465 腹をくくって三人目の嫁、そして修羅場へ
「本当はもう、とっくに好きになってたんだ」
「伯爵様……」
「だってさ、護衛としてずっと一緒にいるだろう? 王都と往復する時も、領内を移動する時も、エレーナと色んな話をいっぱいしながらさ。それで、エレーナのことをいっぱい知って、俺のこともいっぱい知って貰って、その上で、エレーナは俺のことを好きって言ってくれる。そんなの、好きにならないわけないだろう?」
エレーナの手が震えてる。
いざ、俺に告白されたら、どうしていいか分からないって顔で。
「領地に来た次の日、王都と往復する時エレーナを連れて行ってあげられなくて、『次は、ちゃんと一緒に行こう』って約束したよな」
エレーナが頷く。
「次は……ちゃんと約束を守って、私も一緒に連れて行ってくれた……」
「その時のエレーナの嬉しそうな顔ときたらもう」
普段は仕事をしない表情筋が、ここぞとばかりに仕事をしてさ。
「わ、私……そんな顔、してた?」
「ああ、そりゃあもう」
思い出しただけでも、口元が緩んでにやけてしまう。
グラビティフィールドで重さを軽減したせいで不安定になってたこともあるんだろうけど、それまで以上にしっかりと俺にしがみついてきて、らしくなく浮かれて、はしゃいで、なんだか俺もすごく嬉しかった。
表情から、声から、全身から、俺のことが好きだって、一緒に居たいって、そんな気持ちがいっぱい伝わってきて、胸がすごくドキドキして熱くなった。
「その時、漠然としてた気持ちがハッキリしたって言うか、固まったって言うか、『ああ、好きだなぁ』って、『他の男にはやりたくないな』って、そう思ったんだ」
「伯爵様……」
「だから、役に立つとか立たないとか関係ない。好きだからこれからも一緒にいて欲しい。それだけなんだ」
エレーナの潤んだ瞳から、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「それなのに、これまでハッキリさせなくてごめん」
「ううん。伯爵様の立場と、殿下方の気持ちを考えれば当然のこと」
エレーナは首を横に振ってくれるけど、俺が待たせちゃってたのは確かなんだ。
「だからさ、今度王都へ行った時、大変だと思うけど、頑張って二人で姫様とフィーナ姫を説得しよう、俺達の関係を許して貰えるように。その……三番目ってことになっちゃうけど」
「……ううん、いい……嬉しい」
ポロポロと涙を流して、微笑んでくれる。
そして、強く俺の手を握り返してきた。
「伯爵様の申し出、謹んでお受けします」
もう、本当に、これまでで見てきた中で最高に幸せそうな笑顔だ。
「ありがとうエレーナ、受けてくれて」
「うん」
この世界では立派な成人男性ではあるけど、まだ十五歳で、ようやく高校生になったばかりも同然の俺が、四つも年上の女子大生のお姉さんを彼女にして結婚の約束をしたようなものだからな。
頼りないところもあるだろうけど、精一杯幸せにするから、約束するから、そんな気持ちを込めて握った手を一層強く握ると、頬を染めてはにかむように微笑んでくれて、それがもう滅茶苦茶幸せな気持ちにしてくれる。
「それで、その……ここまで言っておきながら勝手な言い分だけど……ダークムン男爵への挨拶と正式な申し込みは、二人から許しが貰えてからでいいかな?」
「うん、許して貰えるよう、私も頑張る」
本当に嬉しそうで、ちょっと罪悪感でチクチクするけど、もう一つ、お願いしないといけないことがある。
「それから、許しが貰えてもしばらくは秘密にして、公表出来るのはもうちょっと先になっちゃうんだけど……」
具体的には、フィーナ姫とも結婚するって話を、大々的に公表してからってことになる。
王都を占領したトロルロードのせいで、フィーナ姫には口さがない噂が流れた。
そういう意味で、フィーナ姫はすごく微妙な立場なんだ。
俺と結婚すれば、そんな物は払拭できる。
