466 再会と報告
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「フィーナ姫!」
フィーナ姫の顔を見た瞬間、たまらなくなって駆け寄り思い切り抱き締める。
「まあ、エメル様ったら」
そんな俺の腕の中でフィーナ姫が驚いたように、たしなめるような声を上げるけど、振りほどいたりはせず、逆に俺の背に腕を回して抱き締めてくれた。
およそ一ヶ月半ぶりに会えたフィーナ姫の微笑み、声、匂い、温もり。
ああ、感激だ!
「すっごく会いたかったです」
「わたしもです、エメル様」
領地貴族ともなると、それが恋人同士でも、社交シーズン以外は領地にいるから、他領の恋人と顔を合わせるのは半年ぶりとか十ヶ月ぶりとか、それだけ間が空いてしまってもおかしくない。
社交シーズンで王都に集まっても、他の貴族に挨拶回りをしたりされたりですれ違いが続いたり、参加する夜会やパーティーが同じにならなかったりすると、無理にでも時間を作らない限り、二年、三年と会えないなんてこともあるみたいだ。
それと比べたら、たった一ヶ月半ぶりなんて、前世の感覚で言えば先週会ったばかり、くらいでしかないと思う。
それでも、会いたい気持ちに変わりはないし、会えない時間は辛い。
お互い仕事に忙殺されてて、お互いのことをしんみりと思い出す時間がなかなか取れなかったとしてもだ。
だからそういう思いが募ってしまったせいかも知れない、前よりフィーナ姫が輝いて見えるのは。
「フィーナ姫、また綺麗になりました?」
「まあ、エメル様ったら」
いつの間にそんな貴族らしい社交辞令を言えるように?
みたいな顔をされちゃうけど、それでも嬉しそうに微笑んでくれる。
「エメル様は、また少し背が伸びたみたいですね。もうすぐ追い付かれてしまいそう」
「そうですか?」
言われてみれば、一ヶ月半前よりフィーナ姫の顔が近いかも知れない。
もうさ、そんな俺をうっとりと見つめて微笑む顔が滅茶苦茶可愛い!
久しぶりのフィーナ姫をたっぷりと堪能した後、周囲を見回す。
「姫様は?」
「アイゼでしたら今、着替え中です。もうすぐこちらに来ますよ」
その言葉が言い終わるか終わらないかのうちにリビングのドアが開いて、姫様が現れた。
「姫様!」
「エ、エメル!?」
姫様がリビングに入って数歩も歩かないうちに、駆け寄って思い切り抱き締める。
「すっごく会いたかったです」
「そ、そうか」
真っ赤になって照れてる姫様可愛すぎ!
照れ、躊躇いながらも、姫様も俺の背に腕を回して抱き締めてくれた。
「姫様、可愛さに磨きが掛かりました?」
「そ、そのようなことはない。私は変わらぬ」
姫様の顔をマジマジと見ると、以前にも増して真っ赤になって俯いてしまった。
なんだかやけに初々しい反応だ。
そんな風に姫様を眺めてると、姫様の後ろに控えてた侍女のクレアが僭越ながらって感じに、澄まし顔で教えてくれた。
「エメル様が王都へ来られない一ヶ月半の間、アイゼ様はずっとドレスを着用されていませんでした。ですので、久しぶりのドレスに気恥ずかしさを感じておられるのと、再会するエメル様のために気合いを入れてお化粧を致しましたので、それで照れておられるのでしょう」
「クレア!」
秘密を暴露された姫様、耳まで真っ赤だ。
「ああもう! 可愛いな!」
思わずまた思い切り抱き締めちゃったよ。
このまま背も伸びず、声も変わらず、ずっと可愛いままでいて欲しい!
