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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十五章 領地経営が順調でどんどん身の回りが騒がしくなる

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460 エレーナの焦り 2

「はぁっ!!」


 裂帛の気合いを込めて、グエンの左肩に向けて大きく踏み込み木剣を振り抜く。

 それこそ、本気で袈裟切りにするように。


 だけど、まるでそうくると分かってたとばかりに、素早いステップでグエンが私の右側に、振り下ろした体勢で無防備に脇を晒す側に回り込んでくる。


「ほら、がら空きだ!」

「くっ!!」


 咄嗟に引き寄せて剣の腹で拳を受け止めた木剣が、バキリと派手な音を立てて折れ飛んだ。


 同時に反対方向へ飛んで勢いは殺せたけど、そのまま拳が脇腹を痛打して、吹き飛び地面を転がった。


「ほう? 今の一撃、よく反応できたな?」

「ゴホッ、ゴホッ……はぁ、はぁ……本気の袈裟切りに見せかけただけ……大技を外したように見せかけて、大振りを誘って、はぁ、はぁ……すぐに対処出来るように……そしてカウンターを狙ってた……」


 汗だくのせいで全身土埃で泥だらけになって、肩で息をしながら、殴られた脇腹を庇いつつなんとか起き上がる。

 肋骨に当たってないから骨に異常はないし、勢いを殺せたから内蔵も無事。


「はぁ……はぁ……」


 でも、それでも相当に重たい一撃で、もしこれが実戦だったら内臓に深刻なダメージを負って、その上で追撃を受けて私はもう生きてはいない。


「そうか、狙いは悪くなかったな」


 そう言って、グエンが他の訓練中の獣人達に目を向ける。


「あの素人達相手なら、それで十分通用したんだろうが……獣人相手にもう大技の空振りをフェイントに使うのは止めておけ。そんな癖を付けたら、本物の兵士には恰好の餌だ。ましてや騎士相手なら、思惑ごと食い破られるぞ。本当にただ大技を外して致命的な隙を晒しただけの結果に終わる」

「……はぁ……はぁ……分かった」


 さすが元騎士、強さが段違いだ。

 つくづく、素人ばかりだったから、獣人相手でもなんとか格好が付いてただけなんだって、痛感させられた。


 息一つ乱さず、まるで指導教官みたいなグエンに、模擬戦終了の一礼をして、訓練場の隅の方へと移動する。


「お疲れ様、エレーナ。また強くなった? どんどん差が開いていってる気がするわ」


 手招きする私と同じ護衛の三人の側へ行って、隣に座り込む。


「この程度じゃまだまだ駄目。伯爵様の役に立つには、この程度のレベルじゃお話にならない」

「まあ、言いたいことは分かるけど……」


 溜息を吐いて、私と一緒に訓練場の一角を見遣る。

 そこでは、ドワーフが、ハーフリングが、獣人が、模擬戦をしていた。


 どの種族も強い。


 ドワーフは、ずんぐりとした体型で背が低い。

 だから、高さを生かした打ち下ろしの攻撃を生かせば有利に戦える。


 でも、その太い腕とガッシリした足腰で、それを苦もなく受け止められてしまうから、一方的に有利になるとは言いがたい。

 使う武器も重量がある物を平気で振り回すから、一撃一撃がとても重たくて、まともに受け止めてしまったら足が止まってしまう。

 そうして足を止めての真正面からの打ち合いに持ち込まれたら、上背がある有利なんてないも同然で、そのパワーで押し切られかねない。

 重心が低いから体勢を崩させることも難しい、安定感があるパワーファイターだ。


 そして何より怖いのは、身長差でどうしても下を向いてしまうから、視界が狭まってしまうこと。

 集団戦になると、味方を視界の端に捉えて動向を把握しておくのも難しくなって、普段より連携が取りにくくなってしまうのが非常に怖い。

 それらが相俟(あいま)って、隊伍(たいご)を組んで守りに入ったドワーフ達を突き崩すのは非常に困難だ。


 似たような問題は、ハーフリングを相手にするときも起きる。

 ドワーフよりさらに背が低く、普通の人間の半分ほどの身長しかないから、もっと下を向いてしまうのは、もうどうしようもない。

 それでいて、とにかくすばしっこいから、捉えるのが大変だ。


 筋力がないから、まともに一撃を入れたら、圧倒的にこちらが有利になる。

 それを分かってるから、ハーフリングはまともに打ち合わない。

 すばしっこさを生かしてこっちの間合いの外を動き回って翻弄し、隙を見せれば一気に間合いを詰めての一撃離脱。

 一撃当てさえすればこちらが有利になるのに、的が小さくて当てにくく、苛立たされることも多い。

 ドワーフとは別の意味で、引っかき回されて仲間との連携が取りにくくなる相手だ。


 本来は弓や投げナイフを使い、森や草原、町中なら建物の陰に身を潜めて、アウトレンジからの一方的な攻撃や、奇襲して一撃離脱するゲリラ戦法が得意な者達が多い。

 まともに切り結べば、体格差で負けると言うのが分かってるから。


 だからといって近接戦が苦手かと言うと、決してそうじゃない。

 今は素人に毛が生えた程度の新人ばかりだから対処も出来るけど、本格的な戦闘を学んだ兵士や騎士相手だったら、素早さに翻弄された挙げ句に死角に潜り込まれて、致命的な一撃を浴びかねないと思う。


