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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十一章 意趣返しは舐められないための貴族の嗜みだと思う

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336 マリーリーフの観察 3

 次の瞬間、私は思わず息を呑んでいた。


「顕現せよ、我が契約せし光の精霊、エン!」


 契約精霊を呼び出すために、彼がポーズを取る。


 か……格好いい!


 思わずそう声に出そうになって、辛うじて飲み込む。


 他国のエルフ達はどうか知らないけど、フォレート王国におけるエルフの若者達の間では、契約精霊を呼び出す時に独自の演出を入れることが流行っていて、もはや定番と言ってもいいくらいに定着していた。


 簡単なところでは、気取って指をパチンと鳴らしながら呼び出したり、髪を掻き上げ踊るように一回転してからポーズを決めたり。

 ご令嬢達の間では、片手で扇を取り出して開き口元を隠してどのような魔法を使うか宣言した後、また片手でパチンと閉じて独自の振り付けを入れ、それを合図に呼び出す演出が流行っている。


 私は、どうやらその手のセンスがないみたいで、余計な恥を掻きたくないから、ただ普通に呼びかけて姿を現させるだけに留めているけど……。


 それに比べて彼の演出は、軽くスタンスを開いて右手を突き上げるだけと非常にシンプルなのに、定番となって流行るだろう洗練された、その上、彼の何かしらの思い入れと敬意(リスペクト)を強く感じるポーズだった。


『参上いたしました、主様』


 さらに姿を現した契約精霊にまで驚かされる。


 ただ単にパッと姿を現すのではなく、彼の突き上げた右手の上に光が収束してその姿を(かたど)っていった。


 まるで本当に彼が生み出し、呼び出したかのような演出。

 しかもその契約精霊は本当に人型をしていて、彼よりも背が高く、そして美しい。


 その契約精霊が慈愛の微笑みを浮かべ、背中の翼を大きく開く。

 途端に舞い散る光の羽。


 それだけで、感嘆の溜息が漏れ聞こえてきた。


 私も、その光の羽を掴めないかと思わず手を伸ばしそうになってしまい、宙に溶けるように消えたことで、それが魔法で生み出された演出だと初めて気付いて、赤面しそうになる。

 それほどに緻密な造形の羽だった。


 それはつまり、それほどのエネルギー量を秘めている証。


 じっくりと彼の光の精霊(エン)を観察する。


 容姿は人としか思えないほどに柔らかく動き、身に纏っているチュニックも、その皺の一つから動きに合わせて揺れる細かな演出も、まるで本当に服を着ているかのよう。

 背中の翼の羽毛も、その質感がふかふかと柔らかそうで、思わず触れて顔を埋めたくなる。


 それほどに本物そっくりで、とても単なる精霊力で形作られた精霊とは思えないほどの質感を醸し出せるなんて……。

 私の可愛い可愛いリリー(光の精霊)の羽とは、比べるのもおこがましいくらいの美しさで……これは、すごく、すごく悔しい。


『フォレート王国の皆様、お初にお目にかかります。主様の契約精霊、エンと申します。以後、お見知りおきを』


 しかも、シャーリー姉様に聞かされていた通り、本当に人のように自然な表情で流暢に話すだなんて。


 一体どうすれば、それほどの知性が育つと言うの?

 私のリリーも、それはそれは賢いのに、それが飽くまでも動物並みの知能としては……というくくりの中にあることを思い知らされた気分よ。


 しかもその後も、勝負でどんな魔法を披露するのか、彼と光の精霊(エン)とで相談するという、冗談みたいな光景まで見せつけられて、もはやどこから驚けばいいのやら……。


 それより何より、一番恐ろしいのが……私のリリーなど及びも付かないほどに濃密な精霊力を内包していること。


 慈愛の微笑みとは裏腹に、もし無慈悲に攻撃魔法を放たれたら、私も含めて、誰一人として生き残れないでしょうね。


 少しでも彼に対抗できるようにと、使節団の中には一流の精霊魔術師も多数連れて来たと言うのに……。

 いっそ清々しいほどに、全く相手にならないだなんて。


 かつてシャーリー姉様は陛下に彼の暗殺のご裁可を仰いだ時、シャーリー姉様が撤退するしかないほどに彼の契約精霊が脅威なのかと陛下に問われ、こう答えたという。


『はっ……(はばか)りながら、フォレティエート王家の総力を結集して、ようやく互角。よしんば倒すことが出来ても、相応の被害は覚悟しなくてはならないかと……』


 それを聞いた陛下の勘違いを、こうも正したと言う。


『特務騎士エメルとその契約精霊達が、我が王家の総力に匹敵するのではありません。その精霊一体一体が、我が王家の総力に匹敵するのです』


 その話を聞いた時、まさかと、いくらなんでもと、半信半疑だったけど……今なら怖いくらいに理解出来る。


 最強の陛下を筆頭に、王家全ての王妃、王子、王女、その近衛騎士団。その総力を結集しても、良くて互角……。

 目の前の光の精霊(エン)一体を倒すのに、どれほどの犠牲が出ることか。


 エルフの王族と言えば、そのほとんど全員が、平民などとは一線を画するほどの契約精霊持ちの精霊魔術師で、近衛騎士団と言えば、精鋭中の精鋭だと言うのに。


 そんな契約精霊が八体も……。


 その愕然とした思いに、私の中で何かが壊れて崩れ落ちていくのを感じた。


 もはや、尊敬し敬愛する父様であり、大国フォレート王国をまとめ上げ独裁的に辣腕を振るう陛下は、私の中で最強でもなんでもなくなっていた。

 彼を前にしたら、雑兵も、最強と信じていた陛下も、ひとまとめに有象無象でしかない、と。


 それなのに……。


 それほどまでに恐ろしいのに……。


 彼の精霊力の扱いには一切の無駄がなく、そして魔法は息を呑むほどに美しかった。


 夜空を彩る星のようにおびただしい数の光の球が瞬き、星が流れるように光の球が走り、ゆっくりと、そして整然と、天空の動きに合わせ動いていく。


 見とれ、溜息が漏れ、心が震えた。


 彼は、力任せな魔法しか使えないわけではなかった。

 私など及びも付かないほどに緻密で繊細で、なおかつ芸術的に美しい魔法を使える人物だった。


 完敗。

 そう、完敗よ。


 滑稽なことに、鼻っ柱を叩き折られたのは私の方だなんて。


 だからこそ、胸の内で熱く燃え上がる。


 知りたい。

 どうやれば、これほどまでに緻密で繊細な制御が出来るのか。


 研究したい。

 彼が生み出した、画期的な魔法の数々を。


 使いたい。

 私も彼のように緻密で繊細で美しい魔法を。


 そのためにも、彼の知る秘密の全てを、一つ残らず暴いてしまいたい……!


「悔しいですが……私のコントロールを上回る緻密さと繊細さでした」

「いえ、俺は殿下の魔法を見て似たようなことを思いついただけです。殿下の発想がなければ、今の魔法はありませんでした」


 まさか私の賞賛の言葉に対して、私を認める言葉をくれるだなんて。


 驕り高ぶるでも、勝ち誇るでもなく、私の良い点を見付け、認め、敬意を払ってくれる紳士的な振る舞い。

 それが本心からの言葉だと、伝わってくる。


 不覚にも……嬉しいと感じてしまった。


 ああ、何故彼は下等な人間なのかしら。


 もし彼が下等な人間で下賤な元農民の成り上がり者なんかではなく、エルフでフォレート王国の貴族だったなら、私は万難を排して婿として王家に迎え入れるか、家格など無視して喜んで降嫁するのに。


 そうして、彼の身柄を独占した後は、その知識の全てを吐き出させて、生涯をかけて彼と彼の秘伝を研究し尽くすのに……!


 だけど、それは叶わない願望……。

 でも、一人の研究者として、いくら下等な人間であっても、優れた者には相応の敬意を払うくらいの度量はある。


「そうですか。メイワード伯爵程の使い手にそう言って戴けると、面映ゆいですね。素晴らしい魔法を見せて戴いたお礼に、マリーリーフと、私の名を呼ぶことを許します」

「ありがとうございます、マリーリーフ殿下」


 名を呼ぶことを許すと、素直に感謝し、敬意を見せてくれる。

 何故かそれが、少しだけ心地よかった。


 私達は似ているのかも知れない。

 精霊魔法を研究し、新たな魔法を探求し、契約精霊を愛し、己の魔法に誇りを持つという面において。


「一度、メイワード伯爵とは魔法について話をしたいものです」

「俺も、マリーリーフ殿下の研究した魔法に興味が出てきました。是非、話を聞かせて貰いたいです」


 素直な言葉が口をついて出て、思わず笑みがこぼれてしまった。

 まさか、粗野で傲慢で下劣な元農民の危険人物だと思われていた彼が、実は私と同類で、こんな風に笑みを交わすことになるなんて。


 仕事は仕事。

 だけどその仕事を円滑に進めるために、多少の友誼を結ぶくらいは許容範囲のはず。


 是非、彼とは語り明かしたい。



 いいえ、やっぱり私と彼は似ていないし同類ではもっとない。


 女の子になりたいなどと頭のおかしいことを言うアルタールークを、彼はあろうことかお姫様扱いし、アルタールークが望むままに、『アルル姫』などと実に可愛らしい女の子の愛称を付けて呼ぶようになってしまったのだから。


 そう、やはり私と彼は似ていない。

 全然違う。


 彼は頭のおかしい部類の人物よ。



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