事実、上級貴族の間では、俺が結婚したいって言い出したことで、そんな噂はもはや消え去ってる。
でも、フィーナ姫との結婚の公表が、他の女の子を側室に迎えることが決まった後になると、ちょっと不味い。
一部の上級貴族達はすでに知ってることだけど、そうじゃない者達にとっては、俺とフィーナ姫との結婚話は、姫様の代わりに俺の子を産んでくれる他の女の子との結婚が決まった後に持ち上がったことになる。
つまり、口さがない噂話を広めた悪意ある連中に、『トロルロードのせいで嫁の貰い手がない、婿の当てもないフィーナ姫が、お情けで拾って貰った』って、再び王家と王太女の権威を失墜させる恰好の攻撃材料に利用されかねない。
嬉々としてそういう真似をしてる姿が目に見えて、想像しただけで腸が煮えくりかえりそうだ。
だから、そういう隙を見せないためにも、フィーナ姫以外の女の子との結婚はまだ大々的に公表するわけにはいかない。
そしてフィーナ姫との関係を公表するためにも、今は足場を固めて、有無を言わせず押し通せるように、実績を積み上げる必要がある。
それには、まだ今しばらく時間が必要だ。
「すごく勝手な言い分で悪いけど……」
「ううん、いい。殿下のお立場はよく分かる。マイゼル王国貴族の一人として、そして正室を立てるべき側室として、殿下にそんな不名誉な噂を立てさせるわけにも、権威を失墜させるわけにもいかない。そんなことになれば、治世に影響が出るし、伯爵様にも迷惑が掛かる。そんなことは私も、そしてきっと殿下も、望まない」
騎士の顔で、小さくだけど、力強く頷いてくれる。
「私は、三番目になれた。それだけでもう十分」
「ありがとうエレーナ……そういう苦労をかけちゃう分、頑張って幸せにするから」
「うん、信じてる」
くっ、心から信じてるって笑顔が眩しい!
こういう、普段は見せない、それも俺以外には決して見せない笑顔が可愛いから、いつもドキドキさせられちゃうんだよ!
本当にもう、気合い入れて頑張らないと!
「公表出来ないだけで、伝えるべき人には伝えないといけないし、秘密にして貰っとけば大丈夫だから、姫様とフィーナ姫の許可が貰えたら、時間を作ってダークムン男爵に挨拶に行こう」
「うん、父もきっとすごく喜ぶと思う」
そうだな、きっと喜んでくれると思う。
「ふふ」
「ん、どうした?」
「一気に話が進んで、ちょっと可笑しくなった」
これまで散々悩ませて、思い詰めさせちゃってたもんな。
「色々苦労をかけるかも知れないけど、これからもよろしく頼む」
「うん。大丈夫。何があっても、伯爵様から離れない」
そう微笑んだエレーナは、思わず息を呑むくらい、これまでで一番可愛かった。
こうして俺とエレーナは、ようやく結婚を前提にお付き合いする恋人同士になった。
これでめでたしめでたし――で終われば良かったんだけど……。
「伯爵様、エレーナと上手くいったようですね。おめでとうございます」
「モザミア!?」
その日の夜、廊下で壮絶な笑顔のモザミアに詰め寄られた。
こめかみに青筋が立ってて、滅茶苦茶怖い!
「どうしてそのことを!?」
変に他の貴族に噂が広まって横槍を入れられたくないから、しばらく秘密にしとこうってエレーナと話し合ったのに。
もちろん、ドアの外で話を聞いてたプラーラにはしっかり口止めしといた。
だからエレーナはもちろん、プラーラだって言い触らしたりしてないはずなのに。
「一目瞭然です。目を覚ましたと聞いてお見舞いに顔を出してみれば、普段、無表情で何を考えているのかよく分からないくらい、クールで落ち着いた雰囲気のエレーナさんが、クールどころかソワソワ浮かれて背景に花を咲かせていれば、伯爵様と何かいいことがあったなんて誰が見ても分かります」
「うっ……そうだったのか」
エレーナがまさかそんな分かりやすく喜んでくれてたなんて。
なんかちょっと照れるな。
そんなエレーナをちょっと見てみたいし、後でまた部屋に行ってみるかな?
