありだ。

 っと、ちょっと脱線した。


 姫様がオーケーしてくれても、フィーナ姫を説得出来なくちゃ意味がないんだ。

 だから俺の気持ちが少しでもちゃんと伝わるように表情を引き締めて、腹に力を込めて気合いを入れる。

 それから決して瞳を逸らさずに、その瞳の奥の奥まで覗き込むように、そして俺の瞳の奥の奥まで覗いて貰うように、一歩前へ出て距離を詰めた。


「フィーナ姫、好きです!」

「――!?」

 フィーナ姫が目を見開いて息を呑む。


 やば、また口が勝手に!

 単に呼びかけただけのつもりだったのに、どうしてそこまで言っちゃってるかな!?


 でも……口が勝手に続けて言っちゃったんだから仕方ないよな。

 結局、フィーナ姫への気持ちを一番表してるのって、その言葉以外にないんだろうな、きっと。


 ロマンス小説が好きって話だから、もっとロマンチックなシチュエーションで雰囲気を盛り上げて、格好付けた口説き文句を言うべきだったのかも知れないけど……なんの準備もしてなかった上に、仕切り直してる雰囲気じゃなかったからなぁ……。


 そもそも、恋愛初心者の俺に、そんな高度な演出とか口説き文句とか無理だから!

 雰囲気を盛り上げるってどうやるんだよ、ギャルゲーの告白シーンみたいにBGM流せばいいのか?


 場の勢いで全然ロマンチックじゃないのは後で謝るとして、こうなったらもう思い付くまま気持ちのまま、ストレートに言葉にしていくしかない!

 さあ言うぞ!


 ……って思ったら、フィーナ姫の瞳が迷うように揺れて、表情を(かげ)らせてしまった。


「……エメル様の今のお気持ちは、わたしの境遇を知った上での同情……一時の気の迷いではありませんか?」

「は? 同情?」

 思ってもない事を言われて、思わず首を傾げてしまう。


「先ほどレミーがエメル様に責任を感じて戴くと……それでわたしの境遇に同情し、責任を感じられて、責任を取られようとしているだけではありませんか?」

 ああ、なるほどそういうことか。


 フィーナ姫が耐えられないって感じに、目を伏せてしまう。

 そのまま手を引っ込めてしまいそうな気配を感じたんで、フィーナ姫の手を両手で包み込んで逃がさない。


「同情なんてとんでもないですよ。俺、そんなに器用な方じゃないですからね。同情や責任なんかで上手くやってける自信なんてないですから。だいたい、好きでもない子を口説き落としたいなんて馬鹿な勘違いはしないつもりです」

「ですが……」

 フィーナ姫が一度躊躇うと、意を決したように視線を戻して尋ねてきた。


「エメル様はわたしとの間に壁を作っておられませんでしたか? 必要以上にわたしと親しくならないように、踏み込んできては下さいませんでしたよね?」

「えっ、それに気付いて……?」

「やはり、そうなのですね……」


 やばい……そっか、そうだよな、俺のことを好きって思ってくれてたなら、そんな俺の態度に気付かないわけないって!

 俺、フィーナ姫を傷つけちゃってたんだ……!


「ごめんなさい! フィーナ姫を傷つけるつもりはなかったんです! だって俺には姫様がいるのに、必要以上に近づいたら、フィーナ姫を好きな気持ちが抑えられなくなっちゃうじゃないですか!」

「え……?」

 きょとんとした後、見る間にフィーナ姫の顔が赤く染まっていった。


 ほら、そういうところだよ、そういうところ!

 その顔で、そんな表情見せられたら、心泊数が跳ね上がっちゃうっての!

 本当に、純情で、可憐で、愛らしくて、そこがたまらないんだって!


「レミーさんに言われるまで考えもしてなかったから、俺はもう絶対に一人を選ばないといけないって思い込んでたんですよ。だって俺には姫様がいるんだから、フィーナ姫のことまで本気で好きになっちゃったら、選べなくなっちゃうじゃないですか!」

 姫様か? フィーナ姫か?

 そんな究極の選択に答えがあるわけないだろう!?


「では、本当に……エメル様はわたしのことを想って下さっていたから、アイゼとの愛を貫くために、わたしと必要以上に親しくならないようにと……?」

「もちろんですよ、だってフィーナ姫も、俺にとって最高の女の子なんですから!」

 俺のその気持ちが伝わってくれたのか、フィーナ姫が驚きながらも、俺の両手に包み込まれたその指先に力が籠もる。


「わたしが……エメル様にとっての最高の女の子……」

「その通りです。だって王城へ助けに行った時、姫様が無事だって知って、姫様に後を託して、俺が姫様の助けになれるよう、俺を逃がそうとしてくれましたよね? 本当は怖くて仕方ないのに、それでも自分は逃げるのに足手まといになるからって。それで逃げずに一人で残ることを決めて、この国の姫の責務として、自分が出来る精一杯でトロルロードの野望を挫こうと、自害まで決意しましたよね?」


