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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十七章 フォレート王国とシェーラル王国が動き出して面倒な事になりそう

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520 迂闊な振る舞いと知恵熱

◆◆



 その日の夜、シャーリー姉様宛ての報告書をすぐに書き上げた。

 彼が新たに興した産業の成果について、そして、画期的な構造の眼鏡について。


 ガラス工房を建設した噂は聞いていたけど、まさかクリスタルガラスのような素晴らしいガラスを生み出していたなんて。

 これは逸早く報告しないわけにはいかない。


 封書に入れて封蝋し、侍女を呼び出して届けるよう手配する。


「ではこれを、シャーリー姉様へ」

「畏まりました」


 ふと、封書を受け取った侍女が下がらず、私の顔を見ていることに気付く。


「眼鏡の調子はいかがですか?」

「ええ、最高ね」


 これまで書類を書くのにも、机の上に置いた本や資料を読むのにも、身をかがめるようにして顔を近づけないといけなかったから、長時間その姿勢でいるのは辛かった。

 そうでなくても、眉間に皺が深く刻まれるくらい目を細めないと見えなかったせいで、すぐに目が疲れて首や肩が痛くなっていたし、頭痛にも悩まされていた。


 それがこの眼鏡のおかげで緩和されたのだから、たった一日使っただけで、もう手放せなくなってしまっている。


「だとすれば、色違いやデザイン違いで、幾つか欲しいですね」


 着ているドレスや、他のアクセサリーと合わせると、必ずしもこの眼鏡が合うとは限らない。

 何より、手入れや扱いについて説明は受けたけど、万が一傷つけたり壊してしまったりした場合を考えると、スペアが欲しいところ。


「そうね……でも、これは彼が作った一点物と言っていたでしょう。購入するとなると、かなりの金額になりそうで、そう簡単に費用は捻出出来ないでしょうね」


 どう考えても相当な高額になるだろうクリスタルガラスに加え、画期的な技術とデザインの品なのだから、ただでさえ高価な既存の眼鏡の、果たして何倍になることか。


「それでも、予算を申請して購入すべきです」

「でも、曲がりなりにも貴族家当主に作らせることになるのだから、その謝礼も考えると、そうそう予算は下りないでしょう」

「だからこそ、絶対に購入しなくてはなりません」

「……どういうこと?」


 やたらと真剣な顔で断言した侍女が、この場には他に誰もいないのに周囲を見回して、私に近づいてくると声を潜めた。


「いいですかマリー様、もしその眼鏡をかけて、いずれかのパーティーやお茶会に出たとしましょう」

「え、ええ」

「恐らく、誰もがその眼鏡をどこで手に入れたのか、質問攻めにしてくると思います」

「そうね。絶対にそうなるでしょうね」

「では、その時、マリー様はどうお答えになりますか?」

「彼に貰ったと」

「はぁ……やっぱり」


 呆れ返ったように頭を抱えて大きな溜息を吐く侍女に、思わずむっとしてしまう。

 まるで私が致命的なミスをしたかのような態度だ。


「それは絶対にしてはいけません。なので、別の眼鏡の購入が必要なのです」


 怖いくらいに真剣な顔で、まるで子供に言い含めるようなその言い方が、ちょっと癪に障る。


「どういうことかしら?」

「いいですか、そんな高価で貴重な贈物、しかもメイワード伯爵が手ずから作った一点物ですよ? それをマリー様が嬉々として付けて、それを自慢げに吹聴して回ったら、周囲はどう思うと思われますか?」

「どう、とは?」


 意味が分からなくて、首を傾げる。

 そんな私に、頭が痛いとばかりに侍女が顔だけじゃなくて声まで怖くなった。


「特別な関係だと、邪推されると言うことです」

「っ!?」


「本気で気付いていなかったのですか? 殿方からの手作りの贈物ですよ? しかも領地を(たまわ)る以前より辺境伯への陞爵(しょうしゃく)がほぼ確定事項として噂されている、それも救国の英雄と名高い、王家の覚えがめでたい直臣。その伯爵家当主から、関係が微妙に悪化して緊張感が出ている相手国から親善大使としてやってきた第三王女へ、です」

