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4 仲良し兄弟のコツは?

 乱暴者で意地悪な兄ちゃんだったけど、そして何かと理不尽な目に遭わされることもあったけど、飽くまでも兄弟のじゃれ合いの範囲で、それを逸脱はしてなかったと思う。

 でも、最近はそれを逸脱するようになってきた。


 原因は単純。


 俺が精霊魔法で村のみんなから一目置かれてるのが面白くないから。

 女の子達にチヤホヤされてるのが面白くないから。

 それ以上に、エフメラが俺にばかり懐いて、お父さんとお母さんが俺を褒めて構って頼りにしてるから。


 子供心に、疎外感を感じちゃったんだろうな。


「ちょっとくらい精霊魔法が使えるからって、それがなんだってんだよ。喧嘩はオレの方が強いんだぞ」

 それこそ、それがどうしたってガキの理論なんだけど、まあお互いにまだガキの年齢だしな。


 それに俺も確かに、兄ちゃんには意地悪されるから、自分から積極的に兄ちゃんと何かしたり、構って貰ったりしたことなかったのも悪かったかも。

 もし俺が前世の記憶を思い出さなかったら、意地悪でもなんでも兄ちゃんに構って貰いたがる普通の弟のままだったはずだし。


「兄ちゃんも練習しなよ。魔法使えるの面白いよ?」

「うっせぇ、誰が弟なんかから教わるかよ、バーカ!」


 で、恨み辛みの籠もった拳骨とか蹴りとかが飛んでくるんだ。

 兄ちゃん、短気で堪え性がないし、練習って基本地味で根気がいるからすぐ飽きて投げ出しちゃうんだよね。


 さて、ここで俺はどうすべきか。

 俺は六歳。兄ちゃんは八歳。

 弟に諭されて納得出来る程大人じゃないし、かといって取っ組み合いになったら体格差で俺が負ける。


 精霊魔法でドカンと一発やれば、二度と俺には逆らわなくなるだろうけど、それって大人げない以上に、兄弟でやっちゃいけない脅迫じゃないかな。

 多分、二度と仲良く出来なくなると思う。


 だったら……。


「じゃあ兄ちゃん、俺が一つすごい魔法の使い方を教えてあげるよ。それ見たら兄ちゃんも絶対魔法を使いたくなるからさ」

「はあ? バカじゃねぇの。お前の言うことなんか聞くかよ」

「ハンナちゃん」

「なっ……!?」

 拳骨を握った兄ちゃんが、ピタリと止まる。


 実は兄ちゃん、二歳年上のハンナちゃんのことが好きらしい。

 好きな子を苛める小学生のノリで、からかっては怒らせてるんだよね。


「兄ちゃんが魔法を使えるようになったら、ハンナちゃん、すっごく見直すと思うんだけどな?」

「ぐっ……この……!」

 ここまできたらもう兄ちゃんは俺の手の平の上だ。


「ほら兄ちゃんこっち、すごい魔法を見せてあげるよ」

 なんか、生意気だとか、バーカバーカとか、そんなことしか言えない兄ちゃんの手を引っ張って、ハンナちゃんの家まで行く。

 丁度ハンナちゃんは畑で水やりをしてるところだった。


「兄ちゃんこっち、隠れて」

 兄ちゃんの腕を引っ張って、納屋の陰に隠れる。

「見ててよ兄ちゃん。風の精霊よ、ハンナちゃんの足下に、ぶわっと一陣の風を吹かせよ」


 無理に言葉にして伝えなくても、慣れればイメージだけで精霊は魔法を使ってくれるけど、言葉にした方がよりイメージが確固たるものになるし、兄ちゃんにも何をしようとしてるのか伝えるために、今回は言葉にしてみた。


