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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十五章 領地経営が順調でどんどん身の回りが騒がしくなる

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464 お見舞い

 もう一度プラーラに先導して貰って、急ぎ足でエレーナの部屋へとやってくる。


「エレーナ、大丈夫か?」

「伯爵様……!」


 プラーラに続いて部屋へ入ると、エレーナがわずかに顔を上げて驚きに見開いた目を向けてきた。


 思わず、大きく胸を撫で下ろす。

 無事に目を覚ましたし、ただの疲労だから心配ないって聞いてはいたけど、やっぱりちゃんと自分の目で見て無事を確認出来るまでは安心出来ないもんだな。


 でも、こうして目を覚ましてくれたから、もう大丈夫だろう。


「ああ、そのまま寝ててくれ」


 枕元に近づくと、ベッドから起き上がろうとするエレーナの肩を押しとどめて、ちゃんと寝てるように促す。


「いきなり押しかけて悪かったな」

「ううん、そんなことない」


 声に普段の張りはないけど話し方はしっかりしてるし、深刻な容態じゃなさそうで一安心だ。


 気を利かせてくれたのか、プラーラがそっと部屋を出る。

 一応貴族のご令嬢が自室で男と二人きりになるのはまずい、ってことで、ドアは開けたまま、ドアの脇で待機してるみたいだけど。


 だから俺も遠慮なくベッド脇にしゃがんで、そのままエレーナと話をする。


「身体の方はどうだ?」

「もう大丈夫。みんなが大げさに騒いだだけ」


 俺に心配させないためか、平気そうな顔で強がるけど、顔色は悪いし、表情も少し辛そうだ。


「倒れたんだから大げさじゃないと思うぞ。俺も報告を聞いてビックリしたし。心配したよ」

「……ごめんなさい」


「いや、ごめん……謝るのは俺の方だよな」

「どうして伯爵様が? 伯爵様が謝る必要なんて何もない」

「でも、俺のせいだろう、エレーナが倒れるまで無理したのは」


 俺が煮え切らない態度を取ってたから。


「そんなことない。私が悪い。体調管理も出来ずに、いざという時に動けないようじゃ、伯爵様の護衛失格……」


 エレーナの表情筋が仕事をするときは、いつも笑顔でいて欲しいのに。

 自分を責める辛そうな顔なんて、させたくないのに。


 全部、俺のせいだ。


「エレーナは今のままでも十分役に立ってくれてるし、信頼もしてるから、頑張ってくれるのは嬉しいし、強くなってくれるのはありがたいけど、倒れるまで無理する必要はないんだからな?」

