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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十四章 奴隷達が引き渡されてトロルと交易を始める

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430 ハウラの事情

「なあ、グエン」


 バチバチと視線で火花を散らすエレーナとハウラを迂回して、グエンに近づいてコッソリ尋ねる。


「お前の義妹……ハウラって、なんか年の割に言動が幼くないか?」


 ぶっちゃけ、七歳とか八歳とか、高く見積もっても十歳かそこらにしか見えない。

 背の高さも体付きも俺より少し年上に見えるから、そのギャップに萌えるより、違和感の方が先に来る。


「しかも、貴族で領主である俺の立場を全然理解してなさそうに見えるんだけど」

「済みません、ボス(領主様)。お恥ずかしい話ですが……ハウラはガンドラルド王国に支配された後に生まれた子供でして、貴族やその支配する社会についてほぼ何も知らないのです」


 まず一つ、なるほどって思った。


 ガンドラルド王国から引き渡された奴隷達は、大雑把に二種類に分けられる。

 一つ目は、以前の生活があった者達。

 二つ目は、トロルが支配する社会しか知らない者達だ。


 前者の、トロルに攫われたり、侵略されたりして奴隷になった者達は、それまでの生活があり、王侯貴族が支配する社会体制や貨幣経済について知ってる。


 でも後者の、トロルに支配された時にまだ幼かった子供達や、その後生まれた子供達は、トロルが支配する社会しか知らない。

 だから、俺達が一般常識、社会常識って思ってることも、全然知らない、聞いたことはあっても実体験がない、って者達ばかりになる。


 もっと言うと、さらに世代が進んで周囲がトロルの奴隷生活しか知らない者達ばかりになると、もはや誰もが生まれながらの奴隷で、もう奴隷としての生き方しか知らず、それ以外の生き方を選べなくなってしまっている。


 そこまでいってしまうと、いくらキリに頼んで気持ちを前向きにさせても、元からない感情は増幅できないわけで。

 結果、『トロルの顔色を窺い、いつ機嫌を損ねて殺されるか分からずビクビクしながら奴隷として生きるしかない』、って諦観(ていかん)めいた気持ちが、俺を新しい主人として、『トロルから解放してくれた恩返しを生きがいに、領主様のために奴隷として懸命に生きる』、って生き生きとした気持ちになっただけだった。


 もうそこまでくると、その生き方を変えて一般人として生活出来るように、って持って行くのは短期間じゃ無理なわけで。

 世代交代が早い人間で、百年以上前にトロルどもに奪われた山脈南側の村なんかだと、もはや俺の命令や許可がないと生きていけない、自発的に自分の人生について考えたり何かしようって発想すら生まれない、なんて連中がゴロゴロしてたんだ。


 だから、たとえ小さな村だろうと、俺の代理人たる代官を置いて日々彼らに命令と許可を与えないと、真っ当な社会生活どころか奴隷としての生活すらままならなかった。


 なので代官には多大な負担をかけてしまってるけど、そういう生活の中で徐々に自発的に動けるようになれないか、取り組んで貰ってる最中だ。


 まあ、そんな連中に比べれば、ハウラはまだグエンくらいの親世代、祖父世代が生き残ってて、トロルに支配される以前の話を多少なりと聞いたことがあるだろう。

 だから後はこの領地で社会生活を送れば、時間は掛かっても馴染めるはずだ。


 でも、明らかにそれだけじゃないだろう。


「俺の立場を理解してない理由は分かったけど、この言動の幼さはそれだけじゃないよな?」

「それについては、オレも妻から聞いた話で恐縮ですが、ハウラは幼い頃、とある事件のせいで心を閉ざしてしまったそうです。オレもずっとそんなハウラを見てきましたが、まるで感情のない人形のようでした」

