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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十五章 領地経営が順調でどんどん身の回りが騒がしくなる

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452 ルグスの視察 2

 ルグスの視察はそれで終わりじゃない。

 非常に重要な案件が一つある。


 代官には手の空いてる役人達を、町長には鉱夫、鍛冶屋などのルグスを支える産業に関わる主立った顔役、およびその補佐をしてる手隙の連中、さらに精霊と契約出来た精霊魔術師達を可能な限り大勢、町の防壁の外で鉱山にほど近い溜池へと集めさせた。


「これは……とても毒々しい色の溜池ですね……」


 モザミアがドン引きして、エレーナも眉間に皺を寄せてなんとも言えない顔をする。


 何しろ、溜池の底や壁には、赤、青、黄なんかの毒々しい色をした鉱物が沈殿して付着し、水もまたそういう色味を帯びて濁ってるからだ。

 溜池の底や壁は、鉱毒水が染み込んで土壌を汚染しないようにしっかり固めておいたから、鮮やかにべっとり付着してる感じだな。


 代官や町長、鉱夫や顔役達にはこの溜池のことを伝えてたけど、それ以外の者達は初めて知る者達がほとんどらしい。

 みんな、二人と似たり寄ったりの反応だ。


 そんな全員を見回してから話を始める。


「初見の者達も多くいるようだから、改めてこの溜池について説明する。ここは鉱山の採掘中、坑道に湧き出た地下水、つまり鉱毒を含む鉱毒水を汲み出したものを捨てるための池だ」


 俺の『鉱毒』そして『鉱毒水』って言葉に、驚く連中が少なからずいる。


 鉱山を採掘中に水が湧き出てくるのは決して珍しい話じゃない。

 しかもこの山脈は、地下水が豊富みたいだしな。

 そうして湧き出た水は、採掘の邪魔になるから汲んで捨てる、くらいの認識しか持ってない連中も多いだろう。


 それがまさか、こんな毒々しい色をして、ストレートに『毒』って表現されるとは思ってもなかったに違いない。


「この鉱毒水は、こうして土壌を汚染する。当然、このまま川に流せば、川底に沈殿してこういう風に川が汚染されてしまう。お前達も、そして川の下流の者達も、こんな汚染された水を飲んだらどうなるか、想像するのは簡単だろう? そう、健康を害して、重い病気になるんだ」


 途端に大きくざわつく、何も知らなかった者達。

 代官や町長達には、この溜池を作るときに事前に説明してたからそこまでの驚きはないみたいだけど、実際に毒々しい色に汚染された鉱毒水を目にして顔をしかめてる。


「水だけじゃないぞ。その汚染された川の中で生きてる魚、貝、岸辺に生えてる草花なんかは、この鉱毒を体内に取り込んで溜め込むんだから、そんな魚や貝や野草を食べたら、それだけで鉱毒を取り込んでしまう。それは、川の水を飲み、それらを食べる獣達も同様だ。そしてそんな獣を狩って食べれば、やっぱり獣達の体内で濃縮された鉱毒を取り込んでしまうことになる」


 それから、俺も大したことは知らないからあやふやで漠然とした知識だし、この銅山のケースが当てはまるかどうか知らないけど、色んな公害病について、どんな症状が出たり、どんな風に苦しむことになるのか、なんてことを語って聞かせる。


 途中、ガンドラルド王国の鉱山で働かされてた時に、似たような症状で苦しんでる奴がいた、こんな色の川を見たことあるって話してくれた鉱夫がいて、それが俺の話に信憑性を持たせてくれた。