 他の三人から驚きと息を呑む気配が伝わってくる。

 本当は心配をかけないようにって秘密にしておく約束だったけど、他の三人にも、俺がフィーナ姫のどこに惚れたのか、俺の本気をちゃんと知っておいて貰いたい。


(けが)されて、(なぶ)られて、(はずかし)められて、最悪殺されちゃうかも知れない。そんな怖くて辛くて苦しい時に、早く連れて逃げてって泣きつくどころか、初対面の、しかもただの平民の俺を心配してそんな選択が出来るなんて、そんなすごくて強くて格好いいお姫様、惚れずにいられるわけないでしょう!?」

「……っ!?」

 耳まで真っ赤に染まっていくフィーナ姫。


 これでもまだまだ、俺の想いの全部じゃない。

 全部ぶつけるまで止まれない!


「しかも、トロルロードを断罪して俺が倒すって言った時、さらに大きな戦争になるのを分かってて、命運を俺に託してくれて、その上で全ては自分の責任だって目を逸らさなかったでしょう? 本当にもうその強さが眩しくて、尊敬しちゃって、姫様の顔を思い浮かべて思いとどまらないと、その場で俺のお嫁さんになって下さいって勢いでプロポーズしちゃいそうだったんですから!」

「あの時戴いたお言葉は、そういう……?」

「はい、そういう意味だったんです。正直、一目惚れです」

 今でも思い出せるよ、俺にお姫様抱っこされて守られていても、決然と覚悟を決めたその凛々しい横顔が。


 自分が辛く苦しいときに、そんな選択出来るか?

 たった十七歳で、それだけの覚悟を決めて、国を、民を、責任を背負えるか?

 普通、良かった助かったで、早く逃げることで頭の中がいっぱいになっててもおかしくないだろう?

 そんな中でも、第一王女としての立場も責任も忘れずに振る舞えるなんて、それを尊敬できなかったら、何を尊敬できるって言うんだ!?


「その後だって、図書室での家庭教師とか空中散歩とか、ことあるごとにクラクラさせられちゃって、浮気は駄目だ、俺には姫様がいるんだって、そう自分に言い聞かせるの大変だったんですから」


 これ以上真っ赤になりようがないんじゃないかってくらい真っ赤になるフィーナ姫。

 それでも、まだまだ止まらないからな!


「そもそもフィーナ姫って、滅茶苦茶綺麗で、超絶美少女ってしか言えないくらい可愛くて、柔らかな微笑みとかマジ天使だし、金髪も艶やかでさらさらで見てるだけでドキドキしちゃうし、見つめられたら顔が熱くなっちゃうくらいドギマギしちゃうし、もうそのくらい俺の好みドストライクなんですよ!」

 なんかもう、フィーナ姫が頭から湯気を出してひっくり返ってしまいそうだ。


「俺の本気、少しは伝わりました?」

「そこまで想って下さっていたんですね……」

 フィーナ姫の瞳が潤んで、その小さな手が震える。


「エメル様……本当にわたしを……トロルロードから救って下さった時のようにわたしを、いまの境遇から救い出して下さるのですか……?」

「はい、あの時のように、これからもずっと俺がフィーナ姫を守ります」

「わたしを妻にと……望んで下さるのですか?」

「もちろんです。だって俺、フィーナ姫に本気で惚れちゃってますから。だからフィーナ姫、俺のお嫁さんになって下さい!」

「っ……!」


 フィーナ姫が咄嗟に口元を押さえて、感極まったようにポロポロと涙を流していく。

 涙をこぼしながら姫様へ目を向けると、穏やかに微笑む姫様が小さく、だけどしっかりと頷いた。

 それに背中を押されたように、涙をこぼし続ける瞳で真っ直ぐに俺を見つめてくる。

 そうして、まるで本当に物語の中から抜け出てきたみたいな、お姫様の中のお姫様みたいに、涙を流しながら微笑んでくれた。


「わたしも、エメル様をお慕いしております。トロルロードより救い出されたあの日から、ずっと……」

 そして、両手で祈るように俺の手を包み込んできた。

「わたしもエメル様の妻にして下さい。エメル様以外の方に身を捧げるなど、もう考えられません……!」


 ああ、やばい!

 これはやばい!

 気持ちが溢れ出していく!

 この純情可憐なお姫様が、もう可愛くて可愛くて可愛くてたまらない!


 もう我慢も限界で、フィーナ姫の手を引いて、思い切り抱き締める。


「ありがとうございますフィーナ姫! 俺が絶対に幸せにしてみせます!」

「はい、信じていますエメル様」


 これ駄目だ、もう何があっても、絶対に誰にも渡さない!

 フィーナ姫も『俺の嫁』だ!



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