それから久しぶりに三人で晩飯を食べたんだけど、今回は俺が腕を振るった。
何かと言えば、唐揚げとか、白身魚のフライとか、コロッケとか、野菜の天ぷらとか、オリーブオイルを使った揚げ物、そしてゴマ油をドレッシング代わりに使った野菜サラダだ。
「まあ、フライはサクサク、天ぷらはしっとりとしていて、同じ揚げ物でも食感が違うのですね」
「付けてる衣の違いで食感が変わるんですよ」
「ふむ、食感の違いも面白いが、ラードと違ってくどくないのがいい」
「ラードはラードでいいんですけどね。植物性だからラードよりヘルシーですよ」
「うふふ、それはとても素敵です。たくさん食べられますね」
「それでも揚げ物なんで油をたっぷり使ってますから、食べ過ぎには注意ですけどね」
敢えて太るとは言ってないけど、二個目のコロッケに伸ばしかけたフィーナ姫の手が一瞬固まったのは、見なかった振りで。
「サラダにかかったゴマ油の香ばしい風味も食欲をそそり面白い。これを、そなたの領地の名物料理とするのか。大胆な試みだな」
「ええ、贅沢ですね。オリーブオイルはとても高価で、それほど多く輸入出来ないと言うのに。ですが、エメル様の計画通りどちらも大量に安価で生産出来れば、物珍しい良い料理となりそうですね」
ほくほく顔で食べてくれて、そんな二人を見てるだけで嬉しくなってくる。
王族の二人の反応も上々だし、これなら貴族にも受け入れられそうだ。
「パンと同じく、王室料理人料理長のゼムさんにも作り方を教えておきますから」
「うむ、いつも助かる」
「ありがとうございます」
もう、二人が喜んでくれるなら、なんだって教えちゃうよ。
「まずは料理から話を聞いたが、特産は料理だけではないのだろう?」
「はい。ドワーフの職人を掴まえられたおかげでビール工場建設の目処が立って、設計段階に入ってます。ガラス工房も場所が決まって、周囲を切り開いて基礎工業はほぼ終わりました。それぞれ必要な設備も発注してて、どっちも順調です」
「初年度と言いますか、まだ領地入りして半年かそこらですが、驚くほどの早さの発展ぶりですね」
「こうも次々に特産品を生み出すなど、普通はあり得ないことだ。さすがエメルと言うしかあるまい」
本当に嬉しそうに微笑んでくれて、こっちまで嬉しくなっちゃうよ。
それだけ、二人との結婚が近づいてきたってことだからな。
「制度であるから数年は納税が免除されるが、まるで不要だったようだな」
「まあ、結果的にはそうなりましたね。とはいえ、さすがにまだ領民や奴隷達に十分な資産がないから人頭税は取れませんけど。仮に人頭税を納めて貰ったとして、今の農地の広さと収穫量から計算して、もし今年度、国に納税するとしたら――」
ウルファーが出してくれたその額を伝える。
「初年度でそんなにもか……」
「その額は、数年後、免除の優遇期間が終わり、納税して戴く頃を想定しての額とほぼ同じです……」
しかもそれは、飽くまでも現時点の耕地面積から、普通に一回収穫した場合で計算された、一般的な納税額だ。
例えば小麦だと、これだけの畑の面積があって、この品種だと一般的にこのくらいの収穫量が見込まれてるから、収穫物のこのくらいを税として納めてね、って法で定められてる。
その比率や量は作物によって違うけど、飽くまでも一年を通して一回分の収穫量で計算された額を税で納める決まりしかない。
つまり、単位面積当たりいくらって、納税額が決まってる形になる。
だけど俺はエレメンタリー・ミニチュアガーデンで特定の畑から特定の作物を何度も何度も、それこそ両手の指じゃ足りないくらい、何度も繰り返し収穫したからな。
法のグレーゾーンって言うと人聞きが悪いけど、法律自体がこんな風に複数回収穫することを想定されてないから、制度として、繰り返し収穫した分は税の対象にならないわけだ。
つまり、その分を納税しなくても違法じゃない。
さらに言えば、所得税ってのはないから、トンネルの通行料やトロルとの交易で上げた利益には税が掛からない。
一応、別の名目で国に支払う寄附金や年会費みたいな物があるから、それらが税金みたいになってるけど。
後は、もし商会を経営してたら、商業ギルドに支払う年会費や寄附が、法人税みたいなものかな。
だとしても、それらを差し引いても、ほぼゼロ近くから領地経営を始めた領地の納税額じゃない。
ましてや黒字経営なんてあり得ないだろう。
普通は数年、下手をすれば十数年、赤字経営が続いてもおかしくないらしいからな。
もっとも、普通の伯爵領の三倍くらい広い領地から上がる税収としては、さすがに領民の数が少なくて経済規模が小さいから、それほどの金額じゃないのは確かだけど。
「このまま領地経営を続けていただけば、数年後には領地の広さに相応しい税収を上げられそうですね。いえ、エメル様であれば、もっと早くにそうなってもおかしくありませんね」
「うむ、今後が楽しみだ」
「俺も領地がどんどん発展していってるのを見るのは楽しいです」
気分は内政コマンドを充実させた、領地経営シミュレーションゲームだ。
まあ、本当にゲームみたいに楽しんでばかりもいられないけど。
奴隷達の扱いや、移民達の扱い、獣人達とのトラブルや、庇護を求めてきたマージャル族。
農地だけじゃなく町の開発や、公害対策。
やること、考えることが山ほどあって、それに合わせるように書類も山と積まれて、本当に毎日が目まぐるしく過ぎていく。
そんな風に、料理に舌鼓を打ちながら、俺の活躍と領地の発展ぶりを報告して、話がとても弾んだ食事になった。




