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524 アルル姫のお願い

 マリーリーフ殿下にクリスタルガラスの眼鏡をプレゼントしてからすぐ、追加注文が入った。

 よっぽど気に入ってくれたらしい。


 確かにスペアは必要だし、王女様としては、ドレスに合わせて色やデザインも色々と欲しいよな。


 おおよその希望は聞いたから、後はそれに合わせて作るだけだ。

 材料や作り方も確立したから、二つ、三つとすぐに完成させてしまう。


 値段については、関わったガラス職人、樹脂の研究所の職員、鍛冶屋に意見を聞いて、その上で姫様とフィーナ姫に相談に乗って貰った。

 おかげで、眼鏡としてはあり得ないくらい、金貨山積みのとんでもない値段になっちゃったけど。


「しかし、これほどの澄んだガラスを用いたレンズの眼鏡であれば、それでも安いだろう」

「ええ。このような眼鏡でしたら、ファッションとして十分に成り立ちます。既存の眼鏡では、特に女性はかけて人前に出ようとは思いませんから」


 って話だったし。

 しかも。


「確かに、度を入れないレンズにして、伊達眼鏡でお洒落をするって言うのもありですからね」


 前世では、って言葉を濁したものの、そう言っちゃったもんだから、だったらってフィーナ姫も欲しがっちゃって、それならってことで、姫様とフィーナ姫の二人にも伊達眼鏡を作ってあげることになったのは余談だ。


 なんとなく、眼鏡ブームが来そうな予感……。

 こうして貴族の流行は作られるんだなぁ。


 それはさておき。


「えっと……アルル姫?」


 俺の目の前には、拗ねてるアルル姫が。


 マリーリーフ殿下に追加分を納品した後、お茶に誘われ、眼鏡の感想を聞かせて貰えて、さらに追加分をかけて見せて貰えて、すごく喜んでくれたみたいだし俺も目の保養になって大満足で、さあこれで館を失礼しようか……ってタイミングで、アルル姫に掴まったと言うわけだ。


 そのまま、別の客室へ引っ張り込まれるみたいに案内されて、今、アルル姫と向かい合って座ってる。

 ちなみに、あの失礼な侍女は俺に苦手意識を抱いちゃったのか、俺から距離を取って俯き、目も合わせようとせず大人しい。


「マ、マリーリーフ様……に、と、とても素敵な……贈り物を、されたみたい、ですね?」


 うん、やっぱり拗ねてる。


「えっと……アルル姫も眼鏡が欲しいなら、作ってきましょうか?」

「ボクは、目は悪くない、から……きょ、興味はあるけど、別にいい、です」


 じゃあ、機嫌を直してくれるには、どうすればいいんだ?


 いや、絶対にアルル姫にも何かプレゼントしないといけないわけじゃないけどさ。

 本人が欲しがってるなら、それが無茶な物じゃなかったら、別にプレゼントしても構わないわけで。


 半分名目の留学だけど、本当にマイゼル王国の政治や経済についての勉強を頑張ってるし、アルル姫自身は俺に悪意を持って何か仕掛けてきてるわけじゃないからな。

 個人的には、アルル姫の境遇を考えると、仲良くすることはやぶさかじゃない。


 それに、男の娘のアルル姫に、貴族達や役人達はまだ慣れずに微妙な態度を取ってるらしいから、そのお詫びって程でもないけど、少しでも楽しく過ごして欲しいしさ。


「じゃあ、何か他に欲しい物でもありますか?」


 アルル姫は首を横に振る。


「か、代わりに……お願いを一つ、き、聞いてくれませんか?」

「お願いですか? まあ、俺に出来る範囲でなら」


 さすがにこれで秘伝を教えてくれって言われても断るけど。


「メ、メイワード伯爵の領地を……見て、みたいです」

「俺の領地ですか!?」


 アルル姫が、ちょっと頬を赤くして、モジモジしながら頷く。


 いや、なんでそんなリアクション?