「っ……!!」


 政治に(うと)い私でも分かった。

 それではまるで、両国間の緊張緩和のために、私がメイワード伯爵へ輿入れすることが本来の目的の親善大使のように見えてしまう。

 仮にそうでなくても、後からそういう関係になり、ならば丁度いいと、そういう話が水面下で進んでいるかのように受け止められかねない。


「これが、ただの綺麗な織物や珍しいお菓子などであれば、そこまで問題にはならなかったと思います。ところが、あまりにも高価で貴重な手作りの一点物ですよ? これで何もないと言う方が、まず信じられません」

「もちろん、何もありません!」


「当然です。それは承知しています。ですが、周囲はそうは見ないでしょう。頻繁に館を行き来していて、しかも一度は人払いをして少なくない時間二人きりになった事実があります。内実はともかく、端から見ていれば、邪推するなと言う方が無理があります」

「ですがそれは、彼の秘伝の秘密を暴くためです」

「これまでは誰もが、マイゼル王国側ですらそう思っていましたから、邪推が入り込む余地などなかったのです」


 そこでさらに怖い顔になって、私にずいと迫ってくる。


「もう一度聞きますが、そんな高価で貴重な贈物、しかもメイワード伯爵が手ずから作った一点物ですよ? それをマリー様が嬉々として付けて、それを自慢げに吹聴して回ったら、周囲はどう思うと思われますか?」

「ぅ……それは……」

「ご理解戴けたようで何よりです。本来であれば、メイワード伯爵の迂闊さも責めるべきとは思いますが……何分(なにぶん)、貴族に叙爵されて一年と少しの元農民に、そこまで貴族社会の裏を読めと言うのは酷な話でしょう。ですから、マリー様が気付いて身を守らないといけないのです」


 さすがにここまで言われれば私も十分理解した。


 確かに、彼の知識と発想は素晴らしいし、シャーリー姉様を相手に一歩も引かない、むしろ押しているくらい陰謀にも長けている知謀がある。

 だけれど、こういう気遣いはまたそれとは別に、経験からくるもの。

 どれだけ頭が良くて知恵が回っても、あまりにも常識過ぎる慣例や振る舞いは、周囲も出来て当然と彼に教えたり注意したりすることなく、彼の気が回らない事があっても不思議じゃない。


「だから、他に購入しておくのね」

「その通りです」


 他にも眼鏡を購入しておいて、それを先に付けてパーティーに出れば、彼から買った品だと言うことを強調し周知出来る。

 そうすれば、後日、彼から贈られた眼鏡を付けていても、それも買った物だと周囲は勝手に思うはず。

 だから余計な邪推が入り込む余地はない。


「分かりました。手配をお願いします」

「畏まりました」


 侍女はようやくほっと胸を撫で下ろして、封書を手に下がっていった。


「ふぅ……」


 一人きりになって、大きく溜息を吐く。


 それから、手鏡を取り出して自分の顔を、そして顔を彩る眼鏡を眺めた。


 美しく澄んだ、クリスタルガラスと彼が名付けたガラスのレンズ。

 シンプルなデザインながらも、とても機能的で顔にフィットして、思った以上に軽く、邪魔にならず、ファッションアイテムの一つと呼んでも差し支えないくらい、完成された品。


 頭の後ろで紐を結び邪魔になるわけでもなく、頭に被ってずっしりと顔半分を覆い隠すわけでもない。


 つるが稼働する蝶番、そして鼻パッドが自在に動いて鼻の付け根にフィットするのを妨げない工夫。

 つると鼻パッドの、顔にフィットするからこそ、痛みを感じさせないよう工夫された、細やかな心配りを感じさせる曲線。


 これらは精霊魔法の力を借りたとは言え、画期的な構造をしている。

 このような素晴らしい品を、どうすれば思いつけるのか。


「はぁ……」


 今日、何度目になるか分からない、溜息が漏れた。


 元農民?

