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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十四章 奴隷達が引き渡されてトロルと交易を始める

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411 トロルの商売のやり方

「まずこちらのオリーブと胡麻(ごま)ですが――」

「ならバ、小麦をその大袋デ――」

「いやいや、苦くて食べられない、小さくて食いでがない、奴隷達の腹を満たす程度にしか利用価値がない作物に、それはぼったくりも過ぎると言うもの。こちらの高級品の小麦とでしたら大袋で――」


 インブラント商会長と青い肌のトロルとの交渉が始まった。

 とにかく大量に食料が欲しいのか、ぼったくってくるトロル相手に、最初は腰が引けてたインブラント商会長も段々と腰が据わってきて、堂々と渡り合う。

 さすがインブラント商会長、見込んだとおりだ。


「これ以上は出せません、大袋を――」

「ヌゥ、イイだろう」


 その横で、オルブンが決着が付いた取引内容を記録して、インブラント商会の使用人達に指示して、決まった分だけこちら側の作物を運んで渡し、トロル側の品を受け取って運んでくる。


「ウサギの毛皮はそれでイイ。ダガ、ホーンベアはオレ達でも狩るのは危険ダ。ジャガイモをもう三袋――」

「仕方ありませんな」


 全てこちらの思うとおりになるわけじゃなく、全てトロルの思うとおりになるわけじゃなく、なかなかタフな交渉を強いられてるみたいで、相当に時間が掛かってるし、中には折り合いが付かず取引が成立しない物もあった。

 それでも、インブラント商会長は次々と交渉をまとめていく。


 幸いだったのは、脳筋で蛮族のようなトロルにもちゃんと貨幣経済があって、曲がりなりにも物価や交渉って概念があったことだ。

 おかげで、全く折り合いが付かない未知のやり取りにならなくて良かったよ。


 もっとも、やはり脳筋は脳筋らしい。


「ふぅ……閣下、なんとか全ての取引を終えました」


 たっぷりと掻いた汗をハンカチで拭いながら、大仕事をやり遂げたいい顔でインブラント商会長が戻って来た時、青い肌のトロルが地団駄を踏んで地面が揺れた。


「マダ残ってイるだろう! もっと食料をよこセ!」


 インブラント商会のブースに積まれてる食料を指さして、怒鳴り声を上げる。

 全員がギョッとして振り返ったのは言うまでもない。


 ブースには、小さな倉庫ならいっぱいになるくらい積まれてた袋が、まだ四分の一程は残ってる。

 対して、トロル側には三分の一強程が残ってた。


 そう、全ての品を交換したわけじゃないんだ。


「しかし、折り合いが付く物で、こちらが欲しい物は全て交換しましたからな」


 これは嘘だ。


 俺の指示で、こちらの全ての作物を交換してしまわないように、そして同様にトロルが持ち込んだ物を全て交換してしまわないように、事前に指示を出してたからだ。

 目先の利益だけを考えれば、他国を経由しない分だけ安価で手に入るから、全て交換した方が得なんだけど。


 そうしない理由は二つ。


 一つは、トロルどもに、こっちが用意した作物を全て手に入れられるわけじゃない、同時に、トロルどもが持ち込んだ品も全てを交換出来るわけじゃない、って分からせるためだ。


