477 大発見の報告
奴隷達が引き渡されたばかりの頃、奴隷達の調書を確認して、農業経験者や農業に興味を示した奴以外に、興味深い仕事をしていた奴がいた。
天然樹脂の採取と薬草の採取をやってた奴だ。
せっかくだからそれぞれに興味を示した他の奴隷達を何人か同行させて、さらに護衛で領兵を付けて、領内のあちこちを探させてみた。
上手く何か見つかったら儲けもの、くらいのつもりで。
薬草採取チームからは、すでに何種類もの薬草と、薬草として使えそうな植物を幾つか見付けたって報告を受けてる。
だからそれらを採取して、薬草は発見場所の近くの、これと言ってまだ特産品と言える物がなかった村で、他の作物と平行して栽培を開始。
薬草として使えそうな植物は、まず本当に薬として使えるのか、どんな病気や怪我に効くのか、医者と組んで治験を行って貰ってる。
だけど、天然樹脂採取チームからは、未だ成果の報告はなかった。
こっちはそう簡単に見つかるもんでもないだろうし、駄目元で気長に待つつもりでいたから、成果が上がらないことに不安と焦りを感じてるみたいだったんで、焦らずじっくり取り組んでくれと言いつつ、これは使えそうないい樹脂はないのかも知れないな、なんて思いかけてたんだ。
どんどん新しい事業を立ち上げてそっちに気を取られてたのもあって、天然樹脂のことは次第に頭の片隅に追いやられて、俺自身忘れかけてたんだけど……。
なんと、遂に朗報が届いた!
「領主様、これを見て下さい!」
天然樹脂採取チームのリーダーをやってるハーフリングの若い男が興奮気味にテーブルに置いたのは二つ。
一つは、透き通った琥珀色の樹脂の塊。
一つは、やや不透明で、赤茶色の樹脂の塊だった。
「二種類も見付けたのか、すごいな!」
「へへっ、そうなんですよ。最初は全然見つからなくて、ちょっと諦めかけてたんですけど、立て続けに二つも見つかるなんて、とってもついてました」
照れ臭そうに頭を掻いて、でも自信満々に俺を見る。
「確かめさせて貰うな」
「どうぞどうぞ!」
まず、琥珀色の樹脂を手に取る。
表面がつるんとしてて、手触りは固い。
この樹脂が取れた木の匂いなのか、ちょっと癖のある匂いが少しする。
なんとなく、癖のある石鹸の香りとか、お香の香りとか、そんな感じだ。
次は、赤茶色の樹脂を手に取る。
表面はデコボコしてるし、ちょっとざらついた感じがある。
固いことは固いけど、指で強く押すとちょっと弾力がある感じがするな。
匂いはややきつい。それも、あんまりいい匂いじゃない。
「樹脂って一口に言っても、手触りも匂いも全然違うんだな」
「もちろんそうですよ。だから使い道も色々違うんです」
「例えば?」
「琥珀色の方は、ある程度加熱するとトロトロに柔らかくなって冷えるとまた固まるんで、型に流し込んで形を整えたり、さらに加熱して匂いの成分だけ飛ばして集めるとオイルみたいになるんで香り付けに使ったり、水には溶けないけどアルコールに溶けるんで塗料に混ぜて使うと防水効果があったり」
「ほほう、いいな、それ」
加熱して柔らかくなるなら、形さえ整えればプラスチックみたいに利用できそうだ。
匂いの成分のオイルって、つまり精油って奴だよな?
石鹸とかお香とかに利用できるかも知れない。
塗料に混ぜて使うなら、防水加工って意味ではかなり有用だろう。
艶が出るならニスとしても使えるんじゃないかな。
「赤茶色の方は、加熱すると柔らかくなるんですけど、加熱しすぎると、ドロドロ、ネバネバになって、冷えて固まった後も、元より少し柔らかくなって、しかも粘つく感じが残ります。匂いは臭くて香り付けには使えないですね。ただ、適度に加熱やアルコールに溶かした後、冷えて固まってしばらくすると、匂いはほとんど感じなくなります。水にも溶けないですし、接着剤や補修剤に使えますね」
「それは……!」
接着剤や補修剤に使えるなら、それはそのままいけるだろう。
匂いが飛んでほとんど気にならなくなるのもいい。
でも、それより何より、すごく気になる性質が!
加熱しすぎて柔らかくした後、冷やして固めても弾力が増すって言うなら、ゴムの代わりに使えるんじゃないか!?
駄目元で探してた素材が本当に見つかるなんて!
「その元より少し柔らかくなるってどのくらいだ!? こう、地面に落としたら跳ねるとか!?」
「いやあ、さすがにそこまで柔らかくはならないですよ。でも、指で押したら、明らかに弾力があるなって感じるくらいにはなります」
いいぞいいぞ!
