473 次なる開発とイチャイチャと 2
これもモザミアの仕事だったけど、ナサイグと一緒にウクザムスの再開発計画を立てて貰った時に、北区と西区で資料館として使う建物はすでに決めてある。
だからこのまま、改装に必要な設計の依頼、資材の発注、作業の人員の確保、などの仕事は本人の希望通り、そのままモザミアにお任せだ。
同時に、新主要街道脇の資料館も、それらの仕事に加えて、鍛冶や装飾や細工物が作れる職人達に各種フィギュア、ジオラマを設置する台、その他資料を展示するために必要な諸々の発注も平行してやって貰う。
役人の女の子達には、引き続きしっかりとモザミアをフォローして貰おう。
そういうわけで、それらの仕事を俺がしなくて良くなったから、工期短縮のための作業を前倒しで行うことにした。
つまり、周辺の不要な建物の解体だ。
「リジャリエラ、全員揃ったか?」
「ハイ、精霊王様」
解体予定の建物から少し離れた通りに整列してるマージャル族、およそ三十人。
リジャリエラを始め、四人の長老達と、特務部隊の候補の候補の者達だ。
マージャル族は百人程度しかいないのに、三割も集まるなんて正直驚いた。
多民族国家みたいな領地になってて、マージャル族だけで経済の全てを回す必要がないから、領軍に所属する人数の割合が多くても構わないんだろうけど。
万が一、戦争になって戦死することにでもなれば、百人が七十人にまで減っちゃうのに。
でも、その七十人は何があっても俺が守り抜くって、そう信頼してくれてる証でもあるんだろう。
つまり、それだけの覚悟と意気込みを持って集まってくれたってことだ。
実に頼もしい。
そんなマージャル族の者達に、今回集まって貰った趣旨を説明する。
「まずは、お前達に『力』を付けてやって貰いたい作業を俺が実演してみせる。ちゃんと見ておくように」
「「「「「ハイ!」」」」」
すでに何十軒と解体してるから、俺も手慣れたもんだ。
「モス、デーモ、グラビティフィールドだ」
『ブモゥ』
『お任せを、我が主』
見学してるマージャル族のため、今から何をするのか分かるように、契約精霊達には姿を現して貰った上で、言葉で指示を出していく。
「レド、ロク、エン、デーモ、キリ、解体を頼む」
『グルゥ』
『キェェ』
『承知しました、主様』
『お任せを、我が主』
『お任せ下さい、我が君』
重量をほぼゼロ近くまで軽くした建物を、五体が次々に解体して、屋根瓦から梁から壁から柱から、通りの端の方に並べていく。
「オオ!」
「あんなに重い石ヲ軽々と!」
「あっという間に家ガ解体されていく!」
みんな驚きの声を上げて見入ってるな。
十分程で三階と二階部分の解体が終わって残すは一階だけになったところで、契約精霊達の作業を中断させる。
「お前達も少し手伝ってみるか?」
「「「「「ハイ!」」」」」
と言うわけで、三十人に続きをやって貰うことにした。
「壁の石材ガこんなにも軽いなんて!」
「本当ダ! 十人がかりでないと持てないような柱ヲ、一人で軽々運べるぞ!」
みんな目を丸くして驚いてるな。
さすがに巫女姫のリジャリエラと長老達は、そういう人足の真似をするわけにはいかないのか見学してるだけだけど、その驚き様は変わらない。
本来は一人じゃ持てない石材を軽々運べるのが面白いのか、みんな寄って集って解体して運び出していく。
おかげで一階部分の解体はあっという間に終わってしまった。
物足りなさそうなんで、解体予定の二軒目、三軒目と解体してしまい、さらにそれらの石材を門から町の外へ運び出すところまでやってしまう。
やっぱり人数がいるとさらに早いな。
「魔法なしで、足場ヲ組んで解体するなら、数ヶ月ハ掛かりそうな作業ヲ……」
「二時間も掛かってないぞ? 精霊王様のお『力』ガすごすぎる……」