 もし全部交換なんてことをしたら、次回以降の取引で、こっちがいらない品までさらに大量に持って来て、全部作物と交換しろって言い出しかねないわけで。


 特に今回は初回の取引だから、外務省を通じて事前にある程度の摺り合わせをしてたおかげで、かなりの品についての取引が成立してる。

 だけど、次もそう上手く行くとは限らない。

 だからトロルどもには、次回以降、ちゃんと需要と供給を考えて交易品を持って来て貰わないと困る。

 そこのところを、学んで貰う必要があるってわけだ。


 何より、真面目に取り合ってたら、際限なく作物を持って行かれてしまうからな。


 いくらエレメンタリー・ミニチュアガーデンを使って短時間で大量生産出来るとはいえ、俺とエフメラの手が取られるわけだから、そればっかりやってる暇はない。

 大量に出回れば、無駄に価格を下げる原因にもなりかねないし。


「コッチはどれだけ食料ガあっても足りナイんダ! いいからよこセと言ってイる!」


 おいおい、聞く耳持たずかよ。

 ファイティングポーズを取って、足を踏み鳴らしながら迫ってきやがるし。


「ひっ!?」


 さすがにこれにはインブラント商会長も悲鳴を上げて後ずさり、オルブンもインブラント商会関係者達も、慌てて逃げ出し俺の後ろやブースの陰に隠れる。

 野次馬達もどよめいて、護衛達が武器に手を伸ばした。


「待て! 一体どういうつもりだ!?」

「どウいうツもり、ダと!? オレ達ニは、もっと食料が必要ナんだと言ってイる!」

「だから、力尽くで奪い取ろうってのか?」

「そうダ!」


 大きなどよめきが上がって、護衛達の空気が張り詰める。


「だから勝負ダ!」

「……ん? 勝負?」

「そうダ、名誉ヲ懸けた神聖な戦いデ、ケリを付けル! オレが勝ったら、残りの食料ヲ全部よこセ!」

「じゃあ俺達が勝ったら?」

「アリえんナ! だが、好きな物ヲくれテやル!」

「そうか。だけどな、そんな暴力での奪い合いを認められるわけないだろう。ここは交易で商売をする場だ」

「だから勝負ダと言ってイる!」


「……んん? もしかして、商売で折り合いが付かなかった場合、お前らは殴り合いで決めるのか?」

「さっきからそうダと言ってイる!」


 おいおい、マジか?

 他のトロルども、特に緑の肌のトロルを見るけど、どいつもこいつも当然って顔をしてるな。


 ただ、ん~……ちょっと違和感あるな。

 中にはニヤついてるトロルもいるし。


「それは本当に勝った方が欲しい物を奪い取れるのか? だったら最初から勝負を吹っかけて、一方的に全部奪っていけばいいだろう?」


 でもそんな真似を許したら、単なる暴力での略奪が横行するだけだ。

 商売や貨幣経済なんて、そもそも成り立たないだろう。


「本当に一方的に奪い取るだけなのか? こっちが人間で何も知らないからって、嘘を吐いてるんじゃないだろうな? それが後から発覚したら、お前ら全員、ただでは済まさないからな?」


 きつく睨み付けて、圧をかける。


「……チッ!」


 青い肌のトロルは舌打ちすると、俺達がいらないって交渉しなかった銅のインゴットを幾つか積んだ。


「オレが勝ったら、残った食料ヲ全部戴く。代わりに、コれをくれてやる」

「なるほど、一方的な条件を突きつけるとはいえ、一応物々交換は成立させるわけか」


 ただし、積まれた銅のインゴットの数は少ない。

 もし残った食料全部と交換するなら、その数倍は必要だ。


 一応、キリに確認してみる。


『どうやらトロルの間では、交渉が成り立たない場合や揉めた場合、このような勝負を持ちかけて「力」で解決するのが一般的なようです。最初、何も出さなかったのは、我が君の指摘したとおり、何も知らない人間を騙す意図があったようです。ですが、足りないとは言え、銅のインゴットを出したことで、不平等でも物々交換を成立させました。一方的な略取にしないための措置のようで、これもトロルの間では一般的なようです』


 なるほどな。

 それがトロルの流儀か。


 こういう力尽くで不平等な真似は、正直許したくない。

 だから全面的に禁止するのは簡単だ。


 だけど、これがトロルにとって一般的な商売の範疇だってことになると、それを一方的に禁止してさせないのも、トロルにしてみれば歪んだ商売のやり方を強要されることになるってわけか。


「勝負をする前に、三つ条件がある」

「条件ダと?」

「ああ。俺達マイゼル王国側では、そんな勝負をするのは一般的じゃない。だから、いきなりそんな勝負をしろなんて言われても受け入れられない」


 まあ、黒い商売をしてる連中なら、似たような真似をしてるかも知れないけど。

 もちろん、そんな余計な事は言わないけどさ。


「しかも人間じゃまず勝てる見込みがないし、一方的に搾取されるだけになるのは目に見えてる。それこそ、最初から勝負を吹っかけられたら、こっちとしては商売が成り立たないし、お前らと商売しようなんて人間の商人は一人残らずいなくなるだろう。そうなったら、お前らも食料が手に入らなくて困るだろう?」

