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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十四章 奴隷達が引き渡されてトロルと交易を始める

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404 到着するトロルの部隊と奴隷達

 さらに日が過ぎて、遂に奴隷達が引き渡される日がやってきた。


 街道を北上してくる、長い長い人の列。

 その数、ざっと一万人。


 さらにその奴隷達を連行するように、百匹以上のトロルが武器を携え同行していた。


 その長い隊列が関所を越えて、着実にレグアスの町へと近づいてくる。


「いよいよか」

 その様子をロクに乗って上空から眺めながら、独りごちる。


 果たしてこの一万人のうち、どれだけが領民になってくれるのか。

 俺が望む技術を持つ農民や職人はいるのか。

 マイゼル王国への帰属意識を持ってくれるのか。

 俺に従い余計な反発や問題を起こさずにいてくれるのか。


 幾つもの期待と不安が入り交じる。


 今更、何を言ったところで受け入れる選択肢しかないんだから、俺がやるべきは滞りなく政策を進めていくだけだけどさ。


 レグアスの防壁内、門の側へと降り立つ。


「奴隷達とトロルどもは関所を越えた。もうじき到着するぞ」


 俺が伝えると、その場の全員に緊張が走る。


 ブラバートル侯爵と外務省の役人達は、俺が鍛えた王国軍の精鋭精霊魔術師を含む大勢の護衛を引き連れて、少なくない回数トロルどもと会って交渉をしてる。

 それでも、トロルどもと対面する緊張はなくならないみたいだな。

 それは今回も護衛として同行してる連中も同じみたいだ。


 領軍の騎士と兵士達は、またそれとは別の緊張に身体を強ばらせてる。


 王家から派遣された騎士達は、間近で直接相見えるのは王都陥落以来だろう。その時の恐怖や恨みが甦っても仕方ないよな。

 元グルンバルドン公爵領軍の騎士と兵士達は、何度も剣を交えてきた経験があるから、身構えずにはいられないらしい。

 そして元奴隷だった兵士達は言わずもがな、だな。


「みんな、そう緊張するな。ここには俺がいる。何もさせやしない」


 契約精霊達を呼び出して、姿と気配を現させると、ちょっとは安堵してくれたみたいで、張り詰めたような緊張は幾らかマシになった。


 領主らしく、王家から派遣された騎士達に声をかけておく。


「兵士達が暴走するとは思えないけど、突っかかるのは当然、逃げ出さないように、念のためしっかり手綱を握っといてくれ。そこさえしっかりやってくれれば、お前達が剣を交えるような事態にはさせないから、安心してくれ」

「はっ!」


 これで、今回の目的と自分達の役目を改めて意識して、緊張はいい緊張に変わってくれるといいけど。


 続いて、ジェラッド達元グルンバルドン公爵領軍の騎士と兵士達に声をかける。


「今日は二度と同じ悲劇を繰り返さないための大事な通過点になる。お前達も思うところがあるだろうが、堪えてくれ。今回、お前達に一番望んでるのは、トロルを前にしても統率を乱さない精強な兵達がここ(メイワード伯爵領)に常駐してるってところを見せつけることだ」

「伯爵閣下の政策は理解しています。それを邪魔するような真似は致しません。ですが、トロルどもが伯爵閣下のお気持ちを踏みにじるような暴挙に出るようであれば……」

「ああ、その時はよろしく頼む。トロルとの戦闘経験が豊富なお前達の活躍を期待してるよ」


 さっきも言ったけど、当然、そんな真似はさせないけど。


 それから最後に、元奴隷の兵達に声をかける。


「色々思い出して辛いだろうし恨みもあるだろうが、恐れる必要も喧嘩を売る必要もない。今日はかつてのお前達のように苦しんでる者達が、今のお前達のように解放される大事な日だ。トロルへの警戒は必要だが、それよりも、同じ境遇の者達を温かく迎え入れることに心を砕いてやってくれ」

「そう……ですね。領主様の言う通りです。トロルどもは領主様がなんとかしてくれるんだから」

「ああ、その通りだ」


 こんな感じかな?