「ううん、今のままの私では駄目……この先、伯爵様の役に立てずに、存在価値も、隣にいる資格もなくなる」

「そんな――」

「そんなこと、ある」


 すごく思い詰めた、泣きそうな瞳に、胸がズキリと痛くなる。

 俺がこんな顔をさせてしまってるんだ。


「なあ、どうして自分に存在価値や資格がなくなるなんて思うんだ?」


 俺はそんなこと欠片も思ってない。

 だからそれをちゃんと聞いて、その不安を全て取り除いてあげないと、多分エレーナはこれからも無理を続けて、また倒れかねない。


「私は騎士として、弱い」

「俺は十分強いと思うぞ? みんなの評価だってそうだろう?」


 領地でも王都の屋敷でも、俺の護衛をしてくれてるご令嬢の騎士達の中では、エレーナが一番強い、って話を聞いてる。

 そして、この領地に来てから、さらに力を付けてるってことも。

 王家から派遣されてきてる騎士達を始め、みんなが認めるところだ。


 だから、護衛役のご令嬢の騎士達ばかりとはいえ、メイワード伯爵領軍の守護騎士団が正式に発足して、その騎士団長に推薦され、就任することになったんだ。


「でもそれは、『同年代の女騎士の中では』ってだけ。王家から派遣されてきてる騎士達には全然及ばない」

「それは騎士としてのキャリアが違い過ぎるだろう?」


 ほとんどの騎士が俺達の親世代に近いし、四十代ともなれば、俺達の倍以上生きてる上に、騎士としてのキャリアは俺達の年齢より長いんだ。

 こう言ったらなんだけど、そんなベテラン騎士と、たかが数年のヒヨッコ騎士が、互角以上に戦える方がおかしいわけで。


 その現実に甘んじたくない、って意気込みは分かるけど、だからって倒れるまで稽古したら、むしろ逆効果になりかねない。


「元グルンバルドン公爵領軍の騎士達と比べても弱い」


 それだって同じ事が言える。

 グルンバルドン公爵の思惑を考えれば、弱い騎士や兵士を送り込んでくるわけがないんだから。


「今は大人しく伯爵様に従ってるけど、いつ裏切るか分からない。それなのに、そんな彼らより弱くては、伯爵様を守れない」

「それは……そうかも知れないけど……」


 確かに、エレーナの性格と立場を考えれば、そう考えるのも無理ないか。

 キャリアが違うから仕方ないじゃ済ませられないもんな。


「騎士はグエンだけだけど、獣人の兵士も大勢新たに領軍に入った。ドワーフやハーフリングも。種族が違うから仕方ない面もあるけど、だからと言って、後塵を拝することを甘んじる理由にはならない」


 種族差は理不尽だ。

 どれだけ鍛えても、人間が獣人の身体能力を超えることは不可能だし、トロルのような無尽蔵のスタミナで動くことも破壊力を生み出すことも出来ない。

 だから、知恵を絞り、技術を磨き、工夫を凝らして、それに対抗する(すべ)を身に着けるしかない。


 それを身に染みて分かってるから、エレーナはその努力を怠らないんだな。


「それに、領地には残ってないけど、エルフの騎士は精霊魔法も駆使して戦うって聞いた。フォレート王国と関係がこじれてる以上、それも想定して戦えないと駄目」

「それで精霊魔法の練習にも力を入れ始めたのか」

「うん……でも、なかなか上達しない……」


 エレーナは剣術に関しては才能があるみたいだけど、精霊魔法に関しては、その上達速度は普通の人と変わらないもんな。


「それに、マージャル族が伯爵様に忠誠を誓って従ったことで、私程度の力なんて意味がなくなった……」

「マージャル族はなぁ……」


 種族は同じ人間だけど、民族が違うし、精霊を(まつ)る部族として普段の生活や考え方から違うからな。

 そのおかげで、部族全員が精霊力を二割から三割多く内包してるし、全員が優れた精霊魔術師になれる資質を持ってるわけで。


「伯爵様の下に優れた者達が集まってくることはいいこと。伯爵様の人徳。だから私も歓迎してる。でも……」


 そのまま、エレーナは唇を噛んで黙り込んでしまう。

 だから自分の存在価値が、俺の隣に立つ資格がなくなるって、そんな風に考えてしまうのは、俺が態度をハッキリさせなかったせいだ。


「エレーナ」


 できるだけ優しく、でも断固とした口調で伝える。


「俺はエレーナのこと、一度だって役に立たないなんて思ったことはないし、ましてや存在価値がないとか、隣にいる資格がないとか、考えたことすらないからな」


 どう答えていいか分からないって困った顔をするエレーナに、言い聞かせるようにゆっくりと話す。


「エレーナは護衛として、いつも俺の側に居てくれてるだろう? そのおかげで、俺がどれだけ助かってることか。エレーナが常に周囲に気を配って、よからぬ連中に睨みを利かせてくれてるから、俺は安心して仕事に集中出来るんだ」

「でも、それは他の護衛でも出来る……私じゃないと駄目ってことはない。周囲に目を光らせるなら、グエンの方が適してる」

「確かに、護衛は抑止力としての働きが一番求められてるんだから、側に居るだけなら誰にでも出来るし、獣人のグエンの方が、色々と察知が早いのかも知れない。でも、一番安心して任せられるのは、エレーナだからな?」