「ウ、ム……」


 青い肌のトロルは、トロルの中でも商売をしようってんだから、トロルの文官達みたいに、多少は頭がいいはず。

 納得しがたくても、俺の言ったことの幾らかでも理解して貰いたいもんだ。


「かといって、勝負を全面禁止にしたら、お前らも納得出来ないだろう?」

「当然ダ!」

「だから、そこで条件を付けるってわけだ」


 なんで条件を付けるのかくらいは理解してくれたかな?


「まず一つ目は、勝負を吹っかけた相手が断ったら、勝負はなしだ」

「なんダと!?」

「勝てない勝負をして損をする商人なんているわけないだろう。それにトロルと殴り合いなんて、命が幾つあっても足りないんだ。そんな条件で、ほいほい勝負を受ける奴がいるもんか」

「ム……」


 トロルには再生能力があるから、多少の殴り合いの怪我なんて気にもしないだろう。

 だけど人間の場合、そうはいかない。

 しかもトロルにとっては一方的に奪い取れるチャンスだって思ってるから、なんとしても勝負をしたいんだろうけど、こっちはそんな勝負、絶対したくないんだ。


「だから、相手が断ったら大人しく引き下がれ。それを守るなら、その勝負を吹っかける交渉方法を禁止にまではしない。強要するようなら、それは脅迫や略奪も同然だ。犯罪行為と見なして、逮捕し処罰する。場合によっては、国際問題として、トロルロードの北の公爵やトロルロードの王へ厳重抗議するし、度が過ぎるようなら侵略行為と見なす。いいな?」


 最後の確認は、青い肌のトロルじゃなく、この場の代表の緑の肌のトロルにする。


「グ、ム……仕方ない」


 さすがにここまで言えば、強引に勝負を成立させて一方的な略取をするのは得策じゃないって、多少なりと理解したようだな。

 そしてゆくゆくは、銅のインゴットを幾らか出すだけ、みたいな釣り合わない条件じゃ勝負を受けてもらえないって事も理解して、もっとマシな条件を出すようになって貰いたいもんだ。


「二つ目の条件は、商人本人に戦える力がない場合、勝負を受ける代理人を立てられるようにすること」

「代理人、ダと?」

「ああ、こっちのインブラント商会長が、まともに戦えるように見えるか?」


 トロル達の視線が集まったせいで、俺の後ろでインブラント商会長が身を縮こまらせて震える。

 まあ、これが普通だよな。


「見えンな」

「だろう? だから、絶対に勝負なんて受けない。そこで、勝負を受けて戦えるだけの代理人を立てるんだ。そうすれば、勝負を受ける商人も増えるはずだ」


 言って、会場の警備をしてる領兵の一部に目を向ける。

 そこには、獣人やドワーフの領兵がいた。


 ドワーフだとさすがに厳しいだろうけど、それでも人間より強い。

 獣人も一対一でトロルとやり合うのは難しいだろうけど、それでも正規の訓練を受けた獣人の兵士の中には、一対一でトロルに勝てる強い奴もいるらしい。

 これは、脱走騒ぎを起こして、結果獣人達のまとめ役になったゼネガルから聞いた話だから、まず間違いないだろう。


「フム……イイだろう」


 緑の肌のトロルは、俺の視線の意味に気付いたらしい。

 しばし考えた後、頷いた。


「それデ三つ目ハ、ナんだ?」

「絶対に相手を殺すな。殺し合いじゃないんだからな」

「そんなことカ。イイだろう」


 ふぅ……。

 これで、無茶な勝負を吹っかけられて、一方的に略取される事態は回避出来たかな。


 トロルどもも、一方的に勝負を禁止されなかったんだから反発も少ないだろう。


 それでも、最初はトラブルが続発するだろうな。

 しばらく注意して経過を見て、双方がそれぞれ上手いやり方を見付けて、いずれ落ち着いてくれるのを待つしかないか。



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