「きゃっ!? やだもう、なに今の風」


 吹き抜けた一陣の風をスカートが孕んで、脛くらいまでのロングスカートの裾が、膝裏がチラッと見えるくらいまでふわっとめくり上がった。

 スカートの裾はすぐにふわりと落ちて何が見えたわけでもないけど、好きな女の子のだったら話は別だろう。


 兄ちゃんが叫ぶ前に口を塞いで、引きずりながらその場を離れる。

 そうして十分に離れたところで、兄ちゃんの口を解放した。


「おいエメル今の魔法ってなんだ!?」

「必殺魔法『スカートめくり』!」

 ドヤ顔で、ビシッとポーズを決める。


 こんなの元の世界でやったら大問題だろうけど、その点この世界は……って言うかこの村は? 非常におおらかだ。


 女の子達が裸や薄い肌着一枚になって川で水浴びしてるところに、男の子達が覗きに行ったり乱入したり。

 怒った女の子達が仕返しに、男の子達のズボンとパンツを引きずり下ろして、フルチンで村中を引き回したり。


 今回はちゃんと見えないように手加減したけど、仮にパンツが見えたところで俺達も女の子達も今更特にどうってことないレベルの悪戯だ。


「教えろ!」

「うん♪」


 問題がすり替わったところで、俺達は一緒に魔法を練習するようになった。


 最初は、兄ちゃんの兄としてのプライドに配慮して、教え方とかちょっと面倒で苦労したけど、それに慣れたら、初めてまともに兄ちゃんと一緒に何かしてるわけで、なんだか俺も楽しくなっていった。


 ただまあなんていうか、エロの執念? サボってばかりだった兄ちゃんの集中力のすごいことすごいこと。

 精霊力すら感知出来てなかったのに、ほんの半年足らずで精霊まで見えるようになって、風の精霊に限り、極々簡単なお願いなら聞いて貰えるようになった。


 というわけで……。


 前回隠れた納屋の陰。

 同じく畑に水やりをしてるハンナちゃん。


「風の精霊、頼む。いや、そうじゃなくて、もっとこう、ぶわっと、ぶわっとだ! こう下から上にぶわーーーっとスカートめくり上げんだよ!」

「きゃあっ!?」

 突風でスカートが真上になるまでめくり上がり、チューリップになるハンナちゃん。

 パンツ丸出しで、腰から下が丸見えだ。


 これはもう、スカートめくりどころじゃないって言うか、『ごめんね、テヘペロ♪』じゃ済まされないレベルなんじゃ……。


「いよっしゃーーー!」

「今あたしのスカートめくったのバメルの仕業なの!?」

「あっ、やべ!」


 そりゃあ、納屋の陰から飛び出して、そんな大きな声で『スカートめくり上げんだよ!』って叫びながら、スカートめくりするみたいに両手をぶわっと万歳させてたら、誰だって兄ちゃんの仕業って分かるよね。


 怖い顔でズンズンとこっちに向かってくるハンナちゃん。

 俺はそっと逃げようと……。


 ガシッ!


「エメルがやれって言ったんだよエメルが!」

「兄ちゃん裏切った!?」

 首根っこを掴まれてハンナちゃんの方に突き出されて、逃げようにも逃げられない。


「そう、エメルも共犯なのね。こんな悪戯はしない子だと思ってたけど、どうやらわたしの勘違いだったみたい」

「ち、ちが……」

 ハンナちゃんの怒った顔超怖い!

「覚悟しなさいよ、この悪戯坊主ども!」


 こうして俺と兄ちゃんは、速攻でボコボコにされてしまいましたとさ……。

 そしてこの後しばらく俺達は、『スカートめくりのバメル』、『むっつりスケベのエメル』って呼ばれて、女の子達に逃げ回られてしまった。


 しかも……。


「エメルがバメルと一緒になってこんな悪戯するなんて……」

「いいじゃないか、この程度の悪戯可愛いもんだ。エメルは妙に大人びてて聞き分けが良すぎるからな。このくらいワンパク坊主の面があるくらいが丁度いい」


 なんて感じに、その日の夜はちょっとした家族会議になってしまった。

 兄ちゃんはしょっちゅう怒られてたけど、兄ちゃんと一緒になってこんな風に怒られたのは初めてだ。


 で、その家族会議の後。


「あははっ、怒られちまったなエメル!」

 俺の背中をバンバン叩いて大笑いの兄ちゃん。

「次はもっとバレにくい、面白い魔法を教えてくれよ」


 とまあ、全く懲りてないという。

 でもそのおかげか、俺と兄ちゃんの仲が良くなったのは、怪我の功名かな。


 あと、これが切っ掛けになったのかどうかは知らないけど、兄ちゃんとハンナちゃんが将来結婚するのは、また別のお話ってことで。



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