 そして獣人。


 ドワーフやハーフリングと違って、二メートル近い者達が多いから、むしろ見上げる感じになって視界が狭まることはない。

 だけど、パワー、スピード、スタミナ、タフネスなど、凡ゆる面において、人間を上回ってる。


 何より厄介なのは、その野生の勘だ。

 脳筋でパワーとスピードで押し込んでくる戦いを好むから、フェイントにはよく引っかかる。

 だからこちらは頭を使ってフェイントで翻弄すれば対処可能だ。

 だけど、フェイントを駆使して隙を突いても、フェイントに綺麗に引っかかった上で、野生の勘とその天性のスピードで対処を間に合わせてしまうから、理不尽としか言い様がない。


 パワーで押され、スピードで乱され、野生の勘で決定打をかわされてしまう。

 そしてタフ。

 そんな打つ手なしの状況に、精神力を削られる戦いになる。


 正直、戦わずに済むなら一生戦いたくない。


 そんな色んな種族の中に交じって、人間の兵士達も訓練してる。

 この領地と一緒に引き渡された元奴隷の兵士と、元グルンバルドン公爵領軍の兵士達だ。


 元奴隷の兵士達は、まだまだ新人で、レベルとしてはお話にならない。

 元グルンバルドン公爵領軍の兵士達はさすがと言えるレベルで、よく鍛え上げられて、その実力を疑う余地はない。


 でも、それは飽くまでも人間同士の戦いならの話だ。

 さすがのベテラン達も、他種族と戦うのは勝手が違うようで、いいように翻弄されてなかなか自分のペースに持ち込めず、苦戦を強いられてる。


 人間同士で戦うのが一番勝手が分かってて楽、って思ってしまうのは、あまり褒められた考えじゃないと思う。


「まあ、あたしらも、ついそう考えちゃうからね。人間ばかりの国で、仲間内でしか訓練してこなかった弊害って奴だね」

「ほんとそれ。この領地に来て、つくづく実感しましたよ……人間以外の国と国境を接してる領地で小競り合いでもしない限り、他種族と訓練すらしないんだから」


 みんな、考えることは同じらしい。


「そう。そういう意味では、私達は恵まれてるとも言える。多くの経験を積んで強くなれるチャンスが、いつも目の前にあるんだから」

「見方を変えれば、エレーナの言う通りかもね」


 素直に賛同しかねるって口ぶりだけど、それはきっとみんなも実感してることだと思う。


「さあ、次にかかってくる奴はどいつだ?」


 私との模擬戦じゃ肩慣らしにもならないって顔で、グエンが周囲を見回す。

 それに応えた騎士が一人。


「私が立候補してもいいだろうか?」

プルツ(ジェラッド)殿か。いいだろう。相手にとって不足はない」


 私を相手にしたときとは違って、やる気を漲らせて獰猛に笑うグエン。

 そして、グエンに臆さず不敵に笑うプルツ殿。


 私より遙か高みにある二人の騎士達の模擬戦を、勉強のために見学する。


 実際に木剣を振るのから、視線や足運びだけのフェイントを駆使して、グエンの隙を突くプルツ殿。

 そのフェイントをかわしても引っかかっても、罠ごと食い破るグエン。


 そんな攻防が数分続き、またしても木剣が折れ飛んだ。

 獣人のパワーに、木剣程度じゃ耐えられないから仕方ない。


「降参、私の負けだ」


 剣が折れては、それも仕方ない。

 プルツ殿が、両手を挙げて降参する。


「俺は木剣じゃなくても構わないが?」

「それはまた次の訓練の機会にしておこう」

「そうか」


 グエンは少々不完全燃焼って顔で、残念そうに頷く。

 さすがのプルツ殿も、このまま続けていればスタミナとタフネスの差で敗色濃厚だったから、素直に引き下がったんだろう。


「プルツ殿でも、数分保たせるのが精一杯か」

「敵じゃなくてつくづく良かったよ」

「伯爵様に逆らって反乱でも起こされてたら、どんだけ死傷者が出たか、考えるだけでもゾッとしませんよ」


 本当に、三人の言う通りだ。


「他に、かかってくる奴はいないか?」


 グエンはまだ模擬戦を続けるつもりらしい。

 息も整ったし、立ち上がる。


「ちょっとエレーナ? またやるつもり?」

「このところ、気合い入り過ぎ……と言うよりも、根を詰めすぎ、思い詰めすぎじゃないかしら?」

「精霊魔法の練習も平行してやってますし、こんな無理なペースで訓練してたら、そのうち倒れちゃいますよ?」


 三人とも伯爵様の執務室に同席したから、私の気持ちを理解してくれてるからこその言葉だろう。


「このくらい、平気」


 新しい木剣を手に、グエンに向かって踏み出して――


「……あれ?」


 ――ぐらりと視界が揺れて、真っ暗になった。



 いつも読んで戴き、また評価、感想を戴きありがとうございます。


 また、誤字脱字報告ありがとうございます。

 先日もあとがきで書きましたが、ここしばらく、第一話からではなく唐突に最新話付近の一部分のみについて、誤字脱字ではない、主人公の口調や言い回しなどの表現についての修正希望を、誤字脱字報告で何度も繰り返し出してくる方がいます。

 指定箇所のキャラの口調や言い回しは、作者である私が決めた主人公像に従い、口癖や思考、感情の表現として、敢えてそのように表記しているものです。

 ですので、第一話からずっと通してきたキャラの口調、ましてや個性が変更されるような修正希望には、何度繰り返し出されようとお応え出来ません。

 また、本来修正すべき、本当に誤字脱字をしてしまっている箇所についての報告が埋もれて見落としてしまう危険もあります。

 ですので、誤字脱字ではない、キャラクター像が変更されてしまうような、口調や言い回しなどの表現についての修正希望を誤字脱字報告で行うことは、ご遠慮戴きますよう、ご理解とご了承、ご協力をよろしくお願いいたします。


 励みになりますので、よろしければブックマーク、評価、感想など、よろしくお願いいたします。


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