 それは、考えるまでもない。


「他の護衛達は、他の派閥に繋がってるご令嬢ばかりだ。守秘義務があるから、知り得たことを秘密にするのは当然だとしても、それを守るのは建前だけで、実家にこっそりと情報を流してるかも知れない。そうなると、エレーナ以外の護衛の前では、迂闊なことは話せないし、見せられない。視察も、代官や町長と話をするのも、内容や言い回しに気を遣わないといけないから、気を緩める暇がない」

「私が、実家のダークムン男爵家に情報を流すって……」

「全く思わないし、してないだろう?」


 被せ気味にきっぱり否定すると、エレーナが少しだけ嬉しそうに小さく頷く。


「それにもし俺と獣人達が対立した時、グエンも最初は俺の側に立って獣人達を宥めて間を取り持ってくれるかも知れないけど、取り返しが付かないほどにこじれて本格的な武力衝突にまで発展したら、多分獣人側に立って俺に剣を向けるだろうな」


 この先は分からないけど、多分今はそうだと思う。

 もしそれが俺の誤解や考えすぎだったとしても、俺がそう考えてしまうってことは、俺達の間にはまだそれだけの信頼関係を築けてないって証拠だ。


 だってまだ出会って一ヶ月も経ってないんだから、こればっかりは仕方ない。


「もし俺がダークムン男爵とこじれて戦争になって、ダークムン男爵から俺を殺せって命令が来たら――」

「そんな命令には従わない。万が一そんな事態になっても、私は伯爵様を守る。伯爵様の騎士として、必要なら私の手で父を斬る」


 俺に最後まで言わせず、俺の目を見ながらきっぱりと言い切るエレーナ。

 葛藤や躊躇いや、裏ではきっと色々な感情が渦巻いて胸を痛めてるはずなのに、それを感じさせない、覚悟が決まった目で真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。

 とっくの昔にそんな事態を想定して、自分がどう動くのか決めてたんだろうな。


「――ごめん、辛いことを言わせちゃったな」

「ううん。信じてくれた伯爵様に私の覚悟を知ってて欲しかったから、いい」


 本当に、迷いのない真っ直ぐな瞳だ。


「もちろん、エレーナにそんな辛い真似をさせないように努力することを約束するよ。けど、その覚悟は受け取った。ありがとう」

「うん」


 本当に、良くも悪くもエレーナは真っ直ぐだ。


「だから力があるなし以前に、エレーナを信頼して護衛を任せてるんだ」


 まず滅多なことじゃそんなことにはならないと思うけど、他の護衛だと、また突然背後から斬りかかられる可能性はゼロじゃない。

 でも、エレーナならもう二度とそんなことはしない、ゼロだ、って言い切れる。


 その安心感はすごく大きい。


 契約精霊達が守ってくれてるって言うのとは別に、信頼出来る人が側で守ってくれてるってことが、気持ち的に大きいんだ。

 その気持ちは、ちゃんと伝わってくれたと思う。


「伯爵様……」


 わずかにエレーナの瞳が潤んだ。

 これで少しは安心してくれたかな?


 でも、これじゃあまだ足りないと思う。


「だからさ、もしエレーナが嫌じゃなかったら、もっとエレーナが強くなれる方法を一緒に考えよう」

「もっと私が強くなれる方法……?」

「例えば、剣術だけで勝つことにこだわらないなら、エルフにも引けを取らない精霊魔法も組み込んだ戦闘スタイルを考えるとかさ」

「伯爵様……ありがとう」

「こっちこそ、ありがとう、だよ」


 これで、倒れるほど無理しなくなってくれるといいんだけど。


 でも、まだ足りない。

 これだけじゃ駄目だ。


「実はさっき、ナサイグとユレースと話をしてさ」


 二人とどんな話をしたのかを包み隠さず教える。


「そんな話を……」


 ちょっと目を丸くして驚くエレーナの手を取って、両手で包み込む。


「だからさ、エレーナ」

「? 伯爵様?」


 ああもう、さすがに緊張するな……!

 一度、二度と深呼吸してから腹に力を込める。


「ちゃんと俺の気持ちを伝えるよ。俺はエレーナが好きだ。結婚しよう」

「っ!?」



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