どのくらいの衝撃や加重に耐えられるのか、どのくらいで劣化して壊れてしまうのか、柔らかさも含めて検証は必要だけど、ゴムパッキンの代用や、上手くすればタイヤとして使えるんじゃないか!?
馬車の車輪に付けられれば、乗り心地が格段に良くなるのはもちろん、特産品にするガラスみたいな壊れ物を運びやすくなるし、ぶつけて痛みやすい果実も運びやすくなって流通量が増える!
それに、前世の果物を一個一個包んでる白い発泡スチロールの網みたいな奴、そんなのを作れたらさらにだ!
「よし、一旦、樹脂探しはここまででいい。次は、この樹脂の利用方法や加工技術について研究をしてくれ!」
「取りあえず二つも見付けましたし、探すのを止めるのはいいですけど、利用方法や加工技術の研究ですか?」
もうすでにあるでしょう、みたいな顔で不思議そうにするんで、思い付いたあれこれを意図と一緒に説明する。
「すごいですよ領主様!」
途端、叫びながら跳び上がるように立ち上がって、俺以上に興奮して鼻息荒く身を乗り出してきた。
「形を整えて使ったり、香り付けに使ったり、塗料や接着剤、補修剤としての利用は僕も考えましたけど、まさか馬車の車輪や果物を運ぶために使おうだなんて思いつきもしませんでした! 領主様は天才ですか!? 移動と流通に革命が起きますよ!」
「いやいや、天才じゃないし。でも、革命は大げさだとしても、成功すれば人の移動や流通事情が大きく変わると思うぞ」
「全然大げさじゃないですよ! 是非! 是非! その研究、是非とも僕にやらせて下さい!」
「お、おう、頼んだ」
「はい!」
俺以上にすごい気合いが入ってて、これなら期待に応えてくれるかも知れない。
さすがにコスト度外視で研究開発してくれとは言えないけど、正直、どれだけコストが高かろうが、貴族なら絶対に飛びつくと思う。
大商会も以下同文。
特に美術品や壊れ物、果物を運ぶ商会は、喉から手が出るほど欲しいはずだ。
ついでに、定番の馬車の改造も合わせて着手するのもありかもな。
俺、馬車に乗らないからその必要性を感じなくて、すっかり忘れてたけど。
木の板バネなら貴族や大商会の馬車に使われてるみたいだけど、金属製の板バネやスプリングのサスペンションがあれば、さらに移動と流通事情が変わる。
サスペンションの詳しい構造は知らないから、職人に概要を伝えて試行錯誤して貰うしかないけど。
でも、そういった新しい技術開発が好きそうな職人なら飛びついてくれると思うし、探して依頼してみよう。
そしてさらにもう一つ、薬草採取チームからも嬉しい報告があった。
「これは大根や蕪じゃないよな?」
テーブルの上に乗せられたのは、わさわさとたくさんの葉っぱが付いた、大根の二、三倍は太くて長い、すごく不格好な白い根菜だった。
薬草採取チームのリーダーをやってる犬型獣人の中年の男は、自信ありげにニヤリと笑う。
「ちょっと土臭さがありますけど、かじってみて下さい」
目の前に丸々置かれたのとは別に、うちの侍女かメイドに頼んで用意したのか、一口大にカットされたそれが皿に載ってる。
ユニもサーペも反応しないから毒がないのは確実なんで、躊躇うことなくそれを摘まんでかじってみた。
「っ!? 甘い……!」
青臭さと土臭さの雑味の向こうに、かなりの甘さが!
「これ、もしかしてテンサイか!?」
「さすが領主様、その通りです!」
道理で、自信満々なわけだ!
テンサイの根っこから搾った汁を煮詰めると、テンサイ糖って茶色い砂糖になる。
テンサイは、日本ではサトウキビよりたくさん栽培されてたはずだ。
糖分を含んでるのは根っこだけなんで、葉っぱから砂糖は取れないけど、葉っぱはホウレンソウの代用品として調理して食べていいし、人が食べなくても、葉っぱと根っこの搾りカスを家畜の餌にしてもいい。
「これはどこで見付けた!? やっぱり山脈南の森の中とかか!?」
「いえ、山脈北側でした」
「山脈のこっち側にあったのか……全然気付かなかった!」
後から調べてみたら、テンサイは寒冷地に向いてる作物だった。
しかも、収穫前にあんまり雨が降ると、水分を含んで大きくなりはするけど、その分、糖度が落ちてしまう。
山脈の南側は北側に比べて雨がよく降るから、栽培するなら北側が向いてる作物だった。
「砂糖、作ってくれるよな!?」
「もちろんです!」
ぃよっし!
実食に耐えられるレベルで砂糖が完成したら、安くスイーツを作れるようになるかも知れない!
これはテンサイも大量に栽培確定だな!