 これで少しは緊張がほぐれてくれるといいけど。


 それと、ついでだ。


「ブラバートル侯爵達は、きっちり仕事をこなすことだけ考えてくれてればいい。身を守るのは俺や護衛達がしっかりやるからな」

「当然だ。ここまで来たら、泣いても笑ってもやるしかない。ぬかるなよ?」

「あんたに言われるまでもない」


 さすがの侯爵で外務大臣であっても緊張を隠せないのか、念押ししてくるんで、余裕で頷いてみせる。


「あんた達が苦労してここまでセッティングしたんだからな。それを無駄にするような真似はしないさ」

「うむ、是非そう願う」


 虚勢かプライドか、偉そうな態度は変わらないけど。


 そんな俺達の様子を少し離れた所で見守ってるのが、インブラント商会長とオルブンだ。

 二人にも声をかけるために側まで行く。


「インブラント商会長、大丈夫ですか? それにオルブンも」

「な、なあに、商人としての武者震いって奴ですよ、閣下」

「え、ええ。ここまで来たら、引き返せません」


 まあ、そういうことにしとこうか。

 商会長もオルブンも、何度も生唾を飲み込んで落ち着かないみたいだ。


 ちなみにカラブンは、責任者が全員店を離れるわけにはいかないからって、もっともらしい理屈を付けて逃げたんで、この場にはいない。


「取引の開始はトロルどもが到着後、正式に奴隷達が引き渡されてからなんで、しばらく時間がありますし、俺も同席するから大丈夫ですよ」

「え、ええ」


 頷くのもぎこちないし、まだ固いな。


「マイゼル王国で初めてトロルと対等に商売する商人になるんですよ? 他の商人達の羨望の的で、歴史に名が刻まれて語り継がれるかも知れない。むしろ楽しむくらいのつもりでかかって大丈夫ですよ」

「そう……でしたな。ええ、そのために、わざわざ閣下にお願いして、この場に立ち会わせて戴いたのです。腰が引けて、マイゼル王国の商人はみんなこの程度かと、舐められるわけにはいきませんな」

「そうそう、その意気です。オルブンも、な?」

「そうでしたね。この場には、他にも大勢の商会関係者や行商人が集まって我々の取引を見てるんですから、みっともない商売は出来ませんね」


 うん、多少、震えはマシになったかな。


「さて、と」


 さらに離れた場所に遠巻きにしてる、多分国中から集まってるんだろう、ざっと二百人以上はいる野次馬達に向かって、一言圧をかけておく。


「こんな町中だけど、これは公式の場だ。余計な口を利いたり、手を出したりするなよ。それでトロルの怒りを買って殴り殺されても自業自得。国も俺達も一切補償はしない。むしろ交渉を邪魔した(とが)で罰せられると思っておけ。って言うか、国と俺に損害を与えたって事で、賠償責任を追求し、俺が直接叩き潰す。これは警告だ」


 契約精霊達も、吼えたり視線で威圧したりする。

 同時に、空からファイアアローを野次馬達の足下近くに降り注がせた。


 おかげで、ほとんどの連中がビビって後ずさったり、慌てて手や首を横に振って無害ですアピールをしたりする。

 これで、普通の奴らは滅多な真似はしないだろう。


 気を付けるべきは、どこかの馬鹿貴族やその手下、そして金で雇われた連中だ。

 俺の邪魔したさに、頭の悪い真似をしでかさないとも限らない。


 一応、対策は取ってあるし、その上で領兵の一部を野次馬整理と監視に配置して、さらに町の内外を巡回させてる。

 これで万が一があっても、事が起きる前に取り押さえられるはずだ。


 やがて伝わってくる行軍の震動。


「遂に来たか」


 全員が再び緊張する。


「それじゃあインブラント商会長達は、このまま離れた位置で待機してて下さい。取引は貿易センターの方へ移動してからで」

「畏まりました、閣下」


 万が一、荒事が起きても、インブラント商会関係者や野次馬達がすぐに巻き込まれないだけ離れた位置にいるのを改めて確認して、それから門の前まで戻る。


「全員配置に付け! 気合いを入れろ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 領兵達が姿勢を正す。

