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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十一章 意趣返しは舐められないための貴族の嗜みだと思う

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332 マリーリーフの考察 1

◆◆



 シャーリー姉様に協力を依頼されて、私は親善大使としてマイゼル王国へ赴いた。

 目的は、救国の英雄と名高い元農民の成り上がり者、メイワード伯爵から、彼が秘伝と称して秘匿している精霊との契約および精霊魔法の秘密を暴くこと。


 ふふ、直接彼や彼の契約精霊と話が出来るこんな絶好のチャンス、精霊魔法の研究者として絶対に逃せないでしょう?

 そこにどんな私の知らない叡智があるのか、精霊魔法の深淵を覗き見られる期待に、否応なく胸が高鳴るというものよ。


 とはいえ、諸手を挙げて喜んでばかりもいられない。

 マイゼル王国は、恐らく私達の目的に気付いているはずなのに、わざわざ歓迎の式典と晩餐会を開催するそうだから。

 つまり、きっちり親善大使としての仕事をする必要があると言うこと。


 ああ、面倒臭いったら……。

 好きな研究だけして生きていけたらいいのに……。


 だけど、彼の秘密に触れられる可能性がある以上、その対価として、どれだけ面倒な仕事でもきっちりこなさないといけない。


 道中、馬車の事故や天気が崩れて足止めされることもなく、式典と晩餐会の数日前には王都マイゼラーにある大使館へと無事に到着することが出来た。


 ただ、数日の猶予があるからと言って遊んでいる暇はない。

 逸る気持ちを抑えて、在マイゼルフォレート王国大使館の特命全権大使、シェーラル伯爵に確認する。


「シェーラル伯爵、彼に関する報告書はこれで全部?」

「はっ、マリーリーフ殿下。こちらがこれまでに提出済みの報告書、こちらが最新の報告書、こちらが真偽不明の噂話などの報告書です」

「そう」


 執務机に並べられた三つの報告書の山のうち、すでに提出済みの報告書の山から一番上に置かれた総括の書類をまず手に取って、改めて読み返す。


「……何度読んでも、報告者がふざけているとしか思えない内容ね」

「はっ……しかし、事実であります」


 私達、フォレート王国の王族だけが閲覧できる禁書の伝承にのみ伝わる、幻の二属性の精霊。

 その精霊達を果たして彼はどうやって知り、知覚し、契約に至ったのか。


 普通、精霊は複数の精霊との契約を嫌がり、場合によっては契約を解除すらしてしまうと言うのに、彼はどうやって複数の、それも幻の二属性を含めた八属性の精霊と同時に契約して、さらには部下達にまで契約させることが出来たのか。


 フォレート王国における最強の契約精霊は、父様である陛下が二百年近くかけて育てた契約精霊だと言うのに、彼は契約精霊八体全てを、その陛下の契約精霊を優に超える大きさとエネルギー量に、しかもたかが十年足らずでどうやって育てたのか。


 その契約精霊達が自ら考え行動し、シャーリー姉様に皮肉を言って小馬鹿にするだけの受け答えが出来る程の、人と変わらない知性を持ち得た理由はどこにあるのか。


 さらに、私達エルフとほぼ互角に渡り合えるトロルの何万という軍勢を、たった一人で、しかも物の十五分程度で文字通り全滅成し得た、その冗談のような威力をいかにして出しているのか、それほどの魔法を使っておきながら何故精霊力が底をつかないのか。


「ふふ……」


 どれか一つだけでも世界を震撼させるに足る秘密だと言うのに、それがこんなにもあるなんて。

 なんて、なんて興味深い!


 挙げ句には契約精霊に乗って空を飛び、馬車で六日は掛かるらしいマイゼル王国の王都と領地を一日で往復し。


 離れた場所に姿と声を届け。


 攻撃補助にしか使えないと思われていた風属性はおろか、攻撃魔法が存在しない光と闇属性の攻撃魔法を編み出し。


 下等な人間をエルフに匹敵する程の精霊魔術師として育て。


 マイゼル王国の痩せた土地で、豊かな穀倉地帯を持つフォレート王国産の作物に匹敵する高品質の作物の栽培を、たった数ヶ月で成し遂げた。


 こうして列挙するだけでも、なんの冗談かと言いたいくらいの、なんて隔絶した能力と功績の数々なのかしら!