何しろトロルにとっては三階建てでも、人間サイズの家で言えばほぼ六階建ての高さのビル同然だからな。
しかも石材一つ、柱一本とっても、トロルサイズででかいし。
単純なサイズの比較で、八倍以上の体積と重量だ。
人力だけでまともにやってたら、本当に数ヶ月掛かりだろう。
「どうだ、俺のオリジナル魔法は便利だろう?」
「さすがハ精霊王様デス」
「素晴らしい魔法ヲ見せて戴き、ありがとうございまシタ」
リジャリエラがうっとりと微笑んで、長老達が感動に打ち震える。
そして、みんなキラキラと目を輝かせて、石畳の上だってのにお構いなしで、その場で正座して両手を前に突き出すようにして頭を下げて、俺に向かって一斉に祈り始めた。
「いや、そんなことをして欲しくて言ったわけじゃ…………うん、取りあえず、気が済んだら立ってくれ」
散々俺を拝んで満足したのか、全員が立ち上がったところで続きだ。
モスに頼んで解体跡地を整地したり、ロクに頼んでエアカッターで石材を加工したり、サーペに頼んで資料館にする予定の建物の外観を高圧水流で洗浄したり、次から次へと魔法を見せる。
いずれ改めて特別な勉強会で詳しく説明するって前置いてから、それら魔法の簡単な原理の解説と、人に向けたり扱いを誤るとどれほど危険なのかも一緒に説明するのも忘れない。
「俺の特務部隊に所属したら、今俺がやってみせたことを、俺の代わりに全部やって貰うからな。もちろん、解体だけじゃなくて建設の方もだ。だから普段からしっかり練習して、勉強して、それに相応しいだけの『力』を付けてくれ」
「「「「「ハイ!!」」」」」
うん、みんないい返事だ。
これからの成長に期待だな。
屋敷に戻って夜。
仕事が終わってプライベートの時間になる。
「エレーナ」
呼びかけて、俺の隣のソファーをポンポンと叩く。
「う、うん」
エレーナは照れながら、遠慮がちに俺の隣に腰掛けた。
場所は、俺の執務室の応接スペースで、ちょっと色気がない場所だけど。
お互いの自室は、いくら結婚するって決めてもまだ結婚前で、伯爵としての俺もだけど、それ以上に貴族のご令嬢のエレーナの外聞ってものがあるからアウト。
と言うわけで、この時間なら他の誰にも邪魔されなさそうな、この場所になったわけだ。
「改めてこうして伯爵様と二人きりになると、照れる」
「うん、俺も」
エレーナが倒れた日に結婚を申し込んだけど、姫様とフィーナ姫から許しが貰えるまではって、お互いに遠慮してたからな。
「今日も護衛でずっと一緒にいたのに、まだ一緒にいられる、もっと一緒にいたい。その気持ちが、もっと強くなった」
「そうだな。エレーナが俺の護衛をしてくれるって決めてから、ほとんど毎日のように、朝から晩まで一緒にいたのにな」
でもやっぱり、それとこれとは違うんだよな。
姫様やフィーナ姫の時もそうだったし。
「でも、安心して欲しい」
「うん? 何がだ?」
「仕事は仕事。仕事の時間に公私混同して伯爵様を困らせる真似はしない」
「ああ、そうだな」
エレーナはそういうところきっちりしてるから。
「むしろ俺の方が我慢出来なくなって、公私混同しちゃうかもなぁ……」
「それは……嬉しいけど、駄目。誰に後ろ指を指されることなく、堂々と伯爵様と一緒にいたいから」
「そうだな」
些細な事でも、他の貴族達の攻撃材料にされかねないし、それでエレーナの立場が悪くなって、エレーナを遠ざけて自分の娘を押し付けようなんて企む貴族どもに煩わされたくないからな。
本当に、貴族ってこういう所が面倒だ。
エレーナの手を握ると、エレーナも握り返してくれる。
お互いに見つめ合って微笑みを交わす。
それだけでも十分に幸せだ。
「領地経営、頑張ろう。一日でも早く結婚出来るように」
「うん♪」