 俺に言われるまでもなく、すでに配置についてた全員の緊張がさらに高まった。


 王家から派遣された騎士達および、ジェラッドを始めとした元グルンバルドン公爵領軍の騎士達に視線を向けると、大丈夫だと、問題なしと、頷く。


 配置は、門の左右に元グルンバルドン公爵領軍の騎士と兵士達。

 正面に、出迎えるように外務省の役人達と、道中の護衛達。

 その後ろに、俺、ブラバートル侯爵、俺の護衛のエレーナ達四人の女騎士達と、王家から派遣された騎士達および元奴隷の兵士達。


 百数十人の兵力が護衛に付いて、実に物々しい。


 これだけの防衛態勢を敷いて、百匹を越えるトロル相手にようやく互角に届くかどうかだ。

 逆を言えば、俺が鍛えた王国軍の精鋭精霊魔術師達が戦力を底上げしてくれてるから、たったこれだけの人数でも互角たり得てる、とも言える。

 普通なら、この二倍から五倍は必要だからな。


 やがて行軍の震動が防壁のすぐ側まで近づいてくると、先頭が立ち止まり、後続がそれに続く気配がした。


「キサマらの望み通り、奴隷ヲ連れて来てヤったゾ! 門を開けロ!」


 公用語でも、端々でイントネーションがおかしい大音声が、門の向こうから聞こえてきた。

 いよいよご到着だ。


「開門しろ!」

「はっ! 開門!」


 俺が指示すると、門が開かれていく。

 そして遂に、その向こうにトロルの巨体が現れた。


 遠巻きにしてた野次馬達から、動揺のどよめきが上がる。

 さすがに、領兵や護衛達からそんな声は上がらなかったけど、緊張はさらに高まったみたいだ。


 ズシンズシンと地面を揺らしながら、四メートル近い緑の肌のトロルが門をくぐって入ってくる。

 トロルロードとは違う普通のトロルだけど、それなりの身分にあるんだろう。金属製の鎧を身に着け、シンプルながらもマントを羽織っていた。


 そしてそれより頭一つ分ほど背が低い青い肌のトロルが二匹続く。


 さらにその後ろから、奴隷の首輪を付けられてボロを着せられた奴隷達が大勢、トロルに連行されるように入ってきた。


 その奴隷達は、落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見回してる。

 誰も彼もが、なんでこの町に連れて来られたのか、全く理解してない顔ばかりだ。


 だから、両側に居並ぶ騎士や兵士達に戸惑い、そして正面に立つ俺達を見ると、正確には俺の契約精霊達を見ると、ギョッと目を剥いたり、混乱が助長されてる。

 中には、疲れ切ってるのか、絶望しきってるのか、死んだ魚のような目をして俯いて、何を見ても全く反応してない奴もいるけど。


 程なく、先頭を歩く緑の肌のトロルが俺達の前で立ち止まった。


「ようこそ、マイゼル王国メイワード伯爵領レグアスへ」


 外務省の役人の一人が代表で、トロルに声をかける。

 その声はわずかに震えて裏返っていたけど、俺達の側で、それを笑うような奴は誰もいない。

 それほどの力の差があるんだから、これはもう仕方ない。


「フン! 不愉快だガ、上からの命令ダ」


 緑の肌のトロルは、あからさまに人間を見下した尊大な態度を取るけど、明らかに俺を、そして俺の契約精霊達に対して警戒を見せてる。

 青い肌のトロル達は、武器こそ握らなかったけど、臨戦態勢って感じだ。


 その気配に、領兵や護衛達も緊迫感に包まれる。


「皆様、落ち着かれますよう。この場は平和的に約定を履行し、交易をする場です。決して争うための場ではありません」


 外務省の役人が慌てて取りなして、それから護衛達と一緒に片側へと集まって、トロルに道を空ける。


「あちらにいらっしゃいますのが、この領地のご領主様です」


 紹介を受けて、俺は一歩前へと進み出た。


「よく来たな。俺がこの領地の領主、メイワード伯爵エメル・ゼイガーだ。トロルロードの王が、名誉を懸けた神聖な戦いにおける誓いを守ってくれて嬉しく思う」



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