 おかげで、俄然みんな真剣に聞いてくれるようになって助かったよ。


 俺にしてみれば当たり前の知識だし、経験則で理解してる奴もいるだろうけど、トロルの奴隷だった連中のほとんどが、言われて初めてなるほどって気付いたみたいだ。


 これで全員、この鉱毒水をこのまま川に流すことがどれだけ危険なことなのか、理解してくれただろう。


「そこで今から俺が鉱毒水から鉱毒を可能な限り取り除くから、よく見ててくれ」


 モスとサーペを呼び出して、鉱毒水の中に含まれてる、毒々しい色の原因になってる鉱物を沈殿させて底や壁に張り付いてる分も含めて塊にしてしまう。


 正直言って、それがなんて名前の鉱物かなんて知らないんで、ともかく色の原因になってる鉱物って指定するだけだ。

 後は、精霊がなんとなくいい感じにしてくれるから、お任せでやってしまう。


 そうして塊になった鉱物を、この日に先立って作って貰っといた金属製のゴミばさみを使って、溜池から取り除いた。


「「「「「おおっ!」」」」」


 それだけで、グッと溜池の水が綺麗になる。


 でもまだ、うっすらと濁ってて、綺麗な水になったとは言いがたい。

 なので、この溜池の排水路の仕切りを外して、時短のためサーぺに頼んで隣の空の溜池へと水を全部移してしまう。

 こうすれば、最初の溜池の底に転がった鉱物の塊も回収しやすいだろう。


「で、こうして隣の溜池に水を移動させたら、ここでもう一度、水が濁ってる原因の、あの毒々しい色の鉱物とは別の鉱物を沈殿させて塊にしてしまう」


 またモスとサーペに頼んで色々含んでる鉱物を沈殿させてしまうと、うっすら白っぽい塊が底に沈んで、水が綺麗に澄んでくれる。


「「「「「おおっ!!」」」」」


 それを見て、さらに大きなどよめきが上がった。


 正直、この沈殿した白っぽい塊の鉱物の名前もよく知らない。

 例えば、カリウムとか、マグネシウムとか、所謂ミネラルって呼ばれてるような鉱物で、実は有害どころか栄養になる物が含まれてるのかも知れないけど、そこまでの知識がないから怖いんで、全部沈殿させるのが無難だろう。


「ここまで綺麗に澄んだ水なら、もう川に流しても飲んでも大丈夫だ」


 さすがに、最初の毒々しい色の鉱毒水を見た後だと、試しに飲んでみようって奴は出てこなかったけど。


 って言うか、俺も大丈夫だって頭では理解してても、これを飲むにはちょっと勇気がいるな……。

 でも、俺がやったことだし、これからさせようってことなんだから、領主の俺が率先して大丈夫だって証明する必要があるわけで。


 内心はともかく極力平気な顔をしながら片手で掬って飲もうと――


「待って伯爵様! 毒味なら私がする」


 ――横から伸びてきた手が俺の腕を掴んで止める。


 エレーナが、すごく怖い顔をしてた。


「もし伯爵様に万が一のことがあったら困る」

「ありがとうなエレーナ。でも大丈夫だ。俺が魔法で浄化したんだから問題があるわけないだろう?」


 それを俺自身が証明する方が説得力があるし、さすがに女の子のエレーナに試させるのは抵抗があるし。

 何より、俺の腕を掴んでる手が微かに震えてるしさ。


 だから大丈夫だって何度も言って説得してから、改めて手で掬って飲む。


「……うん、そこらの井戸水より澄んでて美味しいかも」


『ユニ、サーペ、モス、どうだ?』

『ヒヒン』

『シャー』

『ブモォ』


 どうやら、ちゃんと大丈夫らしい。

 少なくとも人体に影響があるほどの鉱毒の摂取はなかったみたいだ。


「ほら、大丈夫だろう?」


 にっこり笑ってみせると、知らず緊張してたらしい全員がほっと安堵する。

 特にエレーナは、大げさなくらい胸を撫で下ろしてるな。


「これで分かってくれたと思うけど、綺麗な川や自然を守るため、そしてこの町や下流に暮らしてる人達の健康や動植物のため、契約精霊持ちの精霊魔術師には、俺の代わりにこの仕事をやって貰いたいんだ」


 精霊魔術師達は、そこでようやく自分達が呼ばれた理由を理解したらしい。


「思った以上に重要な仕事なんですね」

「こんな毒々しい色の物を飲み食いしたくないです。本当に病気になりそうです」


 うん、どうやらその気になってくれたらしい。


「慣れるまでは俺が指導するから、毎日この溜池で練習をしてくれ。十分に鉱毒を取り除けるようになるまでは、川に水を流さないようにな」

「はい!」

「頑張ります!」


 よしよし、やる気があって助かるよ。


 それから簡単にスケジュールを確認した後は、町中に戻る。

 次は、煤煙問題だ。


 精錬や鍛冶仕事で出てくる煤煙にも有害物質が含まれてるって話をして、ロクに煤煙を集めて貰って固めてしまう。

 これもまた、契約精霊持ちの精霊魔術師にやって貰いたい仕事だ。


 それから、これらの作業に従事してる人達は、マスクをしたり、一日の終わりに外でよく煤を払ったり洗い流したりして、できるだけ家の中や寝室に持ち込まないようにして、不要に吸い込まないようにすることも指示しておく。


 ついでに、精霊魔法を使えなくても、家の中で濡れタオルを振り回して煤煙を取り除く方法も効果があるってことも付け加えておく。

 何しろインフルエンザに掛かりにくくなるくらいだし、多分煤煙にも有効だろう。

 仮に劇的な効果はなくても、何もしないより遥かにマシだ。


 そういったことを他の住民達にも周知徹底して、健康被害が出ないように極力対策をするよう指示を出しておく。

 さらに、そうして塊にした鉱物や有害物質は、倉庫を用意して保管しておくようにも言っておいた。


「俺も詳しいわけじゃないし、今は調べてる余裕もないから確かなことは言えないけど……これらの鉱物を研究したら、もしかしたら無害に出来る方法や、有効活用出来る鉱物だけを分離する方法を見付けられるかも知れない。この領地がもっと発展して余裕が出来たらになるけど、もし学問を学んでる奴やそういう研究をしたい職人がいれば言ってくれ。財政が許す限り支援しよう」


 個人の研究者のパトロンになったり、そういう研究施設を建てたり、何か出来ることがあると思う。

 こうした話が一通り終わってから、ようやくルグスでの視察は終わりだ。


「ここまで領民のことを考えて下さり、ありがとうございます」


 代官や役人達が深々と頭を下げてきた。


「さすが領主様のご慧眼は大変素晴らしく、この話を知れば領民は皆、領主様に深く感謝し感涙すること間違いなく――」


 うん、感謝してくれてるのは十分に伝わってくるけど、町長のよいしょは聞き流しておこう。


「そういうわけで、これからもよろしく頼んだぞ」


 こうして俺とモザミアとエレーナは、次の目的地に向かってレドで飛び立った。



 後日、誰が考えたのか、とある工房が煙突の上にテントみたいに大きな布を張って、フィルターみたいに煤煙から少しでも有害物質を取り除こうと工夫を始めた、って報告が上がってきた。

 その真っ黒に汚れた布は洗って再利用して、汚れた水はその場で捨てずに鉱毒を取り除く溜池みたいに新しい溜池を用意してそっちに捨てて、有害物質を沈殿させて固めるようにしたそうだ。


 その報告を受けたとき、俺はもう思わず立ち上がって大絶賛しちゃったよ。

 即日その工房に飛んでって、賞賛の言葉と褒賞の金一封を贈ったくらいだ。


 そうしたら、どこの工房もその方法を採用して、町ぐるみでの公害対策が始まってくれた。


 機械的に煙を吸い上げて排出出来るわけじゃないから、煙突内にフィルターのように設置しちゃうと煙突が詰まって煙が逆流しちゃうんで、どうしても煙が煙突の外に出てからじゃないと手を打てないから、決して効率は高くないけど。


 それでも、仮にそれがたった十パーセントや数パーセント程度だったとしても、こういった努力の積み重ねが、後々大きな違いを生み出すのは明らかだ。

 今後も奴隷達が引き渡される度に工房は増えるだろうからな。


 濾過フィルターや高分子ナノフィルターなんてオーパーツはないけど、少しでも効率よく有害物質を取り除ける布はないか、布の織り方はどうだ、形状はどうだ、毛皮や鳥の羽、動物の腸や肺なんかはどうだ、みたいに研究を始めた工房もある。


 さらに、屋根に登ってフィルター代わりの布を交換する仕事。

 工房では処理できない汚れた水を回収して新しい溜池に捨てる仕事。

 その新しい溜池で鉱毒と同様に有害物質を沈殿させて固めて取り除く仕事。

 各工房や溜池で固めた有害物質を回収して倉庫にしまう仕事。


 などなど、新しい仕事まで生まれた。


 そうした努力の積み重ねのおかげで、町の住民や行商人から話を聞けば、他領および他国の鉱山都市や工業都市と比べて、ルグスは水も空気も土壌も綺麗なままで、遥かに住みやすい町として発展してるらしい。

 何しろ、稚拙ながらも公害対策を数百年以上先取りしてるわけだから、当然と言えば当然だな。


 おかげで、一部の貴族達はルグスの真似をしようと、視察のために使節を派遣してくるようにまでなったから驚きだよ。


 是非この調子で、住民みんなでルグスを発展させて盛り上げて貰いたいもんだ。



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