「伯爵様、今はアタシが話しているんですよ」
「っと!? ご、ごめん」
モザミアの笑顔の壮絶さが一段上がっちゃって、思わず一歩後ずさってしまう。
「伯爵様がお決めになられたことですから、アタシがとやかく言うことはありません」
「そ、そうか」
「ですが、次はアタシの番ですよね?」
「えっ!? いや、それは」
そんな『アタシの番』とか言われても、じゃあここでモザミアの手を取って『好きだ、結婚を前提に付き合ってくれ!』なんて言うわけにはいかないだろう!?
そういうのはもっとちゃんと考えて結論を出さないと、その場のノリや勢いで言っていいことじゃないんだし。
さらにモザミアが一歩踏み出して何か言おうと口を開いたところで、突然の大声がそれを遮る。
それは救いの声かと思いきや……。
「エメ兄ちゃあああああぁぁぁぁぁん!!」
「げっ、エフメラ!?」
鬼の形相で一直線に突っ込んできたと思ったら、そのままの勢いでボカボカ殴りつけてきた。
「エメ兄ちゃんどういうこと!? エフって者がありながら!!」
「いや、ちょ、待て、落ち着けエフメラ!」
結構本気で殴ってきて痛いんだけど!?
「エメ兄ちゃんのお嫁さんになるのはエフなの!」
「いや、だから――」
「こうなったら泥棒猫は殲滅するしかないよね!」
「――ちょ、ちょっと待ったエフメラ!」
いきなり踵を返してエレーナの部屋に突撃しようとするエフメラを、慌てて背後から抱き上げる。
エレーナが灰も残らず焼き尽くされたら目も当てられないって!
「俺はエフメラもちゃんと大好きだぞ、だから落ち着け、な? な?」
「じゃあ、エフのことお嫁さんにしてくれる?」
「えっと、それは……」
「泥棒猫は灰も残らず焼き尽くしてくる!」
「いやだから落ち着いてくれ!」
ジタバタ暴れるエフメラを抱え上げたまま、モザミアに睨まれて、これどうすればいいんだ!?
「随分と賑やかデスね。どうかしまシタか?」
「リ、リジャリエラ!?」
また事態をややこしくしそうな女の子がここに!?
「リジャリエラさん、貴方にも無関係な話じゃないですよ。伯爵様がエレーナさんと上手くいったようなんです」
「マア、そうなんデスね。おめでとうございます、ご領主様」
あれ?
なんか普通に微笑んでるな?
「リジャリエラさん、そんな呑気に笑っていていいんですか?」
「ハイ。だってわたくしハ、すでにご領主様の妻になることハ決まっていマスから」
いやいやいやいや、まだ決まってないからな!?
「ダメなの! エメ兄ちゃんのお嫁さんになるのはエフなの!」
「ちゃんとアタシのことも考えてくれていますよね?」
「さすがご領主様デス。多くの妻ヲ迎え、未来ハ安泰デスね」
エフメラは暴れるし、モザミアは怖い笑顔で迫ってくるし、リジャリエラはニコニコ笑顔で俺と結婚するのを疑ってもいないし。
挙げ句、廊下の向こうの曲がり角で、陰に隠れてサランダがなんとも言えない顔でこっちを覗いてるし。
これ、どうすればいいんだ!?
いつも読んで戴き、また評価、感想を戴きありがとうございます。
今回で第十五章終了です。
次回から第十六章を投稿していきます。
ようやく本格的にタイトル回収が始まり、ハーレムが次の段階へ進みました。
長かったですね、ここまで……。
いやもう、本当に。
私もまさかこんなに時間が掛かってしまうとは想定外でした。
反乱を前倒しにしたことで、フォレート王国およびマリーリーフとアルタールークとのあれこれも前倒しになり、領地経営と二本柱で展開することになったのも、それを助長した感じですね。
さすがに候補全員を一気にとはいきませんが、これから段階を踏んでハーレムの規模が拡大していく予定です。
気持ち的にはここで一気に畳み掛けたいところなのですが……。
第十四章修正の煽りを受けて、全然ストックが足りていません。
加えて色々と用事が入って思うように作業時間が取れなかったこともあり、クオリティを十分に上げられていないので、申し訳ありませんがまた二週間ちょい更新をお休みします。
更新再開は来月の月曜日12月06日予定です。
ご了承下さい。
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