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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十三章 緒戦を勝利で飾ったら千客万来で忙しい

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377 とある移民騎士の密命 2

「もうじきメイワード伯爵領との領境だ。今日中に領都へ辿り着けるだろう。出発!」


 ジェラッドは馬に乗り先頭を行きながら、振り返り大きく声を張り上げる。


 続くのは、ジェラッドが指揮する中隊の騎士、兵士達。

 それぞれの家族達が乗る馬車。

 その家財道具を乗せた荷馬車。

 道中や移住後の当面の食料や野営道具などを乗せた荷馬車。

 そして、道中の人足を兼ねた、スラムから集めた者達だ。


 それら四百人近い人数での移住ともなれば、馬車と荷馬車の数も優に百数十台となり、長蛇の列となっている。

 おかげで進みは非常に遅く、単騎であれば二日の旅程を六日かけてグルンバルドン公爵領から幾つかの領地を抜け、ようやく最後のマグワイザー辺境伯領へと到達していた。


 そうして昨日は王都から続く街道を南下してマグワイザー辺境伯領側の関所を通過し、エメル達が赴任時そうしたように、領境の川岸で最後の野営を終えたばかりである。


 騎士や兵士達はともかく、その家族やスラムから集めた者達にとっては慣れない長旅で、疲労はピークに達しようとしていた。


 だからジェラッドは、七日目にもなる今日こそは領都に到着して、皆をゆっくり休ませてやりたいと気負う。


 程なく頑丈な石橋を越えて、ジェラッド達は遂にメイワード伯爵領へと入った。

 途端に誰もが驚愕する。


「なんだこの美しく整備された街道は!?」

「偵察部隊やトロルの進軍に使われる程度で、長年放置されて荒れ放題ではなかったのか!?」


 綺麗に敷き詰められた石畳は、ひび割れたり欠けたり、そこかしこから草が生えたりなど荒れた様子は一切なく、全てが綺麗に真っ平らで、平原の中をただひたすら真っ直ぐに続いていた。

 その歩きやすさは、驚愕以外では言い表せない。


 やがて続く馬車や荷馬車が石橋を越えて整備された街道に至ると、ガラガラゴロゴロと煩かった音も、揺れも、ないに等しいほどにピタリと収まる。

 それを不審に思って窓から顔を出し、街道を見て驚く家族が続出したくらいだった。


「しかもこの幅広さはなんだ。優に十メートルはあるぞ」

「これだけ広ければ、馬車四台が並んで通れるのではないか?」


 都市部はそのことごとくが防壁に囲まれており、土地が限られている。

 そのため、これだけの道幅がある通りを敷く余地はない。


 グルンバルドン公爵領の領都内の大通りや主要街道、王都から南下してくる主要街道ですら、馬車がギリギリ行き交うことが出来る程度で、それ以外の街道であれば、馬車一台分の幅しかないのが普通だった。