 今すぐにでも彼の元へ突撃して、洗いざらい聞き出したい衝動と探究心が抑えきれなくなりそうよ!


 だけど同時に、それと同じくらい嫉妬の炎で身体が焼けて叫びたくなる。


 大国フォレート王国の、高貴なるエルフの王族である私達が、小国マイゼル王国の、たかが下等な人間の、たった一人の元農民に後れを取っているこの事実。

 それこそ冗談じゃ済ませられない。


 たった七十七年の短い人生ではあるけど、これ程の屈辱を感じたことは生まれて初めてよ。


 私は、後れを取ったままでいることを、エルフとして、王族として、何より研究者として許せない。

 彼の秘密を暴くためなら、なんだってしてみせる。

 そう、たとえ面倒で苦手な外交の仕事だろうと、愛想笑いだろうと。


 次々に報告書に目を通していくと、そのたびに、眉間の皺が自分でも分かるくらい深くなって、頬が引きつりそうになった。


「そう……シャーリー姉様が密偵を派遣して裏を取ると言っていたけど、本当にガンドラルド王国の王都は彼の攻撃を受けたのね」

「はっ、その者によりますと、王都の町並の破壊は一割ほどであるとのことです。しかし破壊は王都全域で行われ、また王城に至っては、城壁の一部が大規模に破壊され瓦礫の山と化し、各種の建物や塔なども多数破壊、崩落し、見るも無惨な姿に成り果てていたそうです。その者の私見ではありますが、王家の権威の失墜は免れ得ないだろう、と」

「そう……」


 彼がその気になれば、今この瞬間にもフォレンティア(王都)が壊滅し廃墟になる……というわけね。


 それはつまり、たかが元農民の成り上がり者の伯爵を、大国の王族並に気を遣って取り扱わなければならないと言うことに他ならない。


「彼の人となりはどう? 王太女叙任式で直接彼を見て言葉を交わしたのでしょう?」

「はっ、噂通り、無礼で生意気な小僧です。やはり元農民故か、国家間の機微は理解出来ないようで、己が分を(わきま)えず、我らに貿易の不均衡を押しつけ損害を出させることを、そして過分な軍事力を保有し国家間の緊張を煽ることを、なんとも思っていないどころか、望むところと言わんばかりの態度でした」


「そう……シャーリー姉様の懸念通り、王家は彼と組んで、旧領地の奪還を目論んでいる可能性が高そうね」

「前王太子は成人済みではありますが、まだ見た目からして幼く、新王太女も見た目こそ立派な王女でありましたが、(まつりごと)にどれほど通じているか、不安が残ります。両殿下とも良く言えば素直で穏やかな気質であると見受けられますが……」

「悪く言えば、よからぬ者達の甘言に乗せられやすい性格と言うわけね」


 かの前王太子は素直すぎて頭の中がお花畑でおめでたい、かの新王太女は夢見がちでふわふわと地に足が付いていない、との人物評は聞いている。

 彼だけでも頭が痛い問題なのに、そんな面倒まであるなんて。


「貴族達の裏取りは任せます。よからぬ者達を残らず暴き出しなさい」

「はっ」


 私はこれまで研究一筋できたせいで、軍事にも政治にも外交にも疎いから、恐らく彼に探りを入れるので手一杯になる。

 王家と彼をそそのかして、我が国の国土を脅かす者達の相手は、シェーラル伯爵と使節団の者達に任せておけばいい。

 それが適材適所というものでしょう。


「話が少し脇に逸れたわね。それで、間近で見た彼の実力は?」

「それが……」


 シェーラル伯爵が言い淀むなんて珍しい。

 良くも悪くも叩き上げの軍人気質のあるシェーラル伯爵が、報告時に不明瞭な態度を取るなんて、よほどのことだ。


「私見や憶測混じりでも構わないから、思うところを感じたとおりに報告なさい。判断は私がするから」

「はっ……まず、メイワード伯爵から感じた精霊力ですが、十分驚愕に値しはするのですが、並のエルフをわずかに上回る程度しか感じられませんでした。あれでは、トロルの万を超える軍勢を単身で倒せるとはとても……」


 並のエルフをわずかに上回る程度しかないなんて、それは不自然すぎる。

 たったそれだけの精霊力で万を超えるトロルを殲滅出来るなら、私達は国境線の小競り合いで(わずら)わされるどころか、とっくの昔にガンドラルド王国を滅ぼして支配していておかしくない。


「やはり何かしら秘密が隠されているのでしょうね」

「はっ……そして契約精霊に関してなのですが、姿を見ることは叶わず、気配も察知することが出来ませんでした」


「それは……単に姿を現さなかった、と言うわけではない、と?」

「はっ、誰の目にも見えるように姿を現さなかったのも事実ですが、全く姿も気配も捉えられませんでした。当日、全ての精霊に何かしらの任を与えて、側に居なかった可能性もありますが……」


「それはあり得ないでしょう。彼は伯爵であると同時に特務騎士。伯爵の正装をして両殿下の護衛にはついていなかったそうだけど、外国の要人が多数参列する式典やパーティーで、ましてや間者が潜り込む可能性がある状況で一体も側に残さなければ、両殿下はもちろん、彼自身の身を守ることすら出来ないのだから」

「私も同意見です。ですので、参列者の手前、人目に付かない控え室などに待機させて、いざ事あればすぐに呼び出せるように備えていたのではないかと……」

「そうね……その可能性が高そうね」


 陛下を始め、貴人が誰かと会うとき、隣の部屋に護衛の騎士達を控えさせて万が一に備えることは常識だ。

 そして、ボディチェックを受けて武器を預けるように、時と場合によっては契約精霊も席を外させて、万が一を起こさせないようにすることもある。


 ただ契約精霊の場合は、家族やペット同然に可愛がっている者達も少なくない上に、普通は契約精霊が契約者とあまり遠くに離れたがらないから、そこまでさせるのはよほど信頼が置けない相手の場合が多い。


 逆を言えば、契約精霊に席を外させることは、お前を信用していないと言ってるも同然で、判断は慎重を要する。


 今も、シェーラル伯爵は当然、私も自分の契約精霊の姿と気配を消しているけど、ちゃんと側に居る。

 それがマナーで常識だから。


 だけど、私にはうっすらぼんやりとではあるけど、シェーラル伯爵の契約精霊の姿は見えるし、気配も感じられた。


 それは恐らく、一流の精霊魔術師でもあるシェーラル伯爵も同様のはず。

 一瞬、シェーラル伯爵が私の光の精霊(リリー)に視線を向けたことが何よりの証拠だ。


 こんな風に、どれだけ完璧に姿と気配を消そうとしても、精霊力を感知する感覚に優れている一流のエルフであれば、どうしても感知出来てしまう。

 だから感知出来ないくらい離れた隣室に控えさせていても不思議じゃない、との理屈が成り立つ。


 もし情報通りのエネルギー量を持っている契約精霊なら、たとえ姿や気配を消しても、それほど感知に長けていない者でもぼんやりと見えて感知出来てしまって、落ち着いて歓談も出来なかったに違いない。


「残念ね、彼の契約精霊について、もっと詳しい情報が欲しかったのだけど」


 最も信頼が置ける情報が、直接遭遇したシャーリー姉様の報告だけでは、考察するにも検証するにも数が足りない。


「それにしても、知れば知るほどに、信じがたい事実ばかりが明らかになっていくわね……」


 新しい報告書を手に取って、ざっと目を通しただけで目眩がしそうになる。


「彼が領主として赴任してから三ヶ月かそこらの話でしょう? 工事に数十年は掛かるはずのトンネルが開通された? 気付けば何もなかった街道途中に、急造ながらも砦のような関所が建てられていた? 領都の薄汚れた防壁が足場も組まずに綺麗に清掃されていた? ただの平原に、いつの間にか四百ヘクタール(四平方キロメートル)もの畑が広がっていた? 一体彼は何十年前から領主をしていたのかしらね」

「はっ……」


 シェーラル伯爵も困惑顔をして、私と同じ気持ちなんだろう。


「もういいわ、これ以上は混乱が助長されるだけね。後のことは、実際に彼を見てから考えた方がよさそう」


 提出済みの報告書と最新の報告書まで目を通したところで報告書を置く。

 真偽不明の噂話など、正確な評価を下すのに邪魔になる可能性の方が高い。


 今後の対策を考えるのも、彼と直接会った後で良さそう。

 多分、今ここで何を考えたところで、実際に彼に会ったら簡単に覆されてしまいそうだから。


「明日は王都マイゼラーの視察に出ます。準備をしておいて」

「はっ」



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