 いやいや、それより。


 俺の領地に来たいってことは、秘伝を探りに来るってことだよな。


「でも、勉強なら、王都にいた方が(はかど)るでしょう? 前にもそういう話、しましたよね?」

「はい、だ、だから……マイゼル王国の、大体の政治や、経済、統治についての勉強は……ほ、ほとんど、終わりました」

「えっ、もうですか!?」

「はい、が、頑張りました」


 ちょっと誇らしげに頷くアルル姫が、なんか可愛い。

 でも、そんなアルル姫を悠長に眺めてる場合じゃない。


 まずいな……これまでは、それを理由に領地に来たいって言うのを断ってたからな。

 しかも、滞在場所もないって言うのも大きな理由だったけど、高級宿がオープンしたから、もはや滞在場所には困らない。


 大国フォレート王国の王族が滞在してくれるなら箔が付くし、領地に大金が落ちるから、非常に助かりはするけど。

 でも、それはそれ、これはこれだ。


「それに……い、今、一番勢いがあって、お、大きく発展してるのが、メイワード伯爵の領地だって……き、聞いています。その勢いは……たった半年で、じゅ、十数年分もあるとか」


 確かに、それはよく言われるけど……。


「だ、だったら、それを間近で見て、ま、学ばない手は、ないはず……です。こ、こう言ってはなんですが、ほ、他の領地の経営を学ぶより……遥かに多くのことを、学べる……はずです」


 フンスと勢い込むように、アルル姫が期待の籠もった目で見てくる。


「それは……」


 まさかこんなに早く、ハッキリと断れる理由がなくなっちゃうなんて。

 キリから特に警告もないし、よからぬ事を考えてるわけじゃなさそうなんで、絶対に駄目とは言い切れないんだよなぁ。


 それに、アルル姫の真の目的が、成果を上げたら帰国後ちゃんとお姫様として扱って貰えるようになるって約束があって、健気にもそのために頑張ろうとしてるわけだから、アルル姫のこれまでの境遇を考えると、冷たくあしらうのはちょっと罪悪感が……。


「えっと、さすがに俺一人で決められることじゃないんで、まず姫様とフィーナ姫、それからフォレート王国側とも協議するってことで」

「じゃあ、それで許可が出たら……領地へ行っても、いいですか?」

「……分かりました」


 これはもう仕方ない。

 元々アルル姫はそのために送り込まれてきてるんだし、俺も姫様もフィーナ姫も、いずれそうなるって予想はしてたんだ。

 ただ、それを少しでも先に引き延ばそうとしてただけで。


 こうして何度も会って話をしたから分かるけど、正直、エルフの王族としては、って言うかエルフとしては珍しく、偉ぶらないし引っ込み思案で根が素直なアルル姫が、優秀な密偵としての働きが出来るとは思えない。

 だからその点は、大きな問題はないと思う。


 問題なのは、お世話や護衛その他で付いてくる他の使用人達の方だな。

 密偵の本命は、まず間違いなくそっちだろうし。


 そっちに対してはしっかり警告しておかないと。

 もし俺の屋敷や重要な施設に無断で侵入しようとしたら、見張りをしてる俺の契約精霊達が問答無用で自動迎撃するんで、命の保証はないし、それで死者が出ても俺もマイゼル王国も責任を取らない、むしろ違法な諜報活動をしたってことで断固抗議して賠償を請求する、くらいは言っておく必要がある。


 実際に、俺の暗殺を企んだりあくどい真似をしようとしたりした他の貴族達や他国からの密偵を自動迎撃で殺しちゃって、朝になって死体が発見されたって事例が何度もあってるからな。


 どれだけフォレート王国側が悪くても、事前に警告してても、実際に人死にが出たら絶対に文句を言ってきて、なんらかの譲歩を迫ってくるのは間違いないだろうし。

 アルル姫とアルル姫の同行者に対しては、まずは警告で大怪我を負わせるくらいで、一撃で殺さないよう、特殊な契約精霊達には命令しておくか。

 それ以外の、正規の滞在者じゃない場合は、一撃で処分は変わらないようにして。



 その後、両国の話し合いの結果、春になったらアルル姫が俺の領地に滞在して、留学生として勉強することが決まった。



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