 そんな主要街道の倍近い幅広さを持つ、そして真っ平らで歩きやすく馬車も揺れない真新しい街道は、マイゼル王国のどこを探しても類を見ない街道だった。


「目的は分からないが、細い色違いの石畳を使うことで、長く線を引くようにして道を幾つかに区切っているようだ」

「四等分ではなく、中央が幅広いのがまた意味不明だな」

「我らが領の街道は綺麗に整備され、王国一だとの自負があったが……」

「ああ、この街道を見せられては……」


 グルンバルドン公爵領を訪れる貴族や商人達から、揺れが少なくとても馬車を走らせやすいと評判で、そんな街道を密かに自慢していたのだ。

 しかし、今自分達が進む街道と比べたら、根本的な計画から劣る整備不足の悪路としか思えなくなってしまっていた。


「トロルどもがこのように繊細な街道を敷けるとは到底思えんな」

「では、噂の救国の英雄がやったと?」

「馬鹿な。これほどの街道、整備に何年掛かると思ってるんだ」

「では誰がこんな街道を敷いたと言うのだ?」

「それは……そんなこと俺が知るか!」


 部下達のそんな驚きを隠せない声に、ジェラッドもまた同じ思いを抱いていた。


 アイジェーンが報告し、グルンバルドン公爵から伝えられたメイワード伯爵領の情報の中には、確かに街道整備をされたと言う話があった。

 さらに、南方に見える山脈を貫いた全長六キロメートル以上のトンネルまであると言う。


 数十年掛かるだろうその大工事を、たった十日ほどで終わらせたとの話を聞かされたときは、さすがにそんな馬鹿な話があるものかと思ったものだ。

 しかし、何ヶ月か前には存在しなかった真新しく美しい街道を見せられては、全てが事実なのではと、嫌な汗が流れてしまう。


 そうしてほんの少し進むと、直径数十メートルはある高さ数メートル程の小山のような盛り土が、百ではきかない数、街道の両側のそこら中に点在していた。


「ゴクッ……これが噂の、第三次侵攻部隊迎撃作戦の時の……」

「間違いない、トロルどもの墓標だ……」


 それら小山のような盛り土の下に、一万四千匹ものトロルどもの死体が埋まっているのである。

 それは、第三次侵攻部隊迎撃作戦に参加した者達から伝え聞いた通りの……いや、それ以上の光景だった。


 ジェラッドはそれらを見遣りながら、ずっしりと胃が重くなるのを感じた。

 これほどの事が出来るエメルを領主とする領地に移住して埋伏し、いざ命が下れば、エメルを敵に回した作戦行動を取らなくてはならないのである。


「軽く考えすぎていたかも知れないな……」

「正直、自分は今すぐ回れ右をして帰りたいくらいです」


 呟きを拾ったらしい副隊長の言葉に、同感だと思わず頷きそうになって、なんとか思いとどまる。


「そうもいくまい。騎士として主から命を与えられた以上、それを全うするだけだ」


 そして、驚愕はそこで終わりではなかった。


「遠くに見えていた建物は、やはり関所だったか……本当に新しい関所まで……」


 ジェラッドは徐々に近づいてくる関所を見つめる。


 急拵(きゅうごしら)えに感じる外観だが、やはりまだ真新しかった。

 自分達に気付いた二人の見張りの兵が動いているのが見えるが、その大きさからすると、その関所はどう考えても人間サイズで、トロルが使っていた関所とは到底思えない。


「トロルが使っていた砦や関所を改築したわけではなさそうだな……いや、そもそもこんな場所に、そんな物があったなどという話は聞いたこともなかった。だとすればやはりメイワード伯爵が……」

「もう自分は驚きすぎて、お腹いっぱいです……」

「まったくだ。しかし我らは、まだ関所にすら入っていないのだぞ」


 まだ入り口に立っただけで、報告すべき内容がすでに幾つも出てきている。

 領地全域を内偵した時、果たしてどれほどの報告量になるのか。

 想像するだけで胃が痛みを訴えてきた。


「今夜は妻に頼み、胃に良く利く薬湯を用意して貰うことにします」

「済まないが、私にも分けて貰えるとありがたい」


 副隊長とそんなやり取りをして現実から目を逸らしつつ、やがて閉ざされた門の前に到着し、現実を直視する時間がやってきた。

 頭上の見張り台にいる兵士から、鋭い誰何(すいか)が飛んでくる。


「どこの軍の者か! ここをメイワード伯爵領と知っての領境侵犯か!」

「私は元グルンバルドン公爵領軍守護騎士団所属の騎士、ザガ男爵家の四男、ジェラッド・プルツである。我らはグルンバルドン公爵領よりやってきた。我らにメイワード伯爵に敵対する意思はない」


 門から少し離れたその場に部下達を残し、ジェラッドは一人馬を進めて近づくと名乗りを上げる。


 見張りの兵の警戒は当然だった。

 敢えて先触れを出さずに、突然押しかけてきたのだから。


 フォレート王国が暗躍し、メイワード伯爵領へ謀略を仕掛けたばかりである。

 なのに先触れを出さないなど、どこかの領地貴族が軍を差し向け、戦争を仕掛けてきたと受け取られてもおかしくない行動だ。


 しかし、そんな行き違いを回避するために、そして慣例に従い、騎士や兵士達を移民として受け入れて欲しいと事前に打診すれば、普通に考えればまず断られ、そうでなかったとしても別の物を寄越せと言われておしまいだっただろう。

 だから非礼でも、受け入れるしかない状況を作るために、エメルの元への先触れはおろか、関所まで兵の一人も先行させずに、いきなりやってきたのである。


 これはグルンバルドン公爵からの指示であり、それによって生じる摩擦の解決はグルンバルドン公爵が請ってくれているので、ジェラッドは強気な態度を貫けた。


「我らはグルンバルドン公爵の命により、グルンバルドン公爵とメイワード伯爵との友好の証として、メイワード伯爵領への移住を希望するものである。速やかに門を開け、受け入れられたし」


 見張りの兵からは戸惑いが伝わってきた。

 事前に話が通っていないのだから、当然である。

 しかも、普通なら侵略とみなされて通らないだろう話も、エメルが積極的に移民を集めているため十分に説得力があった。


「しばし待たれよ!」


 上官に判断を仰ぎに行ったのだろう、見張りの兵のうちの一人が姿を消す。


「いきなり攻撃されたりしないよな……」

「さすがにそれはないだろう。グルンバルドン公爵の名を出したんだぞ」

「かといって歓迎されるとも限らないが……それにしても、静かすぎないか?」


 そんな部下達のお喋りに、ジェラッドは覚えていた違和感の一つの正体を理解した。


 そう、静かすぎるのだ。


 本来なら、騎士と兵士達を百人も含む四百人に押しかけられたら、もっと警戒し、いざ騙し討ちされて戦闘になってもいいようにと、迎撃準備などを行うはずだ。

 ところが、そんな声や音が全く聞こえてこないどころか、関所内は静まり返っているとしか思えない。


 一体、駐屯している兵達は何をやっているのか。


 そんな疑問に、どのような事態になっても対応出来るようにと、様々に対処法を考えているうちに、本当にしばしの間をおいただけで関所の門が開かれた。


「入れ! 詳しく話を聞かせて貰おう!」


 静かすぎる関所内の様子といい、素直な開門といい、まず最初に罠を疑うが、自分達から開門と受け入れを頼んでおきながら、疑って入らないなどと言う選択肢はない。

 だから警戒しながら、門をくぐって関所の中へと馬を進めた。



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