 あまりにも無理がありすぎる。


『マリーリーフ殿下はあまりにも早く生まれすぎたんです』


 不意に、彼の言葉が甦る。


『もし今から数百年後に、もっと科学技術が進歩して、様々な研究機器や観測機器が開発されていて、それを使って研究できたなら、どれだけの発見、発明をして、歴史に名を残したことか。マリーリーフ殿下の観察力、洞察力、発想力は未来を生き過ぎてるんです。だから周りが誰も付いてこられなくて、それを理解出来ないし、それに気付かないし、それを生かせるだけの環境を整えられないんです』


 つまり彼の知識と発想は今から数百年先の未来を見通している、と言うことになる。


 そんな馬鹿な……。

 そう思う反面、どこか納得している自分がいる。


 いつ、どこで学んだのか分からない。

 誰に師事して得た知識と発想なのかも分からない。


 もし本当に数百年先の未来を見通す知識と発想を学んだのなら、それを容易に明かせるはずがない。

 だから、貴族達に依頼された者達、王国軍の精霊魔術師達、選び抜いた領民達、その者達に授けた秘伝の知識など、本当にわずかな上澄みでしかないのかも知れない。


『それこそ俺なんて有象無象になるくらいの、今後数百年、もしかしたら千年を超えても並び立つ者が他に現れないような、それほどの研究者で精霊魔術師になると思ってます。だから俺はマリーリーフ殿下が怖い』


 そんな彼が、そこまで私を評価してくれている。

 だからこそ、私にだけは教えられないと言う。


 喜べばいいのか、悲しめばいいのか、あまりにも複雑な褒め言葉だ。


『もし俺の秘伝の全てを知ったら、フォレート王国はどう動くでしょう?』


 彼の懸念が分かるからこそ、余計に複雑になる。


『それこそ本当に強引にさらって行くか、フォレート王国を滅ぼしてでも奪い取るかしない限りは』


「っ……!」


 なんでそんな言葉を……!

 それは今、関係ないでしょう!


『――っ、やばい、滅茶苦茶似合ってる! 滅茶苦茶可愛い!』


「っ……く!」


 彼が目元を赤らめて呆然として、すぐに喜色を浮かべて頬を染めた顔が脳裏に浮かんで、咄嗟に手鏡から顔を逸らして胸を押さえる。

 動悸が激しく、顔が熱く……。


「落ち着いて……これは知恵熱……知恵熱だから……!」


 そうでないと……困る!



 いつも読んで戴き、また評価、感想、いいねを戴きありがとうございます。


 今回で第十七章終了です。

 次回から第十八章を投稿していきます。


 隣国同士が戦争に向かって動き出しました。

 即、そっちの戦争に入りたいんですけど、春にならないと軍は動かせないし、冬の社交でやっておきたいことがあるしで、なかなかテンポ良く次に移れないのが自分でも書いていてちょっともどかしいですね。

 次は、冬の社交のあれこれになる予定です。

 隣国同士の戦争が開戦するまでに、エメルを取り巻く状況を、もう一段進めておきたいので。


 社交関係はすごく頭を使って、普段以上に加筆修正や破棄して書き直しを繰り返すので、執筆時間を多めに確保したいところです。

 なので二週間程、更新をお休みします。

 更新再開は再来週の月曜日2月28日予定です。

 ご了承下さい。


 このあとがきと一緒に書こうと思っていたので今更ですが、いいねが実装されましたね。

 面白いと思った話には、いいねもよろしくお願いします。

 どんなエピソードが喜んで戴けているのか、参考にさせて戴きたいので。


 励みになりますので、よろしければブックマーク、評価、感想、いいねなど、よろしくお願いいたします。



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[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★  さ、流石は主人公氏!第一級フラグ建築士っ!(*´・ω-)b
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