「えっ!?」


 まるで子供が我が侭を言って突っかかってるようなハウラの様子を見てると、そんな状態だったなんて信じられないんだけど。


「一体何があったんだ……って聞いてもいいか?」

「はい。オレはその場に居合せてなかったので、妻から聞いた話ですが――」


 聞いて、余計な好奇心を出すんじゃなかったって思った。


 ハウラがまだ幼い頃、ハウラとハウラの姉であるグエンの奥さんが住む町がある旧ザレリア王国全域で、トロルに反抗する獣人の奴隷達の一斉蜂起があった。

 トロルに支配されること十年弱、水面下でずっと反抗の機会を窺い、元王族や元貴族を中核としてレジスタンスが組織されてたそうだ。


 そして遂に反攻作戦が開始されて、多くの獣人達が再び戦いに身を投じた。


 最初は優勢に進み、幾つもの地方がトロルの支配から解放されたらしい。

 だけど、その抵抗は長くは続かず、トロル騎士達が鎮圧に乗り出してきてしまい、結果、レジスタンスに参加した獣人達は全て殺されてしまった。


 そのレジスタンスには、ハウラとグエンの奥さんの両親も参加していたそうだ。


 トロル騎士達が再び町を攻め落とし、町中が戦場になる中、ハウラとグエンの奥さんは、両親からあの馬房のような奴隷の家に隠れてるように言われてじっとしてたらしい。

 だけど、グエンの奥さんがほんのわずか目を離した隙に、ハウラは両親を追って外に出てしまった。

 いくら奴隷生活をしてたとはいえ、まだまだ親に甘えたい盛りの子供に、じっと待つだけの分別は付かなかったってわけだ。


 そうして、ハウラは両親と他の獣人達が殺される瞬間を目撃してしまった。

 グエンの奥さんが気付いてハウラを追い、ハウラを見付けたときには、すでにハウラは心を閉ざして人形のようになってしまっていたそうだ。


 グエンがこうして生きているのは、奴隷にされたとき、戦力になる元騎士達は旧ザレリア王国以外の地方にバラバラに振り分けられていて、その反攻作戦に参加出来なかったかららしい。

 そして、再び獣人達がレジスタンスなんて組織しないよう、多くの獣人達が同様に旧ザレリア王国以外の地方にバラバラに振り分けられ、そこで孤児になった二人にたまたま出会い、事情を知って反攻作戦に参加出来なかったことを悔やみ、親代わりに二人の面倒を見ることにしたそうだ。


「それは……なんて言えばいいのか……」

「済みません、こんな話を。トロルの支配下ではよくある話だったので、つい」


 そうか、よくある話なのか……。

 確かに、支配されて間もない頃ならまだ反抗心も強くて、トロルの横暴を許すな、トロルの支配から脱却しよう、って組織的に抵抗する連中が大勢いてもおかしくないよな。


 暗くなった雰囲気を変えようとするように、グエンがハウラへと目を向け、兄って言うよりまるで娘を見守る父親みたいな目で微笑む。


「今のように、まるで普通の子供のように感情を取り戻したのは、この領地へ来て、難民キャンプで暮らすようになってからです。きっとトロルから解放されたことで、止まっていた心が動き始めたんでしょう」


 そうか、キリの魔法が心を取り戻す切っ掛けになったんだろう。

 言動が幼いのは、ずっと心を閉ざしてたせいで心が幼い頃のままなんだな。


「ただ、今の話はハウラには内密にお願いします。心を閉ざす切っ掛けになったその事件を、何も覚えていないようなので」

「分かった。覚えてないなら、無理に思い出させる必要はないからな」


 幼い心を守るための防衛本能だろうし。

 そんな悲しい記憶、無理に思い出させる必要なんてないんだから。


「ちなみにハウラって、どこかの王家や貴族家の血筋だったりは?」

「しません。ただの平民の娘です」


 だからグエンも困ってるんだろう。

 もしそういう身分の娘だったら、事情や精神年齢はともかく、領主でボスになった俺に(めと)らせる方が、グエン達獣人にとってはより大きな庇護を受けられるって意味で好都合だっただろうからな。


「エレーナ、ナサイグ」


 エレーナとナサイグだけを呼んで、グエンにはハウラの相手をして貰う。

 そして、今聞いた話を二人に掻い摘まんで説明した。


「そう……」


 途端にエレーナがすごく困った顔になる。

 相手が見た目通りの年齢で分別がないだけならガツンと言ってやればいいけど、小さな子供相手となると、それもちょっと大人げないもんな。


「事情は分かった。でも、なおさら分別のない子供を伯爵様の妻として側に置くわけにはいかない」

「そうですね。誰彼構わず、エメル様に近づけるわけにはいきませんから」


 二人の言う通り、俺を気に入ったって言う女の子を誰彼構わず相手にしてたら、それこそ色んな派閥の貴族のご令嬢達が、どんな目論見で近づいてくるか分からないからな。


 何より、さすがにそんな事情の子を、これ幸いにと『嫁』にして手を出すわけにはいかないわけで。

 そんなことをしたら、まさに何も知らない子供を手籠めにした悪徳領主になっちゃうだろう。


「グエン」


 俺達の意見をまとめた上で、グエンに声をかける。

 なんで邪魔するんだって、むっとしながら唸ってるハウラを宥めてたグエンは、ほとほと困った顔で振り返った。

 そして俺の顔を見て察したんだろう、頭を下げる。


「申し訳ありません、ボス(領主様)。こいつのことは気にしないで、きっぱりと断ってやって下さい」


 事情が事情だけに、本音ではハウラの願いを叶えてやりたいんだろうけど。

 元騎士だけあって、ハウラの願いを叶えるには無理があるって、ちゃんと分かってくれてるわけだ。


「ハウラ」

「ボス♪」


 俺が呼びかけると、不機嫌だったのが一転して、ぱあっと顔を輝かせてブンブン尻尾を振った。



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