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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十八章 クリスタルガラスの反響がすごすぎる、主に陰謀方面で

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540 商談後にエメルへの対応を検討 2

「そんなことは分かっている。だからこそ、あの男の『力』を削がなくてはならんのだ。それも早急に」


 クラウレッツ公爵もエメルが仕掛けた農政改革の()には当初から気付いていた。

 しかし、それでもなんとかなる、手の打ちようはある、そう高をくくっていたことは否めない。

 だからエメルの手の内を知るために、試しに依頼を出したのだ。


 そして直に土壌改良した畑を視察して、収穫物を目にして、食して、その認識が甘かったことを思い知った。


 事前に、エメルが王家の直轄地の農村でその知識を伝授したことで、高品質の作物が出回っていることは確認していた。

 実際に、王家のパーティーでその作物を使った料理を食しもした。


 だから、その農民達から、または農地生産改良室の職員から、その知識を引き出せばいい、または職員を引き抜けばいい、そう考えていたのだ。


 まさか、農民達から引き出した情報が、本人達も十分に理解しているとは言いがたい要領を得ないものばかりで真似しようがなく、農地生産改良室の職員達は口が硬い上にマインドロックと言う情報統制の魔法で機密漏洩を防ぎ、何も情報が手に入らなかったのは、完全に予想外だった。


 しかしこれは、何もクラウレッツ公爵が間抜けだったと言う話ではない。

 これまで通りなら、エメル以外の貴族相手なら、十分に通用して成果を上げてきた手段だったのだから。


 それが最大の、そして致命的な誤算だった。


「特にうちの派閥の貴族達、それも下級貴族達が最も不味い状況にありますからね。何度も土壌改良を依頼すること、それ自体が不味いと言うのに……でも、それはまだいい。なのに、それに味を占めて、メイワード伯爵領から作物を大量に輸入し始めたのは致命的です」

「愚かなことに、それこそがあの男の狙い通り(・・・・)で深みに嵌まっていると言うのに、自分達はあの男をいいように利用していると勘違いしているところが始末に負えん」


 エメルに対するより、自分の派閥の貴族達への苛立ちと失望を滲ませて、クラウレッツ公爵が拳を握り締める。


「小国家群の九つの国のうち、スカージ王国を始めとした実に四カ国もが、我が国からの食料輸入に大きく舵を切っていますからね。それに乗じて、どの貴族家も大儲けしているから、節度を持てとの私達の言葉は、ろくに耳に入っていないでしょう」


 フィーナシャイアの王太女叙任祝賀パーティーに招待された小国家群の国々のうち、四カ国がエメルの采配で、クラウレッツ公爵派と、ジターブル侯爵を始めとする王室派の領地から高品質の作物を輸入するようになった。

 当然、その交易路にあるナード王国でも注目され、新たな需要が生まれている。

 おかげでどの領地も大幅な利益を出せるようになったのだ。


 折しも、ガンドラルド王国の侵略と、アーグラムン公爵の反乱で大きく兵を失い、かさんだ戦費で財政状況が悪化していたから、それは渡りに船の話だった。

 本来なら。


 そこにエメルの()が隠されていた。


 その大幅な利益に味を占めた多くの貴族家が、エメルに依頼して土壌改良した畑から収穫した作物のみならず、エメルの領地から輸入してまで、小国家群のそれらの国々に輸出をし始めたのだ。


 結果、農地を開墾したり、エメルに報酬を支払って土壌改良したりせずとも、御用商人に指示して交易させるだけで、大幅な黒字を出せるようになった。

 だからこそ、このにわかに巻き起こった交易ブームに飛びつく貴族家が後を絶たなかったのだ。


 しかもエメルは、エレメンタリー・ミニチュアガーデンと言う常識を覆す魔法で、いくらでも大量生産が可能で、さらに季節すら問わない。


 これが一つ、二つの貴族家ならまだいい。

 しかし下は騎士爵家から上は伯爵家まで、さらに領地貴族どころか領地を持たない宮廷貴族達までもが投資のようにこれに手を出して、何十と言う貴族家が飛びついていた。


 だからこそ、エメルが上げている利益は一伯爵家では叩き出せないほどに、まるで数倍以上の領地を治めているかのように膨大なのだ。

 不幸中の幸いなのは、エメルが市場価格を考慮して、暴落しないよう配慮を見せていることだろう。


 そして輸入する小国家群の四カ国もナード王国も、遠いフォレート王国から輸入するより安価に輸入出来ている。


 三者ウィンウィンウィンの誰もが得をする状況だ。


 唯一、フォレート王国だけが貧乏くじを引いているが、これまでのマイゼル王国へのやり口や、エメルが仮想敵国と見なしていることもあり、むしろそれすらマイゼル王国にとってはプラスと言えた。

 クラウレッツ公爵も公爵夫人もアムズも、そして恐らく多くの貴族達が、フォレート王国に一矢報いることが出来て溜飲が下がっている。


 だから、誰も損をしていないからこそ、その流れが止まらなかった。


「嫌らしいのは、あの男の一人勝ちには見えないことだ」

「だけど事実上、エメルの一人勝ちですからね」

「ええ。もしメイワード伯爵がそっぽを向けば、高品質の作物の交易はおろか、土壌改良すら受けられなくなるでしょう」

「そうなれば、今の反王室派の貴族達と同様に、将来的に財政は悪化。没落しか道がないわけです。今、これだけ甘い汁を吸って味を占めた貴族達が、それを受け入れることが出来るかどうかなんて、考えるまでもないことですよね」


 それを受け入れられる貴族は、まず間違いなくいない。

 クラウレッツ公爵家ですら、これまで蓄えてきた資産があるからしばらくは耐えられるだろうが、それが限界だ。

 耐えることしか出来ないのであれば、耐えきれなくなったときに破綻する。

 没落の罠(・・・・)からは逃れられないのだ。


「エメルの農政改革を上回る手段を講じて流れを変えることが出来ればその限りではないでしょうけど……」


 それは不可能としか言い様がない。

 そんな手段が一朝一夕で出てくるようなら、エメルにここまで好き勝手させることはなかったし、それ以前にとっくに誰かが思い付いて実行していただろう。


 仮にそんな手段があったとしても、エメルならすぐさまそれを上回る手段で切り返してきそうな予感があった。


 何しろ、エメルの有利な点は高品質の作物を生み出せることにあるのに、その自分の武器を独占せず、平気で他の貴族の領地に利として配っているのだ。

 いずれ全ての領地で高品質の作物が十分に生産出来るようになって価格が落ち着けば、メイワード伯爵領の財政が相対的に悪化して力を失うことになる。

 それが分からないエメルではない、と言うのが三人の見解だ。


 なのに、それを平気で行っている。

 つまり、そうなっても構わない、次の手が控えている、と見るべきなのだ。


 しかし、それが何か全く予想が付かないから、対策を講じようがない。

 完全に後手後手に回ってしまっているのが現状だ。


 元農民の成り上がり者。叙爵されてまだ一年そこらの、にわか貴族。


 そのような者に、長い歴史を持つ由緒ある大貴族であるクラウレッツ公爵家が手玉に取られている。

 それは貴族としての矜持を大きく傷つけられ、同時に空恐ろしさを感じる程の、目を逸らしてはならない事実だった。


「もはや農政改革で土壌改良を依頼することは止められなくなっているわけですから、我がクラウレッツ公爵家ですら、この罠を食い破ることは叶わない。だったらエメルとの付き合い方を変えるしかないと思うわけです」

「……」


 受け入れがたく、クラウレッツ公爵は小さく唸る。

 そんな父親を、アムズは生真面目な顔で真っ直ぐ見つめた。


「幸いなことに、エメルに権力への執着はない。普通、貴族としてここまで栄達すれば、元農民としては出来すぎで、むしろ身に余るはず」

「普通なら男爵程度で十分だと、恐れ多いと陞爵(しょうしゃく)を断って然るべきところでしょうね」


「母上の言う通りです。でも、エメルは陞爵を望み、さらに『力』を付けようとしている。だけどそれは、権力に執着して自らが手に入れた『力』に酔っているとか溺れているとか、そういうことじゃない。ましてやそれを振りかざして、暴君よろしく、酒池肉林の贅沢三昧をしているわけでもない」

「投資、ね」

「ええ。失敗を恐れず、躊躇なく多額の資金を投入出来る、その豪胆さがエメルの強みと言えるでしょう」


 エメルが次々と新事業を展開できるのも、精鋭精霊魔術師育成の報酬や、トロルとの交易で上げた利益や、作物の輸出で上げた利益のことごとくを、公共事業で領民に還元、もしくは新事業に投資しているからだった。


 未だにエメルがトロルの屋敷を改装した仮住まい暮らしであることを揶揄し、馬鹿にする貴族も決して少なくはないが、それはエメルがそれら華美な生活やお金そのものに執着がないと言うことでもある。

 同時に、産業の発展に並々ならぬ情熱を傾けていて、領地の発展、経済の重要性を理解していることの証左でもある。


 贅沢するために税を上げて搾取して、それでも足りなければさらに税を上げればいい、放っておいても金は平民の間から勝手に湯水のごとく湧いてくる、などと愚かな考えを持つ貴族達より、よほど名君で賢君と言えた。


「結局、エメルが『力』を求めているのは、殿下方と結婚するのを認めさせたいからに他ならないわけですよね?」

「アムズ、お前はそんなふざけた話を認めろと、そう言うつもりか?」

「はい。アイゼスオート殿下か、フィーナシャイア殿下か、どちらかとの婚姻を認めるくらいは必要